42, 12才 ①
投稿が遅れてすみません。
季節感が真逆ですが、よろしくお願いします。
真夏の日差しが容赦なく照りつけるけど、空気がからっとしていて風が吹くお蔭で、普段よりは暑さを感じない。
真っ青な青空とそこかしこにある緑に視界も涼やかで、気分は爽快!
何より旅行、それも避暑という言葉がテンションをあげてくれる。良い言葉だよね~。
大体いつもなら用事がない限り、ケイの誕生日が終わった後はサンルテアの領地で一週間を過ごして、王都に戻って来るのだけど、今回はケイがサンルテア領地は秋か冬に行く事にして、避暑に行こうかと提案してくれた。
即、頷きましたとも。
そんな訳で八月半ばも過ぎた頃、やって来ましたエンデルト領地!
サンルテアとは王都を挟んで反対側、国の北東にある山脈や大穀倉地帯を抱える公爵領。ええ、あの宰相様の治める領地です。
聞いた瞬間、「私だけサンルテア領に行っても…」と、言いかけたら「丁度行く頃に、ハイドがギルドの任務で領地にいるけれど会いたい?」と言われた。
目が点になりました。そしてケイとアッシュに嘆息された。
「忘れているとは思ったけれど…」
「本当に記憶を抹消しているとはな…」
「お、覚えてるよ。あれでしょ、一生会わないって約束した傍迷惑な、魔物が怖くてお漏らしした王子様でしょ」
「「……」」
二人が何とも言えない顔をした。
ちゃんと覚えてるよ。全く関わりないから、ほんの少し誰だっけ? って思ったけど。私の記憶は合っている筈。『大波』の時に、うちの天使の邪魔をして自分だけ逃げ帰った人でしょ。
「自業自得とはいえ、憐れだな」
「そうだね…。会わないというか、会おうと思えば会えるというか、遠い友達認定したのは君だよね、リフィ」
「そっかぁ、奴がいるのか…」
「そろそろ少しくらい目溢ししてもいいんじゃない。あれから反省して、何度かサンルテアの役にも立ってくれたから」
「ふーん」
「それに…会いたいと本格的に暴走しそうだから…」
「へ? 何て言ったの?」
「ハイドがいるから僕と避暑に行こうって言ったんだよ。大丈夫、エンデルト領でも有数の別荘地に行くだけで、陛下たちには邪魔させないから」
つまり、王子共は来ない、と。
素敵な笑顔に、頼もしくなったなぁ、と思った。いや、元から頼りになっていたけれど、更にというか……あ、コレが子供の成長を喜ぶ親気分? なんて、一人で納得した。
馬車にガタゴトのんびり揺られて、途中で宿をとりつつ五日間。サンルテアが所有する別荘に遥々やって来た。
両親は後から来る予定。つまり、子供だけで夜更かしして、自由を満喫やりたい放題! 例の実験も出来そう!
馬車を降り、広大な敷地の緑に囲まれた白い外壁に青い屋根の可愛らしい館を見上げて、そんな事を考えていたら、横から突き刺さる獣型アッシュの視線。「まーたアホな事を考えているな」と、呟かれた。
「失礼な。否定は出来ないけども、考えている私としては大真面目なんだよ。自由にあちこち出歩き放題なんだから、近くに魔物が出たとしても、ちょっと足を伸ばして買い物とか山の幸を堪能してもいいじゃない」
「アホな考えは否定しねーのかよ。そして、その考えが質が悪いんだよ。ぜってー、何か巻き込まれんだろ」
「不可抗力。好きで巻き込まれている訳じゃないから」
アッシュとじゃれていたら、管理人に館の鍵を開けさせたケイが、苦笑しながら戻ってきた。
黒の森ではないにせよ、他の地よりも魔物が出る土地の為に常駐している管理人兼使用人が一礼して、館後方の森に戻っていく。そこに四人体制で住んでいるらしい。後で挨拶に行こう。
「心配ご無用、トラブルには巻き込まれないよ。今回、出掛けるのは後にするから。それまで私は敷地内で少しだけ騒がしくするけど、とある試運転が終わるまで外出はしない」
安心させようと私は別荘にいる宣言をしたのに、何故か二人の顔が強張った。失礼なんですけど。
無言で、今度はどんな騒動を起こすんだ…!? と責められているのをヒシヒシと感じた。
「……敷地内で騒がしくって、何をするの?」
「実は、ちょっと急にやってみたくなって、思い立ったが吉日って言うでしょ。少し前に試しに造ってみた物があるの。でもなかなか上手くいかなくて、王長に相談して本当に造りたかったのは無理でも、次に提案した物ならギリギリいけるだろうってアドバイス貰って、コツコツと魔力を消費しながら、造ってみた――って、何で肩を落とすの二人とも!!」
二人の反応が酷いっ。無表情で死んだ目になるのヤメテ!
「リフィ、君は本当に……」
「大丈夫、世には出さないよ。私の趣味というか、やってみたい個人的な遊びだから。それに守護のお守りと同じで、そう簡単に造れない一点物なんだ。魔力も体力もごっそり持っていかれて、五日間はあまり動けなくなったから、もう造らない」
何故か二人に、大きく嘆息された。
個人的な実験だから、誰かに見せる事も教える事もないよ。それに、自分達の事は自分達で出来るから、ここにいるのは私たち三人だけだし、この別荘地には王の密偵であっても容易に近付けない。多少の『影』の護衛や管理人兼使用人たちには、詮索される事もなく放っておいて貰える。
「……危険な事なの?」
「半々?」
「わかった、僕も付き合う」
「そうだな。その方がまだ被害は少なくて済む。仕方ねーな」
さっすが共犯者! 腹を括るのが早い。私への対応も馴れたもの。…多分、喜んでいいとこだよね?
「二人ならそう言ってくれると思ったよ」
「確信犯!?」
「巻き込むのが前提か!」
前言撤回は受け付けません。
私はなだらかな起伏のある丘や平原を見て、お昼を食べて一休みしたら早速テストしようと、まずは荷物を部屋に運び入れる事にした。
そうして、せっせと趣味というか思い付きに遠慮なく二人を巻き込んで、日がな一日、敷地内に騒音を響かせて楽しく実験する事、一週間。
実験しつつも、適度に庭を歩いたり、森を探検したり、たまに見掛けた魔物を倒したり、管理人宅でお茶をしたり、街に出掛けたり。
ピクニックがてら敷地内の泉まで出掛けて昼食の後に実験、その後に木陰で読書して避暑気分を満喫して、快適に過ごしていた。
私の趣味というか思い付きの実験は上々で、私よりもケイの上達が見事だった。本当にこの従兄弟がチートでハイスペック過ぎるよ。ケイが苦戦するものなんてこの世にあるのかと思うくらいに。
そう誉めたら、乾いた苦笑いが返ってきた。
アッシュには信じられないものを見る目を向けられたので、取り敢えずモフっておきました。
益々、毛艶が良くなった極上の触り心地を堪能しながら、いつもよりも多めに、丹念に撫でくり回せたので満足!
母たちが五日後に来ると連絡が入り、王妃様の体調もすっかり落ち着いた事や、仲のいい『影』たちについてや、ステラの公演も地方巡業も順調と世間話をして、実験も楽しかったし、ここに避暑に来て良かったと、庭に面した室内でソファーに並んで座り、一休みとお茶をしていたら。
とりとめない私の話を聞いていたケイが、コーヒーを飲んで口を開いた。
「この旅行を楽しんでいるようで良かった。僕としてもここでなら周りを気にせず、今後の事を色々と話し合えるからね」
ケイの足元で丸まっていたアッシュが、ちらりと私たちを見て、目を閉じた。
開け放った吐き出し窓から、涼風が入って来るのが心地良い。
「まず一番気になっているのは、学園かな。僕は来年から通う予定で、両親は君に入寮して通って欲しいようだけど、どうするつもり?」
「私の意思は変わってないよ。通うつもりはないって、しつこいくらいに届く学園からの手紙にも、王様たちの説得も断っているし、お母様とお父様にもそう伝えてあるから。二人に迷惑がかからない限りは」
別に学園に通わなくてもいいと思うんだよ。
幼い頃は何が何でも通うもんかと息巻いていたけど、今はそれも落ち着いている。
基本スタンスは関わらないだけど、まぁもう王子たちに会っているし、肝心なのは私の気持ち。ぶれずに関わりたくないと思っているし、彼らに特別な好意もなく、色々と予定のシナリオを潰しまくった実感があるから大丈夫だとは思う。
お母様とお父様が社交界で、娘の私が不出来で学園に通えないとバカにさせない為なら通ってもいいと思うくらいには、忌避していない。
「……お母様たちの為なら、通ってもいいと?」
「お母様たちとケイやサンルテアが、大した事ないと侮られたり貶められたり、私の存在が攻撃材料になるならね。それに学園に籍があるという事が一種のステータスというか、貴族社会では重要なんでしょ」
「身も蓋もない言い方だけど、そうだね」
「それなら、名前だけで在籍して本人不登校って事も可能でしょ。試験も実技も問題ないし、場合によっては理事として名だけあるウェンド侯爵から進級と卒業をもぎ取れば問題なし」
「堂々と不正発言するなよ…可能そうだが」と呆れるアッシュ。
「なるべく通いたくないからね。その為の努力なら惜しまないよ」
「お前は努力する方向性を間違っている」
「でも他の貴族は学園に通う迄に、魔法も勉強ものんびりと簡単にしか学んでないけど、一部の貴族やケイや私は学園で習う事はほぼこれ迄の英才教育で終わっているから問題ないと思うんだよね」
「じゃあ何で学園に通うんだよ」
「精霊や魔法を学んで理解するのに、精神も体も丁度いい頃合いだからっていうのもあるけれど、社交の練習かな。将来、国の運営に関わっていく人たちの繋がりであり、大人の仲間入りをする通過儀礼の小さな社交の場としての意味合いが半分、残り半分は勉強と魔法」
アッシュが面倒だなと、はふーっと息を吐いて体勢を変えて丸まった。
「所でリフィ、通わなくてもいいけど、在籍するなら生徒が必ず参加しなくちゃいけない行事はどうするつもり? 四年間の理由付けや仮病も限度があるでしょう?」
「ソレね。代わりにケイがたまに女装して通ってくれたら、問題ないと思うんだ」
真面目に答えた私に、沈黙が返った。アッシュがそっと立ち上がって退室したけど、気にせず話を続ける。
「ケイも学園で調査する時とか、在籍だけする私の存在を好きに隠れ蓑として使えたらお得じゃない?」
「……うん?」
「それに、大事なサンルテア男爵家の子供という立ち位置にはケイがいるから」
「ゴメン、意味がワカラナイ。どういう事…?」
「ほら、ケイはもう超絶美麗な天使だし、イイ子だし、女装もバッチリな極上の美少女でしょ。王太子を始めとして、公爵の宰相子息に侯爵の騎士団長子息に、第二王子に、隣国のハイドにも面識があって、全員が大事に思っていて気にかけているし、気に入られているよね。だから、まぁいっかな、って思って」
「待って。イイ笑顔でナニを言っているのかな。いっかな、じゃないよ。全然よくないからね。女装もバッチリじゃないし、もう二度とやらないから。というか、それって僕に彼らとどうこうなれって事?」
「そんな感じ」
イイ笑顔でサムズアップした私に、ケイが頭を抱え込んでしまった。
・・・***・・・(ケイ)
「頭痛?」
「……君のお陰でね…」
呑気な問い掛けに、僕は本気で頭が痛い。
本当にちょっと待ってほしい。何で、どこでそんな発想になったの!?
疑問をぶつけたら、リフィはおかしな事は何も言っていないと、悪びれなく答えてくれた。
「ケイには未来というか、起こる可能性について話したと思うんだけど」
「うん。本来なら僕が居なくて、君が男爵家に迎えられていたって話だよね」
「ソレね。でもこうして無事だし、私の知る話とは大分変わったと思うし、サンルテアの大事な後継者の立場にはケイがいて、攻略対象者とは私よりも仲が良くて、幼い頃からの知り合いで、私よりも美少女っぷりで仕草もバッチリ演技できるし――もうこれは私のヒロイン的な立場がそのままケイに移行していると考えてもいいような気がするんだよね」
「……は?」
「それで私はこのままひっそりフェードアウトして、是非ともケイにその立場で頑張って欲しいかなって」
本当に待って!? 嫌だよ、そんな未来!
一瞬、想像しかけた未来を振り払う!
「平然と君は何を言っているの。有り得ないからね? 僕は男だから!! 気に入られているのも仲がいいのも友人として!」
このまま変な方向に持っていかれたくなくて、かつて無い程、僕は力一杯、否定した。
「大丈夫。ケイはもう、超絶美麗な天使という枠で性別を超越しているから、彼らが欲しがって奪い合うのも納得だから。それでもし、本当にケイを欲しがったら――…ガンバレ」
「遠い目をして肩叩いて励ますの止めてくれるっ?」
そんな未来は僕が嫌なんだけど! というより、本当に君は真顔で何を言っているの。発想が斬新すぎる!!
のんびり穏やかな国民気質でも、知れば誰もがそんな国の上層部に危機感を抱きかねないから! 革命が起こる可能性が跳ね上がるから!
「この際ケイが男爵令嬢として学園に通ってラブコメ的な何かをしてくれたらいいなって、期待してる!」
「親指立てて変な事を言わないでっ!? 期待しないでいいから、そんな事は有り得ないから安心してっ」
「でも、イイ考えだと思うんだよ。ケイは友達の彼らと友情を深めあって、私はお役御免で友情をそっと見守って退場。自由に好きなように平民として生きる、と」
「それ、リフィが僕を身代わりにして完全に逃げる気だよね! 僕に嫌な事を全部丸投げして逃げるのは許さないよ」
冗談じゃない。面倒な王子たちと変な関係になるのは御免だ。
そんなややこしい事にかかずらっている間にリフィが自由を謳歌して、また変なのに目をつけられたり、妙なお気に入りを見つけて好意を持ったり、猫可愛がるサリーの弟サレムみたいなのに引っ掛かって騙されて婚約したりなんて事があったら…、…――全部、壊すか。
この際、綺麗にすっきり一掃しようかな。
そんな物騒な事を考えていたら。
「何かケイなら、こう上手く奴等を手玉にとって、コロンコロンと転がして、この国を影から操る支配者にもなれそうだよね。だから最悪、愛人でもラスボスでもいいから最終手段的にそうなって貰って、裏から私に関わらせないようにしてくれたら、めでたしめでたしで終わると思うの」
「いやいやいや。意味がわからないから。全然めでたくないから。利用する気満々だよね。あと、然り気無く愛人とか不穏な単語を言わないように!」
物凄く頭が痛い!! この子は本当に毎回、ロクでもない珍妙な事を思いついては、考えを巡らせるのを辞めて欲しい!
まさか、僕を人質に差し出そうとするなんて。確かに友人の彼らとは付き合いも長くて、何故か妙に気に入られていて、女装すれば少女と誤魔化せて、リフィよりも政治の絡んだ色恋沙汰にはなりにくいけれど。四六時中、あの王子たちと関わる――はっきり言って、僕が無理!!
「そもそもその立場を譲るなら、僕じゃなくて他の令嬢でも殿下たちに宛てがってよ…」
「それも考えたんだけどね」
「考えたんだ…」
「良好な将来のトップの関係を壊しかねないのは気が引けるし、選りすぐった婚約者候補がいるそうだし、一人の子に盲目的になられても面倒だし、そんな為政者はどうかと思うから、ここは安全安心なケイに」
「譲らなくていいから。その考えは今すぐ破棄して」
僕は断言した。
それにしても…この国の将来を考えてくれた発言が、どうして途中から予想外な方向に飛躍しちゃったの…。
何か疲れた…もう限界…。リフィの斜め上を突っ走っていく思考に、僕は考える事を放棄した。どんな難解な攻略戦を練るよりも、リフィの暴走を止める方が大変だ。ただ、僕の頭をこんなに悩ませた責任を少し取って貰う事にした。嘆息しながら、リフィの膝に頭をのせて目を瞑る。
ちょっと驚いた気配がしたけど、構わない。こんなに疲れさせたのはリフィだ。
そう思っていたら、寝ている頭を撫でられた。温かくて心地いい。……。……ここで僕を照れさせるなんて、本当にリフィくらいだよ。
・・・***・・・(リフィ)
疲れた様子で私の膝の上に頭をのせたケイが、心臓に悪かった。
心を落ち着かせ、謝罪も込めてケイの頭を撫でる。
悩ませて御免ね。
さっき言った事の半分は………四割、いや三割は冗談だよ。七割はそうなってくれても多分、面白おかしく受け入れる、かな。
私は本音と溜め息を飲み込んだ。
これでも、少し私や周りの人の未来を考えたんだよ。
当然ながら貴族のケイは、来年から魔法学園に通う。
ケイが学園に入ったら、寮生活になるから長い休み以外に会えない事、通信機があっても今までのように気軽にいつでも話が出来ない事、社交デビューして貴族の世界に本格的に関わるようになって、婚約者が出来る可能性――。
基本、私は学園に通わない。というか、通いたくない。
私の心がぶれなくても、変な強制力が自動で働かないとも限らないから。何より通わなければ、私が運命は無くなったと安心できる。
そうしたら、またケイや母が亡くなるのではと、少しだけ怯えずに済む。
その反面、どんどん接点が無くなっていく。ケイとも、サリーやソニアたちとも。
私が今の平民としての立場を取るなら、これ迄のようには付き合えない。それがこの国のルールだ。
それに叔父――父が、ケイに男爵の地位を譲ろうとしていた。それは喜ばしい事。同時に、従兄弟ではあっても貴族と平民という身分の壁がはっきり浮かび上がる。
ドラヴェイ伯爵も爵位を父に譲位しようとしていると、五年前に比べて少しだけ交流を持つようになった祖父から聞いた事を思い出す。ケイにも貴族子息として誰かを婚約者として宛がう必要性も。その時に、誰かいい娘はいないかと問われた事も。
ゆっくり深く呼吸した。
解っていた事だ。貴族の世界に、自分は関わらないと決めた。離れていく両親や従兄弟や友人の立場を思えば、寂しくても、これからそんな事は増えていく。子供の内は許された距離の近さも、特権も無くなっていく。
新年を迎えて春になる前、王妃の治療の時も感じた貴族社会の距離感。でもまだ私には、そこに足を踏み入れるだけの度胸も覚悟もなかった。
かといって、将来どうなりたいか明確な目標があるわけでもなく、このままフェードアウトかなとぼんやり思っているだけ。
両親やケイ、サンルテアには迷惑をかけたくないから、適度な距離感を少しずつ探って、自立していかなくちゃ。
ケイが男爵になったら、特に接し方には注意して馴れ馴れしくしないように。
それにしても、史上最年少で男爵だって。カッコいいね~!
責任ある立場で、若造だからといって議会でも軍義でも誰もが発言を無視できなくなる。
学園でも、その他大勢の貴族子息ではなく男爵だから、跡継ぎとされているだけの他の子息よりも明確な身分がある。その内そこに伯爵子息の肩書きも付く。うちの子スゴいわ~。
ケイの頭を撫でつつ眠りの闇魔法を軽くかけて、気分転換に外に散歩に行こうとしたら、アッシュが戻ってきた。
丁度、庭に面した吐き出し窓から出た所だった。一人で出歩くなと煩いので、一緒に行く事にする。
泉のある森に向かって歩きながら、そういえばアッシュの今後を考えていなかった事に、今さら気づいた。
まぁ次期精霊王だし、契約しているわけでもなく、行動を制限している訳じゃないからね。
「うぉっ」
驚いた声に隣を見れば、木の枝から蜘蛛がぶら下がって来てアッシュの鼻先にいた。突然視界に現れたから驚いたみたい。
私は地面に落ちていた小枝で糸と蜘蛛を絡めとり、その辺の草むらに捨てる。
「……」
「何?」
「いや、本当に令嬢らしくないなと感心していただけだ」
「は、しまった。ここは可愛くか弱い女の子を演じる場面だった?」
「その発言が安定の残念さだな」
「失礼な。割と虫に馴れているから平気なだけ」
前世では田舎育ちだったし、今も小さな頃から家が自然に囲まれていて蛇や蛙や虫なんてよく見たし、庭いじりもしているし、耐性があるだけだよ。
「一応、沢山足があるのとか、黒くて動きが速いのとか、あれより大きな蜘蛛とか、蛇とか見たら普通に驚くし、ぞぞっとするよ」
「それが近寄ってきたら?」
「何かで潰す」
「普通に真顔でさらっと答えたお前が恐ろしいわ」
正当防衛です。
「近寄らずにどこかに行ってくれるなら何もしないよ」
大真面目に無害だと答えたのに、何故かアッシュに嘆息された。
「だが納得だな。蛇や蛙やトカゲ姿のチビ精霊と会ってもお前は普通だったもんな。たまに人間の女に呼び出されて行くと嫌われていたから、奴らも喜んでいた」
「見馴れていたのもあるけど、精霊だったからっていうのもあるよ。それに多分、精霊でも虫は躊躇うかなー」
「そーかよ。そこまで小さいのは滅多にいないから大丈夫だろ。なぁリフィ」
「何?」
「人間てのは色んな柵があって面倒だな」
「…まぁ、生きていたら誰にでもあるよね。アッシュとウィンの仲が険悪なように」
「……そーか。けどな、お前は多分、ケイとは離れられねーと思うぜ」
「…何で? あ、国から命じられた私のお守り役だから? そこも何とかしなくちゃね。アッシュは元から自由だけど、もう大丈夫そうなら真面目で仕事熱心なケイを解放しなくちゃ。取り敢えず、あと一年。本来のヒロインが学園に通う次期が過ぎて、二、三ヶ月過ぎても母にもケイにも何も起こらなかったら、もう大丈夫な気がするんだよね」
「そういう意味じゃねーけど、お前が納得してんならいいんじゃねーの」
「うん、場合によっては陛下と交渉して、いつでも連絡が可能な状態にしておくけど、国外で活動するのもいいかな。あちこちに冒険者として赴いて、所在不明な感じにして誰にも捕まらないようにする、とか。そうしたら、私が国にいないから有事の際を考えると、王様たちはケイを簡単に長く外に出せないでしょ」
「ほー」
色んな所に行ってみたいと、森林浴をしながら歩いていたら、目が覚めたケイから慌てたように伝言の風が届いた。アッシュと一緒と知って少し安堵したようだけど、すぐに移動してきた。
「僕に魔法をかけて眠らせるの、辞めてくれる? 本当に、君くらいだよ。あの至近距離で悟られずに僕に魔法をかけられるの」
「武術では負けっぱなしですから」
魔法では負けられないよね~。呑気に三人で歩き始めたら、アッシュが爆弾を落としてくれた。
「なぁケイ、リフィは国外逃亡するつもりなんだと」
「……ん?」
「ちょっとアッシュ!?」
「取り敢えず一年くらい経ったら、王共と取引して国外で活動して、共犯関係は終了するつもりらしいぜ。普通の冒険者として所在不明で誰にも捕まらないようにするそうだが、可能だと思うか?」
「絶対無理」
「何か勝手に暴露されて否定された! 違うよ、何となく考えているだけで確定ではないから。だから魔王の冷気を発するのヤメテ!?」
のんびり森林浴をしながらのお散歩の筈が、何で急に緊張感のある不穏なサバイバルに変わろうとしてるんですかねぇ?
取り敢えず。
「アッシュのバカヤロー!」
「何だとっ!?」
「それは良いから、国外逃亡の話を詳しく」
「アッシュが勝手に言っただけで、そんな事は考えてないよ?」
「嘘をつけ!」
「うん、所在不明って僕たちにも?」
「や、だから、何となく考えているだけで決めてないから」
「よくある無責任な思い付きな」
「共犯関係も終わるって?」
「それはその~…」
嗚呼、何かカオスだ……。どうして私が責められているの、避暑に来て冷や汗が止まらないとか、ケイの笑顔の圧力がマジ半端ねぇとか、どうしてコウナッタ!?
何か別の話題! と考えていたら、願いが通じたのか、魔物と人の騒がしい気配。
私たちは直ぐ様、道を逸れて森を駆けた。悲鳴や剣戟の音がした。
青年と少女が、四体の三つ目の狼やら二足歩行のチーターやらの動物っぽい中級魔物に囲まれていた。
青年は左腕を深く傷つけて出血しているものの、あの若さで動きにくいドレスを着た少女を庇いながら、よく魔物を相手取ってここまで逃げたね。
素直に称賛しつつ、チーターを片手で相手取る青年の隙から、少女を狙う三体の魔物を先に片付ける事にした。
アッシュが土の槍で串刺しにし、ケイが風の刃で切り裂き、私は魔法の炎で燃やす。
野太くて短い断末魔を上げて魔物が雲散霧消し、最後の一体を倒そうとしたら、既に青年から離れて逃げていた。
「流石チーター、逃げ足はやっ!」
追えない事もないけど、今は人命優先。青年と少女に駆け寄ると、灰色の髪に紫の目をした二十歳前後の精悍な青年と、柘榴色の吊り目に豪奢な金髪の十二歳くらいの美少女。……はて、どこかで見た事があるような…?
ケイが青年に声をかけて簡単に話を聞く。
私は失礼ながらバレないように、青年が背に庇う青ざめて震える少女の顔を見て、見事な金髪に目を向け、真っ直ぐ伸ばしているものの毛先や横髪が少しくるくるとロール状に……あぁっ!!!?
「た、縦ロール!」
思わす叫んで、慌てて口を塞ぐ。けれども、全員の視線が私に向いていた。
縦ロールじゃないけど、縦ロールの少女だった!!
少女も私を見て瞠目すると、緊張や疲労が限界だったのか、ふらりと体を揺らした。
地面に倒れる前に、護衛の青年が少女を片手で支えた。おぉっ、正に騎士の鑑! リアルに目の前で起こった出来事に感動というか、萌える~。
無意識に拍手を送っていました。
不審者を見る目を向けないで下さい、そこの犬!
ああ、駄目だ…。私も突然の事に相当、頭が混乱しているなぁ…。
脳裏に思い浮かぶのは、今よりも成長した金髪縦ロールの少女が男爵家の少女を罵り、影で取り巻きと嫌がらせをする画。
――何となく多分、悪役令嬢(仮)と遭遇してしまいました…。ははは…。
お待たせしてすみません。m(_ _)m
急いで書き上げたので、後で直す所もあるかと思いますが、内容に変更はありませんので、更新していても気にしないで下さい。
ここまで漸く、といった所でしょうか。
何かと忙しい季節ですが、次も今月中に更新できたら……そう言って出来ずに本日の更新になったのですが……出来たらいいなと考えております!




