やっと分かった ※健斗視点
俺の家にサトリが来てしまった。
できればサトリをうちに連れて来たくはなかった。
それというのも、俺の家族が揃いも揃って変人だらけだからだ。
姉は変態で変な口調だし。
妹も一見真面目そうだが、人の不幸が大好きな変態だし。
母はただの変人だし。
家の掟とはいえ『ボーイフレンドが出来た場合家族に顔合わせさせる』なんて誰が考えたんだよ。
ボーイフレンドなんて使ってる時点で結構最近だと思うが。
「どうぞ入ってください、居間の方で母上と海斗姉上が待ってます」
「お邪魔します」
サトリはいつもより少し張り切ってるように見える。
なんだ。何がお前をそこまでさせるんだ。
俺は気乗りしない重い足取りで居間まで行く。
すると、変におしゃれをしている母といつものジャージ姿ではなくスーツを着ている姉がいた。
「いい年して、何考えてるんだこの二人は……」
「よく来てくれたね! 俺が健斗の母の佐藤謙介だ 」
「初めまして。僕は健斗の友達の三河サトリです」
友達……。サトリからそんな風に言ってもらえるなんて……。
いや、しみじみ嬉しがってる場合じゃない。
できるだけ、このアホどもにアホなことされないように見張らないと。
「お父様。拙者、サトリ様にお茶をもってきます」
「おう、頼むぞ海斗」
「海斗?」
サトリが首を傾げている。
ていうか、海斗姉さんの口調がいつにも増して気持ち悪い。
なんだ。それはモテると思ってそんな口調をしているのか?
「あ、拙者としたことがサトリ様に名乗っていませんでしたね」
さりげなくサトリの事、下の名前で呼んでるし。
サトリもなんか言えよ。俺の時は『やめて』って言ったくせに。
「拙者は次期佐藤家の当主で名を佐藤海斗と申します。いつも、妹をお世話になってます」
「いえ、こちらこそ……妹?」
「あっ、あぁ! サトリ! うちの家族は変わってるからあんまり考えて喋らなくていいぞ!」
「……わかった」
あっぶない!
海斗姉さんの所為でサトリに女だってバレるところだった。
俺は額に冷や汗を流す。
「ちょっ、健斗。それはひどくないか?」
「酷くない。メールしただろ。俺は女だって隠してんだバレるような事しないでくれ」
耳打ちしてきた海斗姉さんに俺も小声で返す。
海斗姉さんは少し不満そうな顔をしてお茶を取りに行った。
「あの、健斗あね……兄上とはいつから知り合いなんですか?」
「知り合ったの、丁度去年の今頃だったと思う」
「そうなんですか」
宗也は男に対してだけは変態性を出さないから少し安心して見てられる。
だが、問題は……。
「それで、サトリくん。君の話は健斗から聞いているが……ぶっちゃけ、健斗の事どう思っているんだい?」
俺はサトリの性別を誤魔化しながら、よくサトリの話をしていた。
おふくろはそこが凄く気になっているようだ。
そして、おふくろのあの顔は完全に面白がっている顔だ。
あんな憎たらしい顔……後で殴ろう。
「健斗は、僕の親友です」
「親友……ふむふむ、で、他には?」
おふくろはそんなことが聞きたいんじゃないんだよと言いたげな顔をしている。
「サトリ、あまり真剣に考えなくていいからな?」
もし、もしもここでサトリに辛辣なことを言われたら俺は二度と立ち直れない気がする。
「いや、これは真剣に考えるべきことだよサトリくん」
「おふくろ!」
「……健斗は」
こんなに真剣なサトリの顔は俺でも見るのは初めてだ。
多分、今からサトリが言うのはサトリの本心に一番近い言葉なんだろう。
別にサトリにどう思われてるか気にならないわけじゃない。
わけじゃないが、俺はあまり心が強くない。
辛辣なことを言われたら、本当に立ち直れる気がしない。
「健斗は、僕の親友です」
「え……」
サトリは先ほどおふくろに却下された事をもう一度言った。
「だから、サトリくん俺はそういう」
「__唯一信じれて、唯一信じてくれた友達です」
サトリはそう言うと一度空気を吐き大きく吸い込んだ。
俺は一瞬、何を言われたのかわからずに、頭が真っ白になる。
「僕は去年まで友達がいなかったんです……。でも、健斗が声を掛けてくれました」
こんなに話すサトリを見るのは初めてだ。
普段から無口ではないがよく喋るわけでもないサトリが、こちらに話をさせる暇もなく話をしている。
「嬉しかったんです。でも、最初から信じられた訳じゃなくて……最初は少し、警戒していました」
いや、少しじゃなくてかなり警戒されてた気がするが。
そこは置いておこう。
「でも、そんな僕なんかと仲良くしてくれて……その上、僕のことを親友と言ってくれたんです」
サトリは微笑みながら話す。
俺は自分の頬を流れている雫に気づいた。
「僕はそんな健斗を、親友だと思っています」
「そ、そうか」
「それだけじゃないです」
サトリはおふくろの言葉を遮り、話を続ける。
「健斗はいつでもカッコよくて、少しおちゃらけてる時もありますけど根は真面目で、少し打たれ弱くて、でもこっちが落ち込んでいるときは丁度良い距離で励ましてくれて……」
「さ、サトリ、もうやめてくれ……」
これ以上は俺が羞恥に耐えられなくて死ぬ。
サトリ、俺のことをそんなに思ってくれていたのか。
俺は顔を真っ赤にしながらサトリの話を中断した。
「でも、もう少しある」
「恥ずかしくて死ぬわ……」
それに、心拍数が上がりすぎて熱っぽいし、なんか息苦しい。
あれ、俺、本当に死ぬんじゃね。
「俺たちも、もう満腹だよ……」
おふくろが苦笑いになっている。
おふくろは苦笑いになっている顔を一回下に向け、一度大きく息をした。
「サトリ君!」
「はい」
「君に健斗を任せる!」
「……はい!」
サトリは嬉しそうに頷いた。
俺は恥ずかしすぎてもうサトリの顔を見られない。
てか、任せるってなんだよ。
俺は婿入りする男かなんかか?
「……はぁ……サトリくん。すまんが健斗は頭が痛いみたいで見送りは出来ないみたいだ」
「健斗大丈夫?」
「うむ、少し寝ていれば治るだろう。サトリくんは家まで責任もってうちの弟子が送っていく。安心したまえちゃんと男だからな」
「え、でも」
「健斗の事は気にしなくていい。今日は遅いから、もう帰りたまえ。宗也、サトリくんを車まで見送りなさい」
「は、はい!」
サトリ、帰るのか。
俺はおふくろの言う通り見遅れそうにない。
サトリは、宗也の後について居間を出て行こうとする。
「あ、健斗……また明日」
そう言って俺の方に手を振り、部屋を出るサトリ。
その瞬間、俺は自分の中の感情をやっと理解した。
「……いい子じゃないか」
「おふくろ……」
「ん?」
別に誰でもいい。俺は自分で気づいたこの感情を、誰かに言いたかった。
「__俺、サトリに惚れてる……」
恋心という感情。多分、俺の片思いなのは確定だが、俺はこの感情を一年ほどかけて、やっと理解した。
俺はサトリに恋している。
「今更か……はぁ……」
おふくろはとっくに気付いていたような態度をとる。
「なにさ、この状況?」
そして、今頃になってお茶を持ってきた海斗姉さんが、俺たちを見て首を傾げていた。
《さとりくんのプチ劇場》
サトリ「まさか、健斗の家族がこんなに変わった人たちだったなんて」
健斗「まぁ、悪い奴らじゃないぜ?《多分》」
サトリ「そこ、自信ないんだ……」
《さとりくんのプチ劇場終了》




