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第一話-2 放課後に事件は起きた! いつも通りに


★★★


 てな訳で、放課後。

 待ちに待った真剣勝負! と行きたいところだったのだけれど、放課後は部活があったのを忘れていたわ。


 3年生が引退して私達2年生が主力に替わったばかりだし、一応エースである私が練習をサボったりしたら、下級生に示しがつかないもんね。

 ということで勝負はいったんお預け。春風ちゃんには、週末にうちの道場に来てもらうことになった。

 勝ち負けは別として、これなら全力の勝負ができそうだわ。うふふん、楽しみ楽しみ。


 そうそう、彼女とは友達の証として名前で呼び合うことになったの。

 顔を赤らめながら「巴絵ちゃん」と呼ばれた時は、撫子に呼び捨てにされるのとは一味違う新鮮な響きに、思わずキュンッとなってしまった。

 その後、クラスの皆ともお友達宣言を交わして。そしたら春風ちゃんたら、感激してわんわん泣き出しちゃったりして。

 あーもお、可愛いらしいったらありゃしない。他のクラスメイトも思いは同じらしく、教室中が萌えな空気で溢れたわ。


「礼!」


「「「お疲れさまでしたー!!」」」


 そして部活も無事終わった、のだけれど……。

 事件はその後、部室に戻って制服に着替えている時に起きた。


「ギャーッ!」


 新体育館裏手の、運動部の部室が連なるプレハブ。人呼んで部室棟に突然響き渡る、カラスの断末魔のような悲鳴。


「何? 何?」


「どうしたの?」


 皆が騒然とする中、私はブラウスのボタンも中途半端なまま、裸足で部室を飛び出した。

 外に出ると、バレー部の3軒先、女子バスケ部の部室の前に人だかりが出来ていた。


「何があったの?」


「あ、柊」


 開いたままのドアから中を見ている群衆の一番後ろに立っているテニス部の子に、声をかけた。


「私もわかんないよ、全然見えないもん。あんたの方が見えるんじゃない?」


「うん、そうね」


 背伸びをして、皆の頭の上から部室の中を覗いてみる。そこに私が見たものは……。


「ええっ?!」


 床に倒れ伏す、春風ちゃん。

 傍らに立ち、冷めた目でそれを見降ろす撫子。

 壁際に一塊になって震えている、バスケ部の子達。

 しかも撫子の両手が、祈りの光を放っている?!


「ちょっとごめん! ごめんね、通して!」


 私は人混みをかき分け、部室の中へ突入した。


「撫子!」


 撫子は、部室の中央に置かれたベンチの前に立ち、その向こう側の床の上で白目を剥き、口から泡を吹いている春風ちゃんを静かに見ていた。

 まさか、とうとう壬鳥対獄楽院の戦いが始まってしまったの? というか、もう終わってる?

 撫子が春風ちゃんをやっつけちゃった?

 わたしより先に?

 そんなのずるいっ!!


「ふむ、失敗か……」


 撫子が、自分の両手を見つめながら呟く。


「ちょっとあんた、何やってんのよ」


「ああ、巴絵。いやあ、ちょっと実験をね」


 撫子は目の前の惨状を気にする様子もなく、ごく普通の顔で返事をした。


「実験?」


「うん、まあ見ててよ。えっと、じゃあ次は……」


 撫子が、壁際に身を寄せている他の部員達を見る。

 バスケ部の子達は、その視線から逃れるように、壁に背中を押し付け、イヤイヤと首を横に振った。


「野木の柚葉ちゃん」


「ひっ」


 撫子に指差された一年生が、小さく悲鳴を漏らす。


「なっ、撫子先輩。許して……」


「大丈夫大丈夫、痛くなんかしないから。さっ、こっちへ来てここで横になって?」


 撫子はにこやかに笑いながら後輩の手を引き、ベンチにうつ伏せに寝かせた。

 というか、この子泣いてるよ。いいの?


「いったい何をするの?」


「うん、以前蓬子がこういう修行をやっててさ、あたしもやってみようかなって。

 ほら、みんな練習で体が痛いとかコリが取れないとか言ってるじゃん? だから、あたしの祈りパワーでマッサージしてあげたら、筋肉痛とか一発で治っちゃうんじゃないかと思って」


 撫子はゴシゴシと手を擦り合わせ、それから両手を開いてベンチの上の背中に向けた。

 その両手が薄桃色の光を放ち始める。常人には見えない祈りの光、でも初代のババアが中にいる私には、はっきりと見える。


「ふーっ」


 撫子が息を吐く。その次に起きた現象に、私は目を剥いた。

 なんと、吐息とともに両手全体を覆っていた光が手首から手のひら、更に指の先へと集中していき、同時に輝きも強くなって。

 最後には10本の指先がLEDライトのような鋭い光を放ち始めたのだ。


「春ちゃんはこういうのにも耐性があると思って、思い切りやっちゃったんだけどさ。なんかダメだったみたい」


 部室の床の上で、一向に目を醒ます様子もなく、乙女にあるまじきあられもない格好で転がっている春風ちゃん。

 運動着もはだけ、おへそが丸見えになっているよ。このまま放っといて、いいの?

 私は撫子の耳元に口を寄せ、早口に囁いた。


「当たり前でしょ、馬鹿。あんた、キャンディに何したか忘れたの? 春風ちゃんだって同じに決まってるじゃない。

 それに、みんなの見ている前でこんなことして、大丈夫なの?」


 だが撫子は、平然と答えた。


「これくらい平気だよ、ただマッサージしているだけだもん」


 だけって、あんたね。


「んー、この子ならこれくらいかな」


 指先の光がやや弱まった。とはいえ、どう見ても危険レベルの輝きとしか思えない。


「ちょっと待ちなさ」


「えいっ」 ズンッ。


 と、撫子は私の制止を無視して後輩の背中に両手の指を突き立てた。


「あっ! ぎゃはああーーーーっ!!」


 撫子の手の下で、一年生の体がエビのようにビクン、ビクンと跳ねる。

 その背中を押さえつける10本の指先から、ピンク色の光が体全体に浸み渡って行くのが見えた。


「よし」


「あぎゃあっ!」


 撫子が手を離すと同時に彼女は一際大きく跳ね上がり、ベンチから転げ落ちて春風ちゃんの上にドスンと落ちた。


「ゲゴッ」


 春風ちゃんがヒキガエルのような声を漏らす。が、それでも意識を取り戻す気配はない。

 その上に仰向けに落ちた彼女は、白目を剥いて、だが満面に恍惚の表情を浮かべていた。


「うん、今度はまあまあ上手くできたかな」


 あごに手を当てて、満足げにうなずく撫子。

 これのいったいどこが、まあまあなのよ。


「ちょっとあんた、何してんのよ。全然ダメじゃない」


 私は撫子の耳元で囁いた。

 この子はあまり気にしていないみたいだけど、壬鳥の祈りの力は、世の常識からは余りにもかけ離れた異能だ。こんなあからさまに、(おおやけ)にして良いものではないというのに。


「大丈夫だって。きっと目を覚ました時には、体中の痛みも疲れもすっかり取れているはずだよ」


「それにしたって乱暴すぎでしょ。あんたの力は、以前と較べても桁違いに強くなっているんだから。もっとやさしくやらなきゃ」


「どうすればいいのさ?」


「どうって……」


 仕方がないわね、この際だからきちんとトレーニングしといた方がいいのかしら。


「わかったわ。いい? 私の言うとおりにして」


 私は、壁際に塊って震えているバスケ部員達に目を向けた。




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