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第四話-7 第1回箱根駅伝予選会

★★★


 というわけで、完全復活2日目の朝が来た。


 朝6時。ランニングウェアに身を包んだ私は、意気揚々と撫子の家に向かう。

 勝手知ったるお隣さん家。二階へ直行すると、いつもの忍び足ではなく、勢いよくバンッとドアを開けた。


 そしてクローゼットからTシャツと短パンを取り出しベッドの布団をガバと剥ぎ取って暴れる撫子を力ずくで押さえつけつつパジャマを毟り取り着せ替え人形のように服を着せたらそのまま小脇に抱えて階段を下りて、

 トイレに放り込んだ。


「さっさと出す物出しちゃいなさい。お腹に溜めたまま走ると、途中で悲惨な事になるわよ」


「うっせえ馬鹿おっぱい! 朝っぱらから何メチャクチャなことしてくれてんだよ!

 あたしはもう、ここから出ないからな!」


「5分で済ませなさい。言っとくけど、トイレの鍵なんて外から簡単に開けられるんだからね」


「ちくしょう、訴えてやる!」


 などという泣き言には、一切耳を貸さない。そしてきっちり5分後。


「開けるわよ」


 ガチャ、と私が手を伸ばすより一瞬早くトイレのドアが開き、仏頂面の撫子が出て来た。


「憶えてろよ、この暴力おっぱいお化け」


 で。


「で、どうすんだよ」


 玄関先でストレッチをしながら、撫子が聞いてくる。


「どうするって、体力作りが目的なんだから、ただ走ればいいだけよ。

 目的地は5km先の中央公園ね。そこで折り返して戻ってくればちょうど10kmだから。

 私は後からついて行くから、撫子のペースでいいわよ。

 ただし、あんまりテレテレやってたら後ろから蹴るからね」


「アホか。結局、お前のペースで走れってことじゃんか。ちくしょう、ばあちゃんも憶えてろよ」


(……)


「ばあちゃん? て、寝てんのかよ!」


「ブツブツ言わない。はい、スタート!」


「くそっ」


 タッ、と撫子が走り出す。なので。


「オラッ、チンタラすんな!」

 と、まずは背中を蹴りつけた。

 と思ったらきれいに空振り。撫子の奴ったら、生意気にも背中の気配だけで私のキックを躱しやがったわ。


「お前の考えてることくらい、とっくに御見通しなんだよ! 悔しかったら捕まえて見ろ! このおっぱいブタ!」


 ムッカーッ。


「ブッコロス! 待てこのクソチビ!」


 ダッシュで逃げる撫子を、私も全力で追いかける。


「そこで止まれチビスルメが! 裸にひん剥いて干物にしてやる!」


「やなこった! お前の方こそ、そこで転んでアスファルトでおっぱいすりおろせ!」


「よおし! とっ捕まえたら泣くまでタコ殴りだ!」


「やれるもんならやってみろバーカバーカ!」


 早朝の爽やかな風がそよぐ閑静な住宅街の中を、二人の美少女の小汚い罵声が駆け抜けて行く。


「無駄にでっかい水饅頭ふたつもぶら下げやがって! 砂漠でも越える気か、このラクダ女!」


「その豆煎餅みたいな平ったい胸叩き割われたいか、このクソ生意気なガキが死ね!」


「うっさいバーカ! バカおっぱーい!」


 激しい罵り合いを繰り広げながらも、私は撫子の足取りの微妙な変化を見逃してはいなかった。

 ふふん、私が昨日のママとの仕合で何も学ばなかったとでも思ってるの? 頭の天辺まで血を(たぎ)らせても、その片隅に僅かでも冷静な自分を残しておくということを、ちゃあんと憶えたんだからね。

 女子半日会わざれば括目せよ、ということをたっぷり教えてあげるわ。


「おっぱいバーカ! バーカおっぱーい!」


 そろそろ限界ね、頑張ってるようだけど無理しているのが見え見えよ。

 それにさっきから悪口の方もバカとおっぱいの繰り返しになってるし、脳に酸素が届かなくなってるんじゃないの? あ、それはいつも通りか。

 よしよしもーちょい。5・4・3・2・1・そーれっ!

 私が地面を蹴るのと同時に、前を走る撫子がガクッと膝を折った。タイミングばっちり! 無防備な背中に私の華麗なキックが襲いかかる!


「くらえっ!」


 スカッ


「あら?」


 撫子の体が私の視界から一瞬にして消え失せ、必殺の飛び蹴りはむなしく空を切った。

 道路に降り立った私は、慌てて撫子の姿を探した。

 くそっ、侮れない。土壇場で神速を使いやがるなんて! モタモタしてると、すぐに反撃が来る!


「と、思ったら。あらあら」


 振り返った私の目に入ってきたのは、車に轢かれた生イカのようにべったりと地面に張り付いて、ゼーゼーと息を吐く撫子の姿だった。


 まーこの子ったら、私の想像以上に無理していたのね。

 そう言えば、いつものバスケの試合では5分くらいでスタミナが切れて後はヘロヘロのフラフラになって退場するだけなのに、今日はその3倍くらい全力疾走していたもんね。

 もう完全に燃料を絞り尽くして、パタッとイっちゃったって訳か。


「まったくもお、しょうがないんだから。ほら立って、大丈夫?」


 私は撫子の襟を無造作に掴むと、片手でぐいと持ち上げた。


「ぜえーっ、ぜえーっ。ぼ、ぼうだべ……、動げなび……」


「あらそお。でも私が一度決めたことを途中で投げ出すのが大っ嫌いって、知ってるわよね」


「お……鬼……」


「喋れるうちはまだ大丈夫よ。オラッ!」 ドカッ


 と、宙吊り撫子のお尻を思いっきり蹴飛ばす。


「うん、5mは進んだ。さあ、折り返しまでもう少しよ、頑張って」



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