第四話-10 激突
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タン、タン、タンと。センターサークルでややゆっくりめにボールを突く、獄落院さん。
対する撫子は、ゴール下で構える。
あれ? そう言えば撫子って、ディフェンスなんて出来たのかしら。あの子ってば、いつも責める一方で、守りに回るのなんて一度も見た事がないけど。
タッ、と獄落院さんが走り出す。
それに合わせるように、撫子も獄落院さんに向かって一直線に走り出した。やっぱり、のんびり待ち構える気なんか更々ないみたいね。
そして両雄が、正面から激突する。
ドシーン! と。
「ぐはっ」
「へぶっ」
文字通り、二人はお互いに真っ正面から突っ込んで行って、そのまま顔面ごと激突したのだった。
「くかかかか……」
「かふっかふっ……」
二人とも、鼻を押さえて床を転がりまわっている。獄落院さんなんか、眼鏡まですっ飛ばしてるわ。
「ピピーッ! 壬鳥ファウル! なーにやってんの、あんたら!」
「ご、ごべん。春ちゃん、大丈夫?」
「ううん、平気や。撫ちゃんこそ怪我せえへんかった?」
「うん。あはは、ごめんね。ボールだけ狙って行ったのに、真正面から行っちゃった」
「ウチの方こそ、上手に避けた思たのに、ヘタやったわ」
「じゃあ仕切り直しだ。もう一回」
「うん」
再び二人はセンターとゴール下に別れ、向かい合った。
やる気満々なのはいいのだけれど、二人とも鼻真っ赤で涙目よ。ホントに大丈夫なの?
「いくで」
獄落院さんが走り出す。今度はフェイント気味に、スピードもやや控えて。
撫子も、今度は慎重に向かって行った。一直線でなく、両手を広げ行く手を阻むように。
そして再び、両雄が激突した。
ドシーン!! と。
「ぶばっ!」
「がぶっ!」
なんなの、この子達ったら。
「ピピーッ! こらーっ、あんたらいい加減にしなさい!」
「くうう、ううーっ……」
「ふうっ、ふううっ」
二人揃って、またもや鼻を押さえながら転がり回ってる。そりゃあ、二度も同じ所をぶつけたらさぞかし痛いでしょう。
「もーいいよ、二人とも。
んー、どうしよっかなあ。次はディフェンスを見せて貰おうと思ってたんだけど」
「はいはいはい! じゃあ今度はあたじが攻べる!」
鼻を押さえながら、撫子。
「えー? 壬鳥、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! 今度はちゃんとやるから! やっぱあたしって受けよりも攻めだし!」
「私も大丈夫です! やらせて下さい!」
「しょうがないなあ。じゃあ攻守交代で」
「よっしゃあ!」
今度は撫子がボールを持ち、センターサークルで構える。そしてゴール下で静かに佇む獄落院さんを睨み付けながら、ドリブルを始めた。
ダダダダダダ……!!
獄落院さんとは全く違う、工事現場のような高速のドリブル音が響き渡る。撫子得意のマシンガンドリブルだ。
そしていつも通り、体を深く沈めてゴールへと一直線に。
いや、撫子の体がピンボケのようにブレて見えている。直線のようで直線でない、分身もどきの光速フェイント!
対する獄落院さんは、ゴール下で身じろぎもせず待ち構えていた。
撫子は、獄落院さんを狙うかのように突進していく。
また正面衝突! と思わず声をあげそうになる寸前、撫子が弾かれたようにジャンプした。
同時に、獄落院さんが消えた。
隠形? いや、神速? 獄落院さんの体は撫子と重なるように、そして撫子よりも掌一つ分だけ高く、一瞬のうちに飛び上がっていた。
しかも、ノーモーションで!
刹那の攻防。
行く手を阻まれた撫子が、得意の空中殺法で体勢を入れ替え、獄落院さんの手を躱そうとする。
獄落院さんもそれに劣らぬ体術で宙を舞い、撫子の手からボールを奪おうとする。
果たして結果は……。
ドッシーン!!!
「バブッ!」
「ベボッ!」
空中で正面衝突した二人は絡み合ってコートに墜落し、そのまま床の上をゴロゴロと転がって行った。
「あんた達、いったい何がしたいの……」
さすがのキャプテンも、これには呆れるしかない。
相性最悪。もしかしてこれが、壬鳥と獄落院の宿命なのか。
あるいは、この撫子でさえ獄落院さんのやらかし体質を打ち破ることができなかったということなのだろうか。
この子の運の悪さもここまでくると、もはや呪われているとしか言いようがない。
呪われ……? まさかこの子も……。
いやいや、まさかまさか。いくら何でも考え過ぎよね。
「えーと。はい、じゃあ終了ー。
二人とも、明日から1年生と一緒に基礎練習ね。今日はもう帰っていいからね。ゆっくり休んでね。はっきり言って練習の邪魔だからね」
という棒読みの指示も、重なって気絶したままの二人の耳には届いていない。
「じゃあ保護者さん、後はよろしく」
「はぁい」
と、私も力ない返事をキャプテンに返し、鼻を真っ赤にして気絶している二人の脚を掴み上げると、ズルズルとコートの外に引きずり出したのでありました。




