表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/77

第三話-5 新学期

☆☆☆


(撫子、朝じゃぞ。今日から学校じゃろ。早う起きんか)


「ん……」


 もそもそ……。何だよもう、朝っぱらから人の頭ん中で騒ぎやがって。

 あたしは目をこすりながら、時計を見た。


「まだ6時じゃん。も少し寝かせろ」


(おぬしが起こせと頼んだのじゃろうが。早うせんと、巴絵が起こしに来るぞ)


 その一言で、一気に目が覚めた。

 あたしは慌てて飛び起きると、シャワーを浴びて朝ご飯食べて顔を洗い歯を磨き制服に着替えて鞄の中身を確かめ玄関を飛び出そうとして、トイレに駆け込んだ。

 慌てすぎて、どこかで順番が狂ったみたいだ。


 再び玄関を飛び出し、急いで学校へと向かう。

 ふう、やれやれ。何とか巴絵と顔を合わせずに済んだ。


(そんなに無理やり、巴絵を避けることもなかろうが。朝の挨拶くらいかまわんじゃろう)


(ダメだ。あたしはもう巴絵とは別れたんだ。だからもう口もきかないって、決めたんだ)


(あちらは全然そんなつもりはないぞ)


(だから、あいつが来る前に出て来たんじゃないか)



☆☆☆


 夏休みが終わりに近づき、修行も一段落したある日、あたしは皆の前で宣言した。


「ばあちゃんはあたしが引き取る。そして巴絵はもううちとは関わるな。

 あたしとの結婚もなかったことにしよう。

 お別れだ」


「あらあら、まあしょうがないわね」


 あたしは何と言われようとも押し通すくらいの覚悟で言ったのに、母ちゃんはあっさりそう言った。

 藍子姉ちゃんも、


「撫子がそうしたいなら、そうすれば?」


 と言い、蓬子も、


「別にいいんじゃない」


 と、興味もなさそうだ。

 おまけにばあちゃんまで、


「うむ、そうか。では撫子よ、目をつぶれ」


と言って、あっさりこっちに乗り換えてきた。


(これからよろしくな。うむっ、乳が軽い。やはり儂にはこの方がしっくり来るのう、はっはっは)


 なんだか拍子抜けしちゃったけど、まあそれならそれで予定通りだし。


「ふう。そういう訳だから、巴絵……」


 と、顔を上げたあたしの視界一杯に飛び込んできたのは、鬼の形相で右腕を振りかぶる、巴絵の姿だった。


「えっ?」


 バキャッ!!

 身構える暇すらなかった。あたしはグーで思いっきり殴り倒され、頭から床に叩きつけられた。


「がはっ……! う……、お、お前いきなり何を」


 ドカッ!

 起き上がろうとしたら、腹を蹴り飛ばされた。

 体が浮くほどの強烈なキックを見舞われ、あたしはゴロゴロと床を転がって、壁にぶち当たった。


「かはっ……かっ……」


 息ができない。胃の奥から酸っぱいものがこみ上げてくる。


「うげええ…うぶっ、げほっげほっ…くぁ……」


 ダンッ!

 腹を押さえてもがいているところを、今度は顔を踏みつけられた。


「グァッ……、なっ……」


 横目で見上げると、巴絵は、冷ややかな目でこちらを見下ろしていた。


「私と別れるですって? なに寝ぼけたこと言ってんの、このクソチビ」


「う、うるざい……。もう……決めだんだ」


 あたしも顔を踏まれたまま、巴絵を睨み返した。クソ、負けるもんか。

 巴絵は、暫く無言であたしと睨み合っていたが、ふいに足を離すと、クルリと後ろを向いた。


「帰る」


 そして、そのまま部屋を出て行った。


「待っ……」


 床に転がったまま手を伸ばそうとしたあたしの前に、藍子姉ちゃんがクックッと笑いながらしゃがみ込んできた。


「巴絵はホントに容赦ないな。どうだ撫子、痛かっただろ?」


「ふん、こんなの……平気さ」


「これが愛の痛みというやつだな。ん、ちょっと違うか。フフッ」


 全然違うだろ!


 そして次の日から、巴絵は家に来なくなった。

 かと思いきや、あいつは何事もなかったかのように毎日うちに来ては、あたしの宿題をチェックして帰った。

 ふざけんなよ馬鹿おっぱい! これじゃ全然意味ないじゃん!

 冗談じゃない。あたしは徹夜で頑張って、何とか夏休み終了三日前に宿題を全部終え、残りの二日間は、巴絵から逃げ回ったのだった。



☆☆☆


(ほれ、来たぞ) 


 振り返ると、遠くの方から巴絵がものすごい勢いで走ってくるのが見えた。


「げっ」


 あたしは慌てて駆け出した。やばい、ダッシュ力なら巴絵にも負けないけど、学校までなんてとても走れない。

 案の定、すぐに追いつかれてしまった。


「ちょっっとっ、待っちなっさっいよっ。なんっでっ、逃っげるっのよっ!」


 走りながら、巴絵が怒鳴る。


「うっるっさいっ。おっまえっがっ、追っかけっるっからっだろっ。そっちっこそっ、なっんでっおっかっかっかっけるっんっんっだよっおっ」


「あんったっがっ、にげっるっからっでしょっ」


 だめだ、息が上がってきた。

 と、前方に救いの女神が!


「渚ちゃん!」


 あたしは渚ちゃんに追いついて急停止した。


「とっ、とっ、とっ」


 巴絵は勢い余って、あたしを追い抜いてしまう。


「はぁっ、はぁっ、おはよう渚ちゃん。久しぶり」


「きゃああんっ! 撫子さまあっ!」


 渚ちゃんが、思いっきり抱きついてきた。


「ああん、撫子様お会いしたかったですう。

 お元気でしたかあ、渚はとっても寂しかったですう、撫子様分が空っぽですう、ちょっと補給させてくださあい。

 はああ、この匂い。くんくん、すーはーすーはー」


 よしよし、いい子だ。いつもなら困ったさんな渚ちゃんだけど、今日は違う。

 では舞島くん、本日のミッションだ。


「あはは、渚ちゃん相変わらず元気だねえ。ほら、巴絵もいるよ」


「きゃああっ、巴絵さまあっ!」


 渚ちゃんが巴絵に飛びついた。よし、今だ!


「あっ、渚ちゃんおはよう。久しぶりね。って、ああっ!

 こらっ撫子、待ちなさいっ!」


 あたしは、渚ちゃんに抱きつかれて身動きの取れない巴絵を置き去りにして、ダッシュで逃げ去った。

 ざまあみやがれ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ