風邪と妹
サトリくんはこの世界に来て二週間ちょい経ってます。
文化祭まであと一週間。
僕の学校の文化祭は夏休み前にある。
去年は健斗とぶらぶらしてただけだったけど、今年は男子演劇部の舞台がある。
練習に励み、しっかり本番に備えなきゃいけない。
のだが、そんな時に限って僕は風邪を引いてしまった。
それも39度の高熱だ。
運が良かったのが今日が土曜日だったというところだろう。
病院に行ったがただの風邪と診断され、薬を出してもらった。
家に帰ってきた僕は自分の部屋で横になっている。
「寂しいなぁ……」
僕はベットで横になりながら、そんなことを思う。
母が今下でおかゆを作りに行っていて僕は部屋に一人。
「寝よ」
息苦しくてズキズキと頭が痛むのを我慢して寝ようとする。
時間はかかったが寝れた。
目を覚ます。
何時間くらい経ったのかな。
僕は携帯で時間を確認しようとすると左の手に違和感を感じる。
そこで、僕は左手を誰かに握られているのに気づく。
「すぅ、すぅ……」
吐息が聞こえる。
誰だろう。
「ふへへ……」
咲の声だ。
そうか。今日は部活午前中だけだったんだ。
咲の手のぬくもりを感じながら、僕は微笑む。
風邪は全然良くなっておらず、まだ頭は痛いし、喉も痛いし、寒気もする。
だけど、さっきよりは寂しくない。
「咲……風邪、移っちゃう」
「ん……っ! お兄ちゃん、起きたんだね!」
うっ、少し声のボリューム抑えてもらえると嬉しい。
頭に響く。
「お母さんがおかゆ作ってくれてるよ。お兄ちゃんが起きたら食べるようにって」
「ありがとう」
「あと、お母さんは栄養ドリンクとか買いに行ったよ」
そうなんだ。
そういえば僕、どれくらい寝れたんだろう。
咲が帰ってきてるってことは二時間は寝てたのかな?
「咲、僕どのくらい寝てた?」
「んー、ちょっと分からない。でも、まだ1時前だからそんなに寝てないと思うよ」
そうなんだ。一時間くらいか。
やっぱり、風邪の時はあまんまり寝れない。
「お兄ちゃん、おかゆ冷める前に食べよ」
「あー……うん」
僕が頷くと咲はおかゆを取りに行った。
正直、食欲はないけど食べないと回復しない。
特に僕は風邪になる事はあんまりないけど、一度引くとかなり長引くことが多い。
少なくとも一週間後までには治しておかないと。
10分くらいして咲が戻ってきた。
少し遅かったけど、何かあったのかな?
「持ってきたよ〜」
「ありがとう」
僕が受け取ろうと手を差し出すと咲が「だめ」と言ってくる。
何がダメなんだろう?
「お兄ちゃん、あーんして」
「え、うん」
食べさせてくれるんだ。
確かに、ベットの上でこぼしたら大変だしね。
僕は咲に言われた通り口を開ける。
「ふー、ふー。はい」
「ん」
あ、あったかい。
そうか。時間がかかったのは冷めたおかゆを温めてくれてたからんだ。
美味しい。
「美味しい」
思ったことがそのまま口からこぼれ出てしまう。
「お母さん、喜ぶね」
その後も咲に食べさせてもらって、食欲がなかったのが嘘かのようにペロリと食べ終えた。
食べ終わると咲が下に食器を洗いに行った。
なんか。申し訳ないなぁ。
風邪だから仕方ないというのは分かっている。
前までも風邪を引いたときは母も咲も優しかった気がするし。
それにしても、おかゆを食べたから汗が出てきてしまった。
ベタベタして気持ち悪い。
「お、お兄ちゃん……!」
咲が部屋に帰ってきた。
なぜか息が荒い気がする。
もしかして、僕の風が移っちゃった!?
「そ、その、良かったら。体拭こうか?」
「……」
どうしよう。提案は嬉しいけど、そこまで甘えていいのかな?
流石に悪い気がする。
咲も年頃の女の子なんだから、男の裸なんて見たくないだろうし。
「あっ、う、嘘! ごめんねお兄ちゃん! 流石に妹に体を拭かせるなんて、ありえないよね……」
咲が悲しそうな声を出す。
僕は咲の悲しそうな声を聞いて、自分のしてしまった失態に気づく。
それは、せっかく咲が気を利かせてくれたのに断ろうとしてしまったことだ。
もし本当に嫌なら、提案するらしなかっただろう。
咲は自分の親切を無下にされて悲しんでいるんだ。
「咲……」
「な、何?」
「お願いしていい?」
せっかく、妹が気を使ってくれたんだから断ることなんてできない。
「い、いいの!?」
咲の鼻息が荒くなる。
なんで?
「う、うん。上脱ぐから少し待ってて」
「は、はいっ!」
咲は緊張したような声を出す。
なんで?
僕は咲の声の変化を不思議に思いながらも上を脱ぐ。
正直、結構恥ずかしいけど、汗を拭いてもらうのに脱がないわけにもいかないだろう。
「はぁ……はぁ……ほ、本当にいいんだね……? 今更取り消し出来ないからね?」
「う、うん」
咲の息がものすごく荒い。
そして、なんか怖い。
僕、体拭かれるだけだよね?
僕は咲に背を向ける。
「じゃ、じゃあ、拭くよ……」
「ひゃっ……」
タオルが冷たくて僕は変な声を出してしまった。
「んんんん!!」
後ろから床を叩いている音と咲のうめき声みたいなのが聞こえる。
どうしたんだろう?
「ご、ごめんお兄ちゃん。取り乱した……」
「取り乱うっ……」
取り乱すって何を? と聞こうとした瞬間、咲が僕の背中にタオルを当てる。
また変な声を出してしまった。
その後、黙々と背中を拭いてくれる咲。
なんか息が荒い気がするけど、本当に風邪が移ってないか心配だ。
「あ……」
咲が背中の右の方を拭いていると何かを見つけたような声を出す。
多分、傷を見たんだろう。
「お兄ちゃん、この傷って……」
「うん、事故の時のだよ」
事故。昔、僕の本当の両親が死んでしまった事故。
その時に負った傷は今でも痛々しく残っている。
「……痛くない?」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう、咲」
この傷跡はお医者さんの話では二度と治らないみたいだ。
でも、別に痛いとかはないから大丈夫だ。
「……さっ、お兄ちゃん。前の方拭こう!」
咲は気を使ってくれたのか傷の話をそれ以上広げなかった。
本当に、咲は優しいな。
「ん」
僕も咲に甘え前の方を拭いてもらう。
背中より、前の方がこそばゆかったけど、なんだか、人に大切に扱われてる気がして嬉しかった。
なぜだか、体を拭き終わると、咲は鼻声になっており足早に部屋を出て行ってしまった。
やっぱり、風邪が移ったのかもしれない……。
僕はお腹がいっぱいになったからか眠気に襲われる。
体を拭いてもらったおかげて、なんだか気持ちが良い。
僕はベットに横になり、眠りについた。




