第五話-13 魔法少女プリティーキャンディ
☆☆☆
「そこまでよっ!」
タワーの影から現れたのは、ほとんど巴絵に並ぶくらいの長身に、ブロンドの長い髪に青い瞳の、絵に描いたようなアメリカン美少女。そして、バストサイズもアメリカンだ。
いい年してこんな恥ずかしいコスプレ衣装に身を包んだ、この少女の正体とは!
……って、あのね。
「二人とも、早くこっちに来て。そこ、ちょっと立ち位置悪いから」
「「は?」」
立ち位置?
思わず巴絵と顔を見合わせる。
「早く早くっ、ホラ急いで」
おまえ、今どんな状況だと思ってんだよ。と思って側に立つヤンキーを見上げたら、なぜか『どうぞどうぞ』という手振り。
どうやらこいつらも、あいつの放つ訳のわからない空気に飲まれてしまったらしい。
「あ、じゃあすみません」
ペコペコと頭を下げながらヤンキー達の間を通してもらい、魔法少女の所へ行くと、
「二人とも、下がってなさい」
と、彼女はあたし達をかばうように、カッコつけて前に立った。
えーと。
「心配しないで。私は通りすがりの魔法少女。正体は聞かないで」
いや、聞かないでって言われても。
別に聞かなくたって。
「この世に仇なす悪者に、正義の鉄槌下すため、千の波頭を乗り越えて、世界の果てからコンニチワ!」
なんかしゃべりだした!
「なあ」
「チョット待ってて、今大事なトコだから。
えっと……。シュガーのように甘いハートと、ソーダのように弾ける想い!」
「なあってば」
「待っててって言ってるでしょ。
登場シーン中に話しかけるのがマナー違反ってことくらい、アナタだって知ってるでしょ?
ホラ、あっちの人達もちゃんと待っててくれてるじゃない」
確かに、怪人黒邪気ヤンキー達は、さっきから動きを止めてこいつの長セリフをじっと聞いている。
でもあれって、ただ呆れてるだけじゃないのか?
「世界を甘い幸せで満たすため、お菓子の国からやってきた。その名もっ!」
ここで再び、なんかよくわからないキメポーズ。
ホント、こいつには恥ずかしいという感情はないのだろうか。
「ねえねえ撫子。この子ってば、顔見せといて正体がどうのって、いったい何なの?」
巴が袖を引っ張る。
「魔法少女ってホラ、戦隊ものと違ってマスクしないじゃん。素顔でも正体不明になっちゃう設定だから」
「私、そういうのあまり見ないからよく判んないんだけど……」
ノリノリでカッコつけてる魔法少女の背中を見ながら、そんな会話をしていたら。
「魔法少女! プリティーイッ! キャンディーイッ!!」
本名言っちゃった!
「ケーキがなければ! これでもくらえっ!!」
どっかで聞いたことあるような無いようなキメゼリフを叫んで、
キャンディ、じゃなかった魔法少女プリティキャンディは、魔法のステッキを振り上げヤンキーに飛び掛かって行った。
おいおい、無茶すんなよ。お前、別にケンカ強いわけじゃないだろ。
と、止めようと思った次の瞬間、
「ああっ!!」
あたしは大声を上げていた。
「どうしたの? 撫子」
「あっ、あっ、あれ……、あれ……」
信じられない。
なんと、魔法少女プリティキャンディの魔法のステッキが、魔法のステッキが!
魔法の光を放ったのだ!
いやでも、魔法のステッキなんだからそれは当たり前。
じゃなくて!
あの光は、絶対に電気の光なんかじゃない。なにより、ばあちゃんが憑いていない巴絵の眼に見えていないのがその証拠だ。
あれは、あたしの祈りの光と同じ、本物の力の光だ。
あいつ、いつの間にあんな……。
「トウっ!」 バキャッ!
「ぐあっ」
「ああーっ!」
「キャーッ!」
魔法のスティックで頭を殴られた怪人ヤンキーが呻き声を上げ、それを見たあたしもまたもや驚きの声を上げて、それと同時にまほ、あーもー面倒くさい。キャンディまでもが悲鳴を上げた!
ヤンキーが呻いたのは、魔法のステッキで殴られたから。
まあそれはいいとして……。
あたしが驚いたのは、その殴られたヤンキーの黒邪気がきれいに吹き飛んで、そいつが地面にクタッと倒れ込んでしまったから。
巴絵があんなに殴っても蹴っても全然平気だったのに、あんなおもちゃの一撃でノビちゃうなんて。
そしてキャンディが悲鳴を上げたのは、
その一撃で魔法のステッキが……、真っ二つに折れてしまったから……。
「ノーッ! 壊れちゃったあー!」
そりゃあんなに思いっきり叩いたらそうなるだろ。プラスチックのおもちゃなんだからさ。
「いやーん! 5千ドルもした特注品なのにいーっ!」
「5千……え、ドル? っていくら?」
「5・60万円てとこね」
「ええー、あんなおもちゃに……」
「撫子、お金持ちのやることにツッコんだら負けよ」
「うえーん!」
と、ステッキの残骸を両手に抱え地べたに座り込んで泣き叫ぶ魔法少女と、それを取り囲んだまま固まっている怪人達。
うーん、良い子のみんなには決して見せたくないシーンだな。
それはさておき。
「そうかっ!」
あたしは、キャンディ達に向かって飛び出した。
「撫子っ!」
「巴絵はそこにいて!」
どうして今まで気づかなかったんだろう。
キャンディの光の力で、あの男の邪気が吹き飛んだ。だったらあたしだって。
巴絵の邪気が祓えるなら、あいつらの邪気だって祈りの光で祓えるはずじゃないか!
「ふーっ」
走りながら、精神集中。
両手に祈りの光を灯して、ヤンキー共の群れに突っ込んで行く。
バシッ!
一番手前に突っ立っている男の頬づらを、引っ叩く。
すると体中にまとわりついていた黒邪気が一瞬で吹き飛び、そいつはクタッと地面に倒れ込んだ。
よしっ、いける!
「何しよんじゃこらあっ!」
それを見た他の男達が、一斉に襲いかかって来た。
バトルシーン再開だ!
「キャーッ! ナデシコーッ!」
「大丈夫!」
光を出したおかげで、体の不調もすっかり治った。
こんなノロマな連中なんか、何十人いたって楽勝さ!
次々と向かって来る男達の間をすり抜けながら、片っ端から引っ叩いていく。
神速なんか必要ない。こんなの、バスケの試合とおんなじだ。
あっという間に、全員をなぎ倒す!
「ふう」
振り返ると、公園を埋め尽くすように横たわるヤンキー達の向こうに、地面にヘタり込んだまま呆然とこっちを見ている、キャンディの姿が見えた。
助けに来てくれて、ほんとにありがとう。
こいつらに勝てたのは、君のおかげだよ!
あたしは飛ぶように駆け戻って、その体を思いっきり抱きしめた。
「お帰りキャンディ! 久しぶりっ!!」
最終話へ続く




