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月丘千琴の悩み

 昨日は楽しかった。

 友達と遊びに行くのは初めてだったし。

 咲と一緒に遊ぶのも初めてだった。


「__じゃあ、練習を始めようか。みんな、文化祭まであと一ヶ月! 頑張ろう!」

「「「はいっ! 千琴様!」」」


 相変わらず凄い慕われぶりだなぁ。

 月丘先輩。


 僕は日曜日だけど学校に来ている。

 なんでも、今日は休日練習らしい。

 金曜日の放課後に月丘先輩から教えて貰った。


 月丘先輩は「君の都合に合わせていいよ。絶対にこないといけないわけではないからね」と言っていたけど、僕もやるからには本気でやりたい。

 演技力も他の部員の人からしたら、まだまだだし。

 というか、他の人がうますぎる気がする。

 声を聞いただけで状況がわかるし、なんというか、感情がこもっている。


 僕もそんな演技が早くできるように、演技指導の人と一緒に練習をした。

 真剣にやっていると時間が経つのは早いもので、あっという間にお昼の時間になった。


「サトりん、お昼行ってきていいよ。うちの学校休日でも売店しているから」

「はい……ふぅ……」


 僕は息を整え、首に掛けたタオルで汗を拭く。

 バックを置いている場所まで行き、杖とバックの中に入れている財布を取る。

 演劇の練習って最初思っていたより、ずっとキツくて体力を使う。

 いや、僕の体力がないだけ?


「お、サトリ君。今からお昼かい?」

「月丘先輩?」


 僕が購買に向かうために中庭を歩いていたら、月丘先輩に呼び止められる。

 中庭にはいくつかベンチがあったはずだから、そこで食べているんだろう。

 それにしても、月丘先輩だけ?


「なぜ、私が一人でお昼を食べているのか? と言いたそうな顔だね」

「あ、顔に出てました?」


 僕ってポーカーフェイス下手なんだなぁ。


「あぁ、君は不思議な雰囲気を纏っているのに、意外に分かりやすい性格だね」


 僕って不思議な雰囲気なんだ。

 自分の雰囲気って自分じゃわからないからなぁ。


「で、サトリ君は今からお昼なのかい?」

「はい、そうです。月丘先輩は?」

「私は少し早めにお昼にさせてもらったよ。あ、そうだ」


 月丘先輩のいる方からガサガサとコンビニのレジ袋の中を探っている時のような音が聞こえてくる。

 なにしてるんだろう?


「お昼を買いすぎてしまってね。良かったら食べてくれないか?」

「え、いいんですか?」

「あぁ、余りものだけどね。メロンパンとクリームパンがあるんだが」


 やった。別にお金がないわけではないけど、タダでご飯を食べれるって嬉しい。

 タダより美味しい物はないって言うしね。

 あれ、なんか違う?


「メロンパンください」

「はい。あ、良かったらここで食べていかないかい?」


 んー、偶には中庭で食べるのもいいかも。


「はい」

「それじゃあ、隣に座りなよ」

「失礼します」


 僕は手探りでベンチの位置を確認すると、ベンチに座る。

 ベンチに座るとメロンパンの袋を開けて食べ始める。

 昔から思ってたけど、メロンパンってどこがメロンなんだろう?

 メロンなんて入ってないよね? メロンの味しないし。


「君は、可愛い食べ方をするね。まるで雛鳥のようだよ」

「雛鳥って……」

「与えらえた餌を精一杯食べる雛鳥と君が似ていてね。不快にさせたかい?」

「いや、別にいいですけど……」


 雛鳥って初めて言われた。

 前から思ってたけど、この人ってなんか変わってるなぁ。

 男なのに一人称私だし、まるで男の子を口説くみたいな喋り方するし。


「ふふ、君は本当に面白いね。……君なら」

「ん?」

「ねぇ、サトリ君。君、良かったら」

「良かったら?」


 なんだろう。さっきまでの月丘先輩よりもおどおどしてる。

 僕はメロンパンを咀嚼しながら首を傾げる。


「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ」

「ぼぼぼぼ?」


 月丘先輩。一回落ち着いた方がいいんじゃないかな。


「ぼぼぼ、ぼく、僕の、とともとも……」


 なんだか呪文みたいになってる。


「僕の、友達に、なってくれないかい?」

「友達ですか?」


 ていうか、月丘先輩。一人称が僕に変わってる。


「ダメ、かい?」


 いつもの月丘先輩とは違い、弱々しい声になっている。

 多分、勇気を振り絞って言ったんだろう。

 僕からしたら先輩ってイメージしかないけど。

 これを断れるほど、僕もひどい人じゃない。


「僕なんかで良かったら」


 なんか最近、友達になってくれってよく頼まれることが多いなぁ。

 いや、嬉しいんだけどさ。


「ほ、本当かい!? 本当に僕とお、お、お友達になってもらえるのかい!? その、友達といっても交際前提のとかじゃないよ? それでも、友達になってくれるのかい?」

「……はい」


 っていうか、交際前提って、僕と月丘先輩同性だからそんなわけない。


「僕ってその……女っぽいだろ?」

「僕、目が見えないからわからないんですけど……」

「あ、そうか」


 月丘先輩って女の人っぽい人なんだ。

 自分で言うくらいなんだから、よっぽど女の人っぽいんだろう。


「まぁ、その所為で男の子から恋愛対象として見られる事が多くてね」

「そうなんですか」


 男なのに男の人に恋愛対象として見られるのか。

 むかし、そんな話をラジオかなんかで聞いた気がするけど、本当にあるんだなぁ。


「その所為で昔から友達ができなくてね……男には恋愛対象として見られて、女には嫉妬の目線で見られるからさ」

「大変ですね」


 この学校、個性的な人多いなぁ。

 僕もあまり人のこと言えないけどさ。


「だから、サトリ君が僕の友達第1号だね!」


 僕の手を掴み、嬉しそうにそう言う月丘先輩。

 いきなり手を掴まれて驚いた僕は口の中に入れていたメロンパンを飲み込んでしまう。


「そ、それでだね。良かったら僕の事は千琴と呼んでくれないかい?」

「分かりました」

「わくわく」


 わくわくした声、というかわくわくと自分から言っている月丘先輩。

 もしかしてこれは、今呼ばないといけないやつなのかな?


「……千琴先輩?」

「先輩?」


 先輩を付けたのが気に食わなかったのかむすっとした声になる千琴先輩。


「……千琴さん」

「よしっ!」


 何がよしなんだろう。

 あと、僕の手をそろそろ話して欲しい。


「やっぱり、君を選んで良かったよ!」

「……あの、悠人君とは友達じゃ?」

「……悠人はね。友達になりたいんだけど、なんか避けられてる気がするんだよね」


 避けてる? あの悠人君が?

 あの、「千琴様の為なら死ぬよ?」と何食わぬ声で言う悠人君が?

 いやいや、それはないだろう。


「一緒に帰ろうと誘うと断られるし、部活でも一緒になる事はほとんどないし」

「そういえば、一緒にいるところ最初しか見たことない……」


 初めて会った時。そう、僕を男子演劇部に誘いに来た時以来、千琴さんと悠人君が一緒にいるのを見たことがない。


「今日も来れないって言ってたし……僕、嫌われてるのかな?」

「それは、ない。絶対に、ないです」


 もし、あの人が千琴さんのことを嫌いだったら僕はここにいないくらいだ。

 あの人の千琴さんへの愛情はすごい。


「そ、そうかい? そうなら、嬉しいな」

「悠人君に直接聞けばいい」

「そう、だね。今度聞いてみようか!」


 あ、やっと、手を離してくれた。

 というか、少し強く握りすぎです。

 まだ手がジンジンするし。


「さて、そろそろ部活に戻ろうか! お昼も終わりだしね!」

「はい」


 僕は立ち上がり、鼻歌交じりに部室に戻る月丘先輩の後を歩く。

 千琴さんと友達か……やっぱり、少し違和感があるなぁ。

 いやでも、仲いい人が増えたのは嬉しいな。


 このままいったら、友達100人も夢じゃない?

 頑張ろう。


 僕が部室に戻ると、次はセリフの練習をした。

 なんか、千琴さんの視線を感じたけど、本当に嬉しかったんだろうなぁ。

 僕も、健斗と友達になった時は嬉しくて寝れなかったし……。

 今度、千琴さんをお昼にでも誘おうかな。


 あ、僕、千琴さんのクラス知らないや。

千琴は攻略対象ではありません。

ギャルゲーでいったら高感度状況を教えてくれる友人ポジです。

もう一度言います。

そんじょそこらにいる女より綺麗だけど、攻略対象じゃないんです!



……多分。

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