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第二部 第一話-1 「好敵手」と書いて「おともだち」と読む関係

新編 第一話


 昨日どんなに大変なことが起きたとしても

  命ある限り明日はまたやって来る

   だから、昨日と明日を繋ぐ今日こそが、最高の一日でありたいと思う


 そんな感じで当たり前のように再び始まる、あたしたちの新しい日常のお話



☆☆☆


 10月初めの、秋晴れに恵まれた朝の通学路。

 大勢の学生達が通り過ぎて行く路上の片隅で、一つの戦いが始まろうとしていた。


 一方の(かたき)は、長い髪をポニテに結び、一際目立つ長身と二際目立つ巨大なおっぱいを合わせ持つ迫力満点ボディの、女の子。

 言わずと知れた、あたしこと壬鳥撫子の幼馴染にして嫁(笑)、(ひいらぎ)巴絵(ともえ)だ。


 そしてもう一方は、ストレートの黒髪に、細身ながら出る所はしっかり出ている絶品ボディと、ピンクゴールドの細縁丸眼鏡の奥から覗く切れ長の視線が、そこはかとない気品と色気を漂わせる、良家のお嬢様風の京美人。

 あたしのクラスメートにしてライバル(?)、獄落院(ごくらくいん)春風(はるかぜ)ちゃん。


「よおおし、こうなったら!」


 巴絵が春ちゃんに指を突き付け、声を放った。悔し涙ボロボロのみっともない顔で。


「な、なんやの柊はん……」


 春ちゃんは、急にキレ出した巴絵に戸惑いたじろぎ、思わず後退りをする。


「獄落院さんに、決闘を申し込むっ!!!」


「なんでやっ!」


 うん、そりゃそうだ。

 巴絵の奴ったら、春ちゃんが転校してきてからずっと、この子の前ではよそ行きの涼しい顔しか見せていなかったもんな。

 いきなりこんな狂暴な正体を暴露されたら、誰だってびっくりするよ。


「ぷっ……。あははっ! あはははっ!」


 あたしはこらえ切れずに、指をさして笑い転げた。


「巴絵ったら、カッコ悪すぎい」


 だが巴絵は、そんなあたしを無視して更に声を放った。


「獄落院さん、あなたが只者でないことはちゃんと判っているわ。あなた、格闘技の心得があるわね。それも達人クラスの」


 その言葉に、呆れ顔だった春ちゃんがスウッと目を細める。


「こんなお遊びじゃなくて、きっちり決着をつけましょう。放課後、うちの道場で勝負よ!」


 この馬鹿、本気で喧嘩を売る気かよ。そこまで言ったら冗談じゃ済まされないだろ。

 もう、黙っているわけにはいかない。


「いい加減にしろ、暴力馬鹿。春ちゃんが困ってるだろ」


 だが。

「いいえ、撫ちゃん」


 春ちゃんは、あたしの肩にそっと手を置いて、言葉を遮った。


「そういうことなら、理解しました。そこまでしなくては柊さんの気が納まらないというのなら、やむを得ないでしょう」


「春ちゃん!」


「でも貴女はそれで良くても、私の方には戦う理由はないし、もし勝ったとしても何一つメリットがないわね」


「なっ……。そ、それは……」


 まったくもってその通り。ぐうの音も出ない正論に、巴絵もたじろぐ。


「ふふ、いいわよ。だから一つだけ条件を飲んでくれたら、その申し出を受けてあげる」


 春ちゃんの標準語は、本気モードの証。

 いったいどんな条件を……。


「条件って? ううん、どんなことでも受けて立つわ。言ってちょうだい」


「馬鹿、おま……」


 仮にも相手は獄落院だぞ。本当にまずい条件を出されたら、どうすんだよ。


「流石は柊巴絵さんね、決断が早い。じゃあ言うわよ。もしも、私が勝ったら」


「勝ったら?」


 ゴクリ……。


「私と、お友達になってちょうだい!」


「「はあ……?」」


「もも、もちろん、負けたら諦めるわよ。もう二度とこんなこと言い出したりしないし、なるべく声もかけないようにするから。

 でっ、でも、撫ちゃんとはお友達やからな。たまには近くに寄ったりするかも知れへんけど、それくらいは、かか、勘弁して……」


「ちょっと、獄落院さん?」


 巴絵が一歩踏み出し、春ちゃんを睨む。


「な、なんや。今更イヤや言うても認めへんよ。女に二言はないんやよってな」


「ちょっと、春ちゃん」


 あたしも春ちゃんを睨み付けながら、詰め寄る。


「撫ちゃんまでなんやの! そないな怖い顔して!」


「はぁ」


 と、巴絵が溜息を吐いた。


「あのねえ獄落院さん、私はとっくにお友達になってるもんだと思ってたんだけど」


「えっ?」


「え、じゃないよ。じゃあ春ちゃんは、巴絵のことを何だと思ってたわけ?」


「ク、クラスメー……ト?」


「クラスメートは友達じゃないの?」


「ちゃ、ちゃうもん! クラスメートはお友達ちゃうもん!

 ウチ、小さい頃からずっと、一緒のクラスの子に『あんたなんか友達じゃない』とか『あんたとは友達になれへん』とか、ぎょうさん言われたもん!」


 思わず顔を見合わせる、あたしと巴絵。


「撫ちゃんとは、ちゃんとお友達になろう言うてお友達になったやん。やから、柊はんともちゃんとお友達になって! そしたら、そしたらこれに!」


 春ちゃんはそう言いながら、胸ポケットから一枚のカードを取り出した。

 なでとも倶楽部の会員証だ。またこれか。


「これに! お二人に『お友達』って書いてもらうんや! 舞島はんみたいに!」


 春ちゃんてば……。


「貸しなさい!」


 巴絵が春ちゃんの手から、会員証を奪い取った。


「あっ、何するのん!」


 巴絵は構わず、会員証にサインペンで『巴絵のお友達!』と書き付けた。


「はい、撫子!」


「あいよ」


 あたしも『撫子のお友達』と書き、渚ちゃんのと同じようにハートで囲った。


「はい、春ちゃん」


「ええーっ! こないな、こないな……」


「これで満足?」


「ほんま? ほんまにええの?」


「ええも何も、私はとっくにお友達って言ったでしょ。ほんまどころか、今更よ」


「嬉しい……。ウチ、ほんまに嬉しい……。おおきに、おおきに! 柊はん!」


「よかったね、春ちゃん」


「うん、おおきに撫ちゃん。ウチ、竜野宮に来てよかった。ほんま幸せや」


 会員証を胸に抱き、涙ぐむ春ちゃん。

 何が原因なのかは見当もつかないけど、京都では友達もできないような生活を送ってきたという。獄落院という家の事情が関係しているんだろうか。

 ともあれ、春ちゃんがこれで竜野宮を好きになってくれるなら言うことはない。学校に着いたら、クラス全員にお友達宣言をしてもらうことにしよう。


「よしっ、問題解決!」


 巴絵も、腰に手を当てて満足げに頷く。


「これで心置きなく、勝負ができるわね!」


「え?」

「へ?」


 お前、まだやる気だったの?




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