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獣山猫子

「三河君」

「獣山さん?」


 四時限目の授業が終わり、昼休みに入ると獣山さんが話しかけてきた。


「お昼、誰と食べるか決めてる?」

「ううん、健斗が休んでるから一人だよ」


 昨日、学校から帰る時『俺、明日用事あって学校来れないんだ』とため息交じりに言っていた。

 どんな用事かは聞いてないけど……。


「じゃあ、一緒に食べよ?」

「……」


 獣山さんの提案は嬉しい。

 誰かと一緒に食べるのは好きだ。

 ……お母さんと咲と健斗と天美さんの四人としか一緒に食べたことないけど。

 あ、泣きそうかも。


 でも、僕は人付き合いが上手い方じゃない。

 むしろ、下手だと思う。

 そんな僕と一緒にご飯を食べて退屈させたら悪い。


「ダメ?」

「……ううん、一緒に食べよ」


 獣山さんの不安の混じった声を聞いて、僕は拒否する事が出来なかった。


「やった。じゃあ、屋上に行こ」

「ここじゃ、ダメなの?」

「妹も一緒だから……」


 妹? そう言えば前会った時、妹が居るって話したっけ。

 僕の背中に冷や汗が垂れる。


(獣山さんの妹さん。初対面の人……)


 僕の心拍数が跳ね上がる。


「それで、一つお願いがあるんだけど」

「お願い?」


 僕は焦っているのを気づかれないように冷静に返事をした。


「妹の、友達になって欲しいの__」

「友、達……」


 そもそも、友達というのは複数の友人がいる時に使う言葉で、妹さんと友達になって欲しいといわれましても、なれるわけがないわけでありまして。

 いやいや、今はそんな話をしてるんじゃない。

 つまり、獣山さんは僕と妹さんに友好関係を気づいて欲しいと言っている。


「あ、えっと、僕、口下手だし」

「大丈夫、私もだし、妹も口下手だから」


 いや、それは大丈夫じゃないのでは?


「それに、初対面の人は苦手……」

「大丈夫、妹は人間そのものが苦手だし」


 いや、それは僕より大丈夫ではないのでは?


「えっと、あとは、そうだ。僕、男だし女の子と友達って」

「大丈夫、妹は男の子大好きだから」


 いや、それは大丈夫ではないですね。


「……分かった。頑張ってみる」


 僕は内心ため息をつき席を立った。

 鞄の中からパンを取り出し、屋上に向かう。


「でも、なんで僕と妹さんを友達にしたいの?」

「それは……」


 歩きながら獣山さんに聞くと、獣山さんは言葉をつかえさせる。

 聞かれたくない事だったのかな?


「妹は、対人恐怖症なの……軽度だけどね」

「対人恐怖症?」

「簡単に言ったら、人が怖いの。妹の場合、警戒心が強すぎるって方が正しいかもだけど」

「そうなんだ」

「今日、学校に来させられたのも奇跡みたいなものなの」


 対人恐怖症。僕も、気持ちが分かる気がする。

 他人の考えてる事は怖いし、心が見えなくても分かる人には、そういう人の怖い内面が分かるのだろう。


「大丈夫なのは、私とネッ友くらいで」

「ネッ友?」

「ネットの友達の略。SNSとかのソーシャルネットワーク内での友達の事」


 うん、何言ってるかさっぱりだ。

 ネットって調べものとかをしたりするやつだよね。

 友達とかも作れたりするんだ。


「妹は無口だけど、内心はお喋りさんだから」

「そうなんだ」


 内心お喋りさん。ナスさんを思い出すなぁ。


「学校に友達が出来れば、学校にも着やすくなるだろうし、対人恐怖症が治るきっかけになるはず」

「あ、だから」

「妹は男の子好きだから、男の子の友達だと効果は倍増」


 だから、僕を選んだのか。

 本当だったら、健斗とかが適任そうだけど、今日は休みだしね。

 責任重大だ。


「まぁ、私が三河君とお昼食べたいってのもあるけど……」

「え……?」

「じょ、冗談だよ」


 冗談か。

 びっくりしちゃった。


「屋上、着いたよ」

「うん」


 ギギッと、重い屋上の扉が開けられる。


「__お姉ちゃん、遅……」


 開けた瞬間、獣山さんに負けず劣らずの幼い声が聞こえてきた。


「猫子、この人、三河サトリ君。今日は一緒にご飯を食べる」

「え、な、そんなの聞いてな……」

「言ってないから」


 わぁ、獣山さんって強引なんだな。


「三河君、さっき話した妹の獣山けものやま猫子ねこ

「猫?」

「うん、猫の子って書いて猫子」


 最近流行りの当て字ってやつか。

 可愛い名前だなぁ。


「初めまして、僕は三河サトリ」

「え、あ、う、私は、獣山猫子、です」


 この子、僕以上に会話が苦手なんだな。

 言葉がつまりまくってる。


「それじゃ、お昼食べようか」

「う、うん」

「うん」


 僕たちは近くのベンチに座り、それぞれの昼食を取り出す。

 因みに座る場所は、僕を二人が挟む形で右が獣山さん、左が獣山さん妹だ。


「あ、獣山さん」

「ん?」

「ん?」


 獣山さん姉妹の両方に返事を返されてしまった。

 そうか。姉妹だから苗字も同じなのか。


「ややこしいね」

「お、お姉ちゃん。名前で呼んでもらったら?」

「それが一番だね。三河君、いい?」

「うん、僕の事もサトリでいい」


 凄い。初対面の人と名前を呼び合う仲になれるなんて。

 僕のコミュニケーション能力って意外に高いんじゃない?


「分かった。サトリ君」

「わ、分かりました」


 猫子ちゃんは、少し怯えの入った喋り方のままだ。

 対人恐怖症って本当なんだなぁ。


「猫子ちゃん、本当に他人が苦手なんだね」

「……」


 右側に座る犬子さんに小声でそう言うが、犬子さんは何とも言ってくれない。


「犬子さん?」

「おかしい」

「えっ?」

「猫子がこんなに他人と喋れるなんて……」


 え、あれで喋れてる方なの!?

 僕は犬子さんの言う事に驚き、体をビクッと動かしてしまう。


「ど、どうしました。サトリ、さん?」

「あ、いや、なんでも」


 猫子ちゃんがビクッと体を動かした僕を心配してくれる。

 優しい子だなぁ。


「やっぱり、おかしい……」

「そう、なの?」

「うん、普段は絶対に口を開かないし、名前呼びなんて許さない」


 そ、そこまでなんだ。

 それは、犬子さんも心配するよね。


「お姉ちゃん、さっきから、何コショコショ話してるの?」

「……何でもない」


 「ふーん」と言って再び租借を再開する猫子ちゃん。


「ねぇ、サトリ君。放課後、男子演劇部が終わってから私に付き合って」

「えっ?」

「お願い。美味しい物奢るから」


 耳打ちでそう言ってくる犬子さん。

 美味しい物。でも、あまり遅くに帰るのは……。

 僕は心の中で美味しい物と門限違反を天秤にかける。


「うん、いいよ」


 天秤は美味しい物に傾いた。

 あとで、お母さんに連絡しとかないと。

「美味しい物には……勝てなかったよ」byサトリ


サトリ君、美味しい物を差し出したらどこにでも行きそうで心配。


「えへへ、お兄ちゃん。美味しい物上げるからお姉ちゃんとイイことしようや」

「(美味しい物貰える上にイイ事してくれるんだ)うん、いいよ」


的な感じで。

そら、お母さん達にGPS仕掛けられるわ。

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