第四話-16 会議は踊り、そして歌う
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「有難うございます。賛成多数により、本議案は可決承認されました。
続いて第二号議案。壬鳥衆初代当主撫子様のご紹介と、柊巴絵嬢のお嫁入りの承認に関する件です。巴絵さん、撫子、こちらへ」
って、おい。お嫁入りの承認てなんだよ! それが会社の株主総会でやることか!
少しは感動にひたらせろよ、まったくもう。
「先ごろ、縁あって私達は初代様の御霊を拝する機会を得ました。
御霊はずっと信州壬鳥神社に祭られておりましたが、御本人のご意向もあり、只今は私達と共に過ごされております。
ご紹介いたします。壬鳥巫女衆初代当主、撫子様でございます」
巴絵が一歩前に出る。そして会場に、ばあちゃんの声が流れた。
「あー皆の衆、撫子じゃ。
儂が壬鳥衆を率いていた頃は百人ほどの集まりで、それでもその当時は大したもんじゃったが。あれから八百年、今では総勢三万もの大所帯となったと聞いておる。これほどまでに多くの娘たちを持つことが叶い、まこと嬉しく思うぞ」
会場に静かな拍手が沸き、次第にそれは大きくなって行った。感動で泣いている人もいるみたいだ。
「善き哉善き哉、皆の心がよう見える。みな良い子じゃ、うんうん。
さて、それでは儂も一曲。先ほどの歌でよかろうかな」
はあっ?
母ちゃんもこれは予定外だったらしく、慌てて舞台袖に向かって音楽音楽! と叫んでいたが、ばあちゃんはお構いなしにミトリの歌をアカペラで歌い始めた。
なんと、こぶしの効いた民謡調だ。
そのうちに会場から手拍子も湧いてきたけど、なんだかみんなの顔が引き気味のように見えたのは、気のせいじゃないと思う。
そして歌い終わると同時に、巴絵が顔を抑えてしゃがみ込んだ。
どうやらばあちゃん、引っ込んだらしい。
「え、えーと。以上、初代当主撫子様のご紹介でした」
パチパチ……と、微妙にまばらな拍手。
「初代様の復活につきましては、実は次席撫子とこちらの巴絵さんが深く関わっておりまして、今現在、巴絵さんは初代様の憑代となられて生活を共にされております。
そして皆様、ご覧くださいこの立派な胸を。
何を隠そう、壬鳥一族八百年に渡る呪いを解き、初代様を永き眠りから甦らせたのが、このおっぱいで御座います。
ささ、巴絵ちゃん立って立って」
母ちゃんが巴絵の手を取って立ち上がらせると、会場に再びどよめきが湧き立った。
そして更に。
「実は巴絵さんは、内々では既に撫子の嫁として、婚姻の儀を済ませております。
ご覧ください、これがその誓詞です!」
母ちゃんが、例の婚姻届を高々と差し上げる。
もう毎度おなじみの、と言いたくなるほど出番が多い気がする婚姻届。しかもそれを包む光は、また以前にも増して強く輝いていた。
うわ、なんか恥ずかしい!
「この誓詞を交わしたのは、今から8年前。
幼い二人が結婚したいと私に申し出てきた時、私はその魂の輝きと、二人の人生と壬鳥衆の未来が深く関わっていることを、強く感じました。
この子たちは、いずれ大きな試練を何度も乗り越えなくてはならない。
その時に力となるのは、二人の絆の強さ。そして試練を乗り越える度に、その絆もより強く確かなものに育っていく。
そう感じた私は、その想いを形に留めるため、この誓詞を書かせました。
そしてこの子達は、最初の試練を見事に乗り越えました。これから何度も同じような試練が訪れることでしょう。それは二人の使命であり、運命でもあります。
でも、大丈夫よ」
母ちゃんはあたし達の方を見て、にっこりと笑った。
「二人一緒なら、どんなことでも乗り越えられる。ここにいる私達みんなが、あなた達の力になるわ。
では賛成の方、拍手をお願いいたします」
会場に、静かな拍手が沸き起こる。
「巴絵ちゃんかわいー」「こっち向いてー」「お似合いよー」と声がかかり、あたしと巴絵はお辞儀をしたり小さく手を振ったりして、それに応えていた。
と、そこに。会場からとんでもない声が飛んだ。
「なでともー! 歌わないのー?!」
冗談じゃないよっ!
あたしと巴絵は慌ててお辞儀をして後ろに引っ込もうとした。
てか、今あの人なんて言った? なでとも?!
「あらあら、早速可愛らしいニックネームが付いちゃったわね。ナデトモですって」
母ちゃんが言うと、会場のあちこちでアハハという笑い声が起きた。
「珠子様、知らないんですかー?」
母ちゃんが、えっ? という顔をする。すると司会の人が走ってきて、母ちゃんに何やらメモを渡した。
「なになに……、ええっ! あなた達、ファンクラブなんてあるの?!」
会場中に大爆笑が起きた。
は、恥ずかしすぎる! あたしも巴絵も真っ赤になって俯いた。もう駄目、帰りたいい!
「えーっと、なでとも大好き倶楽部?
現在の会員数は約8千2百名。竜野宮市内の学生が中心であるが、その名は既に全国に轟き……壬鳥衆の中にも会員多数……。
えー、聞いてないわよ。ちょっとあんた達、この中で会員の人いたら手を挙げなさい」
すると会場のほとんどの人が手を挙げ、またもや場内大爆笑。
「なっ撫子、これって……」
その光景に、巴絵が絶句する。あたしも同時に理解した。
「ああ、あの異常な会員数の謎が解けた。全部この人達だったんだ」
「いやあねえ、みんな初めから知っていたのね?」
母ちゃんが呆れ声を漏らす。
「撫子、巴絵ちゃん。前に出なさい」
ちくしょう逆らえない。言霊を使いやがったな!
「はいマイク持って。ファンサービスよ、あなた達二人がうちで一番歌が上手なのはわかっているんだから。特に撫子、遠慮しないで本気でいきなさい。
では、ミュージックスタート!」
意外なことに、母ちゃんに声をかけられた時から緊張が全くなくなってしまった。
巴絵も覚悟を決めたようだ。これも言霊の効果なのだろうか。
それからあたし達は、二人で歌い踊りまくった。
CMソングだけでなく、次から次へと流される音楽は、どれもあたし達の知っている曲ばかり。
どう考えても、最初から準備していたとしか思えないけど、もうどうでもいいや。
巴絵もノリノリ、会場も大盛り上がり。ペンライトが波打つように輝いていた。
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「うえー、づがれだ。もう死ぬ」
控室に戻ったあたし達は、もう立ち上がることすらできないくらいに、消耗し切っていた。
みんな椅子の上でぐったりしたり、ソファに寝転んだり。
もう、口を開くのもつらい。
「お疲れ様、撫ちゃん。はいお水」
「琴ちゃんあんがとー」
「巴絵ちゃんも、歌すっごい上手! 踊りも可愛かったよー」
「ありがと笛子ちゃはあぁん……」
琴ちゃん笛ちゃんにお世話係の人達が、おしぼりで顔を拭いてくれたり水を飲ませてくれたりと、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる。
「それにしても、撫ちゃんとよーちゃんの光、すごかったねー」
「うんうん、二人ともスーパーナントカ人みたいで、超かっこよかった!」
てことは、だ。
「琴ちゃんと笛ちゃんも、力を持ってたんだ」
「うん、そうみたい。でも私達は修行を始めたばっかで、やっと光が見えるようになったくらいだよ。まだ自分じゃ光を出すことなんて全然出来ないし」
「バ……おかーさんが教えてくれてるんだけど、おかーさんだってあんなには光れないよね」
「まあね。私だって本気を出せば、いつもあんたらに見せているのよりはもっとイケるけど、それにしたって撫ちゃんやよーちゃんみたいにはいかないわ。
特に撫ちゃんは……。撫ちゃん、本当に大変だったのね。
巴絵ちゃんも、撫ちゃんで良かったね」
鈴子ちゃんは、こうなった事情を母ちゃんから詳しく聞いているのだろうけど、あたし達のあの姿を見たのは、初めてのはず。
たぶん一目見ただけで、あの光の本質を見抜いたんだろうな。
「ありがとう、鈴子ちゃん」
と、そこへ母ちゃんが遅れてやってきた。
「はーい、みんなもう充分休んだわね」
なに言ってんのこの人、いま座ったとこだよ。
「じゃあ行くわよ。はい、みんな立って立って」
「え、行くってどこへ?」
ソファの上で死んでいた姉ちゃんも、思わず顔を上げる。
「何言ってんの。あれが聞こえないの?」
「えっ?」
耳を澄ますと、会場の方から「アンコールッ、アンコールッ」という喚声が聞こえてきた。
あたし達は顔を見合わせ、それから声を揃えて叫んだ。
「「「「もういっそ、殺してえええええええええええっ!」」」」
第五話へ続く




