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30, 8才 ①

間違えていた話数等を直しましたが、内容に変更はありません。




 青空を入道雲が進んでいく。

 バベルの塔のように高いシルヴィア国のギルド、最上階。ギルドマスターの部屋で、わたしは窓際のソファーに座りながら、豆みたいに小さな人々や王都の様子を眺めていた。ギルドマスターの愚痴を聞き流しながら。


 フロースとして受けた依頼を完遂させ、その報告と報酬をやり取りし、聞いていた依頼内容との違いを申し立てて、賠償金を請求したら。

 受付のお姉さんが大慌てで奥に引っ込み、馴染みになりつつある窓口の責任者に謝罪された。その後、文句は仲介したクルド・ダッカに直接と、丁寧に案内された。

 またこのパターンか。


 案内された部屋で出迎えたのは、大柄な筋肉男。

 依頼内容の相違を責めるとすっとぼけるので、用意していた記憶玉の会話録や依頼内容の写しや契約書を突きつけたら、土下座された。ついでに、叔父様に告げ口すると言えば、賠償額が上乗せされた。……仕方ない。今回はこれで赦そう!

 帰ろうとしたら、お茶菓子を出されて引き留められ、クルドの仕事の愚痴が始まった。


「ギルドマスターなんていっても雑用だ。本部はうるせぇし、下の連中は勝手して尻拭いばっかだし面倒臭ぇ。最近では低ランク女の冒険者ができる仕事が少ないってあちこちの支部から不満続出で、人が余りまくってるから何とかしろって……どうしろっつーんだよ。そもそも一般人の仕事なら他を当たるべきだろ。そう言ったら、それがないからギルドに来たと怒られるわ……」


 右から左に聞き流し、お菓子を食べながら物思いにふけるのは、最近知った家庭内事情というか、頭の痛い案件。

 どうやらうちの執事が新人メイドをイビっているらしい。━━職権濫用のパワハラですか!


 一週間と少し前、一人で早朝訓練して、最近の習慣通りエプロンドレスを着て、庭に作った畑仕事や家の掃除をして、朝食を食べて母の見舞いに行き、メイリンに頼まれた仕事をしながら、夕暮れ時に家に戻った。


 この日もダイニングに用意されていた、わたしの分の夕食を食べて、お風呂にでも入って寝ようかと廊下を歩いていたら。

 針仕事をする部屋から灯りが洩れ、すすり泣きが聞こえた。


 通いの使用人たちはいつも夕方前には帰る。時折、ジャックが使っていた部屋で、ジェレミーが休むこともあるけれど、声は女性のもの。━━え…もしかして体が透けている方ですか? 声が……三枚四枚、五枚……ってマジで!?


 わたしは緊張しつつも開いているドアから部屋を覗くと、メイド服を着た少女が、布に囲まれていた。

 産休の母の代わりに働き始めたルミィだった。涙を流しながら、針と布を手に裁縫している…。


 放置できずに声をかけたら、わたしを見るなり「ごめんなさい、お嬢様。クビにしないで」と泣かれた。ナゼそうなった。

 理由を問えば、ジェレミーの指示で明日までに雑巾と布巾を各五十枚縫えと言われたらしい。それも仕事が終わって帰ろうとしていたときに。


 労働契約に基づき、明日やりますとルミィが答えたら、急ぎのお嬢様の命令だから出来なければクビ、と言われたそうな。

 事故でひと月前に父を亡くし、身重の母の代わりに働いているのにクビになるのは困ると、こうして残業していたらしい。


「そんな指示してないよ」


 目をこぼれんばかりに見開いたルミィが印象的でした。「やっぱり」と呟いて落ち込んだ姿も。

 片方の話を鵜呑みにするわけにもいかず、取り敢えず他に何か理不尽な要求をされてないかと聞けば、色々出てきた…。


 使用人には全員、昼の賄いがあるのに何度か抜かれた。主な仕事は掃除の筈が重い家具の配置替えを何度か。暑い中、離れた王都郊外に三時間かけて徒歩で届け物をしたら別の日で、後日また徒歩で再配達。


 休憩とおやつも最近は無くなりつつあり、使わない高価な食器具類を磨かされて、この半月は定時で帰宅できず。母に心配されるも仕事で失敗してと言葉を濁し、「愚鈍、無能、これでは給料なんて払えない」とジェレミーに毎日罵倒され、残業代は出ず、唯々諾々と理不尽な仕事をしてきた。━━我が家がブラックな職場になっていました。


 配置替えなんて頼んでないし、遠いなら馬車を使えるし、高価な食器具類の管理と研磨は…基本は執事だよ…? しかも十二歳の少女を残して大人は帰宅って……。


 ルミィ曰く、メイド仲間のメアリや料理人のギルがいないところでそのように扱われ、命じられているらしい。一方でジェレミーより古参の二人には、ルミィがいくら教えても失敗ばかり、仕事が時間内にできないとこぼして、メアリやギルに忙しい執事を困らせないようにと注意されたそうな。


 それで誰にも言えずに抱え込んで言われた通りにして……母もメイリンもいないし、大抵の面倒事はお嬢様の命令と言われていたので、わたしにも言えず……って、罪をなすり付けられてる!?


 まぁそれで、ルミィに記憶玉を持たせてジェレミーとのやり取りを記録させたら……パワハラ発言と理不尽な命令が出てきた…。信じたい気持ちがあったから、「真面目に仕事しろ」と頬を打つ姿はショックだったなぁ…。だってジャックが教育して後を任せていった人だから……何であんな風になっちゃったんだろ…。


 療養中のお母様に負担をかけたくないし、メイリンは母と二週間ほど休ませたら、中途半端になっていた取引をまとめに国中を飛び回りつつ、これまでお世話になった過去の取引先に店仕舞いの挨拶もしていて忙しい。


 そうなんです。この度、ムーンローザ商会を畳むことになりました。続けても採算が取れずに赤字が増えるだけなので。

 家財も使わない物や本や花瓶、絵画や余分な家具類を売り払って、ついでに広大な庭の一部━━森や丘も売りに出して。

 土地は『影』の訓練で使うからとサンルテア男爵家がお買い上げ。


 今は家と少しの畑兼庭があり、サンルテア家の訓練地が二方を囲っているという奇妙な状態。その訓練地には屋舎を立てている最中。きっと訓練する『影』をそのまま護衛に宛がって、うちを見守ってくれるんだろう。叔父様に感謝だね。


「おい、聞いてるのか?」

「はいはい。子犬が三匹生まれたんだね。おめでとう」

「明らかに聞いてねぇ!」


 このオジサン、面倒臭い。お茶菓子も食べ終わったし、余りは貰ったし、帰るか。立ち上がると、テーブルを回り込んできたクルドに「待て」と大きな手で掴まれた。そこに「失礼します」ドアが開かれて、黒いスーツ姿の小柄な女性が入室してきた。


 細長い四角のフレームの眼鏡をかけた、いかにも秘書って感じの金髪を団子にまとめたお姉さん。クルドの秘書メルダさんが茶色の目を鋭くして、冷ややかにギルドマスターを見た。因みに二人とも、フロースのこともミラ・ロサのことも知っている。


「フロース様が怒っていたとお聞きしましたが、何をなさっておいでで?」


 氷の視線で固まるクルドから自由になり、わたしは「メルダさ~ん」と助けを求めて抱きついた。百五十センチの小さな体で受けとめて、頭を撫でてくれたよ。子供万歳!


「クルドが割のいい護衛任務で、どうしてもフロースにっていうから受けたのに、危うく婚約者のふりさせられて、そのまま監禁されそうになったんだよ!」

「ちょっ、それ謝って水に流したはずだろっ」

「……マスター」


 メルダさんの目と声が氷点下に達した。デカい図体をしたクルドが震えて、縮こまる。

 わたしはここぞとばかりに、反省をしないクルドを訴えた。


 三ヶ月ほど前に久しぶりにミラ・ロサでルシオラ・ノックス(ケイ)と一緒に依頼完遂の報告に来たら。待ち構えていたクルドに拉致されて、この部屋に連れてこられたのが関わるきっかけになった。


「お前がリフィーユ・ムーンローザか」って、楽しげに笑ってきた黄土色の髪のオッサン。日に焼けた肌に紫の目を細めて自己紹介してきた。


 ケイと叔父様とも関係があるから、渋々挨拶をしたんだよね。うちの従兄弟が笑顔で「下手に構ったら怒るから」と、前回やり込めた報復は赦さないと含めて牽制した姿が、カッコ可愛いかった!


 それなのにクルドは気にした風もなく、フロースで一人のときに、構ってくるようになった。

 ケイと叔父から、あまり関わるなと言われても改善されない。なので、メルダさんにも事情を話して見張り役を頼んだらしい。


「まぁ聞けよ、メルダ。こいつ酷ぇんだ。依頼者から賠償金をせしめたくせに、オレからもブン取ったんだぜ! その上、ジルに言うぞって脅して口止め料まで…こいつのお陰で、オレの貯蓄が減る一方だ!!」

「面白半分にちょっかいをかける貴方の自業自得です」


 全くもってその通り。それに今回のはさすがに少し怒ったよ。「どんな依頼を頼んだのですか」と冷たく言うメルダさんに、クルドは答えない。どうせバレるのに往生際が悪いね。


「地方貴族の嫡男とその婚約者のお披露目の護衛って話だったの。有名なフロースを招待して箔をつけ、あわよくば友人になり今後ともお付き合いをとゆー思惑を無視して、一日側にいるだけで五十万という何とも破格の仕事! だったんだけど…」


 思い出して、ため息がこぼれた。

 嫡男がやたらと馴れ馴れしくしてくるわ、わたしを側に侍らせて屋敷の警備の確認とかの邪魔をするわ、客に紛れるようドレス姿で護衛させられるわ、ガーデンパーティーに婚約者は現れないわ。代わりにと、側にいるのに不自然じゃないよう腕を組まされるわ。


 夕方に来る予定の婚約者が現れず、やっと気づいた。周りが嫡男とわたしに祝いの言葉を述べていることに。

 今のフロースは、わたしの年齢に五歳足した赤髪に赤目の十代の少女姿だから、違和感もなく。


 事前に照れ屋だからからかわないでと言われたと、それにしてもあのフロースを婚約者にするなんて羨ましい、魔物の脅威はなくなって安泰だ、などとヒソヒソ話す声がした。


 殴りたいのを堪えて、オトナなわたしが穏便に側を離れようとしたら、魔力封じの腕輪を付けられた。嫡男に「オレの婚約者を紹介する」と腕を掴まれ、咄嗟にヒールで足を踏んで「契約違反、報復」と呟いて離れたよ。


 そうしたら、休憩室にと用意してあった会場隣の部屋に連れ込まれた。ご丁寧に魔法が使えないように結界石で囲まれた部屋で、婚約を承諾するまで部屋から出さないと世迷いごとを言うので、その場で魔力封じも結界石も壊して「違約金」と詰め寄ったよね。


 婚約者は体調不良で欠席として、フロースが婚約者でないことを明言させて、パーティーはお開き。

 その後は話し合いで、依頼料と違約金をふんだくった。


 婚姻は神殿も関わりあるし、料金お得だし、暇だし、半日の護衛でがっつり稼げるから受けたのに。詐欺にあったよ。

 時間も遅かったから、ギルドへの抗議は後回しにしてその日は帰ったけど。


「納得しました」とメルダさん。すっと何かの書類をクルドに差し出した。


「だから、『影』より領主子息の奇妙な婚約の報告を受けたジルベルト様が、『フロースが婚約ってどういうこと?』と問い合わせが来たのですね」

「は? 嘘だろおい。ジルにバレてんのかっ? やべぇ、オレ殺される!? って、何で葬式場のパンフ持ってんだよメルダ!」


「必要になるかと思いまして」とくいっと眼鏡の位置を戻すメルダさん。有能な秘書は違うわ~。

 メルダさんが、改めてクルドの不手際を詫びてくれた。いいですよ、黙っておきますよ。


 ギルドマスターが騙されて実際とは異なる依頼を冒険者に紹介し危険に晒したなんて、信用問題になるもんね。依頼主とクルドから慰謝料と口止め料を貰って、懐ほくほくなので見逃しますよ!


「ところでリフィ、お前への違約金やら報酬を用意するのに、領主が支援していた小さな一座を雇えなくなって、解散。益々低ランクの女の冒険者が増えたんだが。どうしてくれんだよ」


 おっと、愚痴に戻った。そこに話が繋がるのかー。


「それをどうにかするのがお仕事でしょ。そう言うなら、わたしに依頼をしなければ良かったんだよ。自業自得」

「相変わらず冷てぇ。悪徳商人みたいに金をせしめてくし」

「目を瞑ったのに文句言うのは筋違い」


 わたしは今度こそ退室しようとして、クルドにこそっと耳打ちした。


「邪魔者は退散するから、美人な彼女に慰めてもらったら?」

「っ!?」


 クルドが息を呑んで刮目した。わたしはドアノブを回し、悪徳商人のようにニマニマ笑いながら、「同じシャンプーや石鹸の臭いが何日か続けばわかりやすいよ。あとは女のカンと今の反応から」と理由を教えた。

 カマをかけられたとクルドが肩を落とす。


「これに懲りたら、わたしに近寄らないようにしてね。せいぜい叔父様にするイイワケ頑張って」

「このマセガキが…秘密を知ったからにはオレの手伝いを」

「オジサン構ってる暇なし」

「誰がオジサンだ!」


 クルドを無視して誰もいない廊下に出た。そのまま転移魔法を駆使して、家に戻る。

 わたしはわたしで執事対策とか忙しいんだよ。



*・*・*・



 家に戻ると、他の使用人たちは既に帰った後だった。

 ジェレミーも用があると朝から外出している。わたしは家から離れた門の側にある詰め所を見た。


 以前は門番がいたけれど、使われなくなって久しい。今は叔父様の好意で、この家やわたしのために『影』の誰かが守衛がてら詰めてくれている。


 挨拶に行くと、今日の担当はデゼルだった。「ギルから鍵を預かりました」と家の鍵を受け取る。

 わたしは差し入れとして、ギルドで貰ったお菓子を渡し、我が家に入り、自室に戻る。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 ジェレミーに理不尽な命令をされないよう、部屋に匿っていたルミィが笑顔で出迎えてくれた。わたしも「ただいま」と返して、何もなかったか一日の様子を尋ねる。


 各部屋の掃除仕事が進んだとルミィが穏やかに笑った。

 暫くわたし専属で手伝ってもらうと身柄を預かったルミィから、悲愴感が消えていることに安堵した。

 何も問題なかったようで、よかった。


「あとは二階の書斎を掃除すれば、今まで遅れていた分の仕事を予定通りこなせたことになります」

「無理はしなくていいよ」

「明日お休みするので、キリよく終わらせておきたいんです。…お嬢様こそ、大丈夫ですか? その…」


 申し訳なさそうなルミィに、わたしは微笑んだ。ルミィが頭を下げて掃除の残りを終わらせに、退室する。

 ジェレミーには外出から戻ったら話があると伝えていた。ルミィへのパワハラについて、話し合うつもりだ。


 苦手だし、面倒とも思うけど、このままにはしておけない。仲良くできるならよし、職場に不満があって退職するなら、ルミィの件以外は真面目に仕事をしてくれていたから、謝罪したら紹介状くらいは書こうと思う。


 メイリンと母には既に了承を得たし、メアリとギルには昨日の内に、証拠と共にジェレミーのことを伝えてあった。

 二人とも気づかなかったと愕然として、ルミィに詫びていた。


 商会を畳むし、家に母とメイリンも戻るから、メアリとギルにも、もし辞めたいのなら新しい勤め先を融通すると伝えてある。二人とももう六十歳近い。孫もいて面倒を看ているようだし、このまま退職するかもしれない。

 家からどんどん人がいなくなっていくなぁ。


 寂しいけど、事情があるなら仕方ない。わたしの家の都合も事情もあるから。

 三人で暮らしていくのに、料理人や掃除洗濯する人がいなくても支障はない。自分たちのことは自分たちでできる。


 二年は三人で暮らせる蓄えもあるし、母とメイリンはギルドで冒険者になるか、家庭教師とか使用人とか、針子でも何でもどこか働きに出てもいいと話していた。


 わたしに家庭教師はもう必要ないし、お茶会の付き合いもなくなっていくと思うから。

 カルドたちが通う普通の学校の授業範囲は終わってるし、子供でも稼げる冒険者で生活費を稼ぐのがいいかな。


 母たちは不安げだったけど、自由にやりたいようにしていいと言われた。このまま、ただの平民の冒険者として過ごせば、ケイたちを巻き込まずにシナリオ終わらせられるかなと考えてほっとしていたんだけどねぇ…。


 ドラヴェイ伯爵と叔父が許しませんでした。


 それなら伯爵家に戻ってこいと祖父。叔父はというと、去年から気を利かせて母となるべく二人にしていたら。母の入院で叔父が毎日見舞いに来て、親戚以上、恋人未満な感じになっていた。


 それでついに叔父様が、働きに出るのは心配だから、これから先の一生を自分と共に歩んでほしいと、告白したらしいのです! 叔父様やるね~!!


 そんなわけで、叔父からはサンルテア男爵家で暮らそうと話があるようで。ええ、全部『影』からの又聞きです。

 お母様は嬉しいけど、少し考えさせてと返事を保留。退院までに答えを出すことにしたらしい。


 それはいいと思うの。お母様の幸せ大歓迎だから!

 気心知れているし、叔父様は色々とハイスペックで頼りになってカッコよすぎだし、お母様を大事にして守ってくれるから!!

 ただね?


 二人が再婚したら、リフィーユ・ムーンローザ・サンルテアになるわけで…。

 そう! あんなに話の展開阻止して頑張ってきた結果が、まさかのシナリオ通りになる展開!! 報われない!!


 お母様たちの幸せを応援してるのに、得るのは男爵令嬢という肩書き。見かけなかったアッシュが側にいるし、ケイもお母様も生きてるから少し違ってはいるけど、貴族になったら魔法学園に強制入学だよ。


 お兄ちゃんできるの嬉しいけど、その義兄が攻略対象者たちと仲よくて、知り合いになりそうです。それは面倒でやだ。

 努力して回避した結果が物語のスタート地点って、冗談じゃない!!


 攻略対象者だからといって必ずしも恋愛に発展するわけではないし、友好関係を築けたら得だけど、周りの僻みややっかみを受ける羽目になりそうだし、そういうの面倒だから、やっぱり関わらない方向でいきたい。


 それなのに、再婚を反対できないところがまたニクいね!

 再婚は賛成、男爵令嬢は反対。……これって強制力働いているのかなぁ…?


ため息を吐きながら、畑仕事や掃除洗濯する際の水色ワンピのエプロンドレスに着替える。イメージはアリスで、ツインテにしてみた。お母様とメイリンの部屋でも掃除しようと自室を出ると、デゼルから風の伝言が届いた。


 馬車が一台来たらしい。御者はジェレミー。

 わたしはルミィにジェレミーが帰ってきたこと、わたしの部屋で鍵をかけて静かにしているよう告げ、一階に降りた。

 青ざめて震えるルミィに、不安なら門の詰め所にわたしに言われて来たと言って行くように助言して。


 玄関扉が開いて、ジェレミーと熊のようにふくよかで大きな男性が入ってきた。

 それは月に何度か、わたしや母の様子を見に来てくれる父の友人━━サルマおじさんだった。

 ナゼにこの二人の組み合わせ?


「久しぶりだね、リフィーユ。今日もたくさんお土産を持ってきたんだよ」


 茶色の目を細めて、わたしを抱きしめる熊さん…じゃなくて、サルマさん。この人は父の葬儀以降、いつも会う度にわたしを抱きしめたり、椅子に座るときは膝の上に乗せたりする。

 父がいないからか大事にしてもらってます。


「……お久しぶりです、サルマさん。いつもお土産をありがとうございます。急に来られたので、驚きましたわ」


 離れて淑女の礼をとると、満足そうに頷いて「成長したね」なんて言っている。


「リフィを驚かそうと思って、ジェレミーに黙っていて貰ったんだ」


「成功だね」なんて、少年みたいににこにこ笑うサルマさんに微笑みを返しつつ、わたしって主家の子だよねって、澄まし顔のジェレミーを一瞥した。


 そんなジェレミーに応接室に促され、彼が用意したお茶とお土産の菓子が並んだテーブルを挟んで、サルマさんと向き合う。

 母のことやお互いの近況を話して、ようやく本題に入った。


 それを聞かされたわたしは、呆けた。

 ……あれ、おかしいな。

 にこにこ笑う熊さんが、変な呪文を唱えてきたよ。


「ここに来る前にシェルシーには話してきたんだよ。彼女はそういう話は早いと渋ったけど、最終判断は君に任せると言ったんだ」


 そう言って、ご丁寧にもう一度、不可解な言葉を発した。

 とても愉しそうで、幸せそうな笑顔で。


「リフィ、君に婚約話を持ってきたんだ」

「……」


 はぃいっ!?



今月中にもう少し投稿できるようにします。m(_ _)m

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