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誘拐

 僕は目を覚ます。ずきずきと痛む頭。動かない体。

 暗い視界。目を閉じているときとは全く違う完璧な暗闇。

 少しでも明かりがあれば光は瞼を透けてくる。

 そして、動かない手足。ロープ状の物で縛られている感覚だ。

 幸いな事に耳は塞がれてないみたいで、外の音が聞こえる。

 車の走ってる音?

 聞いたことない外国の歌も聞こえる。

 反響のしかたから小さい個室のような場所なのも分かる。

 多分、車の中だ。


「お、目が覚めたみたいね」


 前の方から女性の声が聞こえる。

 知らない声だ。


「あら、意外に冷静ね。もっと取り乱すものだと思ってたんだけど」


 昔、同じ状況になったことがあるから、取り乱すことはない。

 これは多分誘拐だ。昔、今から十年以上前にも一回誘拐された。

 流石にその時は取り乱したけど、今は昔ほど取り乱してない。

 だけど、取り乱さないっていうのは外面的なところであって、内心はそうじゃない。

 かなり、焦っている。


「無視はきついなぁ。それとも怖すぎて喋れない感じ?」

「今、何日の何時?」


 僕はどれくらいの間寝ていたんだろう。

 僕の記憶が正しければさっきまで僕は文化祭を健斗や犬子ちゃん、天美さんと回ってたはず。

 誘拐されたのはその時だと思う。

 体感的にはそんなに寝ている気はしないけど、日にちが経っていれば助かる可能性はかなり低くなる。


「おぉ、君って結構勇気あるね。今は二十日の二時だよ。君を攫ってちょうど三十分くらいかな」

「三十分」


 良かった。ならまだ助かるチャンスはある。

 それにこの犯人、ちゃんと話ができる。


「それじゃ、次は私から質問いいかな?」

「……質問?」

「君は一体、何の能力使いなんだい?」


 能力使い……。何を言ってるんだ。

 もしかして、この犯人。


「厨二病さん……?」

「ち、違うわ!! だから、君の超能力のことだよ! 持ってるんだろ? 凄い能力」


 もしかしてこの犯人、『心を読む力』の事を言ってるのかな。

 そうか、それが僕を攫った理由!

 昔、誘拐された時も同じ理由だったし。

 でも、なんで僕の『心を読む力』の事を知ってるんだろう。

 いや違う。僕の『心を読む力』を知ってるなら何の能力なんだという問いをするわけがない。


「私と同じ目を使った能力だって事は分かるんだけどね。詳しいことまでは私の能力じゃ分からないから」


 私の能力? もしかして、この人も超能力者。

 猫子ちゃんや僕と同じ。


「それと、もう一つ気になるんだけど。なんで目が見えないフリなんかしてるの?」


 僕が本当は目が見えることまで知ってる!?

 やっぱり、この人は僕と同じ……。


「結構気になるのよね。私の能力も教えてあげるから教えてよ」

「嫌」

「お、おぉ……凄いね。この状況で普通拒否する?」


 僕はこの力だけは誰にも教えたくない。

 例え、母や咲、健斗であってもだ。

 それを、自分を誘拐した人に教えるわけがない。


「じゃあ、私の能力も教えない」

「興味ない」

「うっ……、今のは結構きたわよ。精神的に」


 そんな事、どうでもいい。

 取りあえず、今はこの状況を何とかしないと。

 せめてここがどこかっていうのが分かれば……。

 僕は目に巻かれている布をずらそうと車のチェアーに擦りつける。

 誘拐犯にバレないように少しずつ慎重にだ。

 十分ほどかけて、僕は左目側の布をずらすことに成功した。


「ふんふん~」


 誘拐犯は気楽そうに鼻歌を歌いながら運転をしている。

 十年ぶりほどに見る顔が誘拐犯の顔だなんて、最悪だ。

 僕は左目を開け、ルームミラーの反射で犯人の顔が見た。

 犯人は黒いジャージのような服を着て眼鏡をしている女性だった。

 年は二十台前半くらいで中肉中背といった感じだ。


『それにしてもこの子の能力凄いんだろうなぁ』


 本当は人の心なんて二度と見たくなかった。

 でも、こうしないと僕は助からないだろう。

 折角、家族と仲良くなって仲のいい友達も出来たのに、離れるなんて嫌だ。

 そんな事になるくらいなら僕はこの力を使う。


『私のはかる能力でもはかり知れないなんて……最高にワクワクするわねぇ』


 はかる能力?


『それにしてもこの子、本当に可愛い。左目でこっちを見ている事に私が気づいてないなんて思ってるところなんて本当に可愛い』

「なっ……」

「ん、どうしたの?」『いきなりどうしたのかしら?』


 き、気づいてる。

 僕が左目でこの人の事を見てる事がバレている。

 この人、一回もこっち側を見てないのになんで。


「なんでも、ない」

「そう? ならいいけど。あ、途中でコンビニに寄るわね」『夕食買っておかなくちゃ』


 もしかして、露骨に見過ぎたのかな。

 少し、横目で盗み見るようにしたら……。


『あれ、なんか視線が弱まった? さっきまでガン見だったのに』


 これでも見てるのがバレてるの。

 なんなんだこの人。


「ねぇ、一ついい?」

「……なに」

『君の能力って、考えてる事とかに関係するのかしら?』

「ッ!?」

「ふふっ、図星みたいね」


 な、なんでバレた。

 見ていることはバレてたみたいだけど、力の事は全然触れてなかったじゃないか。

 もしかして、これがこの人の能力!?


「いやぁ、可愛いわね。全部顔に出るなんて……。ふふっ」

「顔に、出てる……?」

「えぇ。君、ポーカーとかは絶対しない方がいいわよ」『怯えた顔も可愛いわよ』


 僕の中に焦りが生まれ始める。

 誘拐されただけでも平常心を保つのがやっとなのに、心を読む力を見抜かれた。

 僕はこれからどうなるんだ。


「安心していいわ。別に私はあなたをどうかしようなんて考えてないわ。私はただ依頼通りあなたを連れていこうとしてるだけだから、手荒な事もしないわ」『もう結構してる気はするけど』

「依頼……?」


 つまり、この人は誰かに言われて僕を誘拐したのか。

 一体誰が。僕を攫ってもメリットなんてないのに。


「えぇ、依頼主の名前は『獣山けものやま樹鳩きばと』よ。依頼主からは先に名前を教えておいてもいいって言われてるから言っておくわね」

「け、獣山……!?」


 それって犬子ちゃんや猫子ちゃんと同じ苗字。

 こんな珍しい苗字、偶然被るわけがない。

 つまり、僕を攫ってくるように命令したのは犬子ちゃん猫子ちゃんの家族の人。


「驚くのも無理はないわ。獣山って言えば日本で一番の財閥。なんで自分がそんな所に呼ばれたか気になるんでしょう?」


 え、違うけど。

 獣山ってそんなに凄い所なんだ。

 そう言えば、前に猫子ちゃんが獣山家は特殊な力を持ってる人が多いって言ってた。

 そうか。そんな凄い人たちの集まりなら納得かも。

 でも、なら確かにそんな凄い人が僕なんかを呼んでいるんだ。


「まぁ、そんな訳で依頼主が依頼主だから私も確実にあなたを連れていかないといけないの」


 誘拐犯はそう言うと車を止める。

 どうやら、話している間にコンビニに着いたみたいだ。


「それじゃ、私は少し出てくるわね。この車、防音だから叫んだりしても無駄だから」


 僕の方を向きながらニコッと笑って言うと、誘拐犯はコンビニの方に向かった。

 今のうちにどうにか脱出しないと……。

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