三河さとりの1日
__明るく、楽しく、元気に……生きてね……さ、とり……
綺麗で優しい笑みを浮かべた女性が僕の名前を呼んでる。
__お前は、京子に似た優しい子だ……きっと、いい出会いが出来るだろう……佐と……
優しい顔をした男性が僕の方を見ている。
__お母さん、お父さん……
小さい僕が涙を流しながら二人を見ている。
懐かしい夢だ。
悲しい夢だ。
__ジリリリリリ!!!
目覚まし時計のうるさい音で目を覚ます。
目を覚ますとまずは鳴っている目覚まし時計を止める。
「行ってきます」
家から返事はない。
この世界に来て早数ヶ月。
最初はどうなるかと思ったけど、前の世界より住みやすいかもと思ってる。
男だからってみんな変に依怙贔屓しないし。
母や咲はほとんど話しかけてこないし。
僕は家を出て学校に向かう。
学校に着いて、教室に行き席に座る。
「おはよう、さとりくん」
前の席に座っている健斗に話しかけられる。
「……ん」
僕は薄目を開けて健斗の顔を見る。
《あぁ、さとりくん。いいよ。可愛いよ。出来ることなら君を閉じ込めて俺だけの物に》
この世界の健斗は前の世界より変わってる。
前の世界の時もかなり変わってる奴だとは思ってたけど。
「さとりくん、おはよう」
「……おはよう」
薄目のまま犬子の顔を見る。
《さとりくんの力、欲しいなぁ……猫子の力と合わせれば獣山家だって潰せるのに》
獣山家を潰すのに賛成だけど、もう少し考えさせて貰おう。
どこで知ったかは分からないが犬子は僕の心を読む力を知っている。
まぁ、僕がわざと目の見えないふりをしているのには気づいてないみたいだけど。
「やぁやぁ、これはみんなお揃いで! おはようなのだよ!」
天美も挨拶してきた。
朝から騒がしいな。
《あまり、心を読むものじゃないよ?》
うるさい。そんなの僕の勝手だ。
最近転校してきたこいつも、なんでか僕の能力を知っている。
それに厄介なのは、こいつ重要なことは『考えない』ようにしている。
僕の心を読む能力は、逆に言えば考えてたり思ってたりしてなければ読むことはできない。
全く、謎な奴だよ。
「さとりさん……はようございます」
「ありゃりゃ、本当に勢ぞろいだねぇ」
猫子まで来た。
なんだこいつら、暇なのか?
《私のさとりさんに近づくな雌豚どもめ。誰が話していい許可を出したんだ》
……。本当にこの世界は変な奴が多い。
前の僕は、一体どんな生活を送ってたんだ。
「最近、さとりの知り合い増えたよな《邪魔で仕方ないな》」
「知り合いじゃなくて、友達です《こいつが一番邪魔》」
「私も友達《猫子、怒ってる》」
「いいじゃないか。友達は多い方が! ね、さとりくん! 《私は友達以上になってもいいよ♪》」
はぁ……。僕は内心ため息をついて薄目を閉じる。
そして、もう一度薄目を開ける。
「ソウダネ」
《《《《うわ、棒読み》》》》
全員の心の同じになった。
こんな感じで今日も、いつも通りの学校が始まる。
騒がしいな、全く。
《さとりの微笑み》
《写真撮っとこ》
《ガチャならトップレア級の笑み》
《REC》
まぁ、前の世界よりは、ましだな。
学校も終わり、僕は家に帰る。
家に帰るとコップに水を注いでソファに座りテレビをつけて見る。
『いやー、不倫はいけないことです!』
丁度、夕方のワイドショーがやっていた。
《ま、私もしてるけど》
僕はテレビを消した。
この世界も、こういうところは大差ない。
まぁ、この世界は素直じゃない人が多すぎるって感じかな。
前の世界が正直すぎただけなのかもしれないけど。
「ねぇ」
「ん?」
咲、帰ってきてたのか。
僕は咄嗟に開けていた目を薄目にした。
「邪魔、どいて」
「分かった」
僕は立ち上がり、ソファに座る咲の顔を見る。
《私の馬鹿ぁ!! 「一緒に座っていいお兄ちゃん?」でしょ!! なんで、どかすのよ!!》
……。咲は内面だけなら前の世界と大差ない。
こっちの咲は凄く不器用だけど。
僕は部屋に戻ろうとリビングから廊下に出る。
すると、ちょうどのタイミングで母が帰ってくる。
「……」
「……」
僕は玄関の方を薄目のまま見ると、母もこちらを見ていた。
《なんで、なんでただいまって言えないのよ私!》
本当に、この世界の人は変わってる。
もう少し、素直になればいいのに。
「ふんっ……」
僕の方を見ていた母は俺から視線を外す。
《何が「ふんっ」よ! 私、馬鹿なんじゃないの!? さとりもなんか言ってよぉ! いつもみたいにおかえりって言ってよ!》
はぁ、仕方ない。
「……おかえり」
「ん……」
母は僕の横を通ってリビングに行く。
横を通る際、少し顔が見えたが《さとり、天使》と書いてあった。
正直、直接言われるより照れるんだが。
僕は部屋に戻る。
部屋に戻ると明日の授業の準備を済ませる。
「寝よ」
まだ、九時過ぎだがやる事もないから寝ようと部屋のカーテンを閉めようとする。
カーテンを閉めようとすると窓に反射した自分の顔を見てしまう。
《楽しい》
僕の顔がどんどん赤くなる。
まぁ、あれだ。一番素直じゃないのは僕なのかもしれない。
俺は羞恥を感じながらカーテンを閉めるとベットに寝そべり目を閉じる。
「楽しい……」
声に出して自分の思っている事を言ってみるが、やはり恥ずかしい。
だめだ。もう、寝よう。
僕は眠りについた。
これが、今の僕の日常だ。
《さとりくんのプチ劇場》
さとり「幸せそうだね」
サトリ「君は?」
さとり「君の世界は変な人多すぎる」
サトリ「そう?」
さとり「まぁ、でも、前の世界よりいいよ」
サトリ「僕も、そう思う」
さとり「まぁ、これからも」
サトリ「僕の世界を」
__よろしく
《さとりくんのプチ劇場終了》
さとりくんのプチ劇場はこれで終わりです。




