嵐のような子
__ジリジリと鳴る目覚まし時計を止め、体を起こす。
いつも通り、ベットに立て掛けてある杖を取り、一回の洗面台に向かう。
「あら、おはようサトリ」
「おひいはん、おはほう」
洗面所に着くと先に、母と咲が来ていた。
「咲、あんた口の中の出さないと何言ってるか分からないわよ?」
「あっ」
咲がペッと何かを吐き出す。
「お兄ちゃん、おはよう」
「うん、おはよう」
三日連続で家族と朝の挨拶ができた。
僕は心の中で小さくガッツポーズを取る。
「__行ってきます」
「行ってきまーす!」
いつものように昨日と同じように朝食を食べ終わり、家を出た。
「お兄ちゃんと一緒に登校って、初めてだね」
「うん」
咲の嬉しそうな声に僕も頬が緩む。
「ふっふふーん」
「咲、楽しそうだね」
「うん! 生きてる中でもトップ10に入る幸せだよ!」
それは言い過ぎな気がする。
「僕も、楽しいよ」
僕は咲の声のする方に微笑みながらそう言った。
すると、咲の方から「ぐはっ!」と言う声が聞こえる。
「どうしたの咲?」
「お兄ちゃん、それわざとじゃないなら魔性すぎるでしょ……」
「魔性?」
魔性ってなんのことだろう?
「天然の誑し……お兄ちゃんは危険生物だね……」
「ん?」
咲の言っている事の意味が分からず首を傾げた。
首を傾げると咲に肩を掴まれる。
僕はいきなりのことで少しビクッと体を震わせた。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんの笑顔は危険だから私以外には笑顔を見せたらダメだよ? 私以外にそんな笑顔見せたら本当に犯さ……襲われちゃうんだよ?」
「なんで?」
なんで笑顔を見せたら襲われるんだろう。
そういえば前、点字本に笑顔は本来威嚇行為って書いてたっけ。
もしかして、僕の笑顔って威嚇的なのかな?
「とにかく! 私以外にはダメ!」
「……分かった」
もし、僕の笑顔が威嚇的なら笑顔を見せることはやめたほうがいい。
「__お、サトリー! おっはよー!」
「ん、健斗?」
「登校中に会うなんて珍しいな。今日は良いことありそうだ」
健斗は「にしし」と笑う。
「おはようございます。健斗先輩」
「おう、おはよ。サトリの妹だったな?」
「はい、お兄ちゃんの妹の咲です」
咲は素っ気ない感じで返事をする。
本当に健斗の事苦手なんだな。
「ん」
足音が聞こえる。
「どうしたんだサトリ?」
「急に止まって、もしかしてどこか具合でも悪いの!?」
「ううん、違う。足音が聞こえるから」
足音がどんどん近づいてくる。
多分このまま普通に歩いてたら二三メートル前にある曲がり角でぶつかる。
「足音?」
「多分、もう」
「__遅刻遅刻ぅ!!」
曲がり角から女の子の声が聞こえる。
僕の予想通り飛び出してきたみたいだ。
「__って、えぇ!!?」
女の子の声がした方から何かが倒れる音が聞こえた。
「おいおい、大丈夫かよ」
「あれ、うちの学校の制服」
健斗の足音が女の子の方に向かっていくのが聞こえる。
「いてて、あれぇ、計算ミスかな?」
「おい、お前、大丈夫か?」
「ん、おぉ、これはこれは、ご親切にどうも」
「曲がり角は確認しないと危ないぞ? 危うく俺たちにぶつかるところだった」
「いやぁ、転入初日に遅刻なんてシャレにならないからさ。一昔前の少年漫画風にパンをくわえて登校してみたのさ」
少年漫画って女の子がパンをくわえて曲がり角も気にせずダッシュするのか。
女の子と健斗の話を聞き、そんな事を思いながら僕は健斗たちのところに行く。
「大丈夫?」
「おやおや、美少年から心配されるなんて今日は良い日になりそうさ」
心のこもってない声でそんなこと言われても嬉しくはない。
「お兄ちゃん、こいつ危ない」
「失礼だなぁ。私ほど神聖で信じれる存在は中々いないよ〜?」
声だけでしか判断できないけど適当な人だなぁ。
なんだか思いついたセリフを適当に並べてるかのような喋り方をしている女の子に僕はそう思う。
「おとと、そろそろ先生に怒られちゃうなぁ。心配してくれてありがとうに美少年君と男っぽい女君!」
女の子はそう言うと走り去ってしまった。
「嵐みたいな子」
「そうだな。遅刻ってまだ余裕あるのに、なんで急いでんだろうな?」
「日直とかじゃないですか? 赤色のネクタイって事は、お兄ちゃんと同じ学年だよね?」
そうなんだ。
あんな子の声、今まで聞いたことなかったけど離れてるクラスの子なのかな?
「ま、どうでもいいか。サトリ、咲、俺たちも行こうぜ」
「うん」
立ち話をしていたら本当に遅刻しちゃうしね。




