ショッピングモール
書き直しました
昨日、マルドから帰る時、犬子さんに『明日、遊ぼう』と言われ、遊ぶことになった。
まぁ、土曜で予定もなかったし。
「男の人とデート。男の人とデート……」
そして僕は今、猫子ちゃんと二人で待ち合わせなバス停前に来ている。
なんで猫子ちゃんいないのさ。
「あ、あの!」
「ん?」
猫子ちゃんがいきなり呼んできたことに少しだけ驚きながら返事をする。
「今日は、宜しくお願いします!!」
「うん、よろしく?」
よろしくお願いしますって、何をよろしくなんだろう。
「ねぇ、猫子ちゃん」
「は、はい! 何ですか?」
「今日、犬子さんは?」
「え?」
猫子ちゃんが少し困惑した声を出す。
あれ僕、何かおかしいこと言ったかな?
「今日、姉は来ませんよ?」
「え……そうなの?」
「あ、も、もしかして、私なんかと二人はやっぱり、嫌でしたか?」
悲しそうな声を出す猫子ちゃん。
悲しませてしまったと思い僕はすぐに弁明しようとする。
「いや、違うよ。その、犬子さん居ないのかなって思っただけ」
「つ、つまり、私と二人が嫌というわけではないんですか?」
「うん」
「よかった……」
よかった。そういえば犬子さんも『遊ぼう』とは言ってたけど誰と遊ぶかとかは言ってなかったし。
あれは、猫子ちゃんと遊ぼうって事だったのか。
「あ、バス来ました」
「そういえば、どこに行くの?」
「あれ、言ってませんでした? ショッピングモールですよ」
ショッピングモールって、前母と一緒に行った場所だ。
確か、一つのお店の中に沢山のお店がある場所だったはず。
「何か、買いたい物があるの?」
「いや、ここら辺、遊ぶ場所あまりないですし。男の子は、ショッピングが好きと雑誌に書いてあったので」
「そうなんだ」
買い物が好きなのって普通は女の子じゃないのかな?
いや、僕はあまり普通の男の子じゃないから分からないかだけで、普通は男の子の方が買い物好きなのかな?
まぁ、折角猫子ちゃんが僕の事を考えてくれたんだし、楽しまなきゃ。
「猫子ちゃん」
「なんですか?」
「僕の事を考えてくれて、ありがとう」
「……」
しばしの沈黙。
そして、猫子ちゃんのいる方からポタポタと最近よく聞く水の滴る音が聞こえる。
「そ、その手は食いませんよ! 今日は箱ティッシュを持ってきてますから」
「箱ティッシュ?」
僕は首を傾げ、なんで箱ティッシュ持ってきてるんだろうと疑問に思っていると、バスの音が近づいているのに気づく。
「このバス?」
「あ、バス来ましたべ。そうべすよ。このバスでぶ」
ものすごい鼻声の猫子ちゃん。
もしかして、風邪なのかな?
「じゃあ、乗りましょう」
「うん」
僕と猫子ちゃんはショッピングモール行きのバスに乗る。
バスに乗るのは初めてで杖で慎重に足場を確認する。
「あ、あの、手を貸しましょうか?」
「いいの?」
「も、もちろんです!!」
なんで、そんな食い気味なの。
僕は猫子ちゃんの言葉に甘えて猫子ちゃんの手を借りる。
猫子ちゃんの手を借りると楽に乗ることができた。
猫子ちゃんは、そのまま席まで手を握っててくれた。
優しいんだな猫子ちゃん。
席に座ると僕が座るのを待ってましたと言わんばかりにバスが出発した。
もしかして、僕に気を使ってくれたのかな?
ショッピングモールに向かう道中、バスの中でおばあちゃんに猫子ちゃんと僕が兄妹に見間違えられたりした。
僕と猫子ちゃんって似てるのかな?
猫子ちゃんもバス中では隠れる場所はなかったみたいで、凄い吃りながらだったけどおばあちゃんと話をしていた。
まぁ、そんな事があったけど、ショッピングモールには何の問題もなく着いた。
「んー! 着きましたね」
「バス、楽しかった」
バスに乗るのは初めてだったけどおばあちゃんと話すのも楽しかったし、途中で停車するときにそこ場所の地名とかが聞けて好奇心旺盛な男の子としては楽しかった。
「それじゃ、ショッピングモールに入りましょうか」
「うん。あ、どこのお店行くの?」
「お洋服屋さんです! 男の人は服を買うのが好きと雑誌に載ってました」
だから、それは女の子なんじゃないのかな?
僕ってそんなに普通の男の人との感性が違うの?
「お洋服屋さんまでは私がエスコートしますよ!」
自信満々に言う猫子ちゃん。
「ありがとう」
「うっ、ティッシュ……」
猫子ちゃんは僕が迷わない様に丁寧にお洋服屋さんの場所まで連れて行ってくれた。
お洋服屋さんに着くと、なんだかお洋服屋さんの方から良い香りがする。
「うぅ、人が沢山……」
「猫子ちゃん、大丈夫?」
猫子ちゃんはお洋服屋さんまで人の多さにリタイア寸前になっていた。
猫子ちゃんは対人恐怖症だし、仕方ないか。
「大丈夫です。折角の、お出かけ、なんですから」
「お客様大丈夫ですか?」
お洋服屋さんの方から声を掛けられる。
多分、お洋服屋さんの店員さんだと思う。
「大丈夫、です……」
「猫子ちゃん、頑張れ」
僕は猫子ちゃんを応援する。
もしかしたら、このまま頑張れば対人恐怖症を克服できるかもしれない。
「そ、そうですか……」
女の店員さんは多分『何この人たち』と思ってるんだろうなぁ。
心読まなくてもわかる。
「それじゃ、サトリさん。お洋服見ま……あっ……」
見ましょうと言われても、僕目が見えないんだけど。
猫子ちゃん、もしかして忘れてた?
「盲点でした……すみませんサトリさん!」
「大丈夫だよ。失敗はあること」
「私、やっぱり姉がいないと……」
多分頭を下げたんだろう。
いつもより低い位置から声が聞こえてきた。
「お客様! よろしければ新作のご試着をしていきませんか?」
「え?」
「今回のは淡い色使いでシンプルに決めてて、お客様のような素の状態で美形な方にピッタリだと思います!」
僕は何が何だかわからず困惑する。
「お客様。服は見えなくても選べますよ。私たちで彼氏さんに似合う服を見つけましょう」
「店員さん……ありがとう、ございます……!」
あ、この店員さん。猫子ちゃんのフォローしたのか。
なにこの店員さんカッコよすぎるよ。
「試着は男の鈴木に手伝わせるので安心してください」
「どうも、鈴木です。それでは試着室に」
ここまでされては僕も断れない。
正直、服はあまり興味ないけど。
「よろしくお願いします」
今日くらいは興味を持とう。
__その後、僕は半ば着せ替え人形状態だった。
今年の流行から店員さんのセレクトや猫子ちゃんのセレクト。
多分、数十着は試着したと思う。
「やっぱり、これですね」
「私も、鈴木と同意見だよ」
「私も……これ以外ないと思います」
いつの間にか、対人恐怖症の猫子ちゃんも店員さん達と打ち解けてしまった。
「じゃあ、これ、買おうかな……」
「あっ、お金は私が払います!」
「え、どうして?」
「どうしてって、男の人に奢るのは女の甲斐性じゃないですか」
男の人が女の人に奢るのが普通なんじゃないのかな?
流石に、僕も女の子。それも、自分より年下の子に奢られるのは泣いてしまう。
それに、折角の思い出だから自分で買いたい。
「自分で買うからいいよ。折角の思い出だしね」
「わ、私お金は持ってるから大丈夫ですよ……?」
「そうか……だったら、お昼ご飯奢って」
猫子ちゃんも譲る気は無いみたいだから、お昼ご飯を奢ってくれと頼む。
「さ、サトリさんがそれでいいなら……」
「それじゃあ、お会計を」
僕はポケットから財布を取り出す。
今日は一万持ってきてるから大丈夫だろう。
「お会計、12800円になります」
「……え」
12000円……。やばい、あんなにカッコつけたこと言ったのに。
お金が足りない。
「……と、思いましたが、特別割引で2000円です」
え、特別割引?
一万円も……?
「店長いいんですか?」
「ふふ、彼らの思い出に混ぜてもらったんだ。本当は全部私が払ってあげたいくらいさ」
なにこの店長さん。イケメンすぎる。
「本当にいいんですか?」
「はい、店長の私がいいと言ってるんです。遠慮しなくていいんですよ」
「ありがとうございます」
僕は軽く頭を下げた。
そして、店長さんにニ千円を渡す。
「毎度あり。よかったら、またうちに来てくださいね」
絶対に来ようと僕は心に決める。
僕は店長さんから服の入った袋を受け取るともう一度お礼を言って店を出た。




