唐揚げ
__僕は健斗達と屋上で昼食を食べている。
「いやー、それにしても本当にサトリの妹なのか? 全然似てないな」
「むっ、お兄ちゃんと私は血が繋がってないから似てなくて当然ですよーだ!」
僕は二人の会話を聞きながらクロワッサンを食べる。
咲は健斗の事が苦手なのかな?
「お、血の繋がらない兄妹なんて昼ドラみたいだな」
健斗はにしし、と笑いながら揶揄うようにそう言った。
「でも、私とお兄ちゃんはそこらの兄弟より仲がいいんですからね! お兄ちゃんを狙っても無駄ですから!」
あれ、僕と咲ってそんなに仲が良かったっけ?
話したのも一緒にご飯を食べたのも数年ぶりな気がするけど。
「ね、狙うってなんだよ。俺は男だぜ?」
「確かに見た目は完璧に男ですけぶっ!?」
「ん、どうかしたの咲?」
僕は話してる途中で黙ってしまった咲の方を向く。
「すまんサトリ! 少し待っててくれ!」
「え、うん……」
健斗が少し焦った風に言ったので僕は不思議に思いながら頷いた。
何を言っているかは聞こえないが健斗が小さい声で何かを言っているのがわかる。
「はぁ……わかりましたよ」
「頼むぜ」
どうやら健斗は先に耳打ちで何かを言っていたようだ。
正直、気になるところだが耳打ちして話すくらいだから隠したい話なんだろう。
僕はそう思い何も聞かない。
「待たせたなサトリ」
「大丈夫」
「あ、そういえばサトリ」
「何?」
僕は首を傾げる。
「お前、いつもパンとかおにぎりだけだけどそれで足りるのか?」
健斗の言う通り僕はいつもパンかおにぎりを一個か二個だけだ。
確かに僕くらいの男子高校生のお昼ご飯がそれだけというのは心配してしまうだろう。
「大丈夫だよ。僕あまり動かないからお腹空かない」
目の見えない僕は基本的に激しい運動はしない。
その上、僕は燃費がいい。
運動をしたとしても一般的な食事量で十分だ。
「ふーん、そうだ! 俺のお手製唐揚げ一つ食うか?」
「いいの?」
燃費が良い分、食べる量は少なくていいがお腹がいっぱいという訳ではない。
できれば、朝昼晩しっかりとした量を食べたい気持ちはある。
「あぁ、もちろんだ。ほら、口開けろ」
「ちょちょちょっと、待ってよ!」
僕が健斗の方に向かって口を開けると咲が開けた口を押さえた。
「ばき、ばんでどべるぼ?」
「咲、なんで止めるの?」と言いたかったが口を押さえられているので自分でも何を言っているか分からない言葉になった。
「おいおい、なんで止めるんだよ」
「あ〜ん。だなんて妹の私が許しません!」
「そんなのサトリの意思だろ?」
「ダメなものはダメー!」
なんでかは分からないが咲は僕に唐揚げを食べさせたくない様だ。
「いいよ健斗、唐揚げはまた今度ちょうだい」
「……分かった」
「えっ、私そんなつもりじゃ……」
咲は少し申し訳なさそうな声でそう言った。
「もぉ! 分かりました! 特別にあ〜んしていいです……」
「にしし、そうこなくちゃな。ほら、妹ちゃんのお許しも出たし口を開けてくれ」
食べちゃダメとか食べていいとか訳が分からないが僕は健斗の言った通り口を開ける。
「ほらよ」
「むぐ」
口を開けると舌の上に唐揚げが置かれる。
口の中に入った唐揚げを噛むと肉汁が溢れ出てくる。
久しぶりに食べる揚げ物に自分の身体が喜んでいるのがわかる。
「すごく、美味しい」
「そ、そうか……それは良かったぜ」
「お兄ちゃんの笑顔。撮っとかなきゃ」
唐揚げを味わっているとシャッター音が聞こえた。
僕は気にすることなく唐揚げを味わう。
「なぁ、サトリ」
「何?」
「もう一つ食べるか?」
健斗の申し出に僕の口元は自然に緩む。
「うん、食べたい」
「ぐはっ!!」
咲の座っていた方からバタッと何かが倒れる音がした。
「お兄ちゃんマジラブ2000%……」
「え、えっ、咲どうかしたの?」
「あの笑顔、流石の俺も危なかったぜ……」
僕は訳が分からず首を傾げる。
「ねぇ、何が起きてるの?」
「……サトリは見ないほうがいいかもな」
そう言う健斗の方からはポタポタと何かが滴る音がしていた。
「ほら、口開けろ。唐揚げ食べさしてやる」
「うん、あーん」
僕は健斗の方を向いて口を開ける。
すると先ほど同様、口の中に唐揚げが入れられる。
「美味しい」
「絶対、また作ってこよ……」
健斗がそう言うのを聞くと僕はまた食べさせてもらえないかなと心を踊らせる。