プロローグであり、これまでの結果
まだ書き終えていないのですが、自分を追い詰めるために。
気長にお待ち頂けると幸いです。
先ほどまで参加していた舞踏会の音がかすかに聞こえる。
王妃殿下主催の夜会は絢爛で、冬に差し掛かった寒い夜に覆われそうになる会場を立派なかがり火で照らし、そして暖めていた。
ただ、私が今立っている場所はその明かりの届かない場所である。さらにごうごうと風が吹き荒れていて、少し……いや、だいぶ寒い。それなのに背中は汗でぐっしょりなのだから困ったものだ。
風にあおられているドレスの裾を押さえたいけど、両手がふさがっていてそれどころではない。
(さすがに……さすがにこれは予想外だったなあ……)
周囲を見回し、誰もいないことにほっとすればいいのか、絶望すれば良いのか。
心境的にはため息のひとつでもつきたいところだが、今気を抜いたら死ぬ。冗談抜きで死ぬ。
どうも。現在進行形で城壁にへばりついている私はジェラルディーヌと申します。
しがない騎士の家系の四女でございます。
父が公爵閣下に仕えているため書類上は最下位ではあるが貴族扱いになっているが、正直なところ社会的地位で言えばほぼ平民である。
だが人生のなにをどう間違ったのか次期伯爵であるパトリック様と婚約することになってしまった。どうしてこうなった。
いや、それは今は置いておくとして。私がいま置かれている状況、わりと危機的状況である。
高さはだいたい日本にいたころに見慣れていたビルの三階くらいだろうか。目の前は灰色の城壁、壁から突き出た照明に両手でしがみつき、両足のつま先はかろうじて出ている壁のでっぱりに引っかかっている。足下が心許ないのでせめてヒールを脱ぎたい。でも余計なことをしたら落ちる確信がある。
絶対絶命。
死にそうなう。
そのそも私は高所恐怖症だ。どれくらいダメかと言われれば、はしごや脚立に乗れるのは二段まで。三段目は片足を乗せるだけなら可能。そういうレベルだ。そして普段の私だったら泣き叫ぶどころか失神してる高さです。
いま意識を保てているのは、ひとえに生存本能のおかげです。
(ああ、ちゃんとパトリック様のご指示に従っていればよかったな……)
後悔先に立たずとはこのことだ。