学園のレク
菫草学園…学力コースの人達なら通うべき学園だと思うけど、レクコースの人達が通う理由はなんだろう。
この時、まだ僕は何も知らなかった。僕が菫草学園に来た理由も、この世界が現実から離れて行っていることを……ね。
「では、まず始めに私がお手本を。」
毒牙先生が舞台に立って、何かを呟く。みんなは不思議そうな表情を浮かべることもなく、当たり前のように毒牙先生を見つめる。
「ねぇ、神崎君。先生何やってるの?」
「分からない。今回のやつは初めてだから。」
分からないのに普通にしてられるんだ…
「あれ、毒か?」
「黄土色で深緑色の液体…だね。!?先生、これって、毒ですか?」
「毒…?」
「その通り。結城さん大正解。今、私が魔法で作ったのは毒です。」
魔法?この人、何を言っているの?
「と、言いたそうな顔ですね。」
バレてた。
「無理はありません。結城さんだけではなく、初めて魔法を見たときは、生徒達がみんな驚いていましたから。じゃあ、折角なので質問をします。魔法には、どんなものがあると思いますか?」
「え?えぇっと〜…空飛んだりワープしたり空飛んだり火、水、雷とかですかね?」
「空飛んだりが2回出てますが、そんな感じです。しかし、そんな楽しい魔法ばかりではありません。」
火、水、雷って楽しい魔法なの?
「例えば、私が今やった毒を生産する魔法とかですね。ただ、私が作った毒は空気を燃やして作ったもので、あまり毒とは言えません。錬金術などを使えば、毒は毒でも効果が断然違ってきます。他には何か思い浮かびますか?」
…思い浮かんだ。一応、言ってみようかな。
「先生、洗脳って魔法ですか?」
「洗脳…ですか。確かに洗脳は魔法の一種。植物を使ってでの洗脳や薬を使った洗脳よりも、魔法の方が効果は高いとか。」
「じゃあ、強すぎる洗脳魔法に脳が刺激されて、成長が止まることとかってあったりしますか?」
「詳しいですね。ある洗脳魔法の実験ではそのような結果が出たと資料に書いてありました。しかし、その洗脳魔法の実験により、100人の子供のうち、99人が亡くなってしまったらしいです。それに、洗脳魔法の実験台になってしまった子供達は、ほとんどが誘拐されてきた子供らしくて…」
「…」
「おっと。話が重くなってしまいましたね。そろそろ前回の続きといきましょうか。」
「前回の続き?」
「防御魔法の練習です。クラスの子達みんな出来てないから安心して。」
「はぁ…」
さっきの毒の意味。そして、いきなり魔法を使えと言われても困るよ。どうしよう。
『警報、警報。生徒の皆さんは、直ちに避難して下さい。警報、警報…』
「警報!?」
「皆さん、落ち着いて避難してください。ここは私が対処します。」
「避難って…まさか、不審者!?」
「分かりませんが、嫌な予感がします。結城さんも、みんなと一緒に早く逃げてください。」
「わ、分かりました!」
「先生…大丈夫かな。」
「大丈夫だよ。あの人、意外に強いんだぞ?この前も本当に何事もなかったし。」
「もしかして、戦ってるんじゃ…!!」
「結城、落ち着いて!大丈夫だから!」
「ダメ…だよ。1人で背負うなんてダメだよ!!行かなくちゃ…行かなくちゃ…先生が!!」
「結城!待て!結城!」
「はぁ…はぁ…」
「落ち着いて。とりあえず、危険だから教室に入ろう。」
「…ごめんなさい。」
僕、何してるんだらう。武器も持たないで駈け出すなんて…
「先生は今………!?」
「神崎君、先生居た?」
「結城!!見るな!!」
窓を覗いた時には、もう遅かった。確かに、神崎君の言う通り先生には傷の1つもなかった。ただ、先生と戦っていたのは…………この世のものとは思えない獣だった。
「…!!」
「何だよ…あれ…」
僕たちが驚いている間に、先生が獣の手首をナイフで斬る。だけど、獣から血は出ていないし、傷があっと言う間に癒えている。
「あの獣、倒せないの!?」
「何かしら弱点はあると思うけど…」
「弱点…あの獣は傷が修復出来るから…あ!!」
「何か浮かんだ!?」
「一撃で斬る…」
「…先生に伝えに行ってくる。」
「僕も行く!」
「ダメだ。結城の小さな体じゃ何も出来ない。」
「大丈夫。僕には…これがあるから。」
「これ、何かのラケット?」
「僕の武器。それだけだよ。」
「…そうか。無理はしないで、危なくなったら逃げる。それでいい?」
「うん。」
「よし、行こう。」
僕は誓ったから。3年前にあなたに言われた言葉。絶対に。果たしてみせるから。