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第五話-8 静かな場所で二人っきりで

★★★


 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……。


「巴絵、落ち着け」


 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……。


「落ち着けって」


「殺してやる殺してやる殺して……、え?」


「え、じゃねえよ馬鹿」


 ああ、撫子か。


「うん、大丈夫。ちょっと待ってて、こいつら全員すぐに皆殺しにしてやるからね」


「からねじゃねーっ!」 スパーン!!


「痛ったーい! 何すんのよもお! ……って、あら? 私、今何言ってた?」


「ったくもう。いい加減にしろよ、この狂犬女」


「だって!」


 だって、こいつら許せないじゃない。

 私と撫子の大切な大切な大切なデートを、またもや台無しにしやがったのよ!


「よーよー、話しは終わったあ? じゃあ今度はボク達と遊んでやー」


 金髪に皮ジャンという、今時珍しいとも言える格好のヤンキー男が近づいてくる。

 その後ろには、同じような恰好の男達が十数人。そして背後も、その仲間に取り囲まれてしまっていた。


「もう一歩前に出たら、潰してやるわよ」


「おーおー、怖いなあ。ワイら、ただの観光客やでえ。せっかく大阪からはるばるやってきたんやさかい、地元の子ぉに案内してもらお思ただけやん。

 なーなー、そないに冷とうせんと仲良うしたってやー」


 こいつらを見つけたのは、つい5分ほど前。

 場所はここ、竜野宮タワーの真下だった。



★★★


 30分前……。


「ねー巴絵ー。どこ行くんだよー」


 スキップが止まらない私に手を引かれながら、撫子が尋ねてくる。


「どっこでっもいっいわっ♪ でーえとっ♪ おでーえとっ♪」


「じゃあもう、人がいない静かなとこに行きたい」


「えっ! 人気(ひとけ)のないとこで二人っきりになりたい?!」


「そうだけど違う! いやらしい言い方すんな!」


 おっといけない、本音が出ちゃった。


「じゃあそうね、二荒山神社とかどお?」


「うーん、まいっかそこで」


 でもこれは、失敗だった。

 神社とはいっても、ここは琴岩神社のような静かな場所とは違って、市内でも有数の観光スポットだ。観光客も多いが、何故かそれ以上にカップルだらけだった。


「なにこれ、ここって縁結びとか有名なんだっけ?」


「さあ、聞いたことがないわね。天気がいいからかしら」


 私的にはとてもいい雰囲気なんだけど、撫子の方はそうではないみたい。最悪の一歩手前という顔をしている。

 うーん、仕方がない。


「八幡山公園に行く? あそこなら緑も多いし、静かだと思うよ」


「そだな、そうしよう」



★★★


 今度は期待通り、人がいなくてとても静かだった。


 竜野宮タワーというのは、その八幡山公園の中心に建っている、やや小ぶりの展望台のことだ。

 北関東住民の東京への憧れと劣等感が形になって現れたと言われるその鉄塔は、見た目が東京タワーそっくりで、その上見るからにチャチな形状から県民の秘められたコンプレックスを刺激して止まず、完成当初から人々の足を遠ざけるという、心霊スポットのような場所になっていた。


 私達も実は写真でしか見た事がなく、実際に来るのは初めてのことだ。

 なにしろ、写真を一目見ただけで「ここには行きたくない」と条件反射のように思ってしまったのだもの。

 県外の人には理解しがたいことかも知れないが、おそらく県民の多くがそう感じていることだろう。

 そしてもちろん、撫子も例外ではなかった。


「おー、これがあの」


「竜野宮タワーだわ」


「思ったより立派じゃん」


「けっこう見晴らしもよさそうね」


「どうする? 登ってみる?」


「そうね、せっかくだし」


「じゃあその前に」


「竜野宮タワーさん」


「「ごめんなさい」」


 一言謝ってからでないと、入ってはいけないような気がしたのよ。


 展望台は思ったよりも広々としていて、見晴らしも良かった。

 そしてもちろんと言うか、私達以外には誰もいない。


「へー、なかなかいいね」


「うちの方とか、見えるかしら」


「うーん、見えない」


「あっ、富士山!」


「あっ、ホントだー! すげー!」


 人間というのは、高い所に登ると自然とテンションも上がるものらしい。

 私と撫子は、看板に書いてあった『日本一の地平線』という日本一の言ったもん勝ちの景色を見ながら、大して意味もなくはしゃぎまくっていた。


「ん?」


「どしたん?」


「ねえ撫子、ちょっとあれ……」


「ん? 何やってんだろ」


 タワー下の植え込みの所で、大勢の人が集まって何かをやっている。

 声は届いてこないが、何やら大騒ぎしているようだ。それに、どうにもおかしな雰囲気。


「ちょっと行ってみる?」


「いいけど、暴れるなよ」


「相手次第ね」


「おい」



☆☆☆


 てな訳で、


「あんたら、何やってんのっ!」


 第一声から暴れる気満々じゃねーかよ、この暴力おっぱいは。


 そこに集まっていたのは、何十人ものヤンキー達。

 皆、同じような革ジャンスタイルに同じような金髪頭だ。最近はあまり見ない格好だけど、こいつらの間では流行っているのかな。

 巴絵が「何やってんの!」と叫んだのも無理はない。

 連中は、いったい何が目的なのか、植え込みの中に建っている大きな石碑のようなものに、寄ってたかって殴る蹴るの暴行を加えている最中だった。

 ほんとに、何してんのこいつら。


「ああん? なんや、お姉ちゃんら」


 数人の男が、あたし達の方へ近づいて来た。


「うわ、この子めっちゃ可愛いやんけ。さっすが東京やなあ」


「東京ちゃうわ。て、こっちの子おっぱいデカッ! さっすが横浜!」


「横浜もちゃうやろ、おまんらええ加減にせいや。すんまへんなあ、アホばっかで。ほんで、なんか用でっか?」


 大阪弁?

 一瞬、春ちゃんの顔が浮かんだけど、あっちは京都だし関係ないよね。


「うわー、こないなカワイコちゃんに声かけてもろてうれしーなあ」


「なーなーお姉ちゃんら、地元やろ? わいら修学旅行で来たんやけど、この辺のことよう知らんのや。せっかくやさかい、どっか楽しいとこ案内してくれへん?」


「楽しいとこて、やらしいやっちゃなあ」


「ええやんええやん」


「修学旅行だかなんだか知らないけど、あんたらいったい何してくれてんのよ。公園のものを壊す気?」


 男達のスケベったらしい視線をものともせず、胸を張って言い放つ巴絵。


「はあん?」


 だが男達は、巴絵の言葉にきょとんとして顔を見合わせた。


「せやって……」


「なあ」


「しゃーないやん」


 ん? 何この反応。


「あないな所にあんなけったいなもん立ってたら、邪魔やん」


「とっとと壊さな、あかんやろ?」


「なあ?」


 邪魔だから壊さなあかん、て。いったい何を言ってるんだ?


「巴絵、こいつら何か変だ」


「ええ、おかしいわね」


 その間にも、他の連中は蹴ったり押したり、バットで叩いたりと、石碑を攻撃している。

 しかもその表情はなぜか真剣で、遊びでやっているようには見えなかった。


「とにかく、やめなさい!」


「うるせえっ、邪魔すんなや!」


 巴絵がヤンキー達を止めようと前に出ようとすると、一人がいきなり殴り掛かってきた。

 巴絵はそれを難なく左腕でさばくと、お返しとばかりに強烈な右フックを一発。

 ゴキッ!


「うらあっ!」


 続いて後ろから金属バットで襲い掛かってくる男にも、振り向きざま得意の回し蹴り一閃。

 バキャッ!


「ふん」


 巴絵はそのまま一回転して再び前を向き、何事もなかったかのように石碑の方へ進もうとした。

 その時、


 ゴッッ!

 巴絵の後頭部を、バットの一撃が襲った。


「がは……」


 不意打ちをくらった巴絵が、膝を折る。


「巴絵っ!」




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