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メイド喫茶(中編)

 健斗と天美さんの言い合いが終わり、健斗が注文を取りに来た。


「ご、ご主人様、お嬢様。ご注文はお決まりでしょうか?」


 健斗の恥ずかしそうに言う声を聞いてるとこっちまで恥ずかしくなってきてしまう。

 そもそも、なんで健斗は一年生の喫茶店を手伝ってるんだろう。

 というかこの喫茶店、健斗と天美さん以外に誰かいるの?

 声とか全然聞こえないけど。


「健斗ちゃん。なんで健斗ちゃん達以外に人がいないの?」


 犬子ちゃんが僕の聞きたい事を代わりに聞いてくれた。


「うっ……実はな、この喫茶店やってるクラス、この時間だけ全員部活やらで出なくちゃなんないらしくてな。俺たちやることのないクラスに頭下げて代わりに従業員やってくれって頼んできたんだ」


 そのクラス、なんで喫茶店しようと思ったんだろう。


「ま、一時間だけだし接客業ってのを体験してみたかったからいいんだけどな……。まさか、こんな格好させられるとは……はぁ」


 健斗は深いため息を吐いた。

 健斗は嫌がってるけど、僕の中で執事服って結構かっこいいイメージあるんだけどなぁ。

 少し羨ましいかも。


「まぁ、食堂の食券も貰えるしな……仕方ないか」


 食堂の食券、いいなぁ。

 僕もやらせてもらいたい。

 まぁ、目が見えない時点で接客業は無理だけどね。


「大丈夫。健斗ちゃん似合ってる」

「フォローありがと獣山」


 健斗の執事服。

 少し見てみたいかもしれない。


「まぁ、俺と神ヶ崎しかいないから客はほとんどいないけどな」


 はははと悲しい笑い方をする健斗。

 健斗ってイケメンなイメージだったけどそんなことないのかな?

 それに、天美さんも声的に美人だと思ってたんだけど違うんだ。


「それで、ご注文は?」

「私、オムライス」

「じゃあ、僕も」


 まぁ、僕、メニュー見れないから何があるのかわからないしね。

 健斗の作った料理なら大体美味しいの分かってるし、いいか。


「かしこまりました。すぐにお持ち致します」


 数分ほど待っていると健斗がオムライスを持ってきた。

 本当にすぐだね。


「オムライス、お持ち致しました」

「美味しそう」

「いい匂い」


 卵の香りとケチャップの香りが食欲を刺激する。

 オムライスなんて数年ぶりだけど、楽しみだ。

 僕はスプーンを取ろうと手探りで探す。


「サトリ君……」

「? 何、犬子ちゃん」

「私が食べさせてあげようか?」

「いいの?」

「うん」


 それは助かる。

 正直、友達の女の子に食べさせてもらうのは照れるけど、お店の机を汚したりするよりはずっといい。

 それに、食べやすいし。


「お待ちくださいお嬢様」

「ん、何健斗ちゃん」

「そういうのは、従者である俺の仕事です」

「だめ、これは譲れない」


 僕の前の方からカチャカチャと食器と机がぶつかる音がする。


「お皿を離してくださいお嬢様」

「メイドの分際で私に命令?」

「言ってくれるなロリっ子」

「こっちのセリフ」

「俺はロリじゃねぇ!」

「そういうことじゃない」


 カチャカチャという音が激しくなっていく。

 やばい、このままじゃ絶対に溢す。

 そうなる前に止めないと。


「二人とも危な」


 僕が止めようとした瞬間。

 時は既に遅かったようで僕の太もものあたりにじんわりと暖かく柔らかい感触が広がる。


「「あ……」」


 二人の反応からして、やっぱり溢したみたいだ。


「さ、サトリ! 大丈夫か!?」

「サトリ君、ごめん」


 いや、別に怒ってはいないけど……。

 どうしよう。

 僕、着替え持ってないよ。

 でも、このままべっとりした状態のままいたくない。


「あらあらぁ〜、サトリ君、そこは口じゃないんだよぉ?」


 天美さんが駆け足でやってきた。

 多分、拭く物を持ってきてくれたんだと思う。


「知ってる」


 天美さんは僕をからかいながら僕の膝の上に落ちたオムライスを片付ける。


「ご、ごめんなサトリ」

「ごめんなさい」

「大丈夫。でも、着替えが……どうしよう」

「おぉ、それは大変だねぇ! 本当に大変だ! すぐに着替えを用意しなくちゃね〜!」

「なんでそんなに嬉しそうなの?」

「喜ぶなんて滅相もない! 私はご主人様のお着替えを持ってまいります〜♪」


 天美さん、すごく嬉しそうな声。

 絶対に楽しんでる。

 天美さんが僕の着替えを持ってきてくれるまでの間、健斗と犬子ちゃんが膝に落ちたオムライスを処理してくれた。


「さてさて、持って来たよぉ!」

「早いな。ってかそれってここの執事服じゃないか?」


 執事服。そういえば、ここは執事アンドメイドカフェだしあってもおかしくない。

 僕は着替えを持ってないし、仕方ないなぁ。

 それに、僕一人じゃなくて健斗も着てるんだし恥ずかしくない。


「流石のサトリも執事服は嫌だよな?」

「ん、別に大丈夫だよ」

「だよな。執事服なんて普通の男なら……え?」

「流石サトリ君! 話がわかるね! 着替えられる場所に案内するから付いて来てくれるかい?」

「うん」


 僕は立ち上がり、天美さんの後ろを付いて行く。

 この教室の中に更衣室はあるみたいで少し歩くと天美さんは止まり、カーテンを開ける音が聞こえた。


「ここで着替えればいいよ。もしも一人で着替えられないならわ・た・しが手伝ってあげるよぉ?」

「んー……」


 さすがにそこまで頼むのは悪いし。


「いいや」

「え、いま少し迷った……?」


 僕はカーテンの向こうに行き、少し手こずりながら執事服を着る。

 ボタンが多すぎじゃないかな?

 目、開けようかな……。冗談だよ。

 あ、脱いだ服はどうすれば。


「ねぇ……」

「あ、もう終わったのか、い……あえ、さ、サトリ君!?」

「どうかした?」


 僕が脱いだ服を片手に持ってカーテンの外に出ると天美さんが慌てた声を出す。


「あ、や、ぼ、僕見てないから! だから早く前のボタンちゃんと止めて!」

「おい、どうかしたのか。なんか凄い声が……サトリ!?」

「サトリ君、それはセクシー過ぎるよ」


 え、もしかして僕、変な格好になってる?

 前のボタンって……あ、ちゃんと止まってない。

 多分僕の前の方は上半分が丸見えな感じになってる。


「ご、ごめん。変なもの見せちゃって……」


 健斗は男だからいいけど、天美さんと犬子ちゃんは女の子なんだし男の裸なんて見たくないはず。

 僕は急いでカーテンを閉めた。


「いや、むしろ最高だったというか……」

「健斗、何言ってるの?」

「い、いや、なんでもないぜ!」


 あ、そうだ。

 健斗は男なんだし、健斗に着替えを手伝って貰えばいい。

 正直、少し恥ずかしい気もするけど仕方ない。


「ね、ねぇ、健斗」

「な、なんだサトリ!?」

「着替え、手伝ってくれない……?」

「……なっ!?」


 え、なんでそんな驚いた声出すの。


「そ、それはダメだと思うよサトリ君?」

「うんうん」


 なんで、犬子ちゃんと天美さんが反対するの?

 もしかして、同性でも着替えを手伝ってもらうんっておかしいのかな。


「__いいぜ」

「な!?」

「健斗ちゃん……それは卑怯だよ」

「俺は男、俺は男。大丈夫。変態じゃない。手伝うだけ」


 何言ってるのさ。

 健斗は男でしょ?

 健斗が自分に言い聞かすようにつぶやくのを聞いて不思議に思う。


「安心してくれ神ヶ崎、獣山」

「な、何が……?」

「俺は惚れた男を襲うほどバカじゃない……と思う」

「じ、自信ないんだ……」


 襲う? 本当に健斗は何の話をしてるんだろう。


「それじゃ、サトリ。着替え手伝うぜ」

「え、うん」


 健斗が僕の方に近づく。

 心なしか、健斗の息遣いが荒い気がする。


「サトリ君。もしも何かあったらすぐ僕たちを呼んでね」


 天美さんが素の状態で言った。

 え、なに、僕は一体何されるの?

 襲われるって何?


「大丈夫。今の俺は男だ」

「今……?」


 今も何も健斗はずっと男じゃないの。


「そ、それじゃ、始めるぞ……?」

「う、うん。お願い……」


 なんで、着替えを手伝ってもらうだけで緊迫した空気感になるの。

 僕、本当にどうなるのさ……。

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