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第二話-6 新婚旅行?

☆☆☆


 善は急げということで、さっそく次の日、あたしと巴絵は長野に向かって出発した。


 向こうで何があるかわからないし、とりあえず山登りはするはずだから、それなりの準備は必要だ。

 朝早くから大慌てで支度をし、リュック一杯に荷物を詰め込んで家を出た。


 うちはともかく、巴絵の家の人達は何も事情を知らないから、こんな急なことで旅行の許しが出るのか心配だったんだけれど、そこは母ちゃんが「まかせておきなさい」と胸を叩いた。

 そしてその言葉どおり、朝イチでお隣に出かけて行って、2分で戻ってきた。


「ばっちり、OK貰ってきたわよ」


 ニコニコしながらVサイン。


「早すぎだろ! 一体どんな説明したんだよ!」


 思わずツッコんでから、ハッと気が付いた。『言霊』……うん、深く考えるのはやめておこう。

 ちなみに、母ちゃんは来てくれないの? と聞いたら、


「いやよ、山登りなんてめんどくさい」


 と、のたまった。あーそうですか。


 長野までは新幹線で約2時間。それから在来線に乗り換えて1時間電車に揺られ、さらにバスで山へ向かう。

 壬鳥神社へは歩いて山を登らなければならないし、結局何だかんだで出発も遅くなっていたから、今日は麓に一泊する。宿は母ちゃんが手配してれたホテルだ。


「おおー」


「すごーい」


 ホテルに着いて、あたしと巴絵は揃って声を上げた。

 山奥の温泉旅館だって聞いてたのに、来てみたらびっくりするほど豪華なリゾートホテルだった。

 ロビーも広くて、まるで都会の高級ホテルみたい。行ったことないけど。


 そして部屋に案内されて、また驚いた。


「広っ! なにこの部屋!」


 二人で一晩泊まるだけなのに、修学旅行かっていうくらいに広い洋風の大広間で、しかもあたしでさえ一目で判るほどの高級感あふれる部屋の作り。

 レースのかかったお姫様ベッドなんて、初めて見たよ。

 絶対にVIPルームだろ、ここ!


「見て見て、撫子! お部屋に温泉付いてる!」


 巴絵が部屋の奥を指差して叫んだ。

 ほんとだ。ガラスの壁の向こうに檜の大きなお風呂、外には露天風呂も見える。


「ねえ撫子、ほんとにこんな豪華なとこに泊まっちゃっていいの? 一体いくらするのかしら」


「そうだ、電話しなきゃ」


 あたしは携帯を取り出して、母ちゃんに到着の報告をした。


「もしもし、母ちゃん?」


『あ、撫子?』


「うん、今ホテルに着いた」


『あ、そう』


「ねえ母ちゃん、何なのこのホテル? 豪華すぎなんだけど」


『うん、そこね、お父さんの会社の福利厚生施設に指定されてるのよ。社員割引で安く使えるから。急な話だし、部屋なんか何でもいいわよね』


「何でもいいって、方向性が違うだろ」


『何が不満なの。あんまり贅沢言わないで頂戴』


「いや、だから……」


 あれ? あたしが贅沢言ってんの?


『せっかくの夏休みで二人っきりなんだから、新婚旅行だと思って楽しんでらっしゃい』


「しんっ?!」


 プツッ……。切れた。


「お母さん、何だって?」


「えっと、社員割引で安いんだって」


「へえー」


 最後の一言は、聞かなかったことにしよう。


★★★


 晩御飯も、これまた超豪華だった。

 頼んだわけでもないのに、ルームサービスで和洋折衷国籍不明のお料理が次から次へと運び込まれてくる。

 撫子は料理が来るたびに「何これ? 何これ?」と私に聞いてくるけど、私だってこんな高級料理なんか見たことも食べたことない。

 なんとなく食材がわかる程度だ。


 和牛の刺身。巨大オマール海老の蒸し焼き。素材の見当すら付かない見たこともない不思議な料理。

 このステーキはフォアグラかしら。パスタの上に山盛りになっている白いものは……、トリュフ?


 私達は、きゃあきゃあと大はしゃぎをしながら、料理を平らげた。

 私はもとより、撫子も小柄なくせに大食いだ。大人でも食べきれない程の大量の料理を、二人とも全部きれいに胃袋に収めてしまった。

 そしてデザートに出たメロンの、蕩けるような甘さといったらもお、もおっ!

 はああぁ、幸せ。


「うー、お腹いっぱい。苦しい」


 食事が終わり、撫子はベッドの上に寝転がって足をパタパタさせている。


「食べてすぐ寝ると、牛になるわよ」


「うるさい。お前が言うな」


「どういう意味よ、もお」


「ほら、モーって言った」


「馬鹿。ねえ、お風呂どうする? 撫子、先に入る?」


 ガラスの向こうの浴室を見ながら、私は撫子に聞いた。

 いくら温泉と言っても、部屋にあるのは大勢が入る大浴場じゃないし、撫子と二人きりっていうのを逆に意識してしまう。

 てゆうか、丸見えじゃないのよこれ。一人で入っても恥ずかしいわよ。


 私が問いかけると、撫子はパタパタを止め、布団の上で動かなくなった。

 私も言葉を続けることなく、口をつぐんでしまう。

 

 暫しの沈黙の後……。


「じゃあ……一緒に、入る?」


 と、顔を伏せたまま、撫子。


「ん……、そうね」


 天井を見上げながら、私。



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