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第五話-5 消えてしまえ

★★★


「なるほど、理解したわ。それならば私も名乗らせていただきましょう」


 OL姉さんが、ファンクラブのアホ学生に向かって胸を張った。


「私達は、ミトリ警備保障シークレットサービス部の者よ!」


 えっ、ミトリ?


「ミトリ……、シークレットサービス? もしかして、撫子様と何か関係が?」


 アホ学生もその名で察したようだ。


「そうよ。私たちもあなた達と同じく、撫子さんと巴絵さんを密かに警護するために来ていたの。

 お二人を見守りたいというあなた達の気持ちは判るけど、ここは私達プロにまかせて欲しいところね」


「ふん、プロだか何だか知らないけど、冗談じゃないね。

 なでともは俺達竜野宮の学生のアイドルだ。大人の世話になんかなるつもりはないよ。そっちこそ引っ込んでいてくれ」


「どうしても、引き下がれないと?」


「当然だ」


「そう。なら、仕方がないわね」


 シークレットサービスのお姉さんが、懐に手を入れた。まさか、こんな所で武器でも出すつもりなの?

 と、思ったら。


「見なさい、これを!」


「そっ、それはっ!」


 お姉さんが取り出したのは、一枚のカード。なでとも倶楽部の会員証だった。

 うわああ、この人もか。頭痛くなってきたわ。


「どう? 私も、なでとも大好き倶楽部の会員よ」


「本物……。しっ、しかもナンバー7! エンジェルズのお方でしたか!」


 エンジェルズって何よ?


「失礼いたしました! なでとも倶楽部創設者、創世の十天使のお一人だったとはつゆ知らず、御無礼を申し上げました!」


 お兄さんがそう言ってOLさんに敬礼すると、そいつの仲間らしき周りの連中も一斉に姿勢を正し、睨み合っていた相手に向かって敬礼をした。


 エンジェルズって、そういう意味か。こいつら、ナンバーで序列なんか作ってやがったのね。

 ん? てことは、渚ちゃんはもしかして大天使長ミカエル様?

 じゃあ大生くんは……あれは蠅の王ベルゼブブあたりがお似合いだわね。


 それにしてもこいつらときたら、完全に私達のことを無視しやがって。


「判って貰えたようね。まあ、この私も倶楽部創設者の一人ではあることだし、あなた達の気持ちもよく判るわ。

 では、こういうのはどうかしら。我々とあなた達、ここから先は合同でお二人の休日を見守るというのは?」


「いいですね。先ほどの雑誌記者を撃退したお手並み、実は只者じゃないと思っていました」


「あなた達の方こそ、巴絵さんが離れた一瞬の隙に記者を取り囲んで連れ去ったあの手際。

 見事な連携だったわ」


「有難うございます。では」


「共に手を携えて」


「とっとと消えろおーーーっ!!!」


 それまでずっと黙っていた撫子が、とうとうキレた。


「そ、そんな。僕達は撫子様と巴絵様の楽しい休日を邪魔する気なんかこれっぽっちも」


「わ、私達もただお二人をお守りしていただけで」


 お兄さんとOLさんが、慌てて撫子をなだめようとする。


「うっせー! うっせー! お前ら全員、3秒以内にあたしの視界から消えろ! そんで1キロ以内に入ってくんな!

 ツベコベ言うと、巴絵をけしかけるぞーっ!」


 こら撫子、どういう意味よ。しかも、


「えっ、それはもしかして巴絵様に闘魂注入して頂けるという……」


 こっちはこっちで喜んじゃってるし。


「こっ、この変態め……。巴絵!」


「ういっす」


 けしかけるという言い方はともかく、こういう馬鹿には口で言っても伝わらないからね。

 私はあえて空手っぽく返事をすると、大きく脚を開いて腰を落とし、右手を地面に向けて構えた。

 そして呼吸を整え、


「ぜやっ!」 ズドンッ!


気合と共に、拳を足元の舗装ブロックに叩きつけた。

 一撃でブロックは粉々、道路に大きな窪みができた。あーあ、後で弁償しなくちゃ。


「どお? こんなんで良ければ、いくらでも注入してあげるけど」


「はひっ。し、失礼しましたー!」


 変態兄さんが回れ右をすると、それに合わせるように周りの学生達も一斉に回れ右をし、そしてザッザッと足並みまで揃えて走り去って行った。

 さすが親衛隊を名乗るだけあって、もの凄く訓練が行き届いている。

 でも、何だかそれが余計に気持ち悪い……。


「後で大生くんもシメてやりましょう」


「当然。ところでお姉さん、ちょっといいですか?」


「え、ええーっと。な、撫子ちゃんお久しぶりね。憶えてる? ほら、私何度かお宅にお邪魔したことがあるんだけど」


「ミトリの人ですか? すみません、全然憶えてないです」


「あーそっかー、残念ねー。そうよねー、まだ小さい頃だったもんねー」


「そんなことよりもお姉さん、ファンクラブ創設のメンバーなんですか?」


 ミトリのお姉さんはどうにかこの場を取り繕うと必死になっている様子だけど、そんなことで撫子の怒りが収まろうはずもない。

 さっきのように喚き散らしたりもせず、静かに淡々と響くその声が、かえって内に秘めた怒りの激しさを物語っているわ。


「えっっ! そっ、そんなこと言いましたっけ?」


「さっき、倶楽部創設者の一人って言いましたよね。それにナンバー7って。どうしてミトリの人が、そんなものに関わっているんですか?」


 さすが耳聡い。撫子もそこに気づいていたのね。


「うん、それは私も是非とも聞いておきたいわね。返答次第では……」


「ええー、えっとーえっとー……」


 困り果てたお姉さんがポリポリと頭を掻く。まだ誤魔化すつもりなの? と思ったら、


「撤退」


 口元に当てた掌に向かってボソッとつぶやいた次の瞬間、お姉さんだけでなく、周りにいた大人達全員の姿が一瞬にして消え失せた。


「あっ!」

「うそっ!」


 ゴウッ、とつむじ風が吹き荒れたのは、お姉さん達が姿を消した後。

 取り残された無関係の買い物客達が、何が起きたのか理解できずに呆然と立ちすくんでいる。

 この消え方は、隠形ではない。これはもしかして、神速? あの人達は、全員神速使いだったってことなの?

 ミトリって。壬鳥巫女衆って、いったい……。


「ん?」


 風が去った後、一枚の紙切れがヒラヒラと舞い落ちてきたのを、撫子がキャッチした。


「消えろと言われたので消えまー…す?

 ちくしょう馬鹿にしやがって! 後で母ちゃんに文句言ってやる!」


 ホントにホントに、壬鳥衆って何なのよ!


「とにかく、ファンクラブにミトリの人達を何千人も加入させた真犯人は、あの人ってことで間違いなさそうね。

 大生くんを締め上げるネタが、もう一つできたわ。

 あの人といったいどういう関係なのかしら。」


「どうでもいいよ、もう。ああ気分悪い、行こう巴絵!」


 私の手を引いて、足早に歩き出す。撫子のこの怒りは、ちょっとやそっとでは収まりそうもないわね。

 そりゃそうよ、私だって同じだもの。


「ちくしょう、あいつら絶対許さない。せっかくのデートを台無しにしやがって」


「デッ?」


 撫子さん。あなた今、なんておっしゃいました?


「あっ……」


 足を止め、こっちを見上げる撫子。その顔が、見る見る赤く染まっていく。


「デ?」


「いや……」


 わなわなと唇を震わせる。かっ、可愛いいい。


「デヘ?」


「デヘじゃねえ!」スパコーン!


 張り倒された。


「痛ったーい」


「うるせえ! なんなんだよ、その気色悪いデレ顔は!」


 いけないいけない、思わず顔の筋肉が蕩けてしまっていたようだわ。

 てゆうかあんた、自分が恥ずかしいのを暴力で誤魔化そうとしたわね。まったく、なんて子かしら。

 でもまあいいわ、そっちがその気なら。


「よし判った! 撫子の気持ちはよおおっく判りました!」


「な、何が……」


「いいでしょう。ここから先は撫子の望み通り、思いっきりデートを楽しみましょう!」


「ちがっ!」


 えへへ、ざまあみろ。


「そっかそっか、そーおかあ、撫子ったらそんな風に思っていたのねー。

 デート! デートかあ。そおんなに私とのデートが楽しみだったのねえー。

 うんうん、そりゃあ邪魔なんかされたら怒るわよねえ。

 まあ私は別にどうでもいいんだけどー。

 でも撫子がっ、撫子があーっ。そっこまで言うなら、もお仕方ないわ。

 デートね、デートッ!」


「ううーっ、ちくしょう……」


 真っ赤になって俯く撫子の手を、今度は私が引いて、意気揚々と歩き出す。


「さっ、行きましょっ。デーエトッ、デーエトッ」


「スキップすんな、馬鹿おっぱい」


 気にしない、気にしない。

 ウフフ、ついさっきまでの鬱な気分が嘘のようだわ。


 よおっし。こうなったらもお、ここから先は最後までおデートモードで通すわよ。

 モノローグは全て私! 誰にも渡すもんですか!

 イイヤッホーイ!!



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