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御伽芸能プロダクション

 男子演劇部、舞台午前の部終了。

 練習を頑張ったおかげか自分でもいいと思える結果が出せた。

 僕は今、千琴さんと二人で衣装室にいる。

 因みに衣装室は普段、対談室として使っている場所で座れる場所もあり、僕と千琴さんは対面状態で座っている。


「ふぅ……、サトリ君! 演技、良かったよ!」

「ありがとうございます」


 僕は千琴さんに頭を下げお礼を言う。

 そう言えば、千琴さんに褒めてもらったのは初めてかもしれない。

 千琴さんとは結構一緒に練習しているけど良かったとか褒められたのは初めてだ。

 そう思うと、自然と笑みを浮かべてしまう。


「あらあら、千琴様が褒めるなんて珍しいわねぇ」


 幸太郎さんの声が後ろの方から聞こえてきた。

 この人、いつもいきなり出てくるからビックリする。


「幸太郎、それじゃ私が部員を評価しない酷い部長みたいじゃないか」

「評価はちゃんとしてるわよぉ~。ただ、褒めるのは珍しいわねって言ってるのよ。千琴様が褒めてるの見たのは二回しかないわぁ」

「二回……」


 それは確かに少ない。

 千琴さんって意外に厳しいというかハードルの高い人なのかな?


「一回目は、確か悠斗ちゃんだったかしらぁ~?」

「呼びましたか?」


 あ、悠斗君の声。

 僕は悠斗君の声の聞こえたほうに振り向く。


「あらぁ、悠斗ちゃん~。めずらしいじゃなぁい。千琴様がいるのに現れるなんてっ」

「幸太郎さん、抱き着かないでください。それに、その言い方じゃ僕が千琴様を避けているように聞こえてしまうじゃないですか。殴りますよ?」

「あらっ、悠斗ちゃん乱暴」

「悠斗、どうかしたの?」

「あ、そうでした。千琴様、千琴様とサトリ君に会いたいという方が居まして」


 会いたい?

 どういう事だろう。

 それも、僕と千琴さんって……。

 僕と千琴さんって演劇部以外はほとんど関りがないのに。


「会いたい? ファンの子とかかな」

「いえ、芸能関係の方です」

「……。芸能関係……分かったよ。ここまで通して」

「分かりました」


 芸能関係って……。

 そう言えば、今日はテレビのカメラが来るって言ってたっけ。

 一応、僕も主演だしインタビューとかされるのかな?

 緊張でドキドキしてきた。

 ドキドキしたまましばらく待っていると悠斗君が芸能関係者さんを連れてきた。

 芸能関係者さんは声からして男の人みたいだ。


「初めまして。私、御伽おとぎ芸能プロダクションの代表を務めている御伽おとぎ正義まさよしと言います」

「お、御伽芸能プロダクション……ッ!?」


 千琴さんが驚いた様な声を出す。

 御伽芸能プロダクション。

 僕も聞いたことあるような気がする。

 芸能プロダクションと言うくらいだから芸能関係の事務所とかなのかな?


「サトリ君、知らないのかい?」

「悠斗君は知ってるの?」


 悠斗君が耳打ちで聞いて来たので僕も小声で返す。

 流石に代表さんの前で「そんな所知らないんですが」とは言えない。

 失礼すぎる。


「御伽芸能プロダクションは主に俳優や女優や声優といった演技の舞台に立つ人を育てる事務所だよ。しかも、超大手で毎年のオーディションには数万人が応募するみたいだからね」


 数万……。

 凄いなぁ。

 凄すぎて、凄さが分かりにくいよ。


「そ、それで、そんな大手プロダクションさんが一体何の用で……?」


 千琴さんは驚きのあまりいつもの作った口調で話せていない。


「あぁ、単刀直入に言わせてもらうんだけど。今回の劇の主演をしている君達二人をスカウトしに来た」

「ぼ、僕とサトリ君をですか!?」

「スカウト……」


 スカウトって確か、勧誘って意味だよね。

 僕と千琴さん、そんな凄い所に勧誘されてるんだ。

 でも……。


「ごめんなさい。僕はお断りさせていただきます」


 僕は頭を下げて謝る。

 僕は、今の環境に満足してるし変な事をして今の環境を壊すのも嫌だ。

 劇だって今回だけしかするつもりないし。


「そ、そうかい……。君は、どうだい?」

「……。僕は……」


 千琴さんは迷っているみたいだ。


「私は。私も、もったいないけど、断らせてもらいます」

「……そう、かい」


 千琴さんはいつもの作った喋り方に戻り、微笑気味に答えた。

 御伽さんは深いため息を吐いた。


「ショックだなぁ……。折角、久しぶりに金の卵を見つけたと思ったのに~あああああ……。盛大に振られてしまったよ」

「本当にすみません。私にはやらないといけない事があるので」

「……。そうか。私を振ってまでやることなんだね」

「はい」


 千琴さんは即答した。

 千琴さんのやらないといけない事、少し気になるかも。

 でも、聞いちゃいけない気がする。


「そのやらないといけない事ってのが、なんなのかは知らないけど……、応援させて貰うよ。私は今回の劇で君達のファンになってしまったからね」

「私に惚れてしまいましたか?」


 クスッと笑いながら千琴さんが聞いた。

 すっかり本調子だ。


「あぁ、そうなのかもね。君の君達の劇には惚れるだけの魅力があったからね」

「全く、罪作りな私達です」


 千琴さんがそう言うと、御伽さんと千琴さんが笑う。

 二人とも笑い方が上品だなぁ。

 僕も、二人の笑い声を聞いて少しだけ笑みを浮かべてしまう。


「さて、振られたことだし。私は文化祭を楽しんで帰るとするよ」

「今日は本当にありがとうございました。良ければまたいらしてください」

「あぁ、もちろん。それと、これは私の連絡先だ。何かあったら頼ってくれていいよ」

「……。ありがとうございます」


 凄いな千琴さん。

 ほんの十数分でこんな凄い人と仲良くなるなんて。

 僕は少しだけだが、千琴さんに憧れてる人達の気持ちが分かった。

 御伽さんはそのまま部屋を出ていく。


「ふぅ……。流石に緊張したね」

「流石千琴様です」

「そうねぇ~。私なんて緊張しすぎて声が出せなかったわぁ」


 僕も、緊張のせいかいつもより口数が減ってしまった。


「それにしても良かったのぉ? あんな誘い滅多に来ないわよぉ~?」

「いいのさ。私は卒業までどこの勧誘を受けるつもりもないし……。私には私の夢があるからな」

「……。そうだったわね」


 千琴さんの夢?

 そんなの聞いたことない。


「おっと、そう言えばサトリ君には言ってなかったね。私の夢……。聞きたいかい?」


 僕は千琴さんの問いに頷く。

 流石に気になる。


「ふふっ、私の夢。それはね」


 千琴さんの声が僕に少しだけ近づく。


「__私の劇団を作って、日本一にする事だよ!!!」


 千琴さんは今まで聞いたことのないくらい明るく大きい声でそう言った。

 よっぽど、その夢を叶えたいんだろう。

 僕は千琴さんなら叶えられる気がした。

 日本一、千琴さんならそれも出来る気がした。


「……、頑張ってください!」


 自然に僕から言葉が漏れた。


「ありがとうっ!!」


 千琴さんがまた僕に少し近づき言った。

 その声は、先程よりも明るく、嬉しそうな声だった。

投稿期間が空いてしまい申し訳ありません。

ネタや構想が浮かんでこなかったので書く意欲が出てきませんでした。

今回はネタを絞り出して書いた回なので至らぬ点が色々あると思いますのでご指摘などくださると嬉しいです。

少なくとも三日に一度は投稿すると決めたのでこれからもよろしくお願いします。

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