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家族会議(サトリは抜く)※咲視点

「__最近のお兄ちゃんは優しすぎる……」


 この発言から、第一回家族会議(お兄ちゃんは抜く)が開始された。

 議題はもちろん、最近のお兄ちゃんについて。


「そうね。前も優しくなかったわけじゃないんだけど……」

「うん、どこか、怯えてる感じがあったよね」


 数日前のお兄ちゃんだったら、私と一緒にご飯食べたり、私と一緒に登校したりはしなかった。

 近づけば、そそくさとその場を離れるし、会話なんて月に数回できるかどうかだった。


「まぁ、それは私たちが悪いから、仕方ないことなのよね」

「はぁ……。できるなら、あの時の私をぶん殴りたいよ」

「それは、私も同意だわ」


 空気が重たくなる。

 数年前、お兄ちゃんがこの家に来た時、私とお母さんは荒れていた。

 当時、私達だけじゃ耐え切れないほどの事があったのだ。

 その所為で、私とお母さんはお兄ちゃんに強く当たってしまった。

 私とお母さんは、今でもその事を後悔している。


「そ、それよりも! 最近のお兄ちゃんは優しすぎるって話だよ!」

「そうね。優しいのは嬉しいけど、なんだか無防備なのよね」

「そうそう、着替え中も部屋の鍵閉めないし、お風呂の鍵も閉めないし、寝る時も部屋の鍵閉めないし__」


 私がそこまで言うと、隣に座っていた母が私の肩を掴む。


「ねぇ、咲……なんで、あなたはその時、鍵が閉まってないって知ってるのかしら?」

「し……しまった」


 そして私は、自分がとんでもない墓穴を掘った事に気づいた。

 掴まれた両肩からミシミシと嫌な音が聞こえる。


「もしかして、覗いたのかしら?」

「……ノゾク、ワタシ、ソンナコト、シナイ」

「咲。歯を食いしばりなさい」


 ニコッと微笑む母に、私もニコッと微笑み返した。

 その瞬間、目の前が真っ暗になり、頭を掴まれた感触がした。


「イダダダダダ!!! 痛い! 頭が! 頭が飛び散る!!」

「大丈夫よ。ちゃんと飛び散らないように、手加減はしてあるから」


 なにこの人、その気になったら頭割れるの!?

 頭に走る痛みに悶えながら私は「ぎ、ギブ」と言った。


「これに懲りたら、覗きなんてしちゃダメよ?」

「……うっ、でも……」

「でも、何かしら?」


 にっこりと笑みを浮かべながら握りこぶしを、私に見せてくるお母さん。

 こうなったら、最終兵器を出すしかない。


「こ、これ……」

「何、携帯なんか取り出し……て……」

「お兄ちゃんの『寝顔フォルダ』」


 私がお母さんの目の前に出したスマホの画面には、愛らしいお兄ちゃんの寝顔が写っていた。


「せめて、寝顔だけでもいいので。撮ったやつはお母さんにも見せるので……」

「つ、つまり、賄賂って事ね……私に、賄賂なんて効かないわよ!」


 と、鼻血を吹き出し、スマホを抱きしめながら言うお母さん。

 説得力の欠片もない。


「そんなに鼻血垂らして、スマホ握り締めながら言われても__説得力ないよ!!」

「ぐっ……」


 お母さんは悔しそうな顔で、スマホに映るお兄ちゃんの寝顔を見る。

 そして、どんどん表情がニヤニヤしてくる。


「分かったわ……でも、寝顔だけよ!! 変な事をしてもダメよ!!」

「分かってるよ。交渉、設立だね」


 お母さんからスマホを返してもらい。

 お兄ちゃんの寝顔の写真をお母さんに送る。


「ま、話を戻すけど、お兄ちゃんが無防備すぎて心配だよ!」

「そうね。そもそも、サトリは警戒心が強い方じゃなかったけど……最近は警戒心皆無だものね」

「このままじゃ、そのうち、お兄ちゃんがレイプされちゃうよ!」


 そう言った瞬間、お母さんに頭を殴られた。


「痛い!? なんで殴るのお母さん!」

「そんな、はしたない言葉使うじゃないの!」


 なによ。女だったら、こんなの普通じゃない。


「でも、咲の言う事にも一理あるわね……無防備すぎて、痴女にでもあったら大変だわ」

「ただでさえ、家に痴女が二人もいるのに……」

「勝手に、私を痴女にしないで頂戴」


 お母さんは否定したが、私と同じ黒髪ロングの時点で変態は確定だ。

 とある心理学者曰く、髪の長さと性欲は比例する。故に男は髪が短いのだ。

 確かに髪の長い男なんか、見たことない。

 その心理学者の話を信じるなら、私とお母さんの腰の下まで伸びた黒い髪は半端ない性欲を表している。


「これは、サトリにGPSでも持たせた方がいいわね」

「そうだね。嫌がるかもだけど、お兄ちゃんの為だし」

「明日、会社の帰りに買ってくるわ」


 私は頷いた。

 もし、お兄ちゃんが攫われでもしたら、私達は犯人を殺してしまうかもしれない。

 女のヤンデレなんて需要無いけど、確実に血反吐を吐くまで殴るだろう。


「……今更だけど私達、お兄ちゃんの事、好きすぎない?」

「そうね。正直、サトリとなら結婚してもいいわ。むしろ、したいわ」

「他人に聞かれたら、完璧に痴女発言だね」


 義理とはいえ、息子と結婚したいとは……。

 確かにお母さんは年の割には若く見える。

 見た目だけで判断するなら三十代の前半位だろう。


「でも、私もお兄ちゃんとなら結婚したい」

「なんで日本は一夫多妻がダメなのかしら……」

「他の国じゃ、当たり前なのにね」


 男性の人口が1割を切った現代で、結婚できる女性など殆どいない。

 その為、他国では一夫多妻。つまり、一人の男性が沢山と女性と結婚できる制度が適応されている。

 先進国で一夫多妻がダメなのは日本くらいだ。


「あ、そういえば、今日のお兄ちゃん。やけに疲れてなかった?」

「そういえば、ご飯の時もウトウトしてたわね……可愛かったわ」


 ニヤけるお母さんの気持ちもわかる。

 ウトウトしてるお兄ちゃんは可愛かった。


「学校で何かあったのかしらね?」

「私、明日聞いてみるよ」


 あの、男装先輩に聞けば分かるだろう。


「__お風呂、上がったよ」


 リビングの扉が開けられ、お兄ちゃんの声が聞こえる。


「お兄ちゃん……」

「サトリ……」


 リビングに入ってきたお兄ちゃんを見た瞬間、私とお母さんは予想外の一撃を喰らう。


「どうかした?」


 キョトンと首を傾げるお兄ちゃん。

 その姿は、お風呂上がりでしっとりとした髪。ボタンを一つかけ間違えたせいで一番上が閉じておらず、胸元が大胆に見えるシャツ。

 上まで上がりきっていないおかげで、チラッとパンツが見えるズボン。


「これは、エロス……」

「きゅー……」


 私とお母さんは鼻血を出しながら倒れる。

 お兄ちゃんは訳も分からず、あわあわとしている。

 天使か……。


「倒れる音? ど、どうしたの?」

「気にしないで……」

「少し、横になるだけよ……」


 お兄ちゃんのエロスによって、第一回家族会議(お兄ちゃんは抜く)が終わった。

次の日から、サトリのカバンにGPSが仕込まれたとか、いないとか。

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