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25, 7才 ⑪

八千字と少しです。



行きたくない。

覚悟を決めていたけど、行きたくない。切実に、今すぐお母様たちと楽しくお喋りしながら、家に戻りたい。トンズラ希望。

叔父様につれられて、薄暗く人気のない地下の回廊を歩きながら、わたしは逃げ出したい衝動に駆られていた。


「リフィ、大丈夫かい?」


死んだ魚のような目をしたわたしを気遣って、ジルベルト叔父様が声をかけてくれた。わたしは見栄を張って、にっこり微笑んだ。━━今すぐダッシュで逃げていいですか?


言いたいけど、言えない。なので、黙々と案内されるままに歩く。いつも王都や自分の家、ケイの屋敷から見えていた白亜の巨大な城の中心部を。


周りに防音の結界を張りながら、事前に聞いていた議場の設備と出席者について、叔父が簡単にもう一度説明した。わたしはしっかり聞いて、黒い重厚な扉の前に立った。到着したらしい。━━うわぁ、バックレたい。


余裕があれば、高い扉の精緻な彫刻とか見て、いつの年代の名品でいくらで売れそうか考えていただろうけど、そんな余裕もなく。叔父様に目で問われ、わたしは拳を握った。━━落ち着け、わたし。深呼吸!

少し間をおいて、わたしは叔父に言うべきことを口にした。余裕に見えるよう淑女の微笑みを添える。


「━━サンルテア男爵、ここまで案内してくださり、ありがとうございます。これより先は、どうか叔父ではなく、この国の未来を考える諸侯の一人として、お振る舞いください。愚問かとは存じますが、ご自身や領地のことを考え、決して判断をお間違いなさいませんよう、お願い申し上げます」


叔父が目を丸くした。

口を開きかけるより先に、黒い艶のある扉が内側に向かって開かれる。「お入りください」と冷厳な声が響き、わたしは微笑みを消して、まっすぐ背筋を伸ばした。

叔父に従い、やや顔を俯けて、議場に足を踏み入れた。




・・・***・・・(ケイ)




つい先程、リフィたちを自室で見送った僕は、違和感を覚えていた。何か隠されているような雰囲気。

絶対安静とベッドに押し込まれた僕の元に、辞去の挨拶にきたリフィと伯母様たち。入れ違いに、お父様も、こちらの片付けは一段落したから煩く呼んでいる城に行ってくるよと、やって来た。思わず、従兄弟をどうするのか聞いたら、それを含めて今日話してくるから、まだリフィは連れていかないとの返答。


そう言われたのに、胸騒ぎに堪えきれず部屋を抜け出して、こっそりと物陰から見たのは、馬車に乗り込む伯母様とメイリン。二人は不安げにリフィを抱きしめて、父と言葉をかわして、馬車を出発させた。残されたのは、伯母様と帰るはずのリフィと登城する予定の父。互いの顔を見合わせて手を繋ぐと、一瞬で姿を消した。


どうして伯母たちではなく、父と…。嫌な予感に心臓が騒ぎ出す。僕は事情を知っていそうな使用人や部下の顔を思い浮かべて回廊を走ると、運よくアルフと出会でくわした。どうやら部屋にいない僕を、探していたらしい。


父とリフィがどこに行ったのか問いかけると、事前に打ち合わせでもしていたのか、落ち着いて療養するためにリフィは自宅に戻り、父は報告のために城へ。聞いたことのある理由を告げて、笑顔ではぐらかすアルフ。問答の時間も惜しくて、僕は傲然と命じた。


「━━命令だ、アルフ。お前の知る真実を述べろ」


目を見開いて黙ったアルフは大きく息を吐いて、「旦那様からです」と懐から封筒を差し出した。

すぐに受け取り、開封する。文字を目で追い、僕は息を飲んだ。思わず、歪な笑みが浮かぶ。━━やってくれたね、リフィ! やられたと少し楽しいけど、腹も立ったよ。


そこには、視察後すぐにリフィの迎えがあったこと。それを引き延ばし、今日リフィをどうするか今後の話し合いをすることに至った経緯や、リフィにされたお願い、僕に知らせずに行くけど、もし自力で気づいたときのために手紙を残していくこと。その他、いつ、どこで、誰が出席して、話し合われるかが記されていた。


僕は自分の体調を分析する。

魔力はようやく半分回復して、体はまだ本調子ではないけど、城の騎士や『影』には劣らない。昨日少し体を動かしたけど、問題なく動くから、お父様やリフィ、クーガ以外に引けを取ることもない。


「アルフ、登城の支度をする。領地のことは任せるよ。そろそろデイビットも戻ってくるから、大丈夫だろう?」

「畏まりました」


アルフが恭しく、頭下げた。

僕は誰の目があるかわからない廊下を早足で歩き、自室を目指す。

手紙には、追ってくるなとは書いてなかった。それどころか来ると見越して、場所と集められた人物の名前があったことから、父に反対はされていない。けれど行けば、サンルテアが、僕が大事にしていると丸わかりになる。


━━仕方ないかな。正神殿と取引するほど知られたくなかった力を、僕と僕の守りたいものを守るために、使ってくれた。命を助けてくれた。その恩人を無下にしたくないし、守ってもらったお礼を返さないと。


何より、王家に渡したくない。城の鳥籠になんか入れたら、もう遊ぶことも、関わることもなくなる。楽しませてくれる様子を見られなくなるのは、酷くつまらない。

あの従兄弟は自由に動いてこそ、楽しいんだよ。……時々、変なトラブルに巻き込まれるけど。


僕を気遣って黙っていたとは思うけど、怒りが沸いた。

手紙に記された議場は石の間。その名の通り、四方八方を無骨な石に囲まれた部屋で、普通・・の魔法の発動を阻害し、無効果する特性がある。そして、一度入れば王族の許しがないと出られない。


無理に出ようと扉を開けても外に異空間が広がり、出ても部屋に戻されるので脱出不可能。

それどころか部屋に入った時点で、部屋が城とは別次元に切り離されるため、膨大な魔力の持ち主が魔力を暴走させても、部屋を壊したとしても、城に影響はない。


僕にはそれが、逃がす気がないという王と重鎮たちの意思表示に思えてならない。大事に隠していたお気に入りを持っていかれるのは、出し抜かれたようで不愉快だった。

僕は部屋に戻り、まず手紙を書いて風魔法で送ってから、登城の準備に取りかかった。




・・・***・・・(リフィ)




灯りはあるものの、窓のない石に囲まれた重々しい空間で、わたしは王と国の中枢を担う重鎮たちのやり取りを静観していた。

入り口から敷かれた赤い絨毯。その途中で止まり、叔父の斜め後ろに立って、わたしは出席者の観察に勤しむ。


自由に発言していいと許可されたものの、いくら順応力が高い子供であり、不敬で不遜で強気なわたしでも、そんなにすぐには場所になれないです。正直に言うと、やっぱり緊張してマス。


わたしは正面の少し高い壇上に目を向けた。

最奥には王族専用の入り口、その前に椅子が二脚ある。その一つに、三十過ぎの紫の髪をした王様がいて、そこから左右に、机と椅子が二つずつ。王様の左隣に眼鏡をかけた宰相と、その横に騎士団長。


王様から見て右側に、高位貴族で叔父や王様より年代が二回りくらい上の、頭がツルピカおじいさ……おじさん?と厳つい片眼鏡のおじさん二名。その末席に正神殿長代理として、呼ばれて出席したルワルダさん。


普段はこれにルワルダさんがおらず、王妃様がいて月に一度、国のトップ六人の議会が開かれるらしい。けれど、叔父様の予想通り、マリー王妃様は席にいなかった。体が弱いので報せていないらしい。


まぁ、魔力量多い危険人物ですからね、わたし。しかもそれを隠していたから。だから、入室するなり罪人のように魔力封じの手枷をかけられても、大人しく受け入れたよ。


叔父様は眉を顰めたけど、この魔力封じは隣国でも最新の物で、よく手に入れたとわたしは呑気に感心した。

それに何より、他に知られて横槍が入るのを嫌ったのか、国側ではここにいる人たちしか、わたしのことを知らないっていうのは好都合だった。


手枷をはめられて叔父の後ろで大人しく思案していたら、王様やツルピカおじさんに、「精巧な人形を連れてきたのか」と勘違いされた。━━人を辞めた覚えはないですけど!?


苛立ちを押し込めて、叔父の紹介の後に型通りの挨拶をすれば、何故か全員に驚いた顔をされた。自分たちで呼び出したくせに…。わたしは魔法で作られた人形じゃありません。


そもそも王様は、どんな魔法の変装も見破る『精霊の眼』を持っているでしょうに。それがあるから、わたしは変装しなかったんだよ。知られたくなかったから、可能なら堂々と欺いていたのに。━━往生際が悪かろうが、この期に及んでも悪あがきしたかったよ。姿を覚えられて、いいことなんてない。


王様の先祖である初代王は、あの火の精霊王に祝福を与えられて契約し、精霊魔法の使い手たちをまとめて魔物と戦い、この国から黒の森に魔物を押し込めた英雄。


その際に火の精霊王に気に入られて、偽装魔法や使用魔法を見る便利な『精霊の眼』を貰ったんだよね。それが代々、王族の直系に受け継がれていることは、叔父様に聞いていた。だから変装しようとしたのも、止められた。


会議の始まりは、ルワルダさんにわたしの属性と魔力量について話が振られ、一瞬目が合ったものの、わたしが無言で顎を引くとルワルダさんが契約破棄で決められていた通りに報告した。━━わたしに闇魔法で操られて虚偽の報告をしたと。

半信半疑だったのか、改めて次期正神殿長から語られた真実に、王様たちが驚いたのはほんの少し。


正神殿が子供に騙されるなんてと、ツルピカおじさんに非難されたものの、騎士団長が「子供とはいえ、全精霊王と契約していて黒の森の魔物を撃退した手練れなら、納得がいく」と擁護してくれたら、全員が考え込むように黙った。

騎士団長の株が上がったけど、ちょっと残念。

ちぇっ、油断していてくれてよかったのに。


話し合いが始まってから二十数分。わたしは大人たちのそれぞれの意見を聞いて、彼らの力関係を冷静に観察した。

王様は、ツルピカおじさんこと一の大臣であるダスティ侯爵と、片眼鏡おじさんこと式典や歴史、魔法研究をする所長のウェンド侯爵と積極的に話している。


年功序列というかこの二人の侯爵を一応、皆さん敬っているらしく、『わたしを保護して城で育てていく』という二人の主張には賛成。ただ魔法に関しては所長、普段の教育についてはツルピカさんに一任するという話には、冷静な宰相と騎士団長が頷かなかった。


王様も二人のおじさんを宥めつつ、どちらかというと宰相と騎士団長にわたしを任せたい様子。

それから、どちらが後見人として保護して育てるのに相応しいかと、育てる環境や設備や立場、功績の過去の自慢話というか、話し合い。


てか、わたしの取り合い。

うふふふふ、乙女の憧れのシチュエーションっすよ! それも複数の男性から求められるとか乙女の夢っぽいよね━━二十歳以上離れたおっさんたちから、手駒としてだけど!


わたしが生まれてから一番のモテ期到来が妻子持ちのおっさんたちからとか、嬉しくねーわ。

何が悲しくて、求め、欲しがられているのが、手枷はめられた状態で駒として!? ワタシ何か悪いことした!?


いや、うん、王様たちかっこいいよ? 普段なら、ナイスミドル素敵! ってなりそうだけど、わたしを無視して話を進めていくのを見て、根っからの上に立つ貴族なんだなーって思う。


わたしが城で暮らすのが嫌だとは微塵も考えていないところとか、年端もいかない子供を親元から引き離して、国のために役立てるのが当然のように扱うこととか。一切、斟酌しない様子は、国を担う人なら当然なのかな。


わたしの存在を無視した奪い合いを見ながら、自然と遠い目になった。ははっ、本人ガン無視して話し合い。からの、王様たちの子供の頃の話を持ち出すツルピカさんと片眼鏡さん。━━うーわ、うざっ。面倒くさい。ナニこの茶番。引くわー。

心がヤサグレて、どんどん冷えていくよ。


私的な子供の頃の話を暴露されて、慌て始める王様。冷ややかになる宰相。頭が痛そうな騎士団長。叔父様は普段通りで何も読ませない。━━さすが叔父様。ところでこの茶番はいつまで続くんだろ。わたしいる意味ないし、関係ないなら帰っていい?


思いつつも、王様たちの淡い初恋の女性に、求婚前にまんまと先に結婚されて逃げられたくだりの話は、つい面白そうと聞き耳を立てた。━━恋バナはいつでも乙女の嗜み、というか活力です!


ついでに弱味にならないかな、なんて思いながら聞いていると、雲行きが怪しいというか、叔父様の表情は変わらないのに、若干フキゲン?

宰相がちらりと、叔父を一瞥した。


「ダスティ侯爵、ウェンド侯爵。話が脱線しております。この場には関係ない話は後で、ゆっくり陛下たちと旧交を温めるのにお使い下さい」


叔父様が仲裁に入り、王様たちが助かったという表情。……情けない。言っちゃいけないけど、情けない。ついでに昔の話を持ち出すとか、親戚のおじさんか!

諭されたツルピカと片眼鏡おじさん二人が、面白くなさそうにジロリと叔父様を見て、鼻で嗤った。


「そう言えば男爵も逃げられた内の一人だったな。自身にとっても耳の痛い話は聞きたくないか」

「確か、父のドラヴェイ伯爵に彼の娘との結婚をお膳立てされていたにも関わらず、平民と結婚されて逃げられたのだったな」


━━………え? ……はっ? 今なんつった、このオヤジども。


わたしは頭の中真っ白。でも、表情は子供らしくきょとんと理解してない顔のまま、叔父を見上げた。叔父が困ったように微笑んで、元のポーカーフェイスに戻る。

忍び嗤うツルピカと片眼鏡。……ヤな感じ。


「さすがに若い頃に他の女性と恋して、婚約破棄されかけて土下座した方は言うことが違いますね、ダスティ侯爵。わたしも見習ってそのように引き留めれば良かったのかもしれません。もしくは幼馴染みに振られたウェンド侯爵を見習って、研究に没頭すれば一つの分野で大成できたかもしれませんね」


叔父のカウンターに「なぜソレをっ」と白目を剥いて、愕然とするおじさん二人。パクパクと口を開閉させて、顔を真っ赤にしている。

わたしは、ぐるぐる考えそうになる聞き捨てならない話を今は無視して、深呼吸を繰り返した。━━うん、とりあえずこのおっさん二人嫌いだ。


真面目な話をする場のはずなのに、妙な空気になっている。会議の場を乱したそんな二人に引き取られるとか、冗談じゃねーわ。

コレで、内政を担う一の大臣と研究機関を司る所長とか、ウケるー。いや、笑えないけど。この国の将来、大丈夫かな…。


「そもそも子供に聞かせる話でもないですし、仮にも年嵩のお二人が会議の場で言うことですか。一の大臣、研究所所長。時と場所と場合を弁えてください」


まだ昔話がしたいのなら相手しますよと、黒い笑顔で諌める叔父に、王様たちが青ざめた。大人気なかったと反省した侯爵二人が咳払いをして、王様に「失礼しました」と謝罪。そっちだけかーい! まぁ、いいけどね。


見事に収めたのは、さすがです叔父様。あの大魔王な従兄弟とこんなところで似ているとは…。知りたくなかった…。震えて遠い目になったわたしは悪くない。


仕切り直して、今までの意見を宰相がまとめ、このままではどちらも引かないからと、わたしに意見を求めてきた。……やれやれ、漸く出番ですか。じゃ、ここからが本題だね。

うっしゃ、バッチコイと気合いを入れる。


わたしは観察をやめて、叔父の影から進み出た。集まる視線に、にっこり微笑んでおく。さーて、我が儘押し通すぞー。


「皆様の意見は拝聴させて頂きました。ですが、当事者たるわたくしは反対です。ですので、新たな提案をさせていただきたいと思いますわ」


わたしの発言に、存在を無視していた全員が、瞠目した。叔父様は穏やかな表情を保ち、ルワルダさんは少し楽しげに口角を上げる。

わたしは顔をあげたまま、出席者を一人ずつ見て、最後に王様に視線を合わせた。はっきり告げる。


「わたくしは現状維持を望みます」


ポカンと口を開けるツルピカ侯爵と片眼鏡侯爵。騎士団長も王様も固まり、宰相がいち早く我に返った。


「……ムーンローザ嬢。現状維持とは?」

「これまで通りということですわ。これまで通り、皆様にわたくしの存在をいないものとして頂いて、これまで通り、わたくしは普通の生活を送りたいと思っています」


理解できないという表情の大人たち。宰相もどう話を進めたものかと黙考し、騎士団長が腕を組んで目を閉じた。王様が深く息を吐き出す。


「ムーンローザ嬢。これまで通りとはいかないのだよ」

「何故ですか?」


王様が聞き分けのない困った子供を見る目で、苦笑した。わたしも微笑みを崩さない。


「特に問題ないかと思います。わたくしの存在がなくても、今日まで、国の運営において支障ございませんでしたよね。この城に残して教育をと仰っておりましたが、それでその後はどうなさるのですか?」

「え?」


王様が呆けた。ツルピカが「それは今後の国のために、そなたの能力を役立てる」と口を開いてきたので、そちらに視線を向けた。


「━━何故わたくしが、そのようなことをしなければならないのですか?」


にっこり微笑んだら、全員の開いた口が塞がらなかった。


「わたくしは平民ですよ。他の平民の方と同じように育ち、国の政策に従い、国の法を犯さず、必用な税は納め、民の義務を果たして生活してまいりました。現状で何の問題もないのに、何故わたくしを親元から引き離す必要が?」

「それはあなたの力が他とは違うからだ。魔力を暴走されては、国への被害がとても大きい」


片眼鏡おじさんの言葉に、王様たちが頷く。


「ですがこの一年、何の問題もございませんでしたよね。結果論だろうと事実ですわ。それにわたくしの力が大きいことが問題でしたら、他の貴族の子供はどうなります? 普通の規定よりも多く魔力を持つ全員がその対象では? 特に上位の貴族、王族は多いですよね。その子供たちも魔力が暴走したら困るのは一緒でございましょう」


「どの子もまだ、あなたほど脅威ではない。それなら、大人の魔力の多い者をなんて、言わないでくれよ。子供は未熟だから、城で預かると言っているんだ」

「まぁ、おかしなことを仰るのですね。わたくしが全精霊王と契約していることは皆様ご存知のはず。ですのに、力の扱いが未熟だと仰るのですか」


わたしは、ころころと笑った。

それなら他の子も一緒だと、その他の人たちよりも制御できているのにまだ理由をつけて城に閉じ込めるのかと、追い詰めたら、王様たちが黙り、ツルピカが叫んだ。


「黙れ、この化け物が!」


一瞬で、場が静まり返った。

ダスティ侯爵が苦虫を噛み潰した顔をしたものの、結局勢いのまま口を開く。


「他の者と化け物じみた力を持つそなたを一緒にするな」


シン…と静寂する石の間。

王様の「ダスティ侯爵」と咎める声が響いた。場の視線が、俯いて震えるわたしに集まる。

宰相から「ムーンローザ嬢」と痛ましげな声がかかった。


━━あぁもう無理。我慢の限界!

くすくすと、どうしても声が漏れてしまった。気遣う視線が訝るものに変わる。

わたしは大笑いするのを堪えて、顔をあげた。


叔父とルワルダさん以外が、呆気に取られた顔をしているのを見て、笑みを深くした。腹を抱えて笑わなかったのは淑女教育の賜物です!


わたしの異様な反応に、王様たちの表情がどんどん変わっていく。顔色が悪くなり、奇妙な理解しがたいものを見る目が突き刺さったよ。その反応に、思わずニヤリと笑う。


「化け物ですか。言いえて妙ですね」


もし魔物がいなかったら、わたしは異質な化け物として迫害されていたかもしれない。人は未知や違うものを恐れるから。

そう言って笑ったら、複雑な顔をする王様たち。


気にしなくていいのに。というか、実は、その言葉を待ってました!

わたしは笑いを収めて、この国の要人たちを見据えた。


「━━それで、あなた方はその化け物を飼い慣らせるのですか?」


王様たちが息を飲んだ。

わたしは微笑んだまま、硬直する面々を見据えた。



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