第四話-1 罪と罰
第四話
良かれと思ってやったことが必ずいい結果を生むとは限らないし、
全ての努力が実を結ぶと決まっている訳でもない
それでも、何もしないでいるよりはずっといい
とも限らない?
そんな、楽しい楽しい修行編のお話
☆☆☆
「なでちゃん、ぼくのおよめさんになってよ」
だいちゃんがいいました。
「じゃあともえは、なでしこちゃんのおよめさんになる」
ともえちゃんもいいました。
「だめだよともちゃん。なでちゃんはぼくのおよめさんになるんだから、およめさんのおよめさんなんてへんだよ」
「そんなのずるい。なでしこちゃんはともえとけっこんするのよ」
「ともちゃんこそずるい。ぼくがさきにいったんだよ」
「だってなでしこちゃんはともえのなでしこちゃんなんだもん!」
「ちがうもん! ぼくのなでちゃんだもん!」
「ともえの!」
「ぼくの!」
とうとうふたりはけんかをはじめてしまいました。
どうしよう、こまったなあ。
「よおし、こうなったらけっとうだ!」
「うんいいよ。けっとうだー!」
ええっ、けっとうなんてだめだよ。そんなのあぶないよ。
「かかってこいともちゃん!」
「ふん、いい覚悟ね。じゃあ遠慮なく行くわよ。どおおおりゃああっ!」
ドガシャーッ!!
ともえちゃんのまわしげりでだいちゃんがおそらのかなたへとんでいきました。
巴絵ぇ、そこで中学生になっちゃうのは反則だろ……。
「撫子……撫子……、起きて」
「んふふ……」
「撫子、起きてったら」
んふ……ん……んあ? もう、何だよ巴絵ったら。眠いのに……。
「早く起きて。ねえっ」
「んー……、今何時?」
「夜の2時半よ」
「おやすみ」
アホか、何時だと思ってんだ。て、2時半だと思ってるか。まあどうでもいいや、寝よ。
「さっさと起きなさい、撫子」
ん? 巴絵と違う声? この声は……
☆☆☆
深夜の市民病院。
診療時間が終わり照明も落とされた院内は、昼間の喧騒とは裏腹に、空気まで眠っているかのよな静けさに包まれている。
大勢の患者が眠る入院病棟も、ドア一枚隔てればその気配を感じることもなく、ナースステーションのカーテンの隙間から漏れるほのかな灯りと、どこからともなく響いてくるピッ……ピッ……という信号音が、いっそうもの寂しさを際立たせていた。
その昏く長い廊下の奥深く、月明かりの差し込む病室のベッドの上で、あたしと巴絵は……。
二人並んで、正座をしていた。
前に立つのは、母ちゃんと藍子姉ちゃん。母ちゃんは鬼の形相であたしを睨みつけ、姉ちゃんはその隣りで、眠たそうにあくびを噛み殺している。
「撫子、あんたって子はほんとに……」
母ちゃんは拳を握り締め、怒りに声を震わせている。
あたしと巴絵は俯いたまま、その母ちゃんの震える手元を見つめていた。
「あんた、自分が何をやったか判ってるの?」
「ごめんなさい」
「初代様も初代様です。この街で暮らしたいのなら、いい加減に世の常識というものをわきまえて下さいませ」
(そんなに怒ることもなかろうが)
「お黙りなさい、大昔とは違うのです。今の世に奇跡なんてものはあってはならないもの、奇跡とはすなわち世の乱れそのものなのです。
いいこと、撫子。あなたが車に轢かれそうになった子供を助けたのは、とても立派なことでした。
神速の技を使ってしまったのも、あの状況ではやむを得なかったと言えるでしょう。
あなたが意図して使った訳じゃないし、幸い目撃者はドライバーの二人だけで、どちらも動顛していましたから錯覚ということで誤魔化すのは簡単でした。
でも、あなたの全身肉離れという状態はそうはいきません。こんな症状はお医者さんでも見たことも聞いたこともないでしょうし、検査結果も全て記録に残ってしまっています。
実際、先生は学会に発表させてくれなんて言っているくらいだわ。
これだけでも、どうやって騒ぎにならないようにすべきか頭を痛めているところだったのに。 それなのに、あんたって子は……」
母ちゃんの手がブルブルと更に強く震え出した。
うひゃあ、怒ってる怒ってる。とても顔なんか上げられないよ。
チラリと隣を見たら、巴絵と目が合った。そして同時に笑おうとして二人とも失敗し、顔を引きつらせた。
「あんたは全治2ヶ月、巴絵ちゃんは全治3ヶ月。それを……それを……、たった一晩で全快ですってええ!」
「お母さん、そんなに大きな声をだすと外に聞こえる」
姉ちゃんが、やる気なさそうに母ちゃんをなだめる。
「お、お母さん。あまり撫子を責めないであげて下さい。撫子は私のために」
「巴絵ちゃんもお黙りなさい!」
「はいっ」
母ちゃん達がやってきたのは、つい10分ほど前。
あたしがばあちゃんの『許し』を貰ってパワー全開の祈りの術を使った時に、その気配というか衝撃が、母ちゃんと姉ちゃんに伝わったらしい。
二人とも寝ているところをそのショックで叩き起こされ、そしてすぐにあたしの仕業だと気づいて、大急ぎで病院まで車を飛ばしてきたということだ。
「病院が光っているのが、うちの方からも見えたよ。一瞬、火事かと思ったくらい凄かった。
知らないぞ。この分だとお前達だけじゃなくて、病院中の人たちが元気になっちゃったかもだぞ」
藍子姉ちゃんが、また楽しそうにニヤニヤ笑ってる。
ホント、こういう時の姉ちゃんて、無責任に面白がるんだよな。
「ちょっと藍子、恐ろしいことを言わないで頂戴」
「奇跡の病院か」
「やめなさい」
「でもお母さん、かえってその方がいいんじゃないの? この子らだけじゃ目立つけど、大勢の人の中の二人なら目立たないじゃない」
「え?」
「木を隠すなら森の中、人を隠すなら街の中ってこと」
「なるほど、それもそうね」
腕を組んで考え込みだした母ちゃんを横目に、姉ちゃんがあたしにウィンクした。
姉ちゃん、ありがとう。
「ちょっと待ちなさい、藍子。あなた今、言霊使ったでしょ」
「あ、バレた?」
「当たり前です。まったくもう油断も隙もないわね。そんなの、隠すどころか騒ぎが大きくなるだけじゃないの。で、どうなの撫子?」
あたしは、祈りを使った時のことを思い返した。
「えーと、たぶん大丈夫だと思う。
祈りの元はあたしの想いなんだから、知らない人にまでは届かないはずだし、病院が光って見えたのはただ光が強かっただけのことだと思うよ」
「ならいいけど」
ホッ、母ちゃんの怒りも収まったか。
「まあ、やってしまったものは仕方ありません。こうなったら、とことん誤魔化すしかないわね」
「えっ、どうやって?」
「治ってないって言い張るしかないでしょ。幸い外傷はもともと大したことないんだし、二人ともギプスと包帯でグルグル巻きなんだから、じっとしていればいいだけよ」
「だけってそんな」
「文句あるの?」 ジロリ。
「いえ、ないです」
ううっ、やっぱりまだ怒ってる。
「勝手なことをした罰よ。当分の間は、そのまま怪我人のフリをしていなさい。巴絵ちゃんも連帯責任です。それから初代様」
(ん、なんじゃ?)
「撫子の体から出て、藍子に移って下さい。これ以上こんな所に置いといたら、また何をしでかすかわかったものじゃありません」
(えー、面倒くさいのう)
「それとも、私の方がよいですか?」
(あー、わかったわかった)
「では撫子、巴絵ちゃん、ベッドに横になりなさい」
その言葉に、あたしと巴絵はおとなしく横になり、布団をかぶった。
「二人とも、これから1か月間そのままの姿勢でいること。起き上がることも許しません」
「ええっ、1か月も! そんな酷、あっ!」
思わず飛び起きようとして、体が指一本動かないことに気がついた。母ちゃん、言霊使いやがったな!
「な、撫子! 体が動かない!」
隣りの巴絵も悲鳴をあげる。そうか、巴絵は言霊で命令されるのは初めてか。
「うう、諦めろ巴絵。こうなったらもうダメだ」
布団から首だけ出したミノムシ状態で横たわるあたし達を、母ちゃんが冷たい目で見下ろす。
「首から上だけは動かすのを許可してあげます。そこで1か月間、たっぷり反省しなさい」
「うええーん、藍子姉ちゃあん」
「ああー、うん。まあ、全治2か月のところを1か月にまけて貰ったんだから、よかったじゃない」
「「そんなあ……」」




