第二話-11 大団円…からの
★★★
「うわあっ!」
「きゃあっ!」
文箱が爆発した衝撃でボロボロの床が抜け落ち、撫子と蓬子ちゃんは、折り重なるように床下に落ちて行った。
「撫子っ! 蓬子っ!」
藍子お姉さんが駆け寄り、大きく空いた穴に身を乗り出して叫ぶ。
「二人とも、大丈夫か!」
「いててて、大丈夫だよ藍子姉ちゃん。蓬子は?」
「あいたた。もーっ、撫姉ったら少しは加減してよー」
「撫子、大丈夫? 掴まって!」
私も慌てて駆け寄り、穴の中へと手を伸ばした。
「巴絵? 動けるようになったの? 初代のばあちゃんは?」
撫子が、私を見上げながら訊いてきた。
あれ? そういえば、夢中で気づかなかった。
「いないわ。消えたのかしら」
ともかく、そんなことよりも二人を助け上げる方が先だ。
「蓬子、先に」
「うん」
撫子が下から押し上げ、私とお姉さんが手を引いて蓬子ちゃんを引き上げる。
「じゃあ、撫子」
「うん」
身を乗り出し、両手と両手でしっかりと掴み合う。
撫子の手。ああ、こんな小さな手で。私のために……。
「いくわよ。せーのっ!」
「しょっ!」
私の腕力と撫子のジャンプ力で、小さな体がロケットのように飛び出して来る。
「うはー、ほこりまみれの泥まみれだ」
「うん、おかげでゲロが目立たなくなったな」
「姉ちゃん……」
藍子お姉さん、そこ?
「そんなことよりも、ばあちゃんっ!」
撫子が呼んでみたが、初代の返事はなかった。
「ばあちゃん、行っちゃったのか」
そう言って周りを見まわす撫子を、私は思い切り抱きしめた。
「お、おい、服が汚れるよ。体はもう大丈夫なの? ちょっ、苦しいって」
服なんかどうでもいいよ。あんなクソババアのこともどうでもいい。
撫子が、撫子が無事でよかった。
私は、両腕に更に力を込めた。
「ぐぇっ。とも……マジ、苦し……」
うるさい、お黙り。
私は撫子の悲鳴を無視して、無言で抱きしめ続けた。
その様子をやれやれという顔で眺めていた藍子お姉さんが、「ふう」と息を吐いた。
「ともかく、一件落着ってわけか」
撫子も私に抱きしめられたまま、顔だけお姉さんの方に向ける。
「これで、巴絵のおっぱいも小さくなるんだね」
(いいや、ならんよ)
皆の頭の中で、声が響いた。
「ばあちゃん!」
初代?! くそっ、まだいやがったのか。
私は立ち上がって周りを見回した。
「このクソ幽霊がっ! これ以上撫子に何かをしようというのなら、今度こそ!」
(騒ぐな、乳娘。
言ったじゃろう。呪いと祈りは同じもの、想いの強さが力になる。
じゃが儂は生まれてこのかた、小さい乳しかまともに見たことがなかったからのう。こんな馬鹿でかい乳など、想像すらできんかったわい。
如何に想いが強かろうと、想像できないものは具現もかなわぬ。おぬしの乳のでかさは、初めから儂の呪いを超えておったわ)
「「「えっ?」」」
予想外の言葉に、三人の目が私の胸に注がれる。
「呪いを超え……って、え?」
いったい、どういう意味?
「じゃあ、呪いはどうなっちゃったの?」
と、撫子。
(精々、しばらくの間熱を出させるくらいが関の山じゃったのう)
「てことはその熱も」
と、蓬子ちゃん。
(まあ、ひと月もすれば勝手に収まったじゃろ)
「どうしてそれを、もっと早く教えてくれなかったのよ!」
私。
(じゃって、面白かったんじゃもん)
「こっ、この……クソババア」
(じゃから、案ずるなと申したではないか。ちゃんと人の話しを聞かぬ、おぬしが悪い)
「やかましい! ぶち殺してやるから今すぐ出て来い!」
青空の見える天井に向かって怒鳴り散らす私の胸を見つめながら、藍子お姉さんが呆然と呟いた。
「つまり、壬鳥家八百年の呪いも、巴絵のおっぱいには敵わなかったと……」
蓬子ちゃんも続いて声を漏らす。
「結局、最初からただの思い過ごしで、全部無駄な苦労だったと……」
「ええっ? あ、いえそんな……えっと、えっと」
私は二人の視線から逃げるように、撫子の背中に隠れた。
その私を、お姉さんと蓬子ちゃんの目が力なく追う。
そして撫子は……。
「いいや、無駄なんかじゃないさ」
ニヤリと笑った。
「おかげでこの力を貰うことができたんだぜ。
ばあちゃんが言っただろ、強い想いが祈りの力だって。そして、ばあちゃんは知らなかったから、想うことができなかった。
でもあたしは知っている。この馬鹿でかいおっぱいを、ずっとこの目で見てきたんだ。
あとは、強い想いさえあれば……」
「撫子、まさかお前」
藍子お姉さんの顔色が変わった。
(おいおぬし、いったい何を考えておる)
私にも何らかの力が残されたのか、撫子の体が光り輝いているのが見える。
この子まさか、この力を使って!
「姉ちゃんは力をもらえなくて残念だったな。蓬子っ!」
「は、はいっ?」
蓬子ちゃんは急に呼ばれてきょとんとしていたけど、すぐに理解したらしく、撫子そっくりの悪い顔でニヤリと笑った。
「フフ……。わかったよ撫姉、そういう事だね」
「そうだ蓬子。この力さえあれば、どんな爆乳だって思いのままさ。
ばあちゃん喜べ! 壬鳥家八百年の悲願は、あたしと蓬子が叶えてやるぞ!」
「おおうっ!」
二人揃って腕を高々と振り上げ、空に向かってガッツポーズ。
撫子どころか、あの真面目な蓬子ちゃんまでその気になるなんて。壬鳥家の悲願ってこれほどのものだったの?
と、私が半ば呆れながら思ったその時……。
「なにが悲願だ。そんな私利私欲のために力を使わせる訳にいくか。
天の理……、
地の恵み……、
人の世に永久の幸あらんと、全魂を捧げ祈り祈りて……、
我、壬鳥の藍子ここに命ずる!」
藍子お姉さんが、二人のガッツポーズと競うように右手を振り上げ、天を指さした。
「引っ込めおっぱい!」
その言葉と同時に、撫子と蓬子ちゃんの体を包む光が一瞬にして消え失せ、青い空に二人の悲鳴がこだました。
「ええっ?!」
「そんなあああーっ!」
第三話に続く




