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風邪と健斗と酔っ払い

 意識が覚醒する。

 どうやら僕はいつの間にか寝てしまっていたみたいだ。


「あ、サトリ起きたか……?」

「……健斗?」


 僕が目を覚ますとなぜか部屋に健斗がいた。

 もしかして、お見舞いに来てくれたのかな?

 僕は寝起きと熱の所為でほとんど働かない頭でそう思う。


「もしかして、お見舞い?」

「あぁ、さっきまでお前の妹と獣山姉妹が居たんだけどな……獣山姉妹は用事で帰って、妹は部活の練習試合らしい」


 そういえば、昨日そんなことを言ってた気がする。

 犬子さんと猫子ちゃんも来てくれたんだ。

 嬉しいなぁ。


 僕はベットから体を起こす。


「それにしても神ヶ崎からメールが来た時はびっくりしたぞ」

「天美さん?」

「あぁ、『サトリ君が急病で倒れた!!』ってな」


 急病って、ただの風邪なんだけどなぁ。

 というか、なんで僕が病気だって知ってるんだろう?


 僕は考えるが朦朧としている頭でまともに考えれるわけもなかった。

 多分、咲とかに聞いたんだろう。

 じゃないと、わかる訳ないし。


「お腹とか空いてないか?」

「大丈夫」


 昨日と同じで食欲はない。


「そうか……」


 数十秒間の沈黙。

 僕も健斗も特に喋る事がなく沈黙の時間が増えていく。

 僕の部屋には話の種になるような物もなかったと思う。


「そうだ。獣山妹がチョコレートを持ってきてたぞ?」

「チョコ……」


 チョコなら食べれるかな。


「食べるか?」

「うん」


 食欲はないけど、食べないと回復が遅くなるしね。

 健斗の方からガサゴソと袋を探るような音が聞こえる。


 チョコレートなんて数年ぶりな気がする。

 甘いものは嫌いじゃないけど、普段は菓子パンくらいしか食べないし。


「口開けてくれ、入れてやるよ」

「うん、あー」


 僕は口を開ける。

 すると、口の中に台形の固形物が入れられる。

 あ、板チョコじゃないんだ。


 僕は口に入るとチョコを咀嚼する。

 咀嚼すると、チョコの中から何かが出てくる。

 かなり変わった味だけど、なんだろう?


「健斗、これ、何チョコ?」

「えーと、なんだ。イタリア語か? すまんサトリ読めない」


 今まで食べたことのない味。

 すごくおいしいけど、もしかして凄い高いお菓子だったりしないよね?

 もしそうなら、少し罪悪感が……。


 いや、お見舞いは誠意だし、罪悪感を感じる方が失礼だよね。

 僕はチョコを飲みこむ。


「美味しかった……ひっく」


 しゃっくりが出た。


「ひっく……にしし、サトリのしゃっくり可愛いな」


 なんだろう。

 さっきまでとは違う感じで頭がボーっとする。

 あれ、意識が……。




《佐藤健斗視点》


 サトリが黙ってしまった。

 どうしたんだろう?

 もしかして、しゃっくりの事を突っ込まれたのがそんなにショックだったのか!?


 男の子はデリケートって言うし……俺、無神経すぎたか!?


「さ、サトリ__」


 俺はサトリに謝ろうとサトリの名を呼ぶ。


「えへへ〜、け〜んとっ」


 俺が謝ろうとすると、サトリの顔がみるみるうちに赤くなっていき、へべれけのような状態になる。

 そして、何より驚くことは__サトリの右目が開き、こちらを見ている。


「さ、サトリッ!? どうしたんだ!?」

「わ〜、健斗って、女の子だったんだね〜かわいい〜」


 俺の顔がボッと赤くなる。

 な、何言ってるんだいきなり!?

 てか、女ってばれた!?


「だって、こんなに〜可愛いから、女の子ってわかるよ〜ひっく……」


 可愛いって……。

 俺は恥ずかしさに顔の熱が収まらない。

 サトリ、明らかに様子おかしいよな?


 普段はこんなに饒舌じゃないし。

 そもそも、なんで右目が開いてるんだ?

 見えてるのか?


「見えてるよ〜」


 そうか。見えてる……え?

 何で俺の考えに返事してるんだ?


「だって〜見えてるから〜」


 見えてるって……俺の考えがか!?


「うん! どう? すごい?」


 いや、本当ならすごいなんてもんじゃないけど。

 なんだ。サトリの奴、本当に俺の考えが見えてるのか!?


 って、それやばくないか!?

 それって俺がサトリの事が好きなのも丸わかりなんじゃ……あ。


 俺はそこまで考えると墓穴を掘ったことに気づく。


「いや、サトリ今のはちが」

「__健斗、僕の事好きなの〜? 僕も好きだよー!」


 サトリが俺に抱きついてくる。


「ファッ!?」


 好き!?

 サトリが、俺の事好き?

 つまり、両思い!?


 いや、きっとあれだ。

 サトリの言った好きはラブじゃなくてライクだ。

 今までサトリは俺の事、男だと思ってたんだし、ラブの方ならサトリが薔薇って事になっちまう。


「さ、サトリ、一旦落ち着こう。状況が整理できない!」


 俺は惜しいと思いながら、俺に抱きつくサトリを引き剥がす。


「む、健斗は、僕に抱きつかれるの嫌なの?」

「いや、そうじゃなくてだな……」


 むしろ、最高だと思うし、もっと抱きついてくれても俺的にはこれ以上ない幸せな気がする。

 俺はここまで考えるとまたやっちまったと思う。


「じゃあ、いいねー!」


 サトリがまた俺に抱きつく。

 なんだこれ、甘えん坊なサトリが俺に抱きつく。

 天国かここは。


 いや、そうじゃない。

 俺はサトリがおかしくなった原因であろうチョコを一粒手に取り口に入れる。


 すると、チョコの中から何度か姉やおふくろにふざけて飲まされたことのある物の味がする。

 これは、酒だ。


 つまりこれは、ウイスキーボンボン?

 まさか、サトリこれで酔っ払ったのか!?


「あー、健斗! 一人だけチョコずるい!」


 サトリがチョコの入った箱に手を入れ、一粒チョコを取り口の中に放り込む。


「このチョコ美味しいーね!」


 天使のような笑顔でこちらを見るサトリ。

 やめろサトリ、これ以上俺を誘惑するな。


「誘惑?」


 あぁ、考えてること見られるのは本当にまずいな!


「健斗……考えてる事見られるの気持ち悪い?」


 俺の方を見ながら不安な顔をするサトリ。

 いや、気持ち悪いとかじゃなくてだな。

 少し、俺の隠している感情がバレるのが怖いだけなんだが。


「本当に、気持ち悪く無い?」

「あ、あぁ。サトリを気持ち悪いなんて思わないさ」


 むしろ、気持ち悪いこと考えてしまいそうな自分が気持ち悪い。


「健斗……ありがとー!」


 俺の胸に顔を埋めるサトリ。

 ダメだダメだダメだダメだ!

 俺、耐えるんだ!

 変な事を考えるな。


 もし、今変なことを考えたら絶対にサトリに嫌われる!

 それだけは嫌だ!


 俺はサトリを胸に抱いてる状況で自分の欲望が出てこないように必死に抑える。


「すやぁ……」

「……サトリ?」


 サトリの吐息が聞こえる。

 ね、寝たのか?


 俺はサトリを体から離す。

 すると、サトリは目を瞑り、すやすやと吐息を立てて寝ていた。


「ね、寝たのか……はぁぁああ」


 俺は深いため息をついた。

 なんだったんだ一体。

 いきなり、目を開いたり、考えてることが見えたり。

 もしかして、サトリは超能力者なのか?


 いや、顔色だけで人の考えがわかったりする奴もいるし。

 現にうちにも読心術使える奴いるしな。

 とりあえず、サトリが起きたら聞いてみるか。

 起きたら少しは酔いも覚めてるだろうし。


「記憶操作能力符__」


 後ろから女の声がする。

 俺はいきなり現れた気配に咄嗟に顔を後ろに向ける。


「か__」


 後ろにいた奴の顔を見た瞬間。

 俺の意識がプツンと切れる。




 意識が覚醒する。

 ここどこだ?


「おれ、サトリの家に見舞いに来て……」


 そうだ。

 サトリと少しだけ話してサトリが寝ちまって、俺も寝ちまったんだ。

 最近、疲れたまってたしな。


「健斗、起きた?」

「ん、あぁ、すまんなサトリ。見舞いに来たのに寝ちまって」


 サトリも起きてたようで、分厚い点字の本に指をなぞらせていた。

 目が見えないって、本当に大変そうだな。


「サトリ、具合は?」

「寝たら、だいぶ良くなった」

「そうか」


 俺は微笑む。

 サトリの顔色は寝る前よりの良いし。


「あ、もうこんな時間か」


 時計を見ると午後の6時になっていた。

 俺が来たのが12時頃だったから結構いたな。


「すまんサトリ。今日はもう帰るな」

「うん。お見舞い、ありがとうね」

「あぁ。明日は大事をとって休んだ方がいいぞ?」


 風邪は治り始めが一番危ないっていうし。

 油断は大敵だ。


「うん、わかった」

「じゃあ、またな」


 俺は立ち上がりゴミなどを袋に入れて部屋を出る。

 部屋を出る瞬間、誰かに見られた気がしたが振り返っても誰も居なかった。

 俺、本当に疲れてんだな。


 帰ったら風呂入って寝ようと思い、俺は足早に家に帰った。

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