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第三話-8 それからそれから

☆☆☆


「ねえ、お前ら一体なにやってんの?」


 夏休みが終わってからというもの、毎日々々鬼ごっこばかりやってるあたしと巴絵に、さすがの大生も呆れ顔だ。


「さあ? あたしが聞きたい」


「こっちのセリフよ。あんたが逃げるから悪いんでしょう?」


「ねえ大生。このおっぱいに『お前こそあたしを追いかけるのやめろ』って言ってくんない?」


「もう聞こえてるだろ」


「聞こえてるわよ」


 ふん、お前とはしゃべんないんだもん。


「もおっ! いつまでもそっぽ向いてないで、こっちを向きなさいっ!」


 巴絵がいきなりあたしの頭を掴んで、無理やり自分の方へ向けようとしてきた。

 何てことしやがんだ、この馬鹿!


「ぐぎぎぎぎぎぎ!」


 あたしは必死に抵抗した。


「往生際悪いわね。観念してこっちを向きなさいよっ!」


「いてててて! 何すんだこの馬鹿おっぱ!」


 あたしは両手で巴絵のおっぱいに掴みかかろうとし、寸前で手を止めた。


「ふん……、もうこんなことはやらないさ」


 巴絵も黙って手を離す。

 その瞳に一瞬、悲しそうな色が浮かんだのが見えた気がして、あたしは思わず目をそらしてしまった。

 

 それからも毎日、あたしは巴絵から逃げ回った。

 巴絵は、あたしと別れることを納得していない。それはまあ、ある意味仕方のないことだ。

 あたしが一方的に別れると言っただけで、巴絵が何か悪いことをしたわけでもないし、あたしも別れる理由をはっきりとは言ってない。

 そりゃあ、納得しろと言う方が無理かもしれない。

 でも、だからって、こんなに追っかけ回すことはないと思わないか? 普通、こんな事になったら少しは空気読むだろ?

 しばらく離れるとか、様子見るとか。

 なのにあいつときたら、相変わらず毎朝起こしに来るし、こっちが無視しても普通に話しかけてくるし。毎晩電話かけてくるし。


「撫子ー、電話よー」


 ほら来た。携帯を着拒にしたら、家電に掛けてきやがって。


「いないって言ってよー!」


「自分で言いなさーい」


 母ちゃんは巴絵の味方だ。


「もしもし、撫子はただ今旅に出ております」


『あ、撫子? 宿題ちゃんとやった?』


「やったよ!」 ガチャン!


 ちくしょう、ツッコミもなしかよ!

 ダメだ、完全に巴絵のペースだ。

 このままじゃいけない。何とかして巴絵とちゃんと別れて、そうすれば、そしたら……。


 そしたらあたしは……

 毎日、何をすればいいんだろう……。



☆☆☆



 それから暫くして、どういうわけか巴絵があたしを追いかけてこなくなった。


 おかげであいつから逃げ回るという無駄な時間が減り、それに反比例するようにあたしは春ちゃんと一緒にいる時間が増えた。

 春ちゃんは、何となくあたしと巴絵の関係が気になっているみたいだけど、あたしが言葉を濁すので、気を使ってしつこくは聞いてこない。

 そして意外なことに、あたしが壬鳥神社に行った理由も、そして巴絵が一緒に行ったということさえも、春ちゃんは知らないようだった。


 だったらこのままでいい、心配の種がひとつ減ったってことさ。

 春ちゃんには悪いけど、巴絵にはなるべく近づかないでほしい。もしも春ちゃんがあの事件の真相を知ってしまったら、また巴絵を巻き込んでしまう事にもなりかねない。

 それだけは、絶対にイヤだ。


「撫ちゃん、大生くん、おはようさん」


「春ちゃんおはよう」


「おはよう」


 朝も一緒に登校することが、多くなった。


「撫子様っ! おはようございますーっ!」


 渚ちゃんだ。いつものように後ろから思いっきり抱きついてきた。


「よかったー。今日の撫子様占いは大吉です」


「おはよう。なにその占いって?」


「うふふっ、登校中に撫子様に会えたら、その日一日ラッキーなんです」


「あはは、なるほど」


「むっ、そちらの方はどちら様ですか」


 渚ちゃんが、あたしにしがみついたまま春ちゃんを睨み付ける。

 もうこの子ったら、いちいち警戒するなよ。


「転校生の獄落院春風さん、春ちゃんだよ。お友達になったんだ」


「おはようさん。かわいらしい子やねえ、1年生?」


 渚ちゃんはあたしから離れると、春ちゃんの前に立って胸を張った。


「新しいお友達ですか、ふふん。はじめまして、1年4組舞島渚です」


 そしてポケットから1枚のカードを取り出し、春ちゃんに突きつけた。


「そしてっ、撫子様のお友達1号ですっ!」


 まったくこの子ったら、頭痛い。春ちゃん、キョトンとしてるよ。


「なでとも大好き倶楽部? なんやの? なでしこのお友達、ともえのお友達?」


「撫子様と巴絵様のファンクラブです。ほら、会員番号1番なんですよ」


「あらホンマやねえ、1番。

 て、ええっ! 撫ちゃん、ファンクラブなんてあるのん? えっ? ともえって柊はんのこと?

 お二人のファンクラブやの?」


「そうですよ。それにこれを作ったのは、そこにいる粗大生ゴミ先輩なんですよ」


「名前の前後に余計なもの付けんなよ。実はそういうことだ」


「なんで教えてくれへんかったん?! さすが撫ちゃんやなあ。いやあ、ウチも入りたいわあ」


「簡単に登録できますよ。携帯あります?」


「これでええのん?」


 春ちゃんが、鞄からスマホを取り出す。


「うわ、最新型のπPhoneXXじゃないですか。もう売ってたんですね。いいですか、このホームページで……」


「うわあ、HPまであるやん。かわええなあ……。名前、ハンドルネームも? ええとア・ン・チ・ラっと」


 おいコラその名前!


「きゃああああっ!」


 いきなり春ちゃんが大声をあげた。


「すごーい! 春風先輩やりましたね!」


「えっ、どうしたの?」


「見て見て、撫ちゃん! ほら、会員ナンバー7777番!」


「おおっ、やったね春風ちゃん」


 大生も喜んで。って、ちょっと待て。


「7777? てことは会員7777人? おい大生、いつの間にそんなに増えたんだよ。いくら何でもおかしくないか?」


 すると大生も、マジ顔になって答えた。


「ああうん、実はそうなんだよ。8月の後半くらいから急に増えてさ。

 俺も流石にこれは多すぎると思ったよ。市内の中高生の半分以上になっちゃうもんな。

 で、ちょっと調べてみたんだ。

 会員証を送る都合があるから入会の時には本名と住所、あとついでに性別年齢も登録してもらっているから、統計を取ってみたんだ。

 そしたらさあ、市内だけじゃなくて県外からの登録が凄いんだよ。ほぼ東日本全域、逆に西日本がほとんどないのが不思議なくらいだ。しかもほとんど大人だよ。

 初めはおかしな趣味の野郎に食いつかれちゃったかと思って焦ったけど、よく見たら女性ばっか。全く訳わかんない」


「なんなの、それ?」


「いやあ、お前ら二人がこれほどオバサン受けするとは思わなかったな」


 そういう問題か? とか思いながら……。あたしは大生の頭の上をじっと見つめていた。


 なあ大生、それ……ナニ?



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