第四話-14 日曜日は親戚大集合で大騒ぎ
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そんな、愉快な修行の日々が続いた、とある日曜日。
あたし達三人姉妹は、母ちゃんに連れられて市民ホールへ来ていた。
「当主が代わったのだから、一度ちゃんとお披露目をしなくちゃね」
ということで、親戚の人達に集まってもらうことになったという訳なんだけど。家じゃちょっと狭いから、ホールの広い部屋を借りたんだって。
おまけに、ついでに初代のばあちゃんの紹介もするからと、巴絵まで呼ばれていた。
ばあちゃんはもうすっかり柊家に馴染んでしまっていて、家族全員に修行の指導なんかもやって、大喜びされているそうだ。
まったく、あの人達らしいや。
日曜日の市民ホールは、何やらイベントもあるらしく大賑わいだった。
駐車場も一杯で、ホール前には大型バスが次々にやって来ていた。
「今日、何かあんのかな?」
「さあ?」
あたし達は、ただの親戚の集まりで会議室を借りるだけだから、裏口の方へと回る。
「あら? ねえちょっと撫子」
「ん、どした?」
「ほら、あの看板」
巴絵が指差す先を見ると、正面玄関の前に[株式会社ミトリホールディングス 臨時株主総会]というデカい看板が立っていた。
「あれ、撫子んちのお父さんの会社じゃない?」
「ああ、ほんとだ。へえ、あんなのやるんだ」
父ちゃんの会社といっても、別に社長さんとかじゃないよ。ただ勤めているだけ。
ミトリは、家庭用雑貨家具や食料品などを扱っている全国チェーンのホームセンターの会社だ。
品質の良さとお手頃価格で日本中のお母さん達の間で絶大な人気を誇っていて、もちろん我が竜野宮にもお店がある。超人気店だ。
うちの父ちゃんはそこの子会社だか孫会社だかとにかく下の方の、ミトリナントカという小さな会社の課長さん。
四十代で課長というのは出世してると言っていいのか悪いのかよく判らないけど、お仕事を頑張っているのは間違いない。
今日も父ちゃんは休日出勤だ。
実は、母ちゃんも独身時代にミトリグループの別の会社でOLをやっていたそうだ。
で、何かのきっかけで父ちゃんと知り合い、それから付き合うようになって遂には結婚に至ったらしい。
それに結婚してからもずっとパートを続けていて、今でも仕事で家を空けることが多い。
母ちゃんの話しによると、父ちゃんは理想の男性そのものなんだそうだ。
しかも出会った瞬間に一目惚れして、母ちゃんの方から猛アタックをかけて射止めたということなのだけれど……。
実はこの辺があたしにはよく判らない。
うちの父ちゃんは、優しいけど、特にイケメンとか恰好いいとかいう訳でもなく。一体どこに一目惚れしたんだろう。
あ、でも悪口を言ってるんじゃないよ。あたしも大好きだよ、父ちゃん♡
でもってミトリホールディングスっていうのは確かそのミトリグループの親玉の会社のはずなんだけど、何でそんな大企業の株主総会をこんな田舎でやるのかな?
まあ、あたしらには関係ないけどさ。
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「撫ちゃんっ、久しぶり!」
「キャーッ! よーちゃーんっ!」
会議室に入るなり、二人の女の子があたしと蓬子に抱きついて来た。
「琴ちゃん! きゃーっ、元気だったー!?」
「笛ちゃーん! きゃーっ! きゃーっ!」
あたしと蓬子も、二人と抱き合ったままぴょんぴょん飛び跳ねて、大はしゃぎ。
抱きついてきたのは、琴子ちゃんと笛子ちゃんの二人姉妹。あたし達の従妹だ。
琴ちゃんはあたしと同じ中学2年生で、笛ちゃんは蓬子より一つ下の小学5年生。
「やー、みんな来たね! 元気だった?!」
そしてこのやたらと元気がいいおばさんが、琴ちゃん笛ちゃんのお母さんにしてあたし達の叔母さん、そして母ちゃんの実の妹である、鈴子ちゃんだ。
「みんなおっきくなったねー。
藍ちゃんなんか、すっかり美人さんになっちゃって。モテモテでしょ? 困ったら私に言いなよ、上手な男のフリかた教えてあげるから。
撫ちゃんもよーちゃんも綺麗になって、よかったねーあたしに似て」
「こんにちは鈴子ちゃん、お久しぶりです」
「鈴子ちゃん、こんにちわー」
「すーちゃんこんにちは」
断わっておくが、従妹でなく叔母さんだよ。でも、この人に向かって「おばさん」という言葉は禁句なのだ。
理由は言うまでもない。
「巴絵ちゃんも久しぶりーっ!」
「キャーっ! 巴絵ちゃーんっ!」
「あははは、琴子ちゃん笛子ちゃん久しぶりねー!」
琴ちゃんと笛ちゃんは、今度は先を争うように巴絵に飛び掛かって行った。
巴絵は小さい頃からうちの家族同然だったから、当然この二人とも顔なじみだ。
「ちょっと笛、あんた邪魔!」
「琴こそあっち行ってよ! 私の巴絵ちゃんに触んないで!」
つーかお前ら、そのおっぱいはあたしのだからな。
「ほらー、二人とも離れなさい。巴絵ちゃんが困ってるでしょ」
「いてて! おかーさん、耳引っ張らないでよ!」
「痛い痛い! 何すんだこのクソババア!」
「ああん? 今なんか言ったかこのクソガキ!」 ゴキッ
とゲンコツを喰らって、笛ちゃんがその場にしゃがみ込む。禁句な理由を言うまでもないのは、この通り見ればわかるから。
そういや、これと同じ光景をつい最近見た気がするな。
「鈴子さん、こんにちは。ご無沙汰してます」
当然巴絵も、鈴子おばさんなんて呼び方はしない。
「ほんと、久しぶりねー。まー、巴絵ちゃんたら会うたびにおっきくなって」
鈴子ちゃんも壬鳥の血筋なので、小柄な方だ。嬉しそうに巴絵を見上げて手を伸ばし、頭でも撫でるのかと思ったら、おっぱいをモミモミし始めた。
「すっごーい。いいわねーこれ、私も欲しーわー」
「ええーと、あの、ちょっと」
「あっ、おかーさんズルい!」
「ババア何してんだよ! 私にもよこせ!」
半分身内という気安さで遠慮なしにおっぱいに群がる三人に対し、かと言って真の身内とも言い難い微妙なポジションなので逃げることもブッ飛ばすこともできず、ひたすら引きつった笑いで耐え続ける巴絵。
えーと、この従妹達が最後に巴絵と会ったのは今年のお正月だったかな。
あれから半年以上経っているから、確かに前回よりも一回りくらい大きくなっているはずだし。久しぶりだもんな、しょうがないからもうちょっと楽しませてあげるか。
「はいはい、もう時間がないからとっとと準備して!」
と、そこへパンパン! と母ちゃんが手を叩いた。
「え、準備ってなに?」
見ると、会議室にはあたし達の他に10人くらいの人達が集まっていた。
何故かみんな巫女装束で、それに親戚の集まりって聞いていたのに、琴ちゃん達以外は知らない人ばかりだ。
あたし達が大騒ぎをしている間、母ちゃんはその人たちと挨拶を交わしていたのだった。
「さあさ、のんびりしていられないわ。皆、早く巫女服に着替えてね」
「え? 姉ちゃん、あたし達もあれ着るの?」
「じゃないの? やっぱ当主のお披露目だからね」
「私もですか?」
巴絵が母ちゃんに尋ねる。
「もちろんよ。あなたはもうウチのお嫁さんだもの」
「ハハ……」
母ちゃんの当たり前のような言い方に、巴絵が乾いた笑いを返す。もう聞くだけ無駄という観念しきったた顔だ。
きっとあたしも、同じ顔をしてるんだろうな。
「じゃあね、撫ちゃん巴絵ちゃん! 私達、先に行ってるから!」
「え、行くってどこへ?」
「琴ちゃん達は着替えないの?」
「何言ってんの、主役はあんた達でしょ? じゃ、また後で!」
「???」
着替えは、巫女装束の人たちが手伝ってくれた。
どうやら、この人達はあたしたちのお世話係ということらしい。
なんだか大袈裟だなあ。
そして着替えが終わると、別室へ移動。
隣の部屋かと思ったら、結構歩いて、薄暗い舞台袖みたいなとこへ来た。
ていうか、舞台袖だよここ。
「ね、姉ちゃん?」
あたしは不安になって、姉ちゃんに声をかけた。
「う、うん」
姉ちゃんも、顔を引きつらせている。巴絵も蓬子も同じだ。
何だか、とてつもなく嫌な予感がしてきた。
「さ、行くわよ。ついて来なさい」
母ちゃんが舞台へ向かって歩いて行く。
いやだ……。
帰りたい……。




