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44, 12才 ③




「貴女が大分規格外という事は、よく解りましたわ…」


 遠くを見る目になりながら、今まで沈黙していたチェシーが、悟りを開いたような微笑を浮かべた。

 ああ、この表情もよく見るというか、最近も見かけた。


 あれは確か、王家直轄領地の鉱山の採掘場で、従事している犯罪者が反乱を起こす画策しているとタレコミがあって、それを捕まえる為に作戦会議をしていた時の事。

 段取りと役割や配置を決めて、最終確認を終えた時に、何か思い付いたラッセルが冗談混じりに言い出した。


「その荒んだ採掘場にいる奴らもよ、お嬢を見れば悟りを開けたんじゃねぇか?」

「え、私?」


 周囲にいた十数人の『影』たちが、解ると真面目な顔で重々しく頷いた。こんなに誉められるなんて、何か照れる~。


「まさか知らない内に、他者を改心させる程の高い徳を積んでいたとは…!!」

「いや、そうじゃねーよ」と首を横に振る『影』の面々に、「へ?」と声が漏れた。


「そいつらの元にお嬢を放り込んだら、この容姿に見たロマンが粉砕される残念さに衝撃を受けて、思わず悟りを開いちまうって意味だ。ドルマンたちやその他大勢みたいに」

「歯ぁ、食いしばれ!」


 豪快に笑うラッセルと『影』たちに、殴りかかった。乙女に対して何て失礼な!


「わぁっ、待て、お嬢!」

「問答無用! 衝撃で悟りを開くんでしょ」

「物理はやめれ!」


 ケイが部屋に来て止めるまで、暴れ…調教したのは仕方ない。その後は暫く、『影』たちが猛獣を見る目を向けてきたけど、ガン無視した。


 デゼルや一部の『影』以外に、冷ややかに接していたら、泣きついて謝ってきたので、貢ぎ物の珍しい限定お菓子で手打ちにした。


『影』たちにも賊を改心させる衝撃を与える程のお嬢様って言われたとチェシーに話したら。


「そこは得意気に言う所ではありませんわ!? それでも本当に仮にも」

「ヒロイン(仮)ですけど何か?」

「開き直らないで下さいませ――!?」

「まぁまぁ、これも何かの縁でしょ。会えて良かったよ」

「それでは、一緒に学園に通う事を考えて下さいましたの?」

「それは嫌」

「恥を忍んでお願いしましたのにっ!」


 チェシーが両手で顔を覆ってしまった。

 うん、悪い子どころか普通に良い子っていうのは解ったよ。正直に事情も話してくれて、ちょっとフリッドに席を外して貰って、彼女が私を利用して平民になりたがっていた理由も聞いた。ついでにフリッドにも、どうして護衛になったのか経緯を教えて貰った。


 腹を割って話して、お互いに攻略対象者はいらないって意気投合もした。それでも、学園に通うかは話が別。

 まぁ、通っても支障ないかもとは思うよ。でも折角ここまで来たのに、わざわざ通いたいとも思わないんだよね。


 この一年も、スピネル王太子やイナルやキースたちと数回しか鉢合わせしないで、お互いに関わらなかった。頑張ってきた甲斐があって、あの三人にとって私が頭痛の種であっても、恋愛の好意がない事は知っているし。

 なるべく物語に関わらない範囲でなら、チェシーに協力してフリッドとの仲を応援したい気持ちはある。


 チェシー曰く。側にいないのに物だけは何でも与えて甘やかす父親に、遠巻きにする使用人たち。満たされず何もかもが気に入らず、我が儘に八つ当たりしながら日々を過ごしていた時に現れたのが、間違っていると叱り、唯々諾々と従わない、護衛のフリッドだった。


 生意気だと始めは反発し、迷惑をかけて困らせて、嫌がらせをして追い出そうとした。けれども、フリッドは護衛としていつも側に居てくれた。


 勉強やマナーが嫌だと言えば、どうしてそれが必要か話し、使用人に暴言を投げつければ、何が悪いか語られて怒られた。

 そんなフリッドに、記憶が戻る前のチェシーは、役立たずの護衛や、ロクに戦えない無能の騎士等と酷い事を言ったそうで。


 彼のせいじゃないのに、騎士として護衛を振り切って遠駆けしたブレイブ王子を中級魔物五匹から一人で守って、怪我の治療もままならない中で戦い、三年前に重症を負ったフリッド。

 怪我は治っても、剣術や魔法に問題はなくても、二十分も戦闘をすれば、障気の後遺症で古傷が痛んで動きが鈍り、体力が削られる為に、近衛騎士を辞めざるを得なかった。


 騎士団長が実力を惜しんで、城の衛兵や街を守る警備隊を薦めたのを断り、田舎の実家に引っ込もうとしたのを引き留め、熱心に口説いたのが、チェシーの父親であるルヴィオヴィレッタ侯爵だった。

 どうか、自分の代わりに寂しい思いをさせないよう、いつも側に付き添って叱って導いてやって欲しいと、何度も真摯な手紙を貰って、会えた時には頭を下げられたそうだ。


 自暴自棄になっていたフリッドは侯爵と何度か手紙でやり取りをして、引き受ける事に決めたらしい。フリッドにとって、恩人との事だった。


 記憶が戻る前の高飛車チェシーは、怒っても嫌わず、最長でも半年と保たずに辞めた側仕えの使用人が多い中で、仕事だろうと一年過ぎても見捨てずに側にいてくれるフリッドを徐々に認め、他人の意見に耳を貸すようになっていた。

 それから十歳の誕生日に記憶が戻り、今のような関係になったそうな。


「わたくしにとっては憧れであり、父や古くからの使用人の信頼も篤い、初恋の人なのですわ」


 本気でずっとフリッドの側にいたいと願い、その為に王子たちの婚約者候補から外れたい事。ヒロインと攻略対象者が上手くいって穏便に婚約破棄されたいと考えていた事も、あわよくば現実で物語を見てみたかった事や、平民になってもいいからフリッドと共に生きたい事、彼に迷惑がかからず好きな人がいない限りは頑張りたい事を話してくれた。


 だから学園に一緒に通って協力して欲しい、と。

 チェシーの気持ちは解らなくもないけど、それは私の望んだ未来とは違うんだよね。強制力の不安がある危険を冒して通うメリットも何もない。


 それに、「具体的な話として仮に平民になったら、どうやって生活していくの?」と聞いたら、ちょっと困っていた。

 実家からの援助で生活するつもりでもいいけど、貴族のマナーは貴族を相手にする時とか以外は不要だよ?


 刺繍なら出来ると言われても、仕事にするなら手慰みの刺繍と違って、決まった図案を正確に期限内に一定数を仕上げなくちゃいけない。前世で食堂やカフェやどこかのお店でバイトした経験もないっていうし、働くのも大変そう。


 やっていけば、料理でも接客でも慣れてこなせそうだけど、これ迄の生活と随分と変わる。貴族の高い魔法資質を冒険者として活かすにしても、社交界とは接する人も態度もガラリと変わる。

 チェシーがやっていけるか不安で、勝手に心配しちゃった。

 思っただけで、本人のやる気に水は差さなかったけど。


 そんでもって、フリッドからも話は聞いてるんだよね。流石、常に王族の機微を読んで仕え、周囲の把握に長けていた近衛騎士。チェシーの気持ちにも勘づいているようだった。


 けれど、常に側で離れずに接していた若い異性が自分のみだから一時的に憧れているだけで、学園に通って生粋の紳士に接すれば世界が広がり、考えもまた変わるだろうと。

 どっちの言い分も解るから、私は沈黙した。


「というか、私が学園に通っても何も変わらないと思うよ。攻略対象者には関わらないつもりだし、通ったとしても変装するか、引きこもるよ? 特に協力出来る事も何もないし、何でそんなに通って欲しいの?」

「貴女がいるだけで、わたくしは安心して頑張れる気がしますの。ケイからリフィが、これ迄してきた努力の一部を聞きましたわ。ヒロインではなく、貴女が努力してきたのだと」


 私は思わず、庭先で軽く鍛練するフリッドが無茶しないか見守る従兄弟を見た。


「わたくしは何もしませんでしたの。平民になれば、今の生活が無くなると頭で解っていても、実際の生活はこれ迄と変わらず優雅に暮らしていけると、父やフリッドが助けてくれるとどこかで甘えておりましたわ」

「……」

「まずは婚約者候補から外れたいと父にお願いしてみます。王妃様たちの婚約者を見定めるお茶会も、なるべく欠席するようにしてわたくしの意思を遠回しにでも伝えてみようと思います。自分の身の回りの事を出来るようにして、料理や掃除も少しずつ学んで、冒険者をするにしても強くなりますわ。リフィにはそのお手伝いをお願いしたいんですの」

「手伝いは構わないけど、別に私が学園にいなくても大丈夫じゃない?」

「いえ、友達として通って欲しいのですわ。何かあった時に、相談にのって助けて欲しいのです。わたくしも貴女が困っている時は助けます」

「……」

「貴女に何もメリットがない事は解っておりますわ。でもリフィ、気になるのではなくて?」

「何が?」

「本当にシナリオが潰れたかどうかですわ。貴女が殿下方に恐怖を植え付けて、陛下方を交渉おどして関わらせないようにした事も理解しましたわ」

「うん、その通りだけど、もう少しオブラートに包んで欲しいな」

「リフィがこのまま平民として生きるものいいと思います。ですが、シナリオとは別に、ケイやサンルテア男爵夫人の事が気になるのではなくて? 暫くは近くで見守りたいと思いませんの?」

「……」

「それに、物語の結末の頃には、本当にわたくしの語った未来の通りか確かめる為に、或いは別の不測の事態に備えて、貴女はこの国に戻って来るおつもりでしょう?」

「……」

「でしたら、共に学園で見守っていても問題ないのではなくて? リフィが変装しても、引きこもっても構いませんわ。目立ちたくないのであれば、わたくしも直接関わらないようにしますし、学園で起こるイベントの回避にも協力しますわ。どうですか?」

「通わなければ面倒の方が少ないし、そのくらいじゃ心惹かれないなぁ」

「では、学園に在籍してくださるだけで、協力代として年間二百万バールお支払い致しますわ」

「ん~」

「……貴女が欲しがる上流階級の情報も、必要であればわたくしが集めに出向いても構いませんわ。陛下たちの周辺のお話もリフィより早く入手出来ますわよ?」

「うーん…」

「では、言うか言わないか迷っていた情報もおまけで付けますわ!」

「どんな情報?」

「人気の商品にありがちな続編の話、と申し上げておきますわ」

「は?」


 え、ちょっと待って。続編?

 確かにあるあると言うか……つまり、『きみまほ』にも続編がある……の? ……マジで? 寝耳に水だよ!


「リフィは本だけでしたわよね。これでもわたくしは、続編を少し進めておりましたし、情報も早くから色々と入手しておりましたのよ?」

「という事は、全てを知っている訳ではない?」

「………で、ですがっ、続編でも変わらずにヒロインは貴女でっ、そのっ、試験期間中の発売でしたが、完徹で一人は攻略しましたし、公式ブログを漁って大体の話の流れも知っておりますし、夏休み中に全スチルコンプリートして、最低でも三周してやり尽くそうとしていた矢先に、亡くなったようでっ」

「それで良いのか女子大生」

「よくありませんわ! せめて後三人、新キャラを一度は攻略しておきたかったんですの!」


 くぅっ、と悔しがるチェシー。私は無言で見守った。

 コレは突っ込むと話が進まなくて面倒そう。

 それにしても、喜んでいた所に続編の話があるとか…。しかも、新キャラ…面倒臭い。関わりたくない。そんな感想しか出てこない。


 私は庭からリビングに戻るケイたちを見て、悩む。続編情報は欲しい。警戒しておいて損はなさそうだし、初期のシナリオと大分違っている時点で、続編も番狂わせ起こっていて欲しいなぁと甘い事を思いながら。


「どうかしたの、リフィ?」

「あのね、チェシーが続編の話があるって言うの」

「続編…」


 当惑するケイとフリッド、アッシュにかい摘まんで先程までのやり取りを聞かせた。

 続編シナリオ潰しの為にも、学園には通わない方がいいかなぁ…。


「それにリフィ、続編では貴女の家族が今後、大きく望まない変化をする可能性の内容が――」

「私と貴女の仲だからね、勿論、学園に在籍するよ! だから、その続編の内容を存分に知る限り話して」

「変わり身が早すぎません!?」

「何か問題が?」

「ありませんわ。ありませんけどっ、何故でしょう、物凄く選択を誤った気がしますわ!」

「大丈夫、安心して。一緒にシナリオを潰す為に、ヒロインですけど、タダ情報源(悪役令嬢)と友達になりました」

「今、変なルビを振りませんでした?」

「気のせいだね」

「これで巻き込まれる犠牲者トモダチが増えたのか…」

「精霊様!? 今何と仰いましたか!?」

「いや、何も。それとアッシュでいーぞ」

「仲良き事は美しきかな~」

「お前が言うと胡散臭すぎだ」

「アッシュ酷い!」


 私は大事な家族を壊そうとするシナリオを、ぶっ潰したいだけだよ!!

 本当に安堵したのも束の間。一難去ってまた一難とはこの事か。悉くどうあっても私と運命シナリオは敵対するようになるらしい。本当に忌々しい!


 まぁそんなこんなで、何故かケイが用意した誓文書にサインして、学園に在籍する事になった。……ケイさん、ちょっと準備よすぎじゃない? 術の組み込まれた誓文書のお陰で、後から無効にも出来ないし…。そりゃ、協力代や情報提供やシナリオ回避の援助とかで得る物もあるけど…。


 誓文書を手にしてチェシーが満足げに微笑むのを横目に、私は隣に座った従兄弟をジトーっと見やった。動揺もせず、完璧な所作でお茶を飲んでいる姿に少しイラッとくる。


 約束だからと、チェシーがお茶を一口飲んで、続編について話してくれた。

 端的に言うと、人気が物を言ったのもあるけど、『きみまほ』ユーザーの希望で、攻略対象者ではなくサブキャラで人気があった二人を続編で攻略可能にし、そこに新キャラ二人と既存の六人を加えた十人が攻略対象者らしい。――うん、心底、面倒臭い。


 しかも、チェシーの気まずそうに付け加えられた一言に、ちょっと幽体離脱したくなった。




・・・***・・・(チェシー)




「……実は、続編は…その……、十八禁でしたわ……」

「ごふっ」


 言いにくい一言を何とか告げますと、紅茶を飲んでいたフリッドがわたくしの隣で噎せ、リフィは真顔で虚ろな目になりましたわ。その横のケイの表情は変わらずとも、空気が怖いと言いますか、まだ暑い夏の午後ですのに、冷気が……。精霊のアッシュ様が無言で三歩、離れられました。


 取り敢えず、これ以上、言いにくく気まずくなる前に、話してしまいましょう。


 対象年齢が十六以上でした『きみまほ』ですが、ユーザーの殆どが十八以上の大学生や社会人女性で、大人と言っても過言では御座いませんでした。

 そこで作られたのが『君に捧げる永遠の魔法Ⅱ』ですわ。


 既存の攻略対象者六人とは勿論の事、テーマは大人の魅力という事もあってか、追加された四人全員が年上のキャラでしたが、美形で艶やかな容姿でしたわ。

 物語は『きみまほⅠ』の後のお話で、ヒロインも十八歳でした。


 学園の話がメインでしたⅠに比べて、Ⅱは政治や仕事、社交界を中心にした物語でしたわ。

 大量の魔物から国を救ったヒロインが、城で国一番の魔法使いとして仕えている所から話が始まりますの。


 続編では始めから誰のルートへ進むか選択して、相手と関わっておりましたわね。

 お城でお会いしますのは、スピネル殿下、ブレイブ殿下、イナル様にキース様。


 皆様それぞれ未来への道を歩まれておりまして、スピネル殿下ですと、王太子の最高の守り手としてお側に。ブレイブ殿下の場合は彼の外交補佐としてお側に。イナル様は、魔法だけでなく国の情勢を知って国の為に動けるよう忙しい宰相の補佐としてお側に。キース様ですと、他国からも狙われる貴重な魔法使いとして接近戦の指導であり、彼がヒロインを守れるようお側にいる、という設定でしたわ。


 学園でお会いしますのは、ケビン様とハインツ殿下。

 魔法使いとして後進の育成も勤めと、空きが出た魔法の講師として赴任しますのよ。


 そして新キャラ四人と関わりますのは、街の守護ですわ。

 新米の魔法使いとして経験を積む為に、宗教国家トレアとの国境であるルドルフ地方に派遣されますの。ここまでは皆様、宜しくて?


 わたくしが紅茶で喉を潤しますと、対面では「はぁマジかー…」と頭を抱え込んで悩ましげなリフィ。その姿も愛らしいですわ。

 意識が戻ったようで良かったのですが、親の仇のようにわたくしを見るのはやめて下さいませ。


「で、肝心の新しい攻略対象者四人て誰?」

「まずはⅠで姿が少ししか出なかったにも関わらず、人気がありましたサブキャラとして、サンルテア男爵とその部下のデゼル様――って、ボソッと『消えろシナリオ』と呟くのは止めて下さいませ!?」


 わたくしのせいでは、ございませんわよ!?

 主人公の男爵家に引き取られた回想シーンや、キース様と出会うお茶会のシーン、ハインツ殿下やケビン様との冒険者としての出会いの回想シーンで、美形で大人な血の繋がらない独身の男爵と、引き取られてからの護衛であり冒険者としてのヒロインにも同行する伯爵家三男のデゼル様のお姿が出た際に、多くのユーザーが憧れたのですわ!


 つい知っている知識を力説しますと、リフィが「ハハッ」と渇いた笑い声を返し、ケイは重苦しい空気を纏って少し俯いてしまわれました。――そうでしたわっ、ケイにとっては実の父親と長い付き合いのよく知る部下でしたわ! こんな話を聞かされては、いい気分はしませんわよね…。


却下ムリ

「え…? リフィ、今なんて?」

「その新キャラ二人は駄目。ウフフ、お母様と幸せそうなお父様の仲を引き裂くような役なんて却下だよ。デゼルだってめっちゃ紳士な優しいお兄さんで、幸せを願っているのに、ヒロインと結ばれる? そんな不幸そうなシナリオ潰すしかないよね」

「落ち着いて下さいませっ。取り敢えず、本気のトーンで淡々と笑顔で話すのはお止め下さい。怖いですわ…!」

「僕もリフィに賛成かな。そんな話、仮にある未来だとしても認めるわけにはいかないよね」


 ヒイィッ!? 更に寒気がっ! 夏ですのに腕に鳥肌が出来てますわ! 二人で冷気を放つのは止めて下さいませっ。

 わたくしもフリッドも体が小刻みに震えました。


「続編とやらの可能性があるとしたら、父が母を亡くしてリフィにその面影を重ねて見て…とか?」

「ますます却下。そして、ありそうな陳腐なシナリオパターンだね。まぁ認めるわけないから、ゴリッゴリに磨り潰してポイしよう」

「……」


 わたくしとフリッドは余計な事は申しませんでしたわ。だって言っても、絶対に聞いてくれませんもの!

 笑顔の会話でこうも威圧感を放つ方々なんて、見た事ありませんわ…っ!


「陳腐な話と言えば、ひょっとして新しい攻略対象者の一人ってモレク・ルドルフ、とか?」

「な、何故おわかりにっ?」


 戦慄しましたわ。何ですの、この少年は! 千里眼ですか、予知ですかっ?

 思わず生唾を飲んでしまいます。


「いや、よくある話の一つとして、敵対関係で恋に落ちる話もあるから。それなら、国が吸収したルドルフ地方の跡取りであるモレク・ルドルフもありかと思っただけだよ」


 にこりと微笑む綺麗な笑顔に背筋が凍りつきましたわ…。

 何ですの、このハイスペックな男爵子息は!

 誰もが見惚れそうな神秘的な美少年であり、全属性を持っていて、武術もフリッドより強くて、もうすぐ男爵になるとか、この二人は揃ってチートが過ぎますわ!


「モレク・ルドルフ? あり得ねーですわね」

「は?」

「リフィ、落ち着いて。動揺か怒りのせいか、言葉遣いがおかしくなってるよ」


 ケイが横から頭を撫でると、始末しよう位に真顔で据わっていたリフィの目が、忌々しい程度に和らぎました。……どれだけ嫌悪してますの…?


「……何故それ程、敵視しておりますの? 彼と面識が御座いまして?」

「ない。けど、嫌い」

「ですから、その理由は?」


 頑なに口を閉ざすリフィに、苦笑したケイが教えて下さいました。過去に、モレクと関わったケイが重症を負った事や、リフィと面識がなくとも騎士団に所属するモレクとケイに交流がある事。


「……何と申しますか………本当に大分、話が変わっている気がしますわ」

「本当っ?」


 表情を輝かせるリフィが、可愛くて尊すぎますわ!

 憧れて大好きなキャラだったヒロインが目の前に! ――中身は規格外のリフィですが…。


 自身で突っ込みながら、目の保養の美少女を堪能します。あれだけ興奮して憧れた、大好きだったヒロインでしたのに…。

 今はヒロインではなく、共感を持てる新しい友人のリフィとして認識している自分に、不思議な気分になりましたわ。


「チェシー、どこがⅡの話と変わってる?」

「まずは男爵夫人が居る点ですわね。ⅡではⅠの設定を受け継ぎつつ、Ⅰをリセットした形で始まりますので、当然、ケイと貴女のお母様は存在しておりませんわ。アッシュ様もおりませんでしたし、精霊王の召喚に一度は成功しましたがまだ完全に扱えないという設定でしたわ。それに、男爵家に引き取られてから養父となる男爵と、護衛のデゼルが付きっきりで溺愛してたという設定でしたが……」

「デゼルは付きっきりの護衛じゃないよ。二人とも私を可愛がってくれるけど、お父様の最愛はお母様で、デゼルは女性が苦手かな」


 リフィが腕を組んで考えながら、答えてくれました。


「おまけに私はモレク・ルドルフと面識はないし、今後一切会う気もない。それに、ケイが今年中に爵位を継いでサンルテア男爵になるから……確かに、大幅に始まりから違っているね…」

「ええ、そうですわ。それに殆どの攻略対象者とお会いになってますのに、ほぼ絶縁状態なんて……」

「よくやった私!」


 己を褒め称えるリフィに、もうどう突っ込んでいいのか解りませんでしたわ。

 でもこれが、リフィがシナリオを回避しようと動いてきた結果、なのですわね。そう思うと、感慨深い気もしますわ。

 晴れやかなリフィの表情に、わたくしも少し誇らしくて嬉しくなります。


「もう本当に、お母様が亡き者になる可能性があるとか、お父様やデゼルが話に巻き込まれてどうこうなるとか、またそんな面倒臭い話が用意されていたら、どうやってシナリオ抹消しよう状態だったよ。油断は出来ないけど、少しでも変わっている事に安心した。ケイとアッシュを巻き込んで、色々と小細工するのも大変だからね~」

「……」


 軽く笑ってリフィが言いましたが、わたくしはコメントを差し控えさせて頂きましたわ。取り敢えず感じましたのは、彼らの決定に逆らうべからず、ですわね!

 きっと、わたくしでは止められません。

 あぁ何だか、わたくしも悟りを開けそうな気分ですわ…。


「それで残り一人の新しい攻略対象者は誰?」


 普通に問われただけですのに、わたくしは蛇に睨まれた蛙の如く動けず、微笑むケイに背中から溢れる冷や汗が止まりませんでした…。


「えぇと、後の一人は、その、続編でのメインの攻略対象者の一人で、物騒な職業の方ですわ…」

「うん、誰?」


 ……何でしょう、このどんどん追い込まれているような圧迫感と勝手に体が震える恐怖…。

 リフィも大概ですが、この方が一番厄介で怒らせてはいけない魔王様感がございますわ。


「あ…暗殺者の『白い悪魔』はご存知でしょうか?」


 言った瞬間、顔を覆いたくなりましたわ。

 リフィが顔を歪めてヒロインにあるまじき表情で舌打ちし、ケイに至っては変わらない笑顔なのに、夏の部屋が氷点下になったような錯覚を受けました。……こ、怖いですわっ。何なんですの、この二人は!


 本能で自然とカタカタ震えて涙目になりましてよ。

 横でフリッドが顔面蒼白になりながらも、手を握ってくれたのでまだ大丈夫ですが。……ちょっとだけ嬉しくなります。

 アッシュ様は魔お…ケイから離れて、リフィ側に移動しましたわ。


「ロットバルト、ね。僕もリフィも知っているよ」

「お、お知り合いでしたの?」

「一度会った事があるだけだよ。因みにロットバルトとの出会いってわかる?」


 話の続きを促されたので、わたくしはなるべくケイを見ないようにして、口を開きます。


「ロットバルトとの出会いは、とあるパーティーでヒロインが『白い悪魔』に誘拐されるのですが、会場から拐う際に傷を負ったロットバルトを放っておけず、優しいヒロインが簡単な初級魔法で治療するのですわ」


 このⅡのメインキャラのロットバルトだけは唯一攻略しておりましたのよ。やはり、王道から始めておきたかったので。

 何より前評判が良くて、発売前に公式の情報を見た時から、美しき暗殺者のロットバルトの人気が物凄かったのですわ!


「痛そうな顔で、誘拐した自分を案じるヒロインに、『変な女』と呟きながら月下で見つめ合うスチルが、それはもう美麗でしたわ! 切なくも互いに興味をひかれている様子が解るもので、そこにヒロインを捜索する護衛の包囲網が迫り、依頼主の変態に渡すもの気が引けたのか、『次会ったら、この借りは必ず返す』と真摯に告げて、ヒロインを無傷で手放すのですわっ!」


 思い出しただけで、胸が締め付けられますわ! 本当に独特の雰囲気に魅せられる素敵な場面でしたのよ!

 是非とも生で拝見し――って、そうでしたわ! 既に面識があるという事はっ、リフィがあの場面を再現し……ましたの?

 急に興奮がさめていくのが自分でも解りましたわ。ちらりとリフィを見れば、首を傾げられました。


「変なモノを見る目はされたかな」

「はい!?」

「でも他は、怪我の治療どころか、口喧嘩で互いに罵り合って反発してたよ。殴り合ったし」

「ぃやあぁぁあ!? 予想はしていましたが、綺麗な思い出がっ、素敵な話がっ、ブチ壊されましたわ――!!」

「それこそ正解!! 続編を知らずともフラグ折るとか、私エライ!」


 何故そんな展開になっておりますの!?

 いえ、解っておりますわ! きっとリフィが何かしたに決まっています!!


「期待はしていませんが、もう宜しいですわっ! わたくしの記憶の中で保存しておきますからっ」

「あ。因みに、『この借りは必ず返す』って凄く恨みを込めて言われたよ」

「記憶すらも壊されていきますわ…。もうっ、どうして恨まれておりますの!?」

「色々あってね…。うちのケイが天使並みに美麗なのは解るけれど、私より色気があって好みでそそられるとか言っちゃう変態悪魔だったから」

「待ってリフィ、凄く語弊があるから!! 違うよね、そうじゃなかったよ!?」


 ケイが慌てたように口を挟みましたが、衝撃を受けたわたくしはリフィの話しか聞いておりません。


「何でこんなに残念仕様になっておりますのっ!?」

「細かい事は気にしないで」

「少しは貴女が気にして下さいませっ」


 この数時間で叫び過ぎて、肩で息をしますわたくしの手をリフィがそっと取り、熱い眼差しを向けてきました。

 ちょっとドキッとして、たじろぎます。


「な、何ですの?」

「ばっちりなツッコミ! 是非ともパートナーに」

「なりませんわよ!? どうして貴女と漫才をしなくてはなりませんの!」

「フラれた…」

「落ち込まないで下さいませ。そもそも芸人は目指してませんわっ」

「リフィ。チェシーをからかうのもその位にしておきなよ」


 ケイの言葉に脱力しましたわ…。


「……これ迄の話からしても、何だかもう、ケイの方が攻略対象者たちと交流があって、興味を持たれてませんこと?」

「私もそう思う! やっぱりここは、ケイをヒロイン的なモノにして、私は退場するべきだよね!」

「満面の笑顔で仰らないで!?」

「絶対反対。そんな事したら怒るからね?」


 わたくしとケイに、「冗談」とリフィが軽く笑いますが、信じられませんわ。

 仮にもこんなに可愛らしくて、美し過ぎる少女がどうしてこんな風に……。


「……リフィ。少し、チェックさせて下さいませ」

「何を?」

「護衛を連れて街で買い物をしていましたら、チンピラに絡まれました。その時はどのように対応しますの?」

「あれ、何処かで受けた事がある質問」

「リフィ、深窓の令嬢らしく答えて下さいませ」

「勿論、任せて。日々、立派に深窓の令嬢らしく成長しているから」

「では、答えを」

「『貴方、わたくしが何処の誰か解っていての狼藉でしょうね。良い度胸ですわ』って言う」

「どうして貴女が悪役令嬢じみた台詞を仰いますの――!?」


 そして、どうして悪役令嬢わたくし(本物)が嘆いておりますの!

 隣ではケイが顔を背けて笑いを堪え、アッシュ様が残念そうに嘆息しましたわ。首を傾げたリフィがハッとします。


「わかった、そこに高笑いもつける!」

「ドヤ顔で仰らないで!? 更に悪役令嬢らしい台詞にしてどうしますの!」


 この方には、乙女力が皆無ですわ! 残念な程に壊滅的なんですわ!

 フリッドにそっと肩を叩かれました。励ましをありがとうございます。


「でも、知れて良かったよ。続編があろうと、大体のシナリオが破綻しているから問題なし」

「嬉しそうですわねぇ…」

「ついでに、Ⅱでの結末を教えてほしいんだけど。ラストはどうなるの、チェシー?」

「……えぇと、その、実は……ロットバルトルートだけとはいえ、最後までやるにはやったんですのよ」

「うん、それで?」

「発売前日、興奮のあまり眠れず、試験終了後に予約していた物を購入して帰りまして、勉強そっちのけで寝食を忘れてプレイすること十六時間……後半は若干意識が飛んでおりまして…」

「おまわりさーん、危ない子がここにいます!」

「な、何を仰いますの! 仕方ありませんでしょう、とても楽しみにしていたのですから! 兎に角終らせて、後からじっくり堪能しようと考えておりましたのよ。そうしたら……」

「つまり、全然覚えていないと?」

「……ハイ。夢現の中で兎に角、後少し、もう少しと…。一度クリアすれば後で、会話もスチルもイベントも確認できましたからゆっくり物語に浸ろうと思っておりましたの…」


 皆様の視線が痛いですわ…。

 だってどうしてもクリアしたかったんですもの…。凄い方は、一日で三、四人は攻略しておりましたのよ。


「わたくしだって頑張りましたのよ…」

「うん、そだね。そこじゃなくて試験を頑張れよと言うべきなんだろうけど、頑張ったと思うよ。気持ちは解らなくもないし、うん、まぁ仕方ない。それに情報はとても有り難かったし、シナリオを叩き潰す事に変わりはないし、きっと力業で何とかなると思う」

「余計な事は言わずに、そこは頑張るから大丈夫だけでいいと思いますわ」

「ここにきてダメ出し!?」

「何はともあれ、二年後の学園生活では、宜しくお願いしますわね。これからも、相談にのって仲良くして下さいませ」


 話をまとめて手を差し出しますと、リフィが微苦笑しながら応えて下さいましたわ。

 何故でしょう。とても頼もしいと言いますか、リフィが居てくれたら、わたくしも大丈夫な気がしますわ。


「うん、一緒に攻略対象者を潰そうね」

「えっ、何だか話が変わってません?」

「大丈夫、侯爵令嬢の権力を思う存分使っちゃっていいから」

「そういう事ではなくてっ。使いませんわよ!? わたくしは穏便にひっそりと婚約者候補から外れたいのです」

「そのついでに、二度と近寄るなと社会的に抹殺」

「しませんわよ――っ!」


 もしかして、わたくしは選択を誤りましたの…?




・・・***・・・(リフィ)




 何だか疲れたように落ち込むチェシーの鬱屈した空気を変えようと外に出る事にした。時刻は午後五時を過ぎていたけれど、空はまだ明るい。

 広々とした庭を歩いて、そのままサンルテア別荘敷地の境であり、対魔物用の結界の境である門まで来た。

 途中、歩きながらケイが首を傾げていたのが、気になった。


 予定より遅くなってしまったけれど、家に帰るというチェシーとフリッドを見送る。

 私たちが訪ねて侯爵家の使用人に仲が良いと知られたり、行動が筒抜けになるのは避けたいので、また明日、チェシーとフリッドに散歩と称して出て来て貰う事になった。

 その時に、どうやって連絡を取り合うか、お互いにまだまだ話足りない情報の共有をしようと約束して。


「それではまた明日、お邪魔させて頂きますわね」

「うん、待ってるよ」


 軽く手を振って別れ、フリッドも会釈して敷地の外に二人が出た瞬間――黒い影が駆け抜けて行った。

 私の目で追えたのは、二足歩行の獣。チェシーたちを助けた時に逃げたチーターのような魔物だった。


 完全に気を抜いて油断していた私と違い、ケイはダガーを投擲し、アッシュは地面を蹴って距離を詰め、フリッドはチェシーを突き飛ばして――魔物と共に森の中へと姿を消した。

 瞬き数回の差で、ダガーが空を切って地面に刺さり、アッシュが突き飛ばされたチェシーの下敷きになった。


「フリッド!」


 チェシーが木々に囲まれた辺りを見渡したけど、護衛の姿はなく、あるのは別荘地を囲む木々だけ。

 避暑地とはいえ、近くの一軒がとても離れている貴族の別荘地。特にサンルテアの別荘は街からも離れて、他より奥まった深い緑に囲まれた場所にある。


「妙な気配を感じたのは、さっきの魔物か。結界に接触して弾かれたから、僕たちが出てくるのを待っていたのかもしれない」

「そんな、どうしてフリッドをっ?」


 私はチェシーを立たせて土を払いながら、険しい顔のケイを見た。


「人を襲って血の味を覚えたから、かな。フリッドは怪我をしていた。あの魔物は初めて覚えた味が忘れられず、襲撃してきたのかもしれない」

「そんなっ、わたくしのせいで…っ!」


 取り乱したチェシーが後を追おうとして足を止めた。

 気配を感じていた私とケイとアッシュは、チェシーを囲んで既に準備していた。森から現れた下級と中級の魔物、計六匹が飛び掛かってくる。


 私が闇魔法で飲み込み、ケイは風の刃とベルトポーチから取り出した剣で切り裂き、アッシュは土を隆起させて串刺した。ついでに私は、辺りを光魔法で浄化した。


「中級と思っていたけど、さっきよりも強くなっていたね、あの魔物」

「うん。スピードが上がっていたし、下級と中級を差し向けたのもさっきの奴っぽいよね。上級に進化する事があるとは聞いていたけど、あのチーターが」


 討伐しながら話したケイと私の言葉に、チェシーが青ざめた。

 アッシュが「西南の方向に真っ直ぐ進んでいる」と眷属の下級精霊からの情報を教えてくれる。

 アッシュにチェシーの護衛を頼んで、ケイと私が動こうとしたら。


「わたくしも、連れていって下さいませ!」

「無理。大人しくしておいて」


 私の歯に衣着せぬ即答に、チェシーが衝撃を受けた。アッシュに「足手まといなのは事実だが、言い方が酷ぇ」と嘆息される。

 いや、待って。そこまで言ってないよ、私。

 アッシュに追い打ちをかけられたチェシーが、落ち込んでしまった。けれど、すぐに。


「失礼、しましたわ…。どうか、フリッドを頼みます。助けて下さいませ」


 チェシーが深く頭を下げた。


「うん。取り戻してくるね」


 流石に足の速い上級魔物だけあって、たった数十秒で姿は見えず、アッシュが臭いも追えねーと呟いた。


「そんな、どうやって追い付くつもりですのっ」


 焦るチェシーに、私は「任せて」と請け合った。ここで別荘に来てから練習していたアレの成果が試されるなんて。

 革製の半月型ショルダーの異空間入れ物から、いよいよデビューと、私は或る物を取り出した。




・・・***・・・(チェシー)




 任せて、とリフィが飾り気のないショルダーバッグから取り出した物を見て、一瞬、我が目を疑いましたわ!


「なっ、それっ、どっ…うして、バイクがここにありますの!?」


 驚きすぎて呂律が回りませんでしたわ。ただでさえ、大切な護衛が拐われて混乱しておりますのに、更に混乱するこの状況。黒光りするバイクもですけれど、何ですの、その四次元ポケットは!


「どうしてって、私が無属性魔法で作ったから」

「当然のように言わないで下さいませ! 本当に何を…何故バイクを…」

「私が乗ってみたかったから」

「乗って…?」

「そう! ギュインギュイン飛ばして風になるという体験をしてみたかったの。運転はここに来てから練習を始めて、私はまだまだだから、ケイ宜しく」


 最早、どこからどう突っ込んでいいのかも解りませんわ!

 魔力で動くって、今も所々改良中だけど早速出番が来るとは練習していた甲斐があるねとか、今はどうでもよろしくてよ!?


 わたくしが混乱している間にも、ケイが脱いだ上着をアッシュ様に預けまして、黒く分厚い革製のライダージャケット着用されました。ブーツでシートに跨がり、ヘルメットではなくゴーグルをつけたケイに、同じくゴーグルを付けただけのリフィが、彼の後ろに跨がっ――って、お待ちになって!?


「リフィ、それスカート」

「ああ、大丈夫」


 平気だよと、ぴらっとスカートを捲りますと、黒いハーフパンツが。

 淑女なら、捲らないで下さいませ!

 ケイがスルーして、手袋を着けてましたわ。


「というか、何故ハーフパンツを常備…」

「人生いつ何があって、戦闘になるか解らないからね」

「何故戦闘限定ですの…?」


 それならまだ、お転婆が過ぎて下着が見えない為にと言われた方が余程、女の子らしいですわ!


「でも、いもジャーじゃないだけいいでしょ」


 どんな基準ですのっ!? その顔から美声で、いもジャージ等と聞きたくなかったですわっ!


「言いたい事は沢山あるだろうけど、今は一刻を争うから後でね」


 ええ、そうして下さいませ!

 わたくしも何をどう言えばいいのか、大いに困惑してますので、言葉がまとまりませんわっ!

 ケイが魔力を込めて、エンジンをかけました。


「アッシュは万が一の為にチェシーの事を宜しく。チェシーもこの敷地の結界から出ないで、ここに居て」

「ええ、解りましたわ!」

「それじゃ、フリッドが美味しく頂かれる前に助けに行くとしますか」

「その通りですけれども、言い方! 誤解を招きそうなニュアンスは止めて下さいませ!」


 わたくしが言い終える前に、「いぇ~ぃ、フルスロットルでゴーゴー! 風になるんだ―!」と楽しく発進して、轟音と共に姿が見えなくなりました。


 ああ、何故でしょう。ここは安心して大丈夫と無事を願うべき所ですのに、物凄く不安というか…、送り出して本当に良かったのかと悔やむなんて…。


「気持ちはよく解るが、ケイがいるから大丈夫だ」

「………はい…。所でアッシュ様、あの乗り物は森の中でも大丈夫なのでしょうか? 木々があって思うようにスピードが出せないのでは…?」

「……木をどけさせて、魔法で自分の進む道を作るから大丈夫だろ」

「因みにブレーキはこの森でもよく効きまして? それと、もし魔物が街中に向かった場合、人に見られまして、ぶつかる可能性もあるかと。この地でしか練習していないそうですが、大丈夫ですの…?」

「……あ」


 あ、って何ですか、あ、って!?

 わたくしはリフィに、フリッドが弾かれない事を真剣にお祈りしました。




・・・***・・・(フリッド)




 お嬢様は無事だ。あの強いご令嬢が守って下さっていた。それに、彼女の側には彼らもいる。

 後は拐われたこの身を自分でどうにかするだけだ。そう自身を鼓舞するものの、戦えるのか不安が残る。


 別荘地から森の中を抱えて走られ、あまりのスピードに抵抗も出来ず、何処にいるのか判然としない。魔物も背後を気にしつつ、移動だけに専念していた為か戦闘にはならなかったが、あの場から大分離れた事だけはわかった。


 気がつけば、相変わらず木々に囲まれているものの、多少拓けた場所にいた。これ迄、緑一色だった周囲だが、少し離れた右手に、木々の隙間から地平線が見えた。そんな所で、オレは急に放り出された。

 受け身をとって剣を抜きながら、魔物と対峙する。


 繰り出される鋭利な爪を、抜いた剣で受け止めては弾き返し、時に樹を回り込んで盾にした。

 背中を庇いながら剣を振るうが、大腿や左上腕、右腕と追い詰めるように、魔物に切り裂かれた。


 じわりじわりと追い詰められていく。そこに爆音のような重低音が響いた。それがどんどん近づいて――。


「あぁ、いたぁーっ」

「ちょっリフィ、これブレーキ効かないんだけどっ!?」

「あ、改良中で機能を止めてた」

「リフィ――!?」


 ヒュン、と。

 何かがオレと魔物の間を、物凄い速さで走り抜けていった。

 ……ケイトス様とリフィーユ嬢…?


「とまっ…れないぃ、ケイ先に降りてぇぇー」

「えぇっ!?」


 離れた所から声が届いた。そのまま土煙と轟音を立てながら、何かは地平線の彼方へと去っていった。

 地平線の黒い粒が、派手な爆音を響かせて空に煙を上げる。


 緊迫した戦闘中だったにも関わらず、オレは呆然とそちらを見て、何となく正面を見ると、上級魔物と目が合った。

 奇妙な事に、互いに戸惑っていると意思疏通が出来た気がした。


「「……」」


 見つめ合うこと数秒。


「ガ…、グガァァアッ」


 何事もなかったように、襲いかかってくる魔物の鋭利な爪を剣で受け止める。一合、二合と剣で打ち合い、お互いに睨んで押し合っていると。


 ドゥルン、ギュゴン、ドゥルンと変な音と共に、何かが再度近づいてきた。オレも魔物も相手を窺いながら、周囲を警戒する。

 悲鳴のように甲高い音を立てて、横付けで見たことのない珍妙な物体が、煙を上げながら停止した。


 よく分からない物体には、疲れた様子のケイトス様と煤けたリフィーユ嬢が跨がっていた。二人が地面に降り立つ。何だか既にボロボロだ。「風になるどころか危うく魂になるところだった…」と物騒な呟きまで聞こえた。


「…バイクでかっこよく決める予定だったのに…」

「無理だね。ていうか改良中だったのに、よく忘れて乗ろうとしたね!?」

「まさか自分のうっかりで死にかけるとは」

「しかも僕まで巻き込んでね!」

「それはごめん。でもケイなら、何があっても死ななさそうというか」

「そっくりそのまま返すよ」


 言い合いながらも、ケイトス様が風の刃を十数回放ち、リフィーユ嬢が逃げられないように魔物の周囲一帯を炎で包んだ。それも延焼しないよう結界を張って。

 ――何だかよくわからない内に、決着が着いていた。


 恐らく魔物も、少し前まで捕食者としてオレの血肉を喰らおうと狙っていたのに、変な闖入者が来たと思ったら勝手に去っていき、また現れたと思ったら絶命していた感じだろう。


 いつの間に風の刃に切られたのかと驚き、燃えている自分に更に目を見開いて絶命した。

 ……助かったのに、何とも微妙な心地だった。




・・・***・・・(チェシー)




 フリッドを含めた全員の無事な姿に、わたくしは胸を撫で下ろしました。バイクは何処に消えて、何故徒歩で戻ったのかなんて怖くて聞けませんわ。

 疲れて遠い目をしたフリッドとわたくしの精神衛生上の為にも。


「フリッド、無事で良かった!! 怪我はございませんの?」

「ええ、お二人のお陰で」


 フリッドは駆け寄ったわたくしに微笑んでくれましたが、また疲労の濃い顔に戻ってしまいましたわ。

 アッシュ様が無言でケイを労うように、ポンと前足で膝の辺りを叩かれています。

 そしてその元凶と思われるリフィはというと。


「…私の折角の苦労と努力の結晶が……。造って一ヶ月も経っていないのに……」


 ……聞かなかった事にしましょう。

 美少女の儚げで少し涙の滲んだ憂い顔には、見る者の胸を締め付けさせるものがありますが、発言がおかしいですわ。


「えぇと、兎に角。お二人とも、フリッドを助けて下さり、本当にありがとうございました。もう遅いので、今日の所はこれで失礼しますわ。お礼は日を改めてさせて下さいませ」


 意気消沈しながら頷くリフィと、笑顔で「気持ちだけで充分だよ」と答えて下さったケイ。

 フリッドがいても、辺りが暗くなり始め、二人で歩いて帰るのは危険だからと、移動魔法で家の近くに送ろうとリフィが提案して下さいました。


 結局、今日の夕食当番だからとリフィが残り、ケイとアッシュ様に侯爵家の別荘近くまで送って頂きましたわ。

 わたくしもフリッドも重ねて礼を言い、頭を下げました。


「あの、リフィは大丈夫でして?」


 帰ろうとしたケイとアッシュ様を、思わず呼び止めてしまいましたわ。お二人が苦笑します。


「大丈夫だよ。壊れた物は仕方ないって、徐々に気持ちを切り替えてまた元気になるから」

「あの位でへこたれるなら、オレもケイも今日まで苦労してねーよ。だから、気にするな」


 お二人の苦労が忍ばれますが、表情を見て、強い信頼関係があるのだと感じましたわ。少し羨ましく思いましたが、きっとこれもリフィが築いてきたものなのですわね。



・*・*・*



 翌日の午前中。

 わたくしとフリッドは、手土産のアイスケーキを持って、早速サンルテアの別荘を訪ねましたわ。

 リフィはまだ少し落ち込んでいるようでしたが、昨日よりも元気になっているようで安心しました。


 改めてお礼を告げて、昨日の物について聞いてみます。

 まさかこの世界で、バイクを見る事になるとは思ってもみませんでしたわ。それに、数年前から画期的な異空間入れ物という物がある事は知っておりましたが、もしかしなくてもその制作者である冒険者のミラ・ロサというのは…。


 恐る恐る訊けば、あっさりとリフィに肯定されます。

 ――ああ、本当に予想外で規格外ですわ…。

 驚きと共に、リフィならば有り得ると、自分の中で納得してしまいますのよ。


「まさか無属性魔法をここまで使いこなせているなんて…。ゲームでは特に目立って使う事はありませんでしたから、意外でしたわ。せいぜい少し壊れた誰かの大事な小物を元に戻すとか、その程度の力でしたのよ」

「まぁ、基本的に使う機会ってあまりないよね」

「……何故バイクを製造したのか聞いても宜しくて?」

「ただ単純に、乗り物があれば便利だなと思って。本当は車が欲しかったんだよ。でも王長が車は造れないって言うから、バイクにしてみたの。バイクなら馬より小回りがきいて丁度いいし、速くて乗り心地も楽だから、いっちょ造ってみるかと思って。一番良い衝撃緩和のシートで風の抵抗が少ないフォルムとか、自動操縦機能とか、ロボに変形とか、ミサイル発射とか、色々付け足して改良していたのに!」


 くらり、と眩暈めまいがしましたわ。


「何ですの、その無駄にハイスペックなバイクは! 必要でして!? そして、本当に乗ってみたかっただけですのね!」

「くそぅ、私がありったけの魔力を二日かけて注ぎ込んだのに! お陰で魔力がスッカラカンになって五日も魔法なしのハンデ生活が続いたのに! まさか壊れた上に造り直しなんて、苦労が全て水の泡だよ~」


 嘆くリフィでしたが、造り直しても結局誰にも見せられませんのに、魔法の使えない日が六日もあるのは不便だからと、バイクは完全に破壊するそうですわ。……少し勿体無い気もしますが、無属性魔法も便利というだけでは無さそうですわね。


 ケイとアッシュ様は慣れたもので、無反応……いえ、目から生気が失われておりますわ。フリッドに至っては、意味が解らないながらに戦いて硬直しておりました。


「リフィは色々な事が出来そうですのに、どうして明後日の方向に突き進んでいきますの――って、誉めてませんからね? 照れる要素は何処にもありませんわ!?」


 その後も、ええ、本当に信じられないようなこれ迄のお話を聞きまして、わたくしはもうツッコミ疲れて、精神が突き抜けました……。後半はぬるい微笑を浮かべながら、穏やかな気持ちでひたすら聞き流しましたわ。



・*・*・*



 偶然の出会いから、わたくしとリフィは交流を持ちまして、避暑地にいる間は三日と空けず、街や互いの敷地の近くや湖でお話と言いますか、遊びましたわ。

 周囲には知られないよう警戒しながら。

 他愛のない話をする友人が出来て、わたくしも嬉しく楽しい時間を過ごしました。


 避暑から王都に戻った後も、内緒のやり取りの仕方を決めまして、周りに知られないよう注意しながら、週に一度だけ手紙のやり取りをしましたわ。

 手紙は読み終えますと燃える仕組みで、残念ながら手元に残りませんでしたが、月に一、二度、街中で秘密裏に会う事もございました。


 別荘地で過ごしました翌月には、ケイが無事に男爵位を引き継がれ、史上最年少の叙爵と国の歴史に名を刻みましたわ。

 会って話しましても、手紙のやり取りでも、リフィには何かしら驚かされましたが、理由あって、ある高級娼館で期間限定の見習いをするから暫く会えないと言われた時は、特にハラハラしましたわ。詳細は語ってくれませんでしたが、何かの任務でしょうか。


 そう言えば、リフィの実母のドラヴェイ伯爵夫人が懐妊されたと手紙を読んだ時も、驚かされましたわ。

 何でしょう、本当に物語がわたくしの知るものと大きく変わっていますのね。その一端を見た気分でしたわ。

 それが少し不安でもあり、期待と喜びに膨らんでもおりますの。


 リフィに会うまで、勝手に攻略対象者の誰かの婚約者になると思い上がり、どうか無事に婚約破棄されてヒロインとお幸せに、等と考えておりましたのに。


 今では、リフィが味方なら何があっても大丈夫と、心強いような、物凄く不安なような、複雑な心境ですわ。

 それでも、わくわくとした未来への期待の方が大きいのは何故でしょうか。


 次はいつ会おう、どんな事を話そうかと楽しみにしておりますの。

 リフィ、わたくし王妃様と公爵夫人のお茶会に参加しませんでしたのよ。他の方に言えば、無礼だと眉を顰められそうですが、貴女なら、凄い、頑張ったと一緒に笑って喜んでくれる気がしますの。


 それに貴女を見習って、仮魔法ではありますが漸く全て修めましたわ。フリッドにも簡単な護身術を習い始めましたの。

 年が明けまして、春頃からフリッドとの仲も縮まったと言いますか、以前は歳の離れた手のかかる妹のような扱いでしたのに、最近は淑女として扱ってくれますのよ。


 相変わらずお父様には滅多に会えませんが、今は頻繁に手紙でやり取りをして、もう少ししたらわたくしの将来の事を少しずつ話していきたいと考えておりますの。

 簡単な家事なら出来るようにもなりましたし、街で人の暮らしを見て、勉強もしておりますわ。




 ケイが先に学園に入学しても、わたくしとリフィの細々とした交流は続きました。

 父とも話し合って、婚約の打診は全て断って頂きましたし、わたくしに無断で受けないとも約束して下さいましたわ。


 物語が変わる事は不安でしたが、今も少しだけそれはありますが、わたくしはわたくしの選んだ道をしっかり歩いていると実感を持てますの。

 悪役令嬢ではなく、わたくしとして。


 これからどんな新しい物語が待っているのでしょうか。

 リフィ、春に貴女と学園で再会できるのが楽しみですわ。

 不定期に会ったり、手紙のやり取りをしていても、話したい他愛もない事が積み重なっていきます。


 そんな月日を一年以上重ね、予想外の出会いから幾度か季節が巡りまして。学園入学まで残り一年を切りました頃。

 入学前に少しでも一緒に過ごしたいと、お父様が家に居て、春を心待ちにしていましたら。

 父から書斎に呼び出され、申し訳なさそうに悲しげに言われましたわ。


 チェシーの婚約者が決まったよ、と。


 明るい未来が閉ざされたような、暗闇に突き落とされたような、全てが崩れ去ったような気分になりました。

 父を責めてしまいましたが、事情は解りますわ。陛下からのお話ですもの、断れるわけがございません。寧ろ、正式な発表まで一年の猶予があり、内示だけに留められた事に父の努力が窺えますもの。


 どんな言葉も耳を素通りしまして、いつの間にか気を失い、気づけばベッドの上でしたわ。

 ……何故、上手くいきませんの…。

 わたくしは部屋で塞ぎ込んで暮らし、フリッドの顔もロクに見られずに、部屋にいるのだからと彼が側に付く事を避けました。


 リフィに話したい、会って相談したい、と何度も思いましたが、入学までの二週間は手紙のやり取りをしないと自分で告げまして、奇しくも婚約の話を聞く前日に、最後の手紙を出したばかりでしたわ…。


 それでも、緊急時の連絡手段はありました。

 ただどうしても言葉が出てきませんでしたわ。ありのままを伝えればいいだけですのに、胸が痛んで悲しくて、情けなくて、悩んでいる内に日にちが経ってしまいまして、余計に言い出しづらくなりました。

 どうせ後少しで学園で会うのですから、と。


 鬱屈とした日々を過ごしまして、いよいよ学園に入学する三日前。

 少しショックから立ち直りまして、わたくしがブレイブ第二王子の婚約者の内示を受けた事が、そもそもの物語と違っているのではと冷静に考え始めました。


 だってリフィは、彼とまだ面識を持っておりませんわ。

 ケビン様とは、それっぽい人に会ったかもしれないと聞いておりますが、「慳貪けんどんに対応したから、あれで好意を持ったら脳筋野郎って叫ぶ」と変な事を言っておりましたわね。


 思い出しまして、くすり、と。

 小さな笑みが零れました。――ああ、まだわたくしは笑えましたのね…。鏡を見た時は、人様に見せられないような不幸を背負った暗い顔をしておりましたのに。


「お嬢様」


 ノック音と共に、ここ数日聞いていなかったフリッドの声がかけられました。少しでも笑えたからでしょうか、久し振りに扉をほんの少しだけ開けましたわ。


「これを」と隙間から差し入れられたのは、掌に乗る折り畳まれた小さな白い紙。

 手紙?


 何とはなしに受けとりますと、「テラスに軽い食事を用意してあります。後で迎えに来ますので、準備しておいて下さい」と、わたくしの頭に伸ばした手を、フリッドが苦しげな顔で戻しまして、一礼して去っていきました。


 ……わたくしは、フリッドに何という表情をさせて、迷惑をかけていたのでしょう。いいえ、彼だけではありませんわね。

 父や心配してくれる侍女たちや、邸の者たちにも。

 扉を閉めて、手紙とも言えない届いたメモを開きました。


『大丈夫。一緒にシナリオぶち壊そう』


 急いで書かれたとわかる斜めにずれていく文字。あるのは短いその言葉だけ。

 けれど、とても心強い友人からの激励。

 流れなかった涙が、わたくしの頬を濡らします。


 そうですわよね、落ち込んで大人しく運命シナリオを受け入れて差し上げる義理はないですわよね。

 だってわたくしの人生みらいですもの。

 自然と口元が綻びましたわ。


 こうしてはいられませんわ。

 わたくしは身なりを整えて、暫くしてから迎えに来たフリッドの前に立ちました。

 フリッドが張り詰めていた表情を緩めます。

 わたくしは沢山心配をかけていたのですわね。


 わたくし、諦めませんわよ、リフィ!

 差し出された手を取り、わたくしは閉じ籠っていた部屋から踏み出しました。






長文、お疲れ様でした。

これで十二歳編は終了です。


番外編を幾つか挟んで、学園編にいく予定です。

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