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短編小説

もふもふでもののけなもののふ

作者: 黒田明人

 

 何時ものように学校からの帰り、何時もと違ったのは足元の光。

 元々夢想家だった彼は、転移キタコレと興奮して身構えていたんだけど、その光はすぐに消えたんだ。

 キョロキョロするも何も変化は無く、それでも諦めきれない彼はそこらを走り回ったけど何も変わってない様子にガックリとした。

 だが、何も変わってない訳ではなかったと彼が気付いたのはその夜の事。

 ゲーム三昧の後に布団に潜り込み、何の気無しに横を見ると半透明な存在が……


 ギャァァァァァ


 慌てて飛び起きて電灯を点けたんだけど、そこには何も存在してないように見えた。

 家族は彼の悲鳴に起こされて部屋に来たものの、お化けを見たという彼の言葉に寝ぼけたと思ったのか、母親は叱り付け、人騒がせだと親父に殴られた。

 そんな踏んだり蹴ったりな彼だったが、本当に寝ぼけたのかも知れないと思い直し、またぞろ電灯を消して横を見ないように布団に潜り込んで……ギシギシ……ドキドキ……ツンツン……うぐぐぐぅ

 怖いのを堪えてそっと見ると、半透明の武士のような存在がうろついている。

 布団の中に必死で潜り込み、ガタガタ震えていたんだけど、どうにもこうにも眠るどころの話じゃない。

 悲鳴を上げるのは簡単だけど、またぞろ消えて殴られるのは嫌だと彼は必死で怖さを隠して結局徹夜した。


 夜明けまでうろついていた存在は、窓の外が明るくなる頃には居なくなり、ようやく彼は浅い眠りに就く。

 完全な睡眠不足で叩き起こされた彼は、冷水で顔を洗うけど目が覚めない。

 なので学校では居眠りばかりとなり、今日はどうしたのかと先生に叱られる事になった。

 もちろんクラスメイトにも聞かれたが、さすがにお化けの話など早々やれはしない。

 それと言うのもつい先日の事、クラスのお調子者がよりにもよってお化けの話でクラスを騒がせたばかり。

 あれで女子連中から総スカンを食らったうえに、男子連中からもやり過ぎと言われてしょげていた。

 そんな時期にまたぞろお化けの話とかすれば、ただでさえ女子と話す機会の少ない彼がゼロになりそうな話。

 となれば誰にも話せないと彼は、ネトゲで夜更かしって話で誤魔化した。


 そしてその夜、睡眠不足だからと早々に布団に入ったものの、電灯を消すと現れる存在。

 確かに怖いけど、昨日は特に何もされなかったと思い出し、勇気を振り絞って観察する事にした。

 布団の中からそろりと顔を出し、うろついている存在を観察する。

 向こうが透けて見えるのは変わらないものの、武士にしてはちょんまげが無い。

 確かに刀のような物を腰に差してはいるんだけど、どうにも上半身が人っぽくないのだ。

 よくよく見ると角のようなものが2つ頭に付いているように見えた。

 鬼かよ……そう思った彼だったが、更に観察しているとどうにも違うように見えた。


 あれってもしかして……耳?


 そう言えば昔、動物がサムライになったゲームがあったなと思い出した彼は、それにとても良く似ていると感じた。

 気付けば恐怖感は霧散しており、興味が強くなった彼は思い切って起きてみる。

 半透明の存在はそんな彼に対し、こちらを向いて微笑んだ……ああ、ネコミミ武士だ、これ。


 これが彼と、もふもふでもののけなもののふとの出会いだった。


 しばらく見詰め合っていたが、そこに何か意志を感じる。

 どうにも服を脱げと言っているようにしか見えないんだけど……え、下も?

 確かにこんな夜中、しかも自分だけの部屋。

 目の前に半透明の存在が居て、それが裸になれとジェスチャーするんだ。

 うえっ、パンツも脱ぐの?

 いかに恐怖感が消えたと言っても、下手に逆らうと何をされるか分からないと彼は、羞恥心を堪えて素っ裸になる。

 半透明の存在はにこりと微笑んで近付いて来る。


 うおおお、おいおい、何すんだぁぁ、うおおおっ、あれっ?


 ふおおおおお、何だこれぇぇぇ、気持ちいいぃぃぃぃ、全身もふもふだよこれ。


 気付いたら彼はまるで、ファンタジー小説で言うところの、獣人族になっていた。

 動くたびに全身を貫く快感に、彼は身もだえをする。

 そのうちに下腹部が熱くなる衝動に気付いた彼は、その対策をしようと机の上の箱に手を伸ばす。

 その動きで更なる快感に、急いで取って当てて、はふうっ。


 これ、ヤバいだろ。


 賢者状態になった彼は、半透明の存在の意思のようなものが感じられるようになる。

 どうやらこの状態に慣れてくれと言われているようだ。

 何処か分からないけど、この世界じゃない他の世界から、犯罪者を追って来たらしい。

 たまたま転移した時に居た彼に波長が合ったようで、捜査に協力して欲しいと言われているみたいだ。

 どうやらこの状態で服を着ると、融合が解けてしまうらしい。


 つまり、本人は裸の感覚で外を走り回れと言う訳だ。


 鏡を見てみると、確かに獣人族にしか見えず、それはそれで面白いが、下着すらも着けてない状態だ。

 裸族じゃあるまいし、この状態で外を走り回る? 冗談だろ。

 それ以前に、この快感を何とかしないと、走るどころか歩いているだけでイキそうになる。

 うおお、またキタ……その夜、何度も何度も栗の花の匂いを発生させた彼は、疲れ果てて布団に潜り込む。

 挑戦はまた明日よろしくと、そのまま深い眠りの中に入る。


 しかし、彼が熟睡する事はなかった。


 だって、寝返りを打つたびに刺激が来るもんだから、桃色の夢にさいなまれる事となり、布団を汚す事になったからだ。

 目覚めた彼はその事を忘れており、慌ててシーツを剥いで丸めて押入れの中に突っ込んでおく。

 夜中にこっそり洗おうと思った彼は、そそくさと処理をしてパンツを履けば、するりと抜ける感覚と共に、心地良い感覚も抜けていく。


 ああ、名残惜しい。


 そう、彼は一晩でかなり慣れており、まるで人肌を恋しがるような気持ちになっていた。

 物足りなさを感じたまま学校に行くが、どうにも落ち着かない風情。

 と言うか、下着の感触がどうにも嫌なのだ。

 また味わいたい……そう思うようになった彼は、授業が終わるのをひたすら待ち、終わったら一目散に家に帰る。

 そして部屋に飛び込んで素っ裸となり、あの感覚が来るのを待つ事になる。


 ゾワリ……


 待ち焦がれた快感の中、彼は右手で対策をしたまま動き回わる。

 これに慣れないといけないんだと、まるで使命感のように動き回る。

 時々、痙攣するみたいになるのは仕方が無い事なんだと、彼はひたすら動き回る。


 数日で刺激にも慣れたのか、栗の花の匂いをさせる事はなくなったが、それでも心地良さは変わらない。

 そしていよいよ任務の時と、深夜の街を徘徊する事になった彼。

 ターゲットが近いと言われ……え、靴もダメなの?


 素足で歩くと足が気持ち良い。

 アスファルトの刺激が心地良い。

 風が身体に当たると……うおおお、新鮮な刺激はヤバい。

 動き回るぐらいの空気の動きには慣れていても、強い風が身体に当たるとまたぞろ強烈な快感が身体を貫く。

 どうせ誰も見ていないだろうと彼は、電信柱を犠牲にした。


 まるで変質者だな。


 それでもいよいよターゲットが近いらしく、身体のコントロールを貸して欲しいと言われているようだ。

 どのみち刀などは使えない彼は、そう言う事ならお任せとそれを承諾するが、すぐに後悔した。

 いきなり強烈な速度で走り出し、ビルからビルにと飛び回る。

 視界はジェットコースターと言うか、それのもっと派手なのと言うか、そして感覚はもうどうにもならないぐらいに強烈な感覚。

 彼は体験が無かったから気付かなかったが、その時の彼の快感は異性との体験の何倍も強いものだった。

 そんな快楽を半ば強制的に浴びせられた彼は、任務とやらが終わった頃には精根尽き果てていた。


 身体に力が入らないからと彼は、家まで身体を動かしてくれと頼む。

 全身に体液が付着して大変な事になっていたので、そのまま浴室に入ってシャワーを浴びる彼。

 浴びながら彼は考える……何回ぐらいだったんだろうと。

 そう、実際には数え切れない程の、強制的な快楽を体験した彼。

 気だるい気分のまま、彼は今度こそ熟睡する事になる。


 翌朝、妙にサッパリとした気分のまま目覚めたが、どうにも物足りなさを感じてしまう。

 自分に何か欠けている気持ちのままで学校に行くが、何か欠けているのか分からない。

 休み時間、クラスの男子の一部が妙に騒いでいる。

 何かと思って聞いてみると、今日の健康診断での女子の着替えがどうのこうの。

 普段ならすぐその気になる彼だが、妙にその気にならない。

 だけど、こういうのも付き合いと、彼は誘われるままに参加する事になった。


 周囲が興奮する中、彼は冷静にそれを観察する。

 発展途上な異性の裸体を、冷静に観察している自分。

 大きい小さいと周囲で聞こえる声の中、見える範囲の異性の身体の一部の膨らみの大小を冷静に見ている自分。


 そう、彼は異性に対する興味を喪っていたのだ。


 それからあの半透明の存在には出会ってないが、彼はどんな事をしても興奮する事が無くなっていた。

 まるで一生分の快楽の体験をしたかのように……実際、あの最中は思考も定まらず、全身気だるさの中での強制的な快楽の嵐だった。

 あれと比べたらどんな行為も、物足りないとしか思えない。


 また足元が光らないかなと、街を歩くたびに期待をしている彼だっだ。

  

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