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第二話-5 残された希望

★★★


 撫子が出て行った後、私はどうしても我慢できなくなって、家を飛び出していた。


 考えても考えても、全然わからない。撫子に、ちゃんと話を聞かなくちゃ。

 もしかしたら私は、本当は悪い病気にかかっていて、撫子はそれを知って口止めされているのかもしれない。

 私が病気なのは仕方ない。平気だなんて言わないけれど、でもそれは私の運命だ。

 けれど、そのせいで撫子が苦しむなんて、私には我慢できない。


 撫子に早く会いたいということしか頭になかった私は、チャイムも鳴らさずにお隣の玄関を駆け上がっていた。

 そしてリビングに入ろうとして、二人が話しているのを聞いてしまったのだ。


「巴絵……どうして……」


「ねえ撫子、命をかけるって何なの? 一体なにをするの?」


 私は撫子に詰め寄った。


「巴絵、聞いていたのか」


 藍子お姉さんも、困った顔をする。


「駄目じゃないか、寝てなくちゃ!」


「教えて! 何が起きてるの? あなた、最近ずっと変じゃない。私の体に関係ある事なの? 撫子、どこかへ行っちゃうの?」


「巴絵、落ち着け」


「いやっ!」


「撫子お願い……。私を置いて、いなくなったりしないで……」


 私はその時、恐怖に怯えていた。

 自分ではなく、撫子を失うという恐怖に。


「ふう」


 藍子お姉さんが、大きく溜め息をついた。


「まったくお前達ときたら、いつでも自分の事より相手の心配の方が先なんだな。

 わかったよ巴絵、座りな。私が説明する。

 いいな、撫子」


「う……」


 それから藍子お姉さんは、これまでのことを全部話してくれた。

 壬鳥家に伝わる言い伝えのこと。戯れに書いた婚姻届が魂の誓約となり、呪いが発現してしまったこと。

 そして、撫子の想いも。


「わあああん! わああん!! ごめんね撫子! ごめんね! ごめんね!!」


 話を聞きながら、私は声を上げて泣いた。

 泣きながら何度も何度も撫子に謝り……、そして最後に、叱った。


「撫子の馬鹿っ! どうしてこんな大変なことを黙ってたの!

 私を苦しませたくないからって、それであなたが苦しんだら意味ないでしょ!

 辛いことも苦しいことも二人で分け合えば半分になるって、どうして判らないのっ!」


「だって……」


 口ごもる撫子とお姉さんを見据え、私はきっぱりと宣言した。


「長野ね。わかりました、私も一緒に行きます」


「駄目だよ! 巴絵は寝てなくちゃ!」


「いやよ。一人でなんか、絶対に行かせない。

 撫子が私のために命を賭けてくれるというのなら、私の命も一緒に賭けます!」


「うん」


 お姉さんが頷く。


「そうだな、こうなったら一緒にいた方がいい」


「だったら私も行く!」


 振り返ると、蓬子ちゃんが立っていた。


「私だって壬鳥家の娘だよ。とも姉のことも、ほんとのお姉さんだって思ってるし!」


 その言葉に、撫子が慌てた。


「いつから聞いてたんだ。だめだよ、いくらなんでも蓬子には危なすぎるよ」


「でもっ!」


 藍子お姉さんは、二人のやりとりを見つめながら、じっと何かを考えている様子だった。

 そして暫くそうした後、ようやく決心がついたように立ち上がった。


「わかった。撫子と巴絵は先に行きな。

 私はまだやることがあるから、少し遅れて行く。蓬子は私と一緒だ。

 みんな、それでいいな」


 お姉さんには、何か考えがあるようだ。皆、口々に同意を伝える。


「よっし! こうなったら、地獄の底へだって行ってやるわ。いいわね撫子、しっかり付いて来なさいよ」


「なんでお前が仕切ってるんだよ」


「うるさい、お黙り」


 話が決まって、少し気が楽になった。そうだ、ちょっと聞いとこうかしら。


「ところで、藍子お姉さん?」


「ん、なに?」


「そんなにすごい術なのに呪文が『引っ込めおっぱい』って、なんか軽くありません?」


 するとお姉さんは、あっさりと。


「ああ、それは撫子のセンス。言葉なんか何でもいいんだよ、重要なのはそこに込められた想いだけだから。

 あと、おっぱいを掴む必要もないね」


 私がジロリと睨むと、撫子は無言で横を向いた。




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