第一話-3 新技完成! からの大逆襲?!
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「ひっ、柊。今度はあんたなの? いったい何をする気? 寄らないで、バレー部なんかにうちの大事な子達は指一本触れさせないんだからっ!」
後輩達をかばうように、両手を広げて私を睨み付けて来るのは、新キャプテンとなった2年生の那珂川梢子だ。クラスは違うが、バレー部とバスケ部は何かと競い合うことが多いので、1年生の頃からよく知っている。
「じゃあ梢子でいいわ。こっち来て、ここに横になって」
「い、いや……」
勇ましい顔が途端に歪み、目に涙がにじむ。
「大丈夫大丈夫、痛くなんかしないから」
あらやだ、さっき撫子が言っていたセリフと同じだわ。まいっか。
私は、尻込みする梢子の手を引いて無理やりベンチに寝かせると、再び撫子に小声で言った。
「いい? あんたの力はよーちゃんとは違うんだから。
長野に行った時に、私に点滴みたいにしてくれたでしょ? あれでいいのよ」
「あー、なるほどあれか」
「はい、じゃあちょっとここに手を乗せて」
私が差し出した両手の上に、撫子が自分の手を乗せてくる。
「こんな感じ?」
撫子の両手が薄っすらとピンク色の光を放ち始めた。
「だめ、もっと優しく」
「んー」
撫子が目をつぶって精神を集中する。仄かな光とともに私の掌に温かいものが流れ込んでくるのが感じられた。
「うん、いいわ。じゃあ次は、私の中の気の流れを感じ取ってみて」
「えっ、どうやって?」
撫子が目をつぶったまま訊ねてくる。会話をしながらも、集中を途切れさせないのはさすがね。
「あなた、自分の気の流れを感じることが出来るって言ってたでしょ? だったら、流し込んだその先の流れまで感じられない?」
「あー、んー……」
「どお?」
「う……ん、なんとなくわかる」
「じゃあ今度は、そのままの状態で指先に少しだけ光を集中させて」
「ん……」
すると、掌に光を残したまま、指先だけが鋭く輝いた。
「んハウンッ!」
同時に耐えがたいほどの快感が流し込まれて来て、思わず腰がくだけそうになってしまった。
「ちょちょちょ! もうちょっと穏やかに!」
「んー、難しいな」
それでも光は少し弱くなって、なんとか耐えられそうなくらいになった。
「そそ、そんな感じ。じゃ、じゃあこれで最後よ。一本ずつコントロールできる?」
「ん……」
10本の指先が、イルミネーションのように点滅する。
それに従って、刺すような小さな刺激がさざ波のように繰り返し押し寄せてきた。
「んっ、くっ……、んはっ!」
こっ、これはたまらない。というか、病みつきになりそう。
「はあっ、はあっ……。も、もういいわ」
これ以上続けていたら、理性が持って行かれてしまう。
「じゃ、じゃあ本番よ。今度は梢子に」
「よっしゃ!」
「い、いやぁ……」
涙声を漏らす梢子の背中に、撫子がそっと両手を当てる。
「ひっ」
小さな悲鳴は、だがピンクの光と共にすぐに別の声色へと変わった。
「ひいやああ……あ……はああんんっ……」
撫子がゆっくりと背中を撫で回す。
「はあっ……、はあっ……、はわわわあああ……」
梢子は荒い息を吐きながら、真っ赤に染まった顔に恍惚の表情を浮かべていた。
いいなあ、後で私もやってもらおうっと。
「撫子、気の流れが乱れているところはない?」
「え? うーん、そうだなー。肩とか腰のあたりがちょっと変な感じかな」
「そこが痛んでいる所じゃない?」
「なるほど、そういうことか」
撫子は目をつぶったまま両肩を掴み、ゆっくりと揉みほぐすようにしながら、時折指先に小さく光を灯す。
光がまたたく度に、梢子の身体がビクッ、ビクッと震えた。
「はわっ……、はわっ……、はわわわわわ……」
次に腰へと手を滑らせ、指先で探りを入れながら、撫で回す。
「うーん、こっちはどこって言うよりも、全体的に澱みがたまっている感じだな」
すると、掌全体から強い光がほとばしり始めた。
「ああーっ!! っっはあああーーん! ああーーんっ! ああーーんんっふうんっっ!!!」
フムフム。
と、私もつい興味深く見物してしまっていたけど、梢子のあられもない叫び声は部室棟の外にまで響き渡り、いつの間にかドアの外が大勢のギャラリーで超満員になっていたことには、私も撫子もまるで気付いていなかった。
その間も撫子は術に集中し、目をつぶったまま右脚、左脚、両腕を遡って再び肩、背中へと両手をゆっくりと滑らせながら、時折指先や掌に小さなきらめきを灯していた。
その動きは、最初の頃と較べて明らかにスムーズになってきている。
へえー、上達が早いわね。さすがだわ。これなら、あと2・3人練習すればかなりのモノになりそう。
と、私が腕を組んで感心していた時だった。
「あっ、ハッ……」
撫子が両手を梢子の腰に置いたまま、上を向いた。
「とも…ヤバッ……」
「どうしたの?」
更に、鼻と口を大きく開いて。
「はフっ……」
「えっ」
て、まさか!
「ぶへえーっくしょん!!」
部室中に響き渡る大きなくしゃみと共に、撫子の両手が目もくらむような閃光に包まれ、同時にその下にあった梢子の全身から稲妻のような電撃がほとばしった。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げたのは梢子ではなく、私だ。
「あっ、ごめん!」
梢子は声も上げず、撫子が手を離すと、返事の代わりに陸に上げられた魚のようにビクビクッと大きく体を跳ね上げ、ベンチから転げ落ちて、そこに重なっていた春風ちゃんと一年生の上に、ドスンと落ちた。
「ぐえ……。う、うーん」
そのショックで、春風ちゃんが目を覚ましたようだ。
「春風ちゃん、大丈夫?」
私の声は耳に届かなかったのか。彼女は無言で立ち上がり、虚ろな目のまま撫子に向かって右手を伸ばした。
「あ、春ちゃん。どう、体の調子は?」
撫子が差し出された手を取ろうとすると、春風ちゃんは手を繋ぐのではなく、素早くその手首を掴み取った。
「え?」
そしてクイと捻ったと思った次の瞬間には、撫子の体は彼女の腕の中にあった。
まるで撫子が自ら飛び込んで行ったような、自然な動き。
これは、以前バスケの練習で見た記憶がある。あの、合気道にも似た獄落院流体術だ!
「撫子! 逃げ!」
と、私が叫ぶよりも速く、春風ちゃんが撫子の唇を奪った。
「むぐっ! んーっ! んーっ!」
撫子がジタバタと暴れるも、春風ちゃんはその小さな体をがっしりと掴んで、抵抗を許さない。
というより、絶妙な関節技で身動きを封じているのだろう。見れば、脚まで絡めている。
まるで、獲物を捕らえた大蛇のように。
そして更に、その目が私に向けて小さく笑ったように見えた。次の瞬間……。
二人の体が、若草色の輝きに包まれた。
「なっ!」
それまでわずかながら抵抗を続けていた撫子の両手が、ダラリと下がり、足元からも力が抜けて、完全に体を預けた格好になる。
春風ちゃんはその体を抱き止めたまま、なおも唇を重ね続けていた。
「ちょっと何してんの! 離しなさい!」
二人を引き離そうと伸ばした私の手が、二人を包む光に触れた瞬間、指先にバチッと閃光が走った。
「キャッ!」
感電したようなショックに、思わず手を引く。
結界?!
春風ちゃんはそんな私を見てニヤリと笑い、それからようやく唇を離した。
「すんまへんなあ、巴絵ちゃんの見とる前でこないなこと。うふっ」
ペロリと自分の唇を舐め回す。
撫子はそんな春風ちゃんに体を預けたまま、白目を剥いていた。
「ほい、返すで」
と、差し出して来た小さな体を受け取りながら、私は彼女を睨みつけた。
「春風ちゃん、あなた……」
「巴絵ちゃん、怒らんといてや。ウチはこれでも獄落院やよってな、壬鳥にやられっ放しでおるわけにはいかんのや。
これで、あいこや」
そう言いつつ、うっとりとした目で宙を見つめ、感触を確かめるように指先で唇を撫でる彼女に向かって、私は告げた。
「撫子とはあいこでも、私にとってはそうじゃない。これで、今度こそはっきりと、戦う理由が出来たわね」
「ふふ……」
「許さない。この子は、この唇は……、私のなんだからあ! 馬鹿あっ!」
宣戦布告が、涙声になってしまったのは仕方がない。
仕方がないでしょっ!




