第四話-3 だからそれしかやることがないんだってば!!
★★★
「で、春ちゃんのことだけどさ」
「うん」
「あの子も力を持ってるって、ばあちゃんが言ってた」
「へー、そうなの」
「あれ? 今度は驚かないの?」
「そりゃあ、これだけそんな子達が現れてくればね。撫子んちのライバルだっていうのなら、それくらい普通でしょ?」
「普通かよ」
言い過ぎかしら。
「まあ、春ちゃんも、あたしが力を持ってるのは当然と思ってたみたいだけどね」
「えっ、撫子バラしちゃったの?」
「なんとなく流れで。巴絵、もののけって見たことある?」
なにそれ。
「本とか映画でなら知ってるけど、本物は見たことないわね。もしかして本物、いるの?」
「うん、いる。そっか、あたしも見えるようになったのは、つい最近だしな」
そして撫子は、またしても衝撃の事実を教えてくれた。なんと、私達の大怪我の元となったあの事故は、もののけが原因であったというのだ。
「あっ、でもあいつが悪さした訳じゃないよ。あれは完全に事故。あいつはただ男の子と遊んでいただけで、何の責任もないからね」
「ふうん」
「で、そいつとは違うんだけどさ。春ちゃんと一緒にいた時に、雲猫っていうもののけが大生の頭に乗っかっているのが見えてさ」
「ブッ」
思わず吹いた。
「大生くん、一体何してんの?」
「いやあ、大生は全然気づいていなかったんだけどね。でも、あたしと春ちゃんには見えたんだよね」
「あらそおなの。で、雲猫って何なの?」
「だから、雲みたいな猫みたいな奴」
「よく判んないわね。そもそも、もののけって一体何なのよ」
「えーと……」
撫子は暫く考えてから、妙に重々しい口調で言った。
「犬猫と同じ、見たまんまのああいう奴らじゃ。以上」
「だから見えないって言ってるでしょ。馬鹿なのあんた?」
「だって、ばあちゃんがそう言ったんだもん!」
「まあいいわ。それで獄落院さんには、どこまで話したの?」
「もののけが見えること以外は、何も」
「私やババアのことは?」
「言ってないよ。呪いのことも、巴絵が一緒に壬鳥神社に行ったことも言ってない。春ちゃんは今でも、あたしと巴絵は口もきかないほど仲が悪いと思ってるはずだよ」
「そう……」
撫子が気付いているかどうかは判らないけれど、きっと壬鳥家には、私達の知らない秘密がまだまだたくさんある。獄落院さんは、そういったものを探るために、竜野宮に送り込まれて来たのだろう。
獄落院家が敵視する壬鳥の力とは、恐らく撫子が考えるようなお金とか権力とかそういう俗世間的なものではなく、祈りや言霊など、撫子達自身が持つ霊的な力を指しているはず。
獄落院さん本人に悪気があるかどうかは知らないけれど、あちらの目的が好意的なものとは到底思えないから、うかつに情報を晒すようなことはすべきではない。
中でも初代のババアの存在なんて、一番知られてはいけない重要な秘密だろう。
撫子もその辺はよく判ってるみたいで、ちょっと安心した。
となると……。
獄落院さんが転校して来た時に、私と撫子が離れていたというのは、結果として彼女を秘密から遠ざけることになっていたのか。
あのままババアが私の中にいたら、撫子の光のように私の体からその力が漏れ出していたかもしれない。彼女ならきっとそれに気付き、ババアの存在がバレてしまった可能性は大いにある。
でも撫子なら、力の片鱗が覗き見えたとしても彼女は何の疑問も抱かない。
何だろう、撫子も私も決して意図してやっている訳ではないのに、なんとなく結果オーライになってしまっている。
そう言えば呪いの件も、あれほど大騒ぎした割にはあっさり片付いてしまったし、そのうえ壬鳥家初代当主の霊などという、秘密の核心とさえ言えるオマケまで付いてきた。
ひょっとして私達、何かに守られている? もしかしてババアが……。
いや、考えすぎか。
「で、どうする? 巴絵」
「撫子はどう思う? 私は獄落院さんとはまだあまり話したことがないから、彼女のことはよく判らないわ」
「とってもいい子だよ。
でもどういうつもりなのかは、よく判んないんだよな。
最初にあたしを呼び出したのも、どうやらライバル宣言しようとしてたらしいけど。スパイがそんな正々堂々なんて、訳わかんないだろ?
それに、友達になろうって言ったら本気で喜んでいたし、その後もほんとに仲良しだし」
「ふうん。まあ確かに、私から見ても素直でいい子よね。とても演技とは思えないわ」
「だろ? ただ、あの子さ」
「なあに?」
「間が悪すぎる」
「ああ……、そうね」
撫子の言う通り、あの子が色々とやらかしちゃってるのを、私も何度も目にしている。
決してあの子のせいとばかりは言えないのだけれど、間が悪いというか運が悪いというか、とにかく彼女が何かをしようとすると、何かが起きてしまうのだ。
転校初日に私と撫子を間違えたのなんて、まだ序の口。
掃除をしていたら、バケツを持った生徒が転んで頭から水をぶっかけられたりとか。
授業中に彼女が手を上げたら大きなスズメ蜂が飛んできてその指先にとまり、クラス中が大パニックになる中、彼女一人だけが身動きできずに凍りついたりとか。
街なかで犬の頭を撫でようとしたら、別の犬がやってきて目の前で交尾を始めたりとか。
とにかく、見ているだけで気の毒になってくるほど、ツイてない。
そんな時彼女は「こういうの慣れてますよって」と力なく笑うのだけれど、それがまた見る者の涙を誘うのだ。
だから、クラスのみんなは獄落院さんに優しい。
そして彼女は「ありがとう。皆さんにこんなに優しうしてもろうて、ウチほんまに嬉しい」と頬を赤らめて俯き、時に涙で目を潤ませたりする。
本当にあれでスパイなど務まるのだろうかと、こっちが心配になってしまう。
「まあ、しばらく様子を見るしかないね」
「うん、そうね」




