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24, 7才 幕間

短め? 一万四千字です。



・・・***・・・(ケイ)



僕の意識が戻ったのは、視察が終わってから三日後の早朝だった。

重く痛む頭に、窓から日差しが入り込みすっきりした視界。額に当てた手でまだ熱っぽいなと思う。疲労で、今まで起き上がることもままならない高熱に浮かされ、時々、薬を飲んだ記憶があるけど、記憶が定かじゃない。

サイドテーブルにある水差しからコップに水を注いで、僕は水が空になるまで飲んだ。


人心地ついて改めて周りを見る余裕ができた。

外は白藍の空。そしてサイドテーブルと反対の窓側のベッド横に、何故かすやすや眠る従兄弟。……何で一緒のベッド。二人で寝てもまだ広さに余裕があるけど、一瞬、僕がまだ寝ぼけているのかと思ったよ。


カチャ、と微かな扉の開閉音に入り口を見ると、「目が覚めてよかった」と伯母が盆に薬や水差し、洗面器を持って入室してきた。

起き上がっている僕と、その隣で眠る娘を見て、困ったように微笑む。


「またここに来ていたのね」

「また?」

「あなたたちが倒れた後、リフィちゃんが夜に目覚めたと思ったらベッドにいなかったの。慌てて探せばケイトスくんの側で座って寝ていたのよ。何でも怖い夢を見たらしいわ。自分の代わりにあなたが怪我をして瀕死の重症というか、死にかけている夢を。昨日も見たらしくて、その度に不安になって確かめにくるのよ。あなたがきちんと生きているか」

「……そう、でしたか」

「ええ。本調子ではないのに、何度も抜け出しては、ここで力尽きて寝ていたのよ。だから眠くなったら、そのままケイトスくんの隣に潜り込んで一緒に寝ちゃいなさいって言っておいたの」


……あの伯母様、それって淑女として問題な行動ですよね? というか、「うふふふ」と可愛らしく笑って、娘にすすめることですか?

僕の内心の疑問を読んだのか、「大丈夫よ」と楽しげに微笑まれた。


「まだ子供の内だからこそ、許されることもあるでしょう? 二人の可愛らしい寝顔はばっちりカメラで撮っておいたわ。使用人たちもサンルテアの名誉を傷つける情報を流すことはしないでしょうから」


……この母にしてこの娘あり、だね。全部折り込み済みですか。まぁリフィの名誉が傷つかないのなら、構わないけど。


「ちなみに十歳くらいまでなら、一緒に夜寝てもいいかしら。お昼寝なら成人する前の十五までなら、わたくしは許せるわ」

「……随分とおおらかですね」


僕は伯母の冗談を流すことにした。

ため息を隠して、隣で眠る従兄弟の疲労の濃い青白い寝顔を眺めた。縛られていない髪は長さが整えられていた。薄翠の髪を一房取って撫でると、ベッド横のサイドテーブルに盆をおいて座った伯母が苦笑した。


「気にしなくていいのよ。肩下よりあるから結べるわ。それにはげてないから伸びるってリフィちゃんも全く気にしてなかったわ。わたくしもあなたたちが生きていてくれただけで充分よ」


ラッセルたちも何ともないと聞き、僕は安堵した。あれだけの規模の『大波』で誰も死人が出なかったことは、奇跡に近い。その分、かかった負担も、かけた負担も大きかったけど。

僕の頼みを聞いてくれた従兄弟を見た。


「……背中の傷は…」

「よく見ないとわからない程度に薄く残っていたけど、精霊王からの伝言をリフィちゃんに伝えたら、昨日の内に全精霊王と契約して綺麗に治して貰ったわ。光の精霊王様が、傷など残さぬと張り切ってくださったから。それでそのままフロースになって、正神殿から派遣されたと装って、今回の件でこの邸で怪我をした全員の治療をしてくれたの。それで疲れてしまったようだけど」


僕は何てことなさそうに語る伯母を、まじまじと見た。隠してはおけないと思ったけど、あっさりと受け入れている気がした。そう思っていると、伯母様が困ったように笑う。


「……戸惑いはあったのよ。あの有名なフロース本人で、色んな物を無属性魔法で造っていて、しかも正神殿と取引して国一番である魔力量を黙っていてもらって、いつの間にか全精霊王たちと契約していたなんて……ケイトスくんは知っていたの?」

「……半分だけ。魔力量とフロースの件は知りませんでした。でも僕はリフィなら仕方ないというか、そういうこともあるかなって。上手に色々と僕に隠し事をしているのは、薄々気づいていたので」


僕の言葉に、伯母様が「あらあら」と楽しげに目を細めた。それから、吹っ切れたように「そうね」と微笑む。

「何があっても、リフィちゃんがリフィちゃんであることに変わりはないものね」と。


何となく伯母らしいと思った。儚いだけじゃなく、強くしなやかで。そもそも弱いだけの人が、あの祖父を出し抜いて、相手を巻き込んで家出同然に結婚なんてしないか。

その伯母の顔が不意に曇った。


「ただ頼ってもらえなかったことが少し悲しくて、自分を不甲斐なく思うのよ」

「不甲斐ない、ですか?」

「ええ。リフィちゃんは、わたくしたちに余計な負担をかけないようにしてくれたのだと思ったから。他にも色々と黙って一人で動いていたのも、巻き込まないためで何か事情があったと思うの」


思い返せば、確かにと僕も納得した。

「女装して」、「可愛いいい子!」、と己の欲望に忠実で、生き生きしているこの従兄弟は、たまにお茶会で会っても僕たち貴族側には関わってこない。別人かと勘違いするほど、そつなく淑やかに挨拶して、いつもサリーやカルドたち、平民や豪商と社交して、行儀よく振る舞っていた。


他の成金貴族や商人のように、名門貴族と繋がりがあると周囲に見せつけたり、他人の権威を笠にきたり、親しく装い無遠慮に貴族の交流の中に交ざってくることもなく、一線を引いて。


低位でも血筋や歴史がある貴族側は、平民は礼儀作法がなっていないだとか、装いも品がないとか言うけど、その範囲には当てはまらないようにしていた。


そのときは、うまく立ち回ってるなぁと感心していたけど、僕のためでもあったんだと思う。実際に親戚である豪商の平民を持つ貴族たちに、僕が羨ましいと何度も言われた。せめて恥をかかせない程度の親戚か、全くの赤の他人がよかったと。


それは従兄弟に近づきたいための言葉だと僕は流していたけど、本音だったのかな。サンルテアを叩く弱みにはならないリフィに、さりげなく任務に必要な情報を流してもらったり、新興貴族の令嬢たちに囲まれた僕を波風たてることなく逃がしてくれたり……うん、どう見ても僕に利のある行為だね。視察の件でも、たくさん守ってもらった。


「……伯母様。あの、王家にこれ以上大切な家族を奪わせないって、どういう意味ですか?」


何度か目が覚めた気がするけど、はっきりと覚えて印象に残っている伯母の言葉。

僕が踏み込みすぎかなと不安になって見つめると、伯母様は軽く目を瞠った後で、困ったように微笑んでくれた。


「父……ケイトスくんのお祖父様は、国というか王家をとても大切にしているの」

「はい。立派な貴族で、二心なく仕える忠臣だと思います」

「……そうね。でもわたくしは、そういうところが好きではなかったの。幼い頃から仕事人間で家庭を省みず、家のことは母に任せてわたくしたちのことは放っておいて、よくわからない人だったわ。母が病に倒れても仕事で国中を飛び回って…。大事な仕事だとわかっていたけれど、せめて王家に向ける心を少しでも母や家族に向けられないのかと不満だったの」


伯母が、苦そうに笑った。


「母が亡くなっても仕事で連絡がつかなくて、帰ったのは葬儀が終わった後。それきり口を利くのも嫌で、反抗期よ。ただ感謝しているのは、ジルを…あなたのお父様を家族として連れてきてくれたことね。小さなジルもとても可愛らしかったわ。与えられた課題を何でもこなして自慢の子だったの。こんな風に看病したこともあったわね」


僕は伯母に、すりおろされた林檎の器を渡されて、食べた。滑らかに喉を通り抜けていく。


「でも学園に入って、既に卒業していた王子やその側近たちが、優秀なジルに目をつけて親しく屋敷に遊びにいらして、わたくしから弟を奪った挙げ句に、婚約者のマリーがいるにも係わらず、わたくしを当時の王子の側室になんて、冗談でもジルの前で言ったのよ。父だけでなく弟も親友も、その上わたくしまで囲おうとしたから、余計に反発して王家が嫌いになってしまって」


……今の陛下たちも、馬鹿な発言をしてたんだ…。何か愛人発言したバカ王子との繋がりを認識させられた。似てないと思ったけど、変なところで似てた。知りたくなかったけど。

食べ終わった僕から器を回収して、伯母が薬と水を差し出してきた。


「貴族にうんざりして、そうなる前に結婚しようと決めた時にエアルドと出会って、天涯孤独でも真っ直ぐな強さとか、支援を断られても一生懸命に努力する優しい人柄とかに惹かれて結婚したの。王家とも父とも関わるつもりはなかったのに……」


伯母がリフィを見て、苦笑した。

……やっぱり伯母様も、王家がリフィを駒として自分たちや国のために利用すると思ってるんだ。

スピネル第一王子やイナル、キースの顔が思い浮かんで、ぼんやりしていたら、頭を撫でられた。


「大丈夫よ。何も心配ないわ。既に領民たちは元の生活に戻って、立ち入り制限していた領の封鎖も解いて、流通も元通り。後始末は全てジルがして国とも連絡を取って、順調に片付いているから。こんなにスムーズにいけたのは、最小の被害で済んだからね。ケイトスくんたちのお陰よ。ありがとう」


僕は思わずほっと息を吐いた。

後のことは全部任せて、今はゆっくり休んでと言われ、僕は薬を飲んだ。すぐに眠気に襲われ、ベッドに横になる。隣で眠るリフィにつられて、目を閉じた。撫でてくれる伯母の手が心地いい。


「変な話を聞かせてごめんなさいね。全部わたくしの思い込みというか、嫉妬よ。……ジルのように恩義なんて感じなくていいの。サンルテアでも、ケイトスくんを縛る枷や鎖はないから、あなたは思うままにしてね」


お父様や伯母様に任せておけば大丈夫。

優しい声を聞きながら、僕は眠りに落ちていった。




・・・***・・・(リフィ)




目が覚めると、窓外の秋空が青かった。……ふと隣を見て、わたしは青ざめた。ケイの姿がなかった。

呆然としながらもペタペタとシーツに触れる。冷たい。いなくなってからだいぶ時間が経っている?


わたしは慌ててベッドから下りて靴を履き、従兄弟を探す。まずは念のためにベッドの回りと下。落ちてないか、転がって…なかった。次にベランダ、隣の書斎を開けて、やっぱり姿がない。そのまま書斎を探して、寝室に戻った。


誰かを呼んで聞けばいいのに、すっかり気が動転してそんな考えが抜け落ち、最悪の展開が思い浮かぶ。……もし、浄化したはずの障気が実は残っていて、急激に侵食、体調悪化、もう助けられず棺に入れられて出棺…。


「ぃ、やー! ケイのお葬式なんて出ないよっ!?」


わたしは断固としてそんな未来は認めない!!

少し泣きそうになりながら、寝室を出ようと振り返ると、ドアに寄りかかって微笑む麗しの従兄弟がいました。


「勝手に僕を殺さないでくれる?」

「ギャー、出たー!」

「いや死んでないから」

「南無阿弥陀仏……って、生きてる…。お、驚かさないでよ」

「……うん。理不尽な気がするのは何でかな」


ケイが嘆息した。

わたしはそろそろと近づいて、ケイの手をちょんと指先で触った。……透けてない。感触がある。

ケイを見ると、苦笑して動かないでいてくれたので、遠慮なく腕や肩や胸や頬っぺたを触り、体温があることに安堵した。


「気が済んだ?」

「ぅえっ……その、お騒がせ、しました…」


自然と頬が熱くなった。……死んでないか確認するためとはいえ、無遠慮に触りまくっちゃったよ! ぅあー恥ずっ。痴女じゃないよ、わたし! 役得だけど、女の子じゃないとわかったけど、……変態はこの際受け入れるけど、痴女は嫌だー。


両頬を押さえて唸っていたら、よしよしと撫でられました。……いたたまれない。

気恥ずかしさを紛らわすために、どこにいたのか聞くと、お風呂に入って軽く食事を済ませてきたらしい。わたしはよく寝ていたので起こさなかったとのこと。……お気遣いありがとうございます。爆睡してました…。


安心したら、力が抜けた。……って違う! まだ怪我が治ってないはずだから、安静にさせないと。

わたしはケイをベッドに追いたてた。ケイが困ったように笑いながらも、ベッドに戻ったのを見て、よしと満足する。

わたしもベッド横の椅子に座ってケイの額に手を伸ばし、熱を測った。まだ熱いかな。


そこにコンコンコンとノック音。

ケイと顔を見合わせ、絶対安静を言いおいて立ち上がろうとしたら、手を引かれて椅子に戻された。すかさずケイが「起きてるけど、何の用?」と声をかけた。


それに返ったのはメイドの少し困ったような声。何でもキャロルたちが今、見舞いに来ているらしい。聞いた瞬間、わたしが狼狽えて逃げ出そうとしたら、「窓から飛び降りようとしない」と呆れたように従兄弟に言われた。


逃走を止められて、しょんぼり肩を下ろしてケイの布団の中に隠れようとしたら、慌ててそれも止められた。……わたしにどこに隠れろと!?

仕方ないからベッドの下に行こうとしたら、それも止められる。ケイが目を半眼にして、見てきた。


「何で隠れようとするの」

「会いたくないからだよ」

「……まさかとは思うけど、目が覚めてからキャロルやハイドたちに一度も会ってない…? って、何で目を逸らすのかなっ?」

「一筆書いてくれたら会うって言ったよ」

「それって、何をしても不問に付すっていう例の…? 本気だったんだ…」


脱力するケイ。本気ですとも。そしてやっぱり会いにくい! もう関わりたくないし、子供っぽくても謝りたくないという意地がある。何より会ったら、冷静になるよりも先に、殴りたくなる気がするんだよね。流石に二度目はマズイ。


頭が痛そうな従兄弟を見て、さっき生存を確認したときも思ったけど、本当に無事でよかったと安心した。

あんなに何度も、死が従兄弟を襲うなんて一瞬、シナリオの強制力!? と、焦ったけど。


心底安堵していると、ケイに手招かれて何の疑いもなく側に寄る。ガシッと手首を掴まれた。何ですかコレ?

目を点にしていると、にこっと微笑まれた。……うぉっ、久々に至近距離での美麗笑顔!! 心臓に悪い! ご褒美あざーっす!


なんて呑気にぽけぽけしていたら、「これで逃げられないよね」と悪魔の一言が。しまった、罠か!

青ざめるわたしに、困ったようにメイドから再度声がかかり、ケイが許可を出す。━━待ってぇぇ! まだ心の準備がっ!


わたしの制止も虚しく、扉が開かれて五日ぶりにご対面と相成りました。……ちくしょう、後で覚えてろよケイ。

ジロリと恨めしげに見ると、無邪気に微笑まれ……くぅっ、コレで赦したりしないからね!

わたしは窓側のベッド横の椅子に腰を下ろした。王族が来たのに座ったままは不敬? はっはっは、今更ですから。


メイドがやって来たキャロル、ハイド、ロンド、ヴァンフォーレの人数分の椅子を用意して、退室していく。

手前に姉弟、その後ろに護衛二人が座る前に、何故か土下座されました。


見飽きたわたしは、無反応。初めて見る従兄弟は穏やかな笑顔で泰然としていた。━━この従兄弟、ねー。

とりあえず、この状況に乗っかって、わたしも叩いた非礼を詫びておいた。あっさり許されたので、まぁいいか。


ケイも謝罪を受け入れて椅子に促し、四人を着座させた。お見事デスネ。けれど、わたしの怒りは冷めやらない。会えばやっぱり再燃しちゃったよ。ケイとキャロルが話している間も、ぶすくれた顔が見えないよう俯いておく。


不機嫌を感じ取って、キャロル、ロンド、ヴァンフォーレは強ばってわたしを見ないのに、何故かじっと見つめてくる攻略対象者(仮)。━━え、わたし今、喧嘩売られてるの? めっちゃガンつけられてる。アレですか、無礼を働いたオマエもっと真剣に謝れ的な?


━━いいでしょう、受けてたちましょう!

よくわからないけど、やるからには徹底抗戦で。あまりにも見られてウザいのと、ケイそっちのけで無言で見つめられる攻略対象者(仮)の視線の恐怖に、わたしが我慢できなくなった。ヤラレルマエニヤッチマエ。


つい、うっかり殺気を放つ。

ケイやヴァンフォーレ以外は気づかない。それでケイに「リフィ」と笑顔で窘められた。キャロルが様子のおかしいヴァンフォーレに聞いて、答えを受けて納得したように頷く。それから隣の弟を、従者と呆れたように見た。


「年下の女の子に無言で視線の圧力をかけるなんて最低よ。言いたいことがあるのなら、口にしなさい」


姉の言葉にハイドが緊張したように生唾を飲み込み、躊躇いながらもわたしに視線を合わせてきた。ので、さっと逸らした。条件反射でつい。ハイドが息を飲んで肩を落とした。


「………そこまでおれが嫌いか? 言われた通りに一筆書いてきたのに。ただし、どんな無礼も許すというのなら、気のおけない友人になりたいんだ」


出された封筒を従者から受け取ろうとして、手を引っ込めた。友達になんてなったら本末転倒。何でこうなった? わたしのこと嫌いなはずじゃ…? ━━よくわからん。ビンタは謝罪して許してもらえたし、もう一筆はなくてもいいか…。

ぐるぐる考えるも、相手が読めなくて軽くパニック状態。間に挟まれたケイが、面白そうと少し笑っている。


「リフィ、友達になりたいそうだけ………殿下、リフィはとても嫌がっています」

「………そうみたいだな」


わたしは余程嫌そうな顔をしたらしい。

当たり前でしょう。嫌に決まってるよ! 攻略対象者(仮)ってこともあるけど、それがなくても散々迷惑をかけられた挙げ句、うちの天使を犠牲にして逃げて、見殺しにしようとした奴を歓迎して仲良くしろっていうのが無理!!


生きていたからまだ許せる可能性はあるけど、これで亡くなっていたら、マジフザケンナだよ。仲良くするどころか恨みしかないよね。


確かにこの人たちと交流を持っておいた方がお得だし、色々と便宜を図らせて、権力の困り事や隣国でのトラブル、ギルド本部への適宜処置もしてもらえそうだけど。━━それ以上に、関わって変なことに巻き込まれるのが面倒臭い。


あーでも、権力者いたら便利かな。使い勝手いいかな…。ここはお友達認定しといた方がいいのは、充分知っているんだよ。打算的だけど、この人たちにだってあるからお互い様だよね。わたしは黙考して、答えを出した。

今更ながら、取り繕うように微笑む。


「………遠い友達でしたら」

「遠い友達?」


全員が不思議そうな顔。では、説明致しましょう!

遠い友達とは、わたしが許さない限り、一切関わりと接触を持たず、遠い地から友達を黙って見守る素敵な関係で、とても健気で友達思いな人のことです!


「うん、リフィ。それってつまりただの他人だよね。しかもこちらからの接触はあっても、向こうからの接触はなしって、君、連絡する気ないよね。一生、赤の他人って宣言したようなものだよ」

「……そうとも言うかしら…?」

「そうとしか言わないと思う」


わたしはにっこり淑女モード。

そこまで瞬時に見破るとは、流石ハイスペック従兄弟。キャロルたちはまだ呆けて、ついてこられていないのに。


「でもケイ、誤解がありますわ。わたくしが一切接触を持たないとは、言っておりませんもの。何か困ったことがあったときに、友達に力を借りるかもしれないでしょう。それに平民のわたくしとお友達だと公になれば、殿下の外聞が悪くなります。ゴルド国はこの国よりも身分に厳格でしたよね。明確に殿下の友達となると、相応しくないとわたくしが狙われる可能性もあるでしょう? だからこその遠い友達認定です」


わたしは上品に笑って、示唆した危険が及ぶ可能性について、確かにと納得するゴルド国の面々を見た。ケイもそこは否定できなくて、難しい顔をしている。

よーし今だ、畳み掛けろー。


「そういうわけですので、今後一切関わらないでくださいませ」


笑顔で強引に締め括った。


「友達ならっ、あ、愛称呼びは?」


ちっ、しつけぇな。あるわけねーでしょ、んなもん。親しくならないための遠い友達認定だっつーの。苦肉の策だよ。だから遠慮なく、どうぞ今後一切関わらないでくださいませ。


「光栄な申し出ですが、遠い友達でも、親密さが知られるのは危険ですので、他人行儀でお願いします」


ハイドががっくりと項垂れた。わたしと関わろうとする前に、しっかり自分の立ち位置を見なよ。まだ怒りが燻っていて許さないけど。許したとしてもまた同じようなことをしたら、もう本当に関わりたくない。


「やっぱりまだ怒っているのか」と肩を落とすハイドに「当然でしょう」と答えたのは、わたしではなく、姉のキャロルだった。


「もし身内…お父様やお母様が、お二人が守った民に同じことをされたら、あなたはすぐに許せるの?」

「何を仰いますか、姉上。そんな恩知らずは、即刻処刑にすべきです! 不敬です!」

「同じことを領民とムーンローザ嬢も思っているわよ」

「あ……」


ハイドが青ざめて、震えた。━━ようやく正しくこちらの気持ちに気づいてくれて、ありがとう。遅すぎるけどね。

そうだよ、うちの領民はこの事も事情も知らないけど、知ったら怒り狂って魔女狩りならぬハイド狩りが始まるからね。


「そんな事にも気づけないあなたが、ムーンローザ嬢の友人として振る舞うのはやめた方がいいわね。害悪と足手まといにしかならないもの。側にいきたいのなら、自分の立ち位置を明確にして、今よりももっとしっかりすることね。そうじゃないと危なっかし過ぎて、私も反対だわ。近くにいたければ、もっと相応しくなりなさい。それと、男爵やケイトス様は許してくださったけど、許されて当然と思うのもどうかと思うわ」

「わかったよ。姉上」


感動話みたいにまとまっているところ、ごめん。わたしも近寄ってほしくないからキャロルに賛成だけど、側に来てほしいとは思ってないよ。わたしのことは永遠に思い出さなくていいから、遠慮なく他所の素晴らしいお嬢様たちと幸せに暮らしてください。


━━婉曲に親しくなるのを断っていることに、気づいてくれますように。次にまだ遠い友達として現れたら、執着が怖いから。真面目にストーカー被害で訴えよう。

決意したわたしは、この面倒なのをうまく解決してくれるであろうハイスペック従兄弟に、押し付けることにした。


「お友達ということでしたら、ケイトスはいかがですか? わたくしよりも年齢が近いですし、国と領地が隣り合っておりますから。彼なら貴族ですし、問題ないかと」


先程の仕返しと従兄弟に微笑めば、ケイは微塵も動揺しなかった。反省して素直になったハイド殿下はケイに謝り、気遣い、スムーズに会話が続いていく。ケイは面倒な王子の相手役に、馴れているようだった。


丸投げしたけど、お互い縁続きになれたのはサンルテアにとっても、ゴルド国にとってもいいことだよね。グッジョブわたしと勝手に自己満足していたら、王女から熱視線が。……今度は何でしょう…。


「私とは、ギルドのキャロルとして仲良くしてくれたら嬉しいわ。こんな風に可愛い妹みたいな子が欲しかったの」


うわ、面倒なのきたー。チョロく欺かれたハイドと違って、ギルドのってことは立場は同じ平民の冒険者だから、遠い友達は受け付けない気だ。更に面倒なのは、姉の言葉の意味に気づいた弟。ちぃっ、余計なことに気づきやがって。


ケイは助けてくれる気配ゼロ。さぁて、どうやって断ろうかなー。女の子の友人は欲しいけど、王女様は遠慮します。今は平民とか言われても、無理だから。しかも攻略対象者(仮)の姉とか……嫌がらせ? 強制力? いらんわ、そのフラグ。


そんな困ったわたしに救いの手が!

タイミングよく室内に響くノック音。来訪者はお母様とメイリンだった。それも何やらわたしを呼びにきた様子。━━お母様、素敵にかっこよすぎです! 女神ですか?


すかさず挨拶するキャロルとハイドとその従者たち。お母様も完璧な所作で返して、ヴァンフォーレやロンドたちが見惚れていた。その間に、ちらりと従兄弟を見ると大丈夫と微笑まれたので、わたしは席を立つ。これ幸いと有耶無耶にして、逃げることにした。


「それでは、わたくしはこれで失礼いたしますわ」


ベッドを回り込んで扉に向かおうとしたら、ハイドが咄嗟に反応してわたしを捕まえようとした。それを淑やかにかわして通り抜けた。ヴァンフォーレが伸ばしてきた手も、慌てることなく避けて扉に辿り着いた。どう見ても歩いていただけのわたしに、身内以外が驚く。


「ケイはまだ目が覚めたばかりで安静が必要です。くれぐれもよろしくお願いいたします」


笑顔でお手本のように一礼して、わたしは良くできましたと笑みを浮かべる母とメイリンに向き直った。そのまま部屋を出ていく。扉を閉めて、一安心。


封じ込めたと安堵したわたしに、母が困った顔を向けてきた。そうして告げられた言葉に、わたしはため息を隠して、気を引きしめた。母とメイリンと一緒に歩き出す。



・*・*・*



そんなこんなで、わたしの目の前では現在、長年サンルテアに仕えて純血至上主義を発症した使用人の方々が、お母様とメイリンに睨まれながらお説教されております。


わたしを後継者として支持するという使用人リストを貰ったのが、一昨日の朝早く。それから忙しい中、申し訳ないながらもマースと母とメイリンに相談した。まだ本調子じゃなくて、それより先に片付けなきゃいけない案件と、……少しお母様たちに色々黙っていた罪悪感があったので、手伝ってもらうことにしたのだ。


わたしはリストに書かれた名前を見て、使用人の人数と数が合うことを確認。ケイの排除を願う不穏分子は全員ここにいた。

わたしが後継になるために、今後の協力をお願いしたいから集まってほしいと邸の使われていない部屋に召集をかけ、マースに彼らの仕事を調整してもらって集ったのは、十六人。年配の方が多かった。


わたしが母と姿を見せると訝る顔をした彼らは、母もケイよりわたしが後継に相応しいと考えていると勘違いをして、興奮してボロクソに叔父と従兄弟を非難してきた。

すると普段温厚なお母様も、流石に腹に据えかねたらしく、正座をさせてお説教が始まった。


笑顔で怒っている母と、その斜め後方で凍てついた眼差しを送り、ブリザードを吹雪かせているメイリン。

お母様がこんなに怒る姿は初めて見る。凛々しいお母様とメイリンに、わたしはうっとりと見惚れた。━━そんなお母様たちも素敵です!!


顔を俯けながら押し黙る使用人たちを、母が呆れたように見て、ケイたちを認めて今後もサンルテアに仕えるか、辞職するかを迫っていた。叔父とケイに忠誠を誓うなら今回は不問に付すと。使用人たちが相談するように、互いの顔を見合わせた。


すかさず、口先だけでこの場を誤魔化せないとお母様が告げ、ネタばらし。実は、名前を書いてもらったこのリストは、わたしの描いた魔方陣が隠されており、叔父とケイに害意を持ったり、不利益になることをすれば、体が痺れて動けなくなる魔法が発動する。ギルドの契約書に使われる制約の魔法をアレンジしてみました。効果は抜群のはず。


母が自分たちのことを思ってくれて嬉しいけれど、サンルテアのためというのなら叔父とケイを支えてほしいと、一人一人の名前を呼んで、昔どんな風に仕事をしていたかを語り、真摯に訴えた。不貞腐れていた彼らの表情が変わり、眉尻を下げた。


「ところでリフィちゃんは、貴族になりたいかしら?」

「いいえ、遠慮します。わたくしには務まりませんし、叔父様とケイの方がとてもよく、この領地と人々のことを考えて慈しんでいると思いました」


お母様の質問にきっぱり答えると、「わたくしも同じよ」と微笑んでくれた。それから「あなた方の方がそれはよくわかっているでしょう?」と諭し、説得にかかった。彼らが俯き、それからお母様の言葉を素直に聞いていた。


そこに、叔父からわたし宛に風魔法で伝言が届く。わたしは母とメイリンにこの場を任せ、説得される使用人たちを見て、そっと離れた。この様子では彼らが改心するのも時間の問題だろう。━━さすがお母様! 惚れます!!



廊下を滑るように優雅に最速で歩き、応答があってから、わたしは叔父の執務室に入った。忙しそうに書類に書き込んでいた叔父が顔をあげて、少し困った顔で微笑む。


「呼び出してすまないね。城から再三の要請が届いたよ」

「もう大丈夫です。待っていただいて、ありがとうございました」


わたしは礼を述べて、頭を下げた。

目が覚めた次の日の昼には、城からの使者がきた。この領地に放っていた密偵から、ケイたちの重症とそれを助けに向かったわたしの存在を知ったらしい。わたしを召喚する書状を持って、すぐにでも話が聞きたいからと、その場でそのまま連れていこうとした。


それを止めてくれたのは、お母様と叔父様。お母様はドラヴェイ伯爵の娘という身分を使ってでも、止めてくれた。魔物の脅威から民を守るのではなく、この領地のために戦い負傷した子供を、問答無用で人拐いのように連れ去るのが国のやり方ですか、と。あんなに苛烈なお母様は初めて見たから驚いたよ。守ってくれて嬉しかったけどね。


叔父様が怪我が治るまでと使者や王様と話をつけ、代わりにギルドの冒険者として隣国の王族が滞在していることも含めて、報告したみたい。うまくやれば外交の切り札として、キャロルとハイドの身柄を使えるから。


わたしは血を流しすぎただけで、怪我は治っているから休めば王都に行くのに支障はなかったけど、丸腰では戻れないから、時間をもらえて助かった。


その日は隠していたことを━━漫画や記憶のことを省いて━━お母様と叔父様に話して、翌日、魔力が全回復してすぐ、魔方陣で結界を張り、気配が漏れないようにして全精霊王を召喚。再契約したよ。


そして万が一に、囚われることも考えてお母様の病の薬や、手に入れた効力を上げるドロップアイテムをソール先生に送ったり、ちょっとした手紙を書き残したり、送ったり。軽く体を動かしたり、無属性魔法で色々造ったり、セコい小細工に勤しんだ。


一通り終えたのは、昨日の夜。後はケイが目覚めるのを見届けるだけだった。

ケイは気力体力魔力が全て枯渇していて、そんなギリギリまで気を張って、わたしたちを守ってくれていたんだと思うと、胸が痛んだ。


彼が寝ている間に、酷かった利き腕と軸足の怪我は治療したけど、なかなか目を覚ました従兄弟に会えず、どうしても無事に起きて生きているケイに会いたくて、わたしはまだ怪我が治っていないと使者とお城のお偉方を遠慮なく待たせた。


そもそも王様や重鎮たちが、すぐにでも魔物討伐の騎士団か魔法使いを派遣してくれていたら、叔父をこちらに送ってくれたら、ここまでケイたちが傷つくこともなく、わたしの力も隠しておけたのに。ちょっとくらい待てしててよ。


━━尊き貴人と年上を敬う心? 今までサンルテアを利用して守ってもらっていたのに、最悪、ケイやこの領地を丸ごと見捨てようとした奴らに、そんなもんを持てたら、その人の正気を疑うよ。不敬だろうが、今更そんなこと気にしてらんねぇっすわ。


とことん傲岸不遜に、わたしは自由を勝ち取るために、交渉というか切り札使って脅す予定なので。どんとこいと腹を括ってるよ。強気でいけと必死に自己暗示をかけて、いつも通りお気楽にいこうと言い聞かせ、…でもやっぱり追い詰められている精神状態なんだよね…。はぁ……鋼の心臓が欲しい。


「リフィ?」

「何でもありません。ケイも無事でしたし、怪我の後遺症もないようなので、これでわたしも安心して登城できます」


叔父様を見て、わたしは苦笑した。


「そんな顔をなさらないでください。元よりわたしが小賢しく余計な小細工をしたせいで、目をつけられたせいでもありますから」

「リフィ」

「何も知らない叔父様にまで迷惑をかけてしまって、すみません。お忙しい中、付き合わせてしまい申し訳ございませんが、明日はよろしくお願いします」


神妙に頷く叔父に笑顔を見せて、わたしは明日予定を確認し、これ以上時間を取らせてはいけないと、早々に退室した。



・*・*・*



休むケイの邪魔をしてはいけないと、昼食後、わたしは部屋に引っ込んで大人しく、明日の準備をしていた。

 ハイドたちは明日の早朝、国に帰るらしい。偶然廊下で会った時に聞かされて、その場で簡単に挨拶した。

 今回の件はゴルド国とクルド、叔父様とシルヴィア国で後日、話し合いの場が設けられるそうだけど、サンルテアやケイに何かない限りは興味ないのでスルーした。


一通り明日の確認を終え、他にしておくことを考えて、何もないのでぼんやりと椅子に座って窓の外で暮れる夕日を見つめた。

そうして思うのは、不安な明日のこと。これまで自分のしてきたこと。


わたしの知っているシナリオ通りにしていたら、魔力量を注目されていても、精霊と契約してない、魔法がロクに使えない子供と放っておかれて、自由に暮らせる猶予がまだあったはず。


小細工をして、力を持ちすぎていることが原因で、『王家が至高で最強』というパワーバランスが崩れかねないから、わたしの存在が危惧されて城に呼び出されている。━━でも後悔してないんだよね。


わたしは部屋を出て、薄暗い廊下を早足で歩く。通いなれた通路を通り、一つの扉をノックした。返事がないので、内心で謝りつつも躊躇いなく開けて、気配を消して従兄弟の部屋に入室した。━━大丈夫。子供だからまだ許されるはず。決して痴女ではございません!! 昨日はこっそり寝顔にカメラ向けたけど…。それは凶悪に可愛い従兄弟のせいってことで。


足音を立てることなくベッド近づくと、薬の副作用でぐっすりなのか、わたしが近づいても起きない。ベッドで静かに眠るケイが呼吸していることに、安心する。

目が覚めてから不安になる度、何度も確認しては胸を撫で下ろした。


━━守れてよかった。

今度こそ、守れてよかったと無事な従兄弟の姿を見て、深い安堵と共に、噛み締めた。

その度に拳を強く握って思う。チートだろうが、力があってよかったって。


『大波』が収まるまで、あり得ないほどの危機一髪の連続で、思わずシナリオの強制力しつけぇな、って内心で舌打ちしながら、あるかわからない運命を罵っていたけど。


こうしてケイの無事を確認すると、実感する。

強制力があるかはわからないけど、変えられるって。未来を変えていけるって、確かな手応えに、歓喜に、わたしはうち震える。


それを知ることができてよかったと、ケイが生きていてくれて嬉しいって、涙がこぼれた。━━諦めないで、頑張ってきてよかった…っ!

ケイが生きていてくれたから、手に入れた力も、必死に鍛えたことも無駄じゃなかったと思えるし、力がバレたことも受け入れられた。


この先ケイもわたしも、どうなるかまだわからないけど、それでもわたしは力を使ったことに、後悔はしてない。あるのは高揚と微かな興奮と手応えと、安堵と喜び。

━━ひとまず、シナリオ潰しは成功だよね?


別の死がケイを襲わないとも限らないけど、そんな不条理はいつだって誰だって条件は変わらないはず。わたしだって、簡単に死にかけた。ケイは運命に抗って、番狂わせが起こった。


明日どうなるか、まだ決まってない。

もしかしたら危険な手駒として幽閉コースになるかもしれないけど、そうならないかもしれない。

わたしは、震える自分にそう言い聞かせた。冷たい両手を握りしめて、「大丈夫」と心の中で唱える。だいじょうぶ、大丈夫。

それから、運命を狂わせて未来を勝ち取った従兄弟を見て、力を抜いた。


「━━生きていてくれて、ありがとう」


自然と言葉がこぼれ、ケイの頬に手を伸ばして、触れた。

顔にかかった青緑の髪をよけて、あどけない寝顔を見つめる。


「……わたしも明日、ちょびっと頑張ってくるよ」


よし、と気合いを入れた。ここで負けたら女が廃る!

少し違う? まぁ何でもいいや。わたしはのんびり快適、悠々自適な平民ライフを満喫する!!

わたしは、自分の中の決意を確かめた。


攻略対象者ヒーロー? ━━それがどうした。婚約者がいるのに、他に転がる面倒な浮気男なんて願い下げ。そういうのは傍観者のゲームや漫画だから許せるんだよ。


彼らも話の通りになるとは限らないし、よくある話みたいに婚約者と仲良くして、向こうも願い下げと思っているかもしれない。ソレ大歓迎、ウェルカムだよ! そのままくっつきますように!!


仮に彼らが上手くいっていたとしても、面倒に近寄りたくないので、わたしは鍛えられたスルー力を発揮して、関わり拒否してブッチギリマス。


明日会うのは、王様や城の重鎮だけど。

……まぁ、実際に会ってみりゃわかるでしょ。攻略対象者が多分いると仮定して、明日会うのはその親。コレはあれだ。お宅の息子さんどういう育て方をしてるんですか訪問、的な。


とりあえず会ってみて、今回のサンルテアの件やわたしをどうするつもりかを聞いてみよう。その意見次第で、この国の未来が危ぶまれて、面倒で大変なことになりそうなら、最悪、国を離れることも厭わない。元より視野に入れていたから問題ないけど。


国を騙した大罪人であるわたしは、国外逃亡も辞さないよ。命あっての物種なので。叔父や従兄弟に……お母様にも迷惑をかけるけど、そこはサンルテアの名が守ってくれるでしょ。叔父も従兄弟も強いですから。


とにかく、頭抱えて悩み抜いて、わたしは覚悟を決めた。

駒として利用されるつもりも、王候貴族とどっぷり関わる気もないので、わたしはわたしがウキウキふわふわ生きられるように全力で頑張ろう。


まだお母様を助ける予定があるし、従兄弟も当分は見守るつもり。━━何より美少女ケイの女装撮影会がわたしを待っているからね!! カメラ調整もバッチリだよ!

明日頑張れば、自由とご褒美がやってくる!!

わたしは能天気に明るい未来を想像した。


あーでも、呼び出されて登城することは言ってないから、ケイにバレたら怒られそう。

病人に余計な負担はかけられないから、叔父を含めた皆に黙ってもらっていた。ただ、皆が忙しくしている領内に居ても邪魔になって療養できないから、ケイも目が覚めたし、家に帰ることにしたとだけ口裏合わせをお願いしてある。


明日の昼前には、叔父と共に移動魔法で登城する予定だった。

わたしはたくさん世話になり、守ってくれた従兄弟を感謝を込めて見つめた。


「また明日」


わたしはそっと呟いて微笑み、部屋を後にした。




お疲れ様でした。

次は登城編です。

サクッと行けたらと思います。

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