4, 5才 ④
無事に叔父とも従兄弟とも挨拶を終えて、応接室へと母が促す。わたしは無事に初対面を済ませたことで、ほっとした。何だか緊急任務をやり遂げた感じ。
ふぅ、やれやれ。
とりあえず、もう出掛けてもいいかな? 早めに出掛けようとしたけど、ゴタゴタしてたから時間がおしている。…けれども、お客様が来ていた。それも親族で、今後も関わることになる叔父と従兄弟。
困って母を見上げると、にっこりと麗しい微笑を返された。
あ~癒される~! 絶対マイナスイオンとか出てるよね!
ほわほわしてると、新しいお茶の準備をしてカートを押してきたメイリンにくすりと笑われた。
おぉ、珍しい! 眼福だ~!
大好きな二人が笑っているのを見て、わたしもにこにこ上機嫌になる。普段は真面目なジャックとその近くにいた叔父に生温く微笑まれて、我に返ったけど。
見上げていた顔の位置を正面に戻すと、目線の高さが同じ従兄弟のケイトスくんも似たように笑っていて、ちょっと恥ずかしい。……何ですかね、コレ。…コレが噂の羞恥プレイですか?
それにしても、皆さん本当にお綺麗で━━至福!!
基本、綺麗なもの可愛いもの、大好きです!
叔父も従兄弟も気になるし、出来ればここに居たいけれど、先約がある。そっちも久々の外出で楽しみにしていた。
仕方ない。ここは涙を呑んで、離れよう。先約が優先。
「お母様、わたしはそろそろ出掛けますね」
「ええ、気をつけてね。あまりお転婆してはダメよ?」
微笑むお母様に「はい」と、笑顔で頷く。それからジルベルト叔父様とケイトスくんに向き直り、ご挨拶。
「何のお構いもせず、来ていただいて早々に外出してしまい申し訳ございません。どうぞごゆるりとお過ごし下さい。それでは御前、失礼致します」
よし、お母様もメイリンもよくできましたと笑ってくれているから問題ないはず。では遊びに行くとしますか!
「お嬢様、お待ち下さい。奥様、僭越ながらわたくしめもお嬢様にご同行したく存じます。最近は物騒ですので、万が一にでもお嬢様が拐われたり、どこぞのマセガキと接触させないためにも必要なことかと」
……真面目な顔でナニを言ってんのかな、ジャック。さっきの土下座で少しおかしくなったとか。いつも自由にのびのびと遊んでいたし、笑顔で見送ってくれていたのに。
「ジャック、言葉遣い」
「失礼しました」
笑顔で指摘した母に、スマートに一礼する執事。それから頬に手を当てて、困ったようにお母様がわたしを見る。ばっちり目が合いました。
『どうする、リフィちゃん』
『わたしなら一人で大丈夫です』
『そうよね。ジャックも急にどうしたのかしら。まるで悪い虫を追い払おうとする頑固オヤジみたいね』
『お、お母様?』
『大丈夫よ、お母様に任せて』
『素敵です、お母様!』
アイコンタクトで会話を終えて、頷くお母様。
「ジャック、あなたまだ仕事があるでしょう。それに子供の遊びに大人が付いて回るなんて無粋よ。まるで監視してるみたいでしょう。子供は自由に遊ぶものだわ。リフィちゃんなら大丈夫よ」
ジャックが残念そうに承諾した。
わたしは心の中で母に大きな拍手を送る。これで心置きなく遊べるね!
一礼して踵を返し、今度こそ館を出ようと扉の取っ手に手を伸ばし━━ゴン。
治したはずの額にまた同じ痛み。よろめいて後ろに下がり、額を押さえてしゃがみこんだ。
わたし何か悪いことした!? 今日って厄日なの? それとも出掛けるなという警告!?
「あれま、そんなとこにいたら危ないっすよ、お嬢様」
能天気な声がして、扉からひょっこり顔を出したのは、アイリーンを見送った従僕だった。
最近雇った二十歳過ぎの男で、目からも態度からもやる気がまるで見られない。それなのに、美人の母とメイリンには笑顔ですり寄ろうとする。はっきり言ってキライです!
「カール、まずはお嬢様に謝罪しろ! 全く、その態度はなんだ!!」
「ハイハイ、どーもすみませんでした」
「へらへらするな! お嬢様に傷がついたらどう責任を取るつもりだ!」
怒るジャックにもどこ吹く風で、カールは肩をすくめた。……こいつ、全然反省してないな。というか、わたしがナメられてる。
「あ、そーだ。お嬢様、手紙来てましたよ。サリーとカルドって人から。何か二人とも急用が出来て、遊べなくなったみたいっすね」
懐から二通の手紙が取り出された。器用なことに、わたしは笑顔で怒った。━━手紙が届かなかった原因はお前か!!
「……ありがとう」
どうにか笑顔を維持した。手紙を受け取ろうとしたら、ひょいっと遠ざけられる。……おい!
ジャックの表情が凄いことになってるから、覚悟しておくといいよ?
カールはニヤニヤ笑ってわたしを見下ろしていた。━━コレは間違いなく、わたしに喧嘩を売っているとみた!! よーし、買ってやろうじゃないか!! 覚悟しろ!
ここまでされても、母は不穏な笑顔で沈黙。メイリンは鋭く睨んで沈黙。叔父たちも同じく。
わたしが一瞥すると、二人の美人師匠が頷いた。……お咎め無しの許可、いただきました。
とりあえず、深呼吸。それから真っ直ぐ見上げて、手紙に狙いを定めた。カールが息を飲むが、気にしない。集中━━!
強い風が一瞬だけ吹き抜けて、カールの手から手紙を奪うと、わたしのもとにふわりと浮かんだ。宙に浮かぶ二通の手紙を受け取り、それをスカートのポケットにしまう。
「ぅわ!?」
顔面蒼白のカールの周囲に火の玉が浮かんでいた。前後左右を隙間なく取り囲んでいるから、身動きが取れないようだ。
火の玉の炎が大きくなったり、元に戻ったり、囲んだ人間を脅すように伸縮する。
「そこまでよ、リフィちゃん」
母の制止に、わたしは火の玉を消す。カールがへたりこんだ。その首根っこをジャックが掴む。
「大変失礼致しました。わたくしめの監督不行き届きです。再教育して直らないようであれば、即刻解雇致します」
「なっ! 離せよ、おれは旦那様に雇われたんだぞ!? アイリーンから旦那様に今回の件を」
「━━黙れ。始末するぞ」
初めて聞いたジャックの低い声に、ぞわっとした。直接鋭い眼光を浴びたカールが、喉を引き吊らせて小刻みに震える。
「男爵様、重ね重ねお見苦しい当家の恥をお見せした挙げ句、ご不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ございません」
「いや、気にしなくていい。面白いものも見られたからね。リフィは姉様にそっくりですね。そして魔法の才能は目を瞠るものがある」
わたしの話にびくりと我に返った。叔父を見て「恐縮です」と一礼する。
「では、この愚か者を指導して参りますので、この場で失礼します。メイリン、後は任せる」
「承りました」
どこにそんな力があるのか、ジャックは館の奥へとカールを引きずっていった。
「それでは、応接室へご案内します」
何事もなかったようにメイリンが一同を促したけれど、わたしは動けなかった。カールの言葉がまだ耳に残っている。嫌な予感がした。
でも今は親戚とはいえ来客中で、わたしはもてなす側で、視線がわたしに集まっていて…。━━しっかりしろ、わたし!
俯かないように拳を握っていると。
「お父様。少し気分が優れないので、気分転換に外の空気を吸ってきてもよろしいでしょうか?」
澄んだ少年の声がした。場の視線が、わたしからケイトスくんに移る。
「大丈夫か? 部屋を用意してもらおうか?」
「風に当たればよくなると思いますので。それで伯母様、申し訳ありませんが庭を散策してもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。こちらこそ色々とごめんなさいね。誰かに案内させ━━リフィちゃん、お願いできるかしら?」
「え?」
「付き合わせて悪いけれど、頼めるかな?」
だめ押しのように、玄関扉近くにいるわたしの隣に移動してきたケイトスくんが、濃緑の静かな瞳で見つめてきた。
少しだけ、荒れていた心が落ち着く。
「畏まりました。ご案内させていただきます」
「それじゃ、宜しくね」
わたしが案内役のはずなのに、ケイトスくんがわたしの手を引いて、扉を開けた。
新鮮な空気と光が入り込み、玄関ホールを明るく染める。わたしはほっと肩の力を抜いて、天使のように綺麗な従兄弟に手を引かれ、外へと足を踏み出した。
*・*・*・
日の光を浴びて、艶やかな青緑の髪がさらさらと揺れている。綺麗だなと思う。
わたしはぼんやりとそれを見つめながら、従兄弟に手を引かれるまま、ついて歩く。
母とメイリンと訓練している、サンルーム横の庭を通り、咲き始めの薔薇の庭園も通り抜け、なだらかな斜面を登っていく。
その先には木々が生い茂る林があった。
林に入る手前、斜面を登りきったところでケイトスくんが立ち止まった。
この時にはわたしもすっかり落ち着いていて、彼が気遣ってあの場から連れ出してくれた事に感謝していた。
ここまで引いてくれた温かい手を見る。重なっている掌が意外にも皮が厚く、マメが潰れているのかぼこぼこしていることに気づいた。
振り向いたケイトスくんに、頭を下げた。
「ケイトス様、気遣ってわたしを連れ出していただき、ありがとうございます」
「僕が外に出たかっただけだから、気にしないで。ここまで付き添ってくれてありがとう」
照れ臭そうにはにかんだ。
その可憐な微笑みに、頬に熱が宿る。なんて凶悪なまでに素敵な武器をお持ちで! ぜひ声を大にして叫びたい!! ━━天使が! 天使がここにいますよ!!
もう本当にナニこの可愛さ! ぎゅって抱きついてなでなでしても、今なら許される気がする! むしろそうして、全力で愛でるべき!?
「リフィーユ嬢は、大丈夫?」
顔を覗き込まれて、我に返った。
わたしの頭は何とか大丈夫だよ! あまりの可憐さに悶絶しそうだけど、まだイケる!!
「ちょっと失礼するね」
さらりと前髪を上げられた。魔法の気配を感じると、額の痛みが引いていく。治療してくれたみたいだ。━━本当に天使? 羽が生えてない!?
ケイトスくんが前髪を戻して、頬を緩めた。
「赤みも引いて、傷もないから大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
至近距離で目が合った。
一年を通して変わらない常緑樹の濃い緑。
彼の目を見て思い出すのは、雪が被った荘厳な鎮守の森だった。雪の白とのコントラストが綺麗な色だ。
黒に近い強い色なのに、黒じゃない自然の色。
その目には今、少し頼りなさそうなわたしが映し出されていた。
「━━不思議な目の色だね」
まじまじと見つめて、告げられた。近い距離とかけられた言葉に心臓が跳ねるが、わたしは苦笑を返した。
「…よく言われます。金ではなく、琥珀のようでもなく、黄玉とも違う、と。幼馴染みのカルドにはくすんだ金色でいまいちパッとしないと言われました。その兄のアランさんには、……魔物も魅了しそうな神秘的な目だねと」
にっこり笑って言われた。
その時は単純に喜んだが、今思えばいくら年上とはいえ、十歳の少年の台詞ではないと思う。前世の記憶を思い出してからは、特に末恐ろしいと感じた。
それと同時に、不安になった。
わたしが魅了の魔法を使って、攻略対象者を虜にした可能性に思い至ったから。
不安で特訓の合間に調べてみると、高位の闇魔法には隷属の魔法が、高位の光魔法には祝福という周りの人を穏やかで優しい気持ちにするけど、使いすぎると副作用でる幸福にあやかりたいと使用者の側を離れがたくするという魔法があった。
そんな事をするつもりはないけれど、もし自動的にそういう強制力が働いたらと考えると、ゾッとした。
改めて攻略対象者と接触する事や、目が合う事すらも危険だと感じた。
やっぱり学園に通わず、避けておくのが最良に思えたよ。目指せ、平穏無事な平民生活!
「……僕には、星色の目に見えるよ」
「え?」
「太陽ほど強くなくて、月ほど淡い光じゃない。優しく見守る星色の目だよね。道に迷った旅人を助ける導きの色」
至近距離での笑顔は目の毒でした。吐血しそう…。いや、堪えてわたし! がんばれわたし!
━━導きの星の色かぁ。そっちの方がいいな。
何でも魅了して釣りたい訳じゃないからね。純粋にその言葉が、大袈裟とは思うけれど嬉しかった!!
自然と笑みがこぼれる。
「ありがとうございます、ケイトス様」
「ケイでいいよ。様も敬語も要らない。僕もリフィって呼んでもいい?」
「もちろんです!! ……じゃなくて、もちろん、いいよ。よろしくね、ケイ」
「うん。よろしく、リフィ」
繋いだままだった手を笑いあって、握手。
……どうしよう! この天使が眩しすぎる! マジでいい子!! 抱きつくのはアリかな? お巡りさんに、捕まらないかな!? いや、変態じゃないよ?
それからは、木陰に並んで座って仲良くお喋り。
家族の事や好きな事、幼馴染みや使用人、どんな風に遊んでいるかとか、普段の生活の事をお互いに話して━━すっかり打ち解けたよ!
時折、そよ風が吹いてわたしたちの髪を靡かせる。話題はなかなか尽きなかった。
「リフィは魔法が得意なんだね。六属性を使えるなんて凄いよ」
「得意というか、特訓中なの。でもケイも使えるんだね。もしかして契約もしているの?」
「うん。でも火と闇が苦手でその二つはまだ契約してないから、仮契約の魔法だけ」
いやいやいや、十分凄いことだよ?
六属性の使えるのは本当に一握りだけで、王族でも滅多にいないから。まさかの従兄弟もハイスペック!! 魔法だけじゃなくて、剣とかも特訓していて三年になるらしい。先輩だね!
貴族だから先に習っているわけではなくて、子供の内から魔法と武術を鍛えるのが、サンルテア家の方針みたい。……母の腕前の謎が解けました。
普通はもっとのんびりしていて、学園に入ってから本格的に学ぶ子が大半。
一年前に亡くなられたケイの母も、魔法は得意だったけれど食事のナイフ以外に刃物を握った事は無いとの事。━━うん、普通そうだよね。
母とメイリンとの剣や体術の訓練の事を話すと、家の方針でも女の子は基礎だけで、本格的には学ばない模様。━━ちょっと待って、お母様。ある程度使えるのが淑女の嗜みよって言ってなかった!? それとも母の中だけではそうなってるの?
わたしは魂を飛ばしかけていた。出来ることならあの特訓は、無い方が嬉しい! 本当に辛くて、しなくてもいいなら怠けたい!! ━━そう言ったら、こんこんとお説教されて、更に厳しいメニューが待っていそうだから言えないけど!
「リフィは契約しないの?」
「するよ。でもまだ喚べないの。他の上級精霊じゃ駄目だから、鋭意特訓中。一応、契約してなくても助けてくれる精霊はいるけど、それじゃ足りないの」
わたしの望む未来のためには、妥協しない!!
怠けるのは大好きだけど、それだけは話が別。だから、必要ならスパルタ特訓にも耐えるよ!
決意を新たにして隣を見ると、ケイがぽかんと呆けていた。どうしたのかな?
「……上級精霊じゃ足りないって」
「わたし、精霊王全員の力を借りたいの」
「一体どうして…?」
「欲しい未来のためだよ。どうしても譲れないの」
ケイも母も父も、失いたくない。わたしの未来の人生を変えたい。
「未来のために、精霊王を…?」
「そう。今は血筋的に相性がいい土の精霊王の召喚を目指しているんだけどね、まだ喚べないの。何とかあと一週間で喚び出さなくちゃ」
「一週間で!? それは伯母様からの課題なの?」
「違うけど、それが自分で決めた期限なの」
「……よくわからないけど、僕でよければ手伝うよ」
「ありがとう!」
━━と、そんなわけで。
それからわたしたちは、魔法の練習を開始しました。
一人の時とは違って、捗るね。今はケイが先生で、中級精霊以上と契約した際に使える六属性の魔法を訓練中。
そうして大きな魔法と自分の魔力の操作に慣れて、精霊王召喚に必要な力の扱い方にも慣れる。
楽勝と思っていたら、甘かった。物凄く緻密なコントロールと集中力が必要で、少し気を抜くと、自分にも周りにも被害が及ぶ。
制御が甘くて炎で辺りを燃やしかけたり、林の木々を苅りかけたり、プチ洪水を起こしかけたり、闇で辺りを覆い尽くそうとしたり、土砂崩れになりかけたり。
その度にケイが補助してくれて、わたしも立て直したから大惨事にはならなかった。━━魔法が怖いと思ったよ。
ある程度、コツを掴んで慣れたら基礎の仮契約魔法の練習。
今さら? と思ったけれど、わたしが使用した所を見る限り、発動に時間がかかりすぎらしい。それでは咄嗟の時に使えず、あっさり手練れの誘拐犯に捕まるとのこと。
確かに、イメージに集中してから発動するから、隙があった。カールの時は、相手が魔法を使えなくて、向こうもわたしが使えると思っていなかったから、上手くいっただけ。
息をするように、意のままに仮契約魔法を使えたら、上級魔法の制御も上達すると言われて、納得。そして教え方も上手。━━うん、普通の六歳じゃないよね。
上級魔法の制御と仮契約魔法の発動速度と威力はまだ僕も練習中って、十分だと思うよ。 ━━ハイスペック従兄弟は一体どこを目指しているのかな?
「でもお父様は、えーと、荒事の解決とか魔物の討伐に行くから、僕も出来るようにならないと」
領内の魔物退治は、領主の仕事らしい。
必要なら人を雇ったり、国から魔法使いを派遣してもらったり、ギルドに依頼したりと様々らしいけど。
ジルベルト叔父様は、殆ど一人で行って殲滅して帰ってくるそうな。━━かっこいい! これは男女共に憧れて惚れるよね!
そして努力するケイが、かっこ可愛い!! この天使を守るためには、わたしも精霊王を喚べるようにならないと。練習あるのみだね。
ある程度コツを掴んだので、少し休憩してから、試しに土の精霊王を喚んでみることにした。
深呼吸して、偉大な大地に喚びかけるように、魔力を捧げる。召喚の文言を唱えながら、出せる限りの魔力を集約して、喚びかけ続けた。
ふいに、巨大な大地の力と接触した感じがした。それをそのまま繋ぎ止めて、自分の今いる空間に喚び寄せる。確かな手応え。
思わず気分が高揚した。
「━━召喚者リフィーユ・ムーンローザの求めに応じ、顕現せよ、悠久なる大地の精霊王」
━━よし、来る!!
今までとは比にならない会心の出来に、小さくガッツポーズして目の前の空間を見つめると、ボンっ、と音がして現れたのは━━灰色の子犬だった。
「…………」
えーと、コレはひょっとしなくても失敗?
丸まっている子犬が、鬱陶しそうに緑の目で鋭く睨んで、唸ってきた。…どうしたもんかな。
ちらりと見ると、子犬特有のもふもふの柔らかな毛並み。━━よし、決めた。
「おいで、ポチ」
「誰がポチだ!!」
子犬様に怒られました。