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5, 5才 ⑤

7/11、各話の誤字脱字、タイトル等を修正しましたが、内容に大幅な変更はありません。

5才③が少し時間軸を合わせるために手直し加筆しましたが、読まなくても支障はありません。





グルルルル……。

低く、威嚇する小さな獣を前に、わたしは少し困っていた。

目の前にはわたしが召喚したと思われる地の精霊(?)で、緑の目に白に近い灰色の子犬が丸まっている。


警戒心剥き出しの姿も可愛い! でも拒絶されているのが残念! 抱きかかえて心ゆくまで撫で回して、もふもふの柔らかな毛並みを堪能したい!!


じっと見つめながら、少しずつ距離を縮めるけど、その度に鼻の頭に皺を寄せて、鋭い歯を剥き出しにされる。

━━くぅっ、こんなに可愛いのに!! 撫でたいのに撫でられないって拷問ですね…。


それにしてもさっきから丸くなったままで動かない。首をもたげて威嚇するけど、動かない。………動けない?

首を傾げてじっと観察した。


「………おい、お前がオレ様を召喚したのか?」

「え?」

「や。そこで不思議そうな顔しないで、リフィ。そうだよ、この子が召喚者のリフィーユ・ムーンローザ。本当は地の精霊王を召喚する予定だったんだけど」


子犬とわたしを見守っていたケイが、見かねて口を挟んだ。あまりに触りたくて前のめりだったわたしの肩を掴んで、戻す。あからさまに子犬がほっとした。しまった、怯えさせていた!?


「精霊王の召喚……」

「君は地の精霊…で合ってる? その隠してる後ろ足、怪我してるみたいだけど、治そうか?」

「いや、いい。精霊界で休めば治る。それで地の精霊たるオレ様を喚んだ用件を聞いてやるから、さっさと言え」


わたしが怯えさせたという事実にショックを受けている間に、話がさくさく進んでた。この子犬様はやっぱり上級精霊なのかな。物凄く偉そう。見た目こんなに可愛いのに…。


「可愛いってなんだ! カッコいいだろ!? それとオレ様は偉そうじゃなくて偉いんだ!」

「うわー、自分で言っちゃったよ。子犬で可愛いからまだ許せるけど、これで大きかったら━━それもまたよし!! もふもふなら愛でられるね!」

「お前さっきから失礼な奴だな!?」

「はっ、口に出てた!」

「駄々漏れだったからな? 今さら手で口塞いでも遅いぞ!」


駄々漏れ……今さら遅いのか。━━それならば!!


「撫で回したいので、触らせてください!」

「はっ?」

「もふもふ触りたい」

「何の宣言だよ!? 普通になんか嫌だ。断る!」

「え、でもさっき願い事を言えって」

「どんだけ都合よく聞き間違えた!? 用件を言えって言っただけだ。土地を豊かにしてほしいとか、難しいけど咲かせたい花があるとか、オレ様の力を貸してほしいとかあるだろ」

「いや、別にそれは望んでないから、用件はないかな」

「じゃあ何で召喚したんだよ!?」


子犬が驚いた。けど、わたしも困ってる。因みにケイは唖然として会話を聞いていたけど、今は小刻みに震えて俯いている。


「喚んだのは地の精霊王で、失敗したのか間違えて、召喚しちゃった…?」


……ってことでいいはず。

手応えあったのに、今度こそ出来たと思って期待したのに、まさかの失敗。落ち込むよ。可愛いもので癒されたいと思うでしょ。


「失敗……間違えて……喚んだ? 用があるのは精霊王…」


子犬が不機嫌になって、胡散臭そうにわたしを見てきた。


「……精霊王。聞き間違いじゃなかったのか。お前、何であのじーさんに用があるんだよ?」

「知り合い?」

「一応な。それより、お前みたいなチビガキが、どうして精霊王を喚ぼうとする? 何かの遊びか?」

「違うよ。真剣そのもの。望む未来のために力を借りたいの」


お遊びでこんなに面倒な事しないよ。現実に精霊王の力が必要になることなんて、滅多にないと知っている。宝の持ち腐れになることはわかってるんだから。高位の精霊でも可能なことなら、そちらと契約した方が簡単で楽だ。


けれど、大きな土砂崩れが父を襲った時に、遠く離れたこの場所からそれを食い止めようと魔法を使うなら、大地を自由自在に操れる精霊王と契約した方が確実だ。何せ魔法は、魔力と契約した精霊の力量の分しか使えない。


わたしの魔力は物凄い多くて、無駄にある。上級精霊と契約して、この魔法は使える、この特大魔法は使えない、なんて制限を設けるくらいなら、最初から精霊王と契約してどれだけでも使えるようにして、万全に整えておきたい。


「用件を聞いてくれてありがとう。それと怪我してるのに、ここに喚び出してごめんなさい。契約はしないから安心して帰って休んで」


ちょこんと子犬の前にしゃがんで、右手を後ろ足に翳す。完治した姿を思い浮かべ、光魔法を発現。強めにした癒しの光が足に吸い込まれていった。これで大丈夫なはず。


自然と子犬の頭を撫でて少し下がり、ばいばいと手を振った。

結局、名前を教えては貰えなかったけれど、契約をしないのだから仕方ない。名残惜しいけど、あの柔らかい毛に触れたからいいかな。少しだけ癒されたよ。


すぐに消えると思っていたのに、子犬はきちんとお座りしてじっとわたしを見上げてきた。


「……未来のためってなんだ?」

「あ、それ、僕も気になってた。リフィは何を望んでいるの?」


前と隣から質問攻め。どちらもわたしを見ていて、どう答えたものか困る。まさか前世の話をはっきりとは言えないし、予知夢っていうのも後から自分の首を絞めそうで怖い。そもそも本当にその通りになるのかはまだわからない。


「世界平和ではないけど、わたしの家族とか友達とか大切な人が笑っていられるように、かな」


曖昧にしたけど、嘘ではないよ。

わたしも含めて笑っていられるようにしたい。きっと父や母やこの従兄弟が亡くなったら、当分笑えなくなる。


「わたしの事はともかく、あなたは帰らなくていいの?」


話を元に戻すと、ぎくりと子犬が強ばり僅かに目を逸らした。これはもしかして……。


「……実はこっちに来たのは初めてで、異界への帰り方がわからない、とか?」

「………………。……悪いかよ」

「え?」

「そーだよ。こっちに喚ばれたのは初めてだよ! 帰り方なんて習ってない! そもそもこっちにはまだ来られないはずだったのに、何で喚べたんだ!?」


えーと、逆ギレ? いやいやいや、違うよね。帰れなくて困っているという八つ当たりの話で、何で喚べたと聞かれても出来たからそうなったとしかわたしも言えない。特別なことなんて何もしてないよ?


涙目で睨まれて、困った。

隣を見ると、ケイも困った顔をしている。迷子のワンちゃんの保護をするべきかな。それとも迎えを喚んだ方がいいかな。


「とりあえず、ノームを喚んでみるよ。同じ地の上級精霊だし、優しいから一緒に連れ帰るか、帰り方を教えてくれるかも」

「そうだね。というか、リフィも喚べたんだ。あれ、でも契約はしてないんじゃなかった?」


不思議そうなケイにわたしは種あかしをする。


「契約はしてないよ。してないけど、喚んだらいつでも力を貸すって言ってくれたの。他にも、火はサラ、水はディーネ、風はウィン、光はライ、闇はミリーが契約なしでも力を貸してくれるって。親切でいい精霊たちだよね」

「……そうだね。気づいてないから言うけど、リフィ。それ全員、精霊王の側近とされる上級精霊だよ」

「ぅ、え?」


何ですと!? そんな大物だったとは!

あんぐりと口を開けて固まると、ケイが苦笑した。落ち着かせるためか、よしよしと頭を撫でてくれる。


「ノームは喚ぶな。あいつはイヤだ! 他の属性の精霊にも知られたくない!」

「わがままはダメだよ、シロ」

「誰がシロだ! 喚び出したお前にも責任があるだろ! どうしてくれるんだ?」

「そっか! それならわたしの家で飼う…ごほん。わたしの家でお世話するよ! 大歓迎だよ~」

「お前今、オレ様をペットにしようとしたな?」

「してないよ。ただお風呂入れて、体洗って、もふもふふわふわにして、一緒に寝ようと思っただけだよ」

「……ぜってー、断る。それと、他の地の精霊もやだからな」

「それじゃ、やっぱり帰る方法がわかるまでわたしの家に」

「それも断っただろ。ただ、精霊王のじーさんとなら一緒に帰ってもいい」


ニヤリと笑って言われたトンデモ内容に、わたしは絶句した。それが出来ないから、焦って悩んでいるというのに! 随分と簡単に言ってくれたな!


「いいだろ。元々じーさんを喚ぶ予定だったみたいだし」


━━くそぅ、姿は可愛いのに態度が可愛くない!! こうなったら、わたしの気の済むまでもふもふ撫でくり回す刑にして、参ったと言わせるしかないね!


にじり寄ったわたしに何かを感じたのか、子犬が警戒した。バチバチと火花が散って、ケイに止められた。


「それじゃ、リフィ。精霊王を喚んでみようか」

「はへ?」


相変わらずの天使の微笑みですね、従兄弟どの。こんな天使がわたしに無茶振りをするはずがない!


「だからね、地の精霊王をもう一回喚んでみようかって」

「空耳じゃなかった!!」

「冗談じゃなく、本気だよ」

「何で? どうして!? わたしまだ喚べないよっ? 百回は試したのに、さっきも失敗してますよ?」

「じゃあ次こそは成功させなきゃね。リフィのどうしても譲れない未来のためにも」

「━━!!」


……何でこんなところで、母に似てるのかな? 血筋なの?

お母様もわたしが弱音を吐いて、訓練から少し逃げようとするとこんな感じの笑顔でやんわり逃げ場を塞ぐ。わたしの怠け癖と体力的と精神的にきつくて、次に持ち越そうとズルすると痛いところを突いてくるのだ。

もちろん、自分が悪いってわかってる。そして失った時の後悔を考えて、結局は目論み通りに動くのだけど。


わたしは盛大に息を吐いた。

ケイは麗しい天使の笑顔ままだ。……くぅ、可愛いな~!

今度から対ケイトス用として、わたしも笑顔の応酬が出来るように鍛えておこうかな。


「心配しないで。一人でじゃなく、僕とやろう。今回は契約の為じゃなくて呼び出すだけだから、二人で力を合わせよう。そうすれば、出来ると思うんだ」


その説明で、諒解した。

契約の時は一人で召喚する必要があるが、聞きたいことがあったり、力を貸すようお願いするだけなら、一人でなくてもいい。過去にも何度か、数人の魔法使いでその時々で必要な精霊王を召喚した事例が残っている。あくまでお願いなので、聞いてもらえないこともあったが。


「僕が主導するから、リフィはただ全力で魔力を放出して。魔力操作と召喚と波長を合わせるのは僕がするから」


これなら安心でしょ、というように微笑まれたら、嫌とは言えない。なんて見事な飴と鞭! 六歳で既に誘導と主導権を握ることに慣れてるなんて━━笑顔がキラキラして可愛い過ぎる!

……負けた…。いつか女装させてみたい可愛さに。


止めとばかりに手を繋がれて、破顔一笑。……逃げられない。

わたしは観念した。ええい、ままよ。


「そうね、女は度胸! よーし、やるぞ!」

「それじゃさっきの精霊王召喚の感じを思い出して、魔力を王じゃなくて僕に渡すイメージで。出来るだけ僕の呼吸に合わせて」

「わかった」


まずは心を落ち着けて、呼吸を整える。目を閉じて自分の魔力を感じて、手を繋いで隣にいるケイに渡すというか、魔力を送り出す感じ。それもあるだけ全部。


渡すのは簡単だから慣れたら目を開けて、わたしは隣の様子を窺った。大変なのはケイだ。額に玉のような汗を浮かべながら、物凄く集中しているのがわかる。

それでも安心して任せられた。

ケイはわたしの魔力と自分の魔力を綺麗に重ね合わせて、途轍もない魔力をきっちり制御していた。

あまりの凄い魔力に物理的に圧力がかかる。その魔力が濃く一点に集まり、凝縮されていく。


土煙が上がった。

わたしの手をケイがしっかり握り締めつつ、守るように抱き寄せられていた。

そっと目を開けると、巨漢のおじいさんが目の前にいた。

いわおのようにがっちりした体躯に、褐色の肌。真っ白な髪と髭は長く、地面についている。巨木のようにどっしりと構えていて、緑の目は穏やかで慈愛に満ちていた。


対峙してわかる。

間違いなく、悠久なる大地を統べる偉大な王。地の精霊王だ。

上級精霊とは一線も二線も画す圧倒的な存在感と濃厚な自然の魔力。


「わしを喚んだのはそなたらか。これは何とも珍しい。だがな人の子よ、すまんが今は取り込み中で出来れば━━」

「じーさん」


精霊王が驚いたように、子犬を見た。それから足下にいた子犬を抱き上げて、安心したように笑う。


「探したぞ。怪我をしておったのに、いつの間にかいなくなって肝が冷えた」

「悪かった。でも召喚されたんだ。仕方ねーだろ」

「ほ? 召喚とな。あの強力な守護魔法の中から一体誰がどうやって…」

「そこの小娘だ。リフィーユ・ムーンローザがじーさんを喚んで、何故かオレが召喚された」

「……ムーンローザ? その割にはサンルテアの血筋の力が感じられる」


地の精霊王がわたしをじっと見つめてきた。緊張で喉が渇く。ケイに、繋いだままだった手に少し力を込められて、わたしは思い出したように呼吸した。


「初めまして、地の精霊王。私はケイトス・サンルテアです。今回、あなたを隣にいるリフィーユと共に召喚しました」


それからはケイが掻い摘まんで今回のあらましを語り、地の精霊王が「なるほど」と聞いていた。


「ふむ。事情はあいわかった。こやつが世話になったな。礼を言う。それにしても、そなたらのような子供に召喚されるとは、面白いな。こちらに喚ばれるのも、実に久方ぶり。ケイトス、リフィーユ、わしと契約するか?」


突然の申し出に、呆然とした。

喉から手が出るほど欲しかったものが差し出された。今まで散々失敗して、落ち込んで、悲しんで。でも出来なくて、また練習して。━━でもこれで、父を助けられるかもしれない。


ケイと子犬が、わたしを見ていた。小刻みに震える手をケイが強く握ってくれた。魅力的な申し出にくらりと目眩を感じて、目を閉じて唇を噛む。


「━━大変ありがたい申し出で栄誉な事ですが、辞退させていただきます」

「ほう。何故かな?」

「今回、あなたを召喚したのはケイトスです。わたしではありません」


わたしも力を貸した。でも九割がたこの従兄弟が全部、自分の実力でやったのだ。それくらい、わたしにもわかっていた。恐らく、ケイなら一人でも出来たのではないかと思う。


「リフィ」

「おいお前、それでいいのかよ」


ケイと子犬に言われたが、いいわけがない! 欲しいのが楽に手に入る絶好の機会だ。是が非でも欲しい。わたしは別に潔癖でもないし、利用できるものは利用した方がいいに決まっているよ。

でも、今のわたしが契約しても、力を十二分に発揮できないだろう。実力がないのにそんなことをすれば、魔法を使う時に肝心なところで失敗するかもしれない。父を助けるどころか、失敗して巻き込んだら大惨事だ。


「実力が伴ってから、改めて召喚したいと思います。その時は契約してください」


もしギリギリまで召喚できなかったら、ケイに協力してもらおう。その時はわたしも出来るだけ沢山の精霊に力を借りて、頑張る。


「それで良いのか? 何やら望みがあるのだろう」

「ありますけど、わたしに実力がなければ最悪の結果を引き起こす可能性もあるので。それはわたしの望むことではありませんから」


真っ直ぐ緑の目を見返すと、精霊王が楽しそうに笑った。


「ではそなたに喚ばれるのを楽しみに待つとしよう。ケイトス・サンルテア、お主と契約しよう」


精霊王から力の一部が譲渡される。それを受け取り、自分の魔力を相手に渡せば、契約終了。いつどこにいても力を借りて、必要なら召喚できる。


「それにしても、確かにそなたもサンルテアの血ではあるが、濃いのはやはりリフィーユだな。まぁ直系の娘の子供と一族分家の養子の子供だからか当然かの」


悪気のない精霊王の言葉にわたしが戸惑って隣に目を向けると、ケイは困ったように微笑んでいた。わたしは聞いたことがないけど、彼は知っているのだと思った。


「関係ありません。わたしはムーンローザ家の者です。それにケイは自分の実力であなたを喚んだんです。わたしが出来ないことをやってのけたんです」


わたしが繋いだ手に力を込めると、ケイが驚いたのが伝わってきた。それからケイも握り返してくれる。


「ふむ。そうじゃな。それではリフィーユ、喚ばれるのを楽しみに待っているぞ」


帰るのだろうと、ケイと二人で見送る。━━すると。

ひょいと地の精霊王の腕から子犬が抜け出してきた。わたしの方へと飛び降りてきたので、慌てて抱きとめる。体が傾いて尻餅をつくと思ったけど、後ろからケイが抱きとめるように支えてくれた。……何なんでしょう、この状況。

ケイがわたしを後ろから抱き締めて、わたしは子犬を抱き締めている。絵面は可愛いのに、何だかむず痒い。


「じーさん、オレここに残る。こいつがじーさん喚べずに泣きべそ掻くところを見たいからな」


ニヤリとわたしを見て笑う子犬様。

━━か、可愛くない!! でもやっぱり可愛い!! ナニこのふわふわで肌触りのいいもふもふ!! 思わずすりすりしたい! 変態じゃないよ! 普通の感性…のはず!!


自分の毛並みの良さをわかっているのか、子犬はふさふさの尻尾で抱えるわたしの腕をぺしぺし軽く叩く。……う、なんて良い肌触り。

わたしは堪えきれずに、ぎゅうぎゅう子犬を抱き締めて、ふわふわの背中と後頭部に頬ずりした。

「ぐえっ、ちょっ、待った」なんて声がして、腕を叩く尻尾の勢いが強くなったけれど、気にしない!


頬をだらしなく緩めて、満足していた。ほくほく顔で周りを窺うと、吹き出して笑う地の精霊王と、それを恨めしげに見て小さく唸るどこかぐったりした子犬。ケイは「よかったね」と頭を撫でてくれた。


「じーさん、オレやっぱり帰……ぐえっ! やめろ、潰れる!」

「では、わしはこれで帰るよ。ケイトス、お主に大地の祝福があらんことを。リフィーユ、また会えるのを楽しみにしておる」


地の精霊王が去り、子犬は疲れたように項垂れていた。わたしは物凄く上機嫌。


「お母様や皆に紹介しなくちゃ。これからよろしくね、えーと」

「好きに呼べ。ただし、ポチとシロは受け付けねぇ!」

「えぇっ、好きに呼べって言ったのに! 名前教えてくれないのに、酷くない?」

「お前のオレ様に対する扱いの方が酷いわ!!」

「どこが? 普通だよ。はわぁ、もふもふ…」


再度頬擦りしようとしたら、横からひょいと取り上げられた。子犬が助かったと、ケイに感謝の目を向ける。わたしは少し不満げに従兄弟を見て、視線に気づいたケイが微苦笑した。……これも眼福で可愛い。


「程々にしないと嫌われて逃げられちゃうよ。それと仮の名前としてアッシュはどう?」

「ん、それでいい。ケイはリフィよりもセンスあるな」

「わたしへの態度の方が酷いと思う! でも、アッシュか。うん、これからよろしくね。アッシュ」


にっこり笑うと、まだ名前に慣れないのか、アッシュが照れたように目を逸らした。


それからは、母や叔父、館の使用人たちにアッシュを紹介して、ケイと三人で庭で遊んだり、街に出たりした。そこで街の子供たちと一緒に鬼ごっこや隠れんぼをして遊んで、帰った。



次の日もケイが一人で遊びに来て、一緒に魔法の訓練をした。それが終わったらまたアッシュを連れて街に出て、よく遊ぶサリー、カルドを紹介して五人で遊んだ。カルドが反発していたけれど、帰り際にはすっかり打ち解けてまた遊ぶ約束をしていた。



*・*・*・



アッシュと地の精霊王と会ってから五日後。

六歳になる二日前に、ようやくわたしは地の精霊王と再会できた。そして約束通り、契約を結んだ。


アッシュは帰るかと思ったら、「危なっかしいからまだ一緒にいてやる」とそっぽ向いて言った。地の精霊王がそれを微笑ましそうに見て去ると、わたしは今までの焦りと重責からひとまず解放された反動か、涙が零れた。

ケイとアッシュが困っているのがわかるが、当分止まらない。


とりあえず、目標一つ達成!!

━━これで父を助けられるかもしれない! 母を悲しませずにすむかもしれない! わたしの今後の為に役立つ交渉材料も手に入れた。


望みにほんの少しだけ、近づいた。

まだどうなるかわからないけど、不安ばかりだけど、それでも何とか出来る可能性はある。


ケイが「よく頑張りました」と頭を撫でて慰めてくれて、何だかまた泣けてきた。ますます困らせたけど、ケイは子供をあやすように抱き締めて宥めた。



その二日後、六歳になったわたしは、母と共に神殿を訪れた。

わたしの目的は魔力を測ることではなく、神殿長。

その人と交渉するために、ここまで来た。


━━よし、やるぞ!


わたしは気合い十分。

小さく拳を握って、白亜の荘厳な神殿に足を踏み入れた。






これにて五歳編は終了です。

お付き合い下さり、ありがとうございました。

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