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神ヶ埼の秘密

 転校生の神ヶ埼天美さん。

 適当な喋り方が特徴的な子だ。


「で、あるからして__」


 僕は授業に集中出来ないでいる。

 背中に刺さるような視線を感じるのだ。

 場所から十中八九神ヶ埼さんの視線。


「で、あるからして__」


 なんで、僕を見ているんだ。

 自己紹介の時もからかうような質問をするし。

 正直、あの人、苦手だ。


「__ふふっ」


 ゾクッ!? 今の声、神ヶ埼さん。

 背中にジワリと広がる嫌な汗。

 出来る事なら彼女と僕の間に一枚壁を挟んでほしい。


「で、あるからし__おっと、もう時間か」


 四時限目終了のチャイムが鳴る。

 助かった。お昼休みになれば逃げられる。

 僕は号令が終わると杖を手に取り、出来るだけ急ぎ足で教室を出た。

 一度、健斗に呼び止められたが無視してしまった。


「はぁ……」


 屋上。ここまで来れば大丈夫だろう。

 健斗には、後で謝っておこう。

 その場に尻もちをつき、深いため息を吐いた。


「あんなじっとりとした気持ち悪い視線……」


 まるで、大勢に裸を凝視されているような気持ち悪さがあった。

 取りあえず、神ヶ埼さんには関わらないようにしよう。絶対。


「__気持ち悪いって、酷いよ~」

「っ!? 神ヶ埼さん……」


 なんで、この人がここに居るんだ。

 それに前から声が聞こえてくるって事は授業が終わって急いでここに来た僕より先に来てたって事だ。

 僕がここに来てから屋上の扉が開く音は聞こえなかったし。


「奇遇だね。私もここでご飯食べようと思ってさぁ」

「そ、そうなんだ。じゃあ、僕は違うところで」

「__待ってよ」


 ビクッと僕の体が反応する。


「折角だし~、一緒に食べようよ」

「え、でも」

「大丈夫。別に変な事はしないからさ」


 嘘をついている感じはない。

 でも、さっきまでの視線がトラウマに近いレベルで恐怖している僕としては断りたい。


「私のお弁当、分けてあげるからさ」

「お弁当……」


 一昨日、健斗に貰った唐揚げの味を思い出し、唾を飲む。


「ほぉ。私のお弁当美味しいよ~」

「っ……本当に?」

「うんうん、美味しすぎて息ができなくなっちゃうくらい美味しいよ~」


 それは、毒でも入ってるんじゃないかな?

 でも、本人がこれだけ言うんだから本当に美味しいんだろうなぁ。


「因みにおかずは、唐揚げに卵焼きに生姜焼きだよ」

「ごくり」


 唾を飲み込む。

 唐揚げは健斗に貰って食べたけど生姜焼きと卵焼きは食べてない。


「ほらほらぁ、美味しそうな匂いでしょ?」


 弁当のふたを開けたのか、僕の鼻を香ばしい食材の匂いが刺激してくる。

 もう何度目かの生唾を飲み込む。


「だからね。一緒に、お昼食べよ」

「……少しだけなら」


 食欲には勝てなかったよ。

 ベンチに座り、隣には神ヶ崎さんが座る。


「はい、あーんして」

「……あー」


 口を開けると舌の上に食材が置かれる。


「生姜焼きだよ」

「お、美味しい……すごい」


 咀嚼すると、冷めているにも関わらず肉本来の旨味が分かる。

 どう調理したらこんなに美味しくできるのだろう。


「ありがとっ!」


 その後も神ヶ崎さんにおかずを分けてもらった。

 僕は僕で、おにぎりを持ってきてたんだけど、もうお腹いっぱいだ。


「ごちそうさま……あっ」


 食べ終わり、手を合わせてから僕は気づく。


「ん、どうしたの?」

「そ、その、おかず全部食べちゃった……ごめん」


 美味しすぎて神ヶ崎さんの昼食を、全部食べてしまった。

 僕はカバンの中に入っているおにぎりを神ヶ崎さんに渡す。


「代わりに僕のおにぎり……」

「ぷっ__大丈夫だよぉ! ちゃんと私、自分用のご飯も持ってきてるからさ」


 笑いながら神ヶ崎さんは言った。


「自分の分って……さっきのは?」

「あっ……い、いやぁ、あれは予備だよぉ。女の子は食欲旺盛だからさ」


 そうなんだ。良かった。

 僕は胸をなでおろし安心した。


「優しいねぇ。三河君、いやサトリ君って呼んでいい?」

「うん」

「やったぁ。じゃ、私の事も天美ちゃんって呼んで」


 神ヶ崎さんも思ってた感じと違う人だった。

 適当で、作ったような喋り方をするけど、根は優しい人。

 視線が少し気持ち悪いけど。


「ねぇ、天美さん」

「ん? なになにぃ?」

「なんで、そんな、作ったような適当な喋り方をしてるの?」


 思い切って聞いてみよう。

 ずっと、気になってたし。


「お……おっほぉ……いやぁ、これは、これは」


 天美さんは戸惑うような喋り方をする。

 もしかして、聞いちゃダメなことだったかな?


「__はぁ、いつからだい?」

「え……?」


 いきなり、声のトーンが変わった天美さんに戸惑う。


「だーかーらー、いつからボクの喋り方がおかしいと思ってたんだい?」

「あ、え、朝会った時……」


 僕がそう言うと、天美さんは深いため息をついた。

 そして僕は理解した。

 今、喋っている彼女こそが神ヶ崎天美なのだと。


「ボクってそんなに演技下手だった? あれでも結構、頑張ってたよ?」

「……うん、頑張ってる感じがしたから。違和感があって……」

「あぁ〜、頑張り過ぎたって事かぁ……墓穴もいいところだよ」


 なんか、さっきとキャラが違いすぎて戸惑ってしまう。

 さっきまでは適当なお姉さんって感じだけど、今は男っぽい性格の友達って感じだ。

 どことなく健斗っぽさも感じる。


「ま、いいか。どうせバレるし、今でも後でも……そもそも、『あの人』の助言ってあんまり信用ないしなぁ……」

「ん?」


 なんだか、自己解決したったぽい。


「ねぇ、サトリ君。君は神を信じるかい?」

「……ごめん。僕、急用が」

「__違う違う!! 怪しい勧誘とかじゃないから! 壺とか買わせないから!!」


 良かった。

 一瞬、本気で焦ったよ。


「で、信じるのか、信じないのかを聞いているよ」

「……一応」

「『一応』か。まぁ、それならいいや。それなら君は『あっち側』にはいかないだろうしね」


 さっきから一体、何の話をしてるんだろう?


「とりあえず!」


 神ヶ崎さんが喉を整えるために咳をする。


「私はねぇ。まだ、このキャラで頑張らないとだから、みんなには黙っててねぇ!」

「……分かった」


 それにしても、いきなりこんなキャラを変えられるのは凄いなぁ。


「神ヶ崎天美とのお約束だぞ!」

「……うん」


 でも、この適当な喋り方には、当分慣れそうもない。

 僕は、彼女の適当な喋りと自然に会話できるように頑張ろうと決める。

 お弁当、美味しかったし……。

ブクマが500を超えました。

ありがとうございます。


それで、記念に短編的な物を閑話として書こうと思うのですが誰と誰の絡みが見たいとか。このキャラの視点が見たいとかの要望がありましたら言ってください。


今後とも、よろしくお願いします。

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