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(9)

(ババン!) あまつ風、雲のかよひ路、吹とぢよ、乙女のすがた、しばしとどめん、僧正遍照詠みたれば、見事な秋晴れ振り仰ぐ、アキバに残れり小さな社、軒並み立ちたるビル群の、間に挟まれ雑居ビル、その屋上にひっそりと、たたずみたるに観光客や、オタク連中見向きもせずに、道に迷ってたどり着き、たわむれ心に賽銭投げて、何を祈るかメイド達、そんな噂が広まって、人生の道に迷い込みし、ものだけ辿りつくことが、できる小さなその社、誰が呼んだか「メイド神社」と申すのでございます。

その前に立てるのは、妙閑親方一人きり、イワシの頭も信心からと、いかつい(つら)に神妙を、つるして打ちたる柏手は、どこか遠くへ置き去りの、音のならざる天逆手 (あまのさかて)回向(エコー)となるか音断(おとた)ち花の、身を捧げたる梅を送らん、

「ほう、これがメイド神社か」

「……<異端審問官(インクィジター)>、儀一鐘鳴か?」

親方振り返りもせず訊ねれば、そこに立てるはゼニアのスーツに身を包み、髪はオールバックに決めたる、アキバに似合わぬ伊達男、

「時代がかっているというか、様式美というか……そのメイド神社に『恨み』と共に金を収めると、メイドの神様が当人に代わって恨みを晴らしてくれるそうじゃないか、まさに現代の『仕事人』というところか?」

「うちのメイド達は、どいつも修羅道を望んで行こうってぇ連中だ、その心の刃が錆び付かねえようにしてやるくらいしか、俺にできるこたぁねえよ」

「<火伏せの妙閑>といえば、戦後から名を馳せた調停屋だろうに、あえて火種をまき散らすのか?」

「……秋葉権現は、元はといえばホノカグツチノカミを祀った、静岡は秋葉山のお社だ。『火事と喧嘩は江戸の華』なんていうが、江戸っ子にとっちゃ火事は一番の災難、何とか難を逃れようと、秋葉権現はあちこちに勧請された。秋葉原の地名もその名残りだ。この葦田妙閑、秋葉原に生を受けて、何の因果か<()伏せ>なんて呼ばれちまった。水で消せる()もありゃあ、消せねえ()もあらぁ。だからって捨て置くわけにもいくめぇ。恨みの炎は、より大きな炎で飲み込んでやらにゃ立ち行かねえもんよ」

「それで、メイドの飛脚屋に偽装した、殺し屋集団を率いているというわけか……酔狂なことだ」

「はん、殺し屋ってなあ粋じゃねえよ。最初から俺ぁ言ってるだろう?」

「何?」

妙閑親方にやりと笑い、

「うちは『メイドの刺客(しきゃく)屋』だってよ」

と言いはなちたるのでございました(バンバン!)。




……え? ええ、今のがオチでございますよ。ほら、江戸っ子は「ひ」が言えねえ、だから妙閑親方は「しきゃく」と言ってしまうけれども、それが「飛脚」のことだなんて、一度も言っちゃございませんよ。まあ、ちょっとした叙述トリックってやつで……え? そこじゃない? 講談のくせに何だそのヘタクソなオチはって? だから最初から、途中で落語になっても勘弁して下せえって言って……ああお客さん、サイリュームとか投げないで下せえ、そういうのはアングラコスプレアイドルコンサートとかで、痛ぇ、ああ、もう、これにて『メイドの飛脚』、幕引きでございます……。




(講談師、舞台袖へ駆け戻る。客席からは怒号と口汚く罵るここではとてもとても書けないような言葉が飛び交う。暗転)。




楽屋に戻った講談師を待っていたのは、全身黒ずくめの女だった。長い銀髪を肩の辺りまで流し、フリルとレースのついた黒いドレスの襟は高く、前髪とその襟で顔の半分は隠れてしまっていた。女は、生命のない月面の荒野を想わせる冷たい表情で、わずかに唇の端を上げた。

「待たせたな。まったく、講談師の代行なんて引き受けるもんじゃない」

男は着流しを脱ぎ捨ててスーツに着替えると、JPSを一本加えて火をつけた。

「結構ノリノリだったよ、キミ」

「よしてくれよ<死恋女(クラリモンド)>、代行屋のプライドにかけて、引き受けた仕事はこなしてみせるが、客寄せパンダ以下の出来映えだ、我ながら呆れて笑えもしない」

「そうかな、案外向いているのかも」

儀一鐘鳴は不服そうに肩をすくめ、昏主水(くらがりもんど)を見た。華奢な体つきからは想像もできない強靭な体力、瞬発力、修めた武術の数は知れず、体内に埋め込まれている生体プラント、Ex-ES細胞による超再生能力などの最新技術、「殺し屋ギルド」……いや秘密結社<驚異の部屋(ヴンダー・カンマー)>によって作り上げられた最高傑作、それが本来<欣求穢土(ニード・ヘル・)厭離浄土(ヘイト・ヘヴン)>と称される目の前の女性だった。

だが、彼女は、ギルドの用意した<黄金の座>にとどまることをよしとしなかった。自らを死んだように見せかけて落ち延び、つかの間の平和の中で穏やかに暮らす、それが彼女の願いのようだった。もちろんギルドがそれを許そうはずもない。かくして彼女は幾度となく死んでは蘇る<死恋女>と呼ばれるようになったのだった。

今回も、ギルドの追っ手に発見された彼女は、<死>んでみせる必要があった。そのための仕掛けとして、「メイドの刺客」を利用することを思いついたのは、儀一だった。裏街道で名が知られ始めた彼女達であれば、<死恋女>を殺すことにリアリティを与えられると考えたのだった。

「しかし、そのためとはいえ、あんたが自らメイドに化ける、なんてことを引き受けるとは想わなかったよ、越後梅子さん」

「一度やってみたかったのよね、メイドって」

「そんな理由かよ」

「殺し屋ギルド」で一桁のランクにいる、ということは相当な手だれであることを意味する。<大黒柱斬(アトラスキル)>の八束水臣(やつかみずおみ)も、本来であれば一筋縄でいく相手ではない。儀一は、八束に<死恋女>を、配下の犯罪組織のボディーガードとして雇わせつつ、越後梅子として『メイド飛脚便』に潜り込ませた。同時に八束には、『メイド飛脚便』の社長である葦田妙閑が、名を挙げつつある五人組の刺客とのつなぎ役を担っており、さらに葦田妙閑が侠気に溢れ、身内となったものの恨みであれば必ず晴らしてくるだろうことも伝えた。八束は自ら、五人組の刺客と<死恋女>をぶつけ合った、と思い込んでいたが、全ては代行屋・儀一の仕掛け通りだった。越後梅子などという人物はこの世にはおらず、当然その母親を名乗って『メイド飛脚便』に現れた女も、代行屋の用意した偽物だった。梅子が、丹波八郎と名乗った八束を愛し、そのために神谷忠 (八束の配下)の犯罪組織から金を借り、『メイド飛脚便』の売り上げや配達物を横領し たのも、<死恋女>と<大黒柱斬>の壮絶な騙し合いだったことになる。結果として、ギルドの第六位と自分自身を葬った<死恋女>は、しばらくの間自由と平和を満喫できることになった。

「あの五人も親方も、とてもいい人達だった。ずっと越後梅子でいられたら、幸せだったのかも知れないけれど......いつかまた、殺し合うのが宿命なのでしょうね」

「『身に罪あれば覚悟の上、殺さる々は是非もなし』、か」

「そんなところ。さあ」

<死恋女>は立ち上がると、儀一の腕を取って微笑んだ。

「行きましょうか。つかの間の、されど代えがたき時間だもの、無駄にはできないわ」

「そうだな......」儀一も微笑んで、<死恋女>にキスをした。「それで、どこにいこうか、お嬢さん」

「決まっているじゃない、それは……」



……Somewhere、no here……


<元ネタ>

「演劇サムライナンバーナイン」

『extra drop 曽根崎心中☆turbo』(2005.11.9~11.13))

『第12回公演 曽根崎心中☆turbo09』(2009.7.8~7.12)


<参考文献>

近松門左衛門『曾根崎心中/冥途の飛脚』(岩波文庫、1977年)

井原西鶴『新版 好色五人女』(角川ソフィア文庫、2008年)

『古今和歌集』(岩波文庫、1981年)

『新版 百人一首』(角川ソフィア文庫、1969年)

『中国名詩選 上・下』(岩波文庫、1983年/1986年)

『宮沢賢治詩集』(岩波文庫、1950年)

『万葉集 上・下』(角川ソフィア文庫、1980年)

三遊亭円朝作『真景累ヶ淵』(岩波文庫、1956年)

曲亭馬琴作『南総里見八犬伝 一』(岩波文庫、1990年)

川口謙二編著『日本の神様読み解き事典』(柏書房、1999年)

豊島泰国『図説 日本呪術全書』(原書房 1998年)

大三輪龍彦、関幸彦、福田豊彦編『義経とその時代』(山川出版社 2005年)

長崎盛輝『日本の伝統色』(青幻社、2001年)

ゴーチエ『死霊の恋/ポンペイ夜話』(田辺貞之助訳、岩波文庫 1982年)

『ブレイク詩集』(岩波文庫 2004年)

『ポケット世界の名詩』(平凡社 1982年)

『グリム童話(上)』(池内紀・訳 ちくま文庫 1989年)

『ヴェルレーヌ詩集』(堀口大學訳、新潮文庫、1950年)

C・S・クリフトン『異端事典』(田中雅志訳、三交社、1998年)

『図解雑学 量子コンピュータ』(西野哲朗 ナツメ社 2007年)

『新説RPG幻想事典』(ソフトバンククリエイティブ、2006年)

『別冊宝島 公開!世界の特殊部隊』(宝島社 2009年)

『WORLD WEAPON』(デアゴスティーニ)

<参考HP> wikipedia『枕詞』、『歌枕の一覧』、『暗順応』 『健康とトレーニング/ウェブリーグ』 『染匠きもの展示館』『秋葉原電気街振興会』

その他多くのWedページ


※なお、作品中の引用には、作者が意図的に改変している部分があります。



☆『メイドの飛脚』作品解説 ☆

(1)

※『冥途の飛脚』は、近松門左衛門作の浄瑠璃で、正徳元年(1711)竹本座で上演されている。主な登場人物は、飛脚屋「亀屋」の若旦那・忠兵衛、「亀屋」のお上で忠兵衛の義理の母・妙閑、忠兵衛の友人・丹波屋八右衛門、越後屋の女郎・梅川。忠兵衛が、愛した女郎・梅川を身請けするため、八右衛門らが受け取るはずの金子を使ってしまい、忠兵衛・梅川は駆け落ちするが……という筋書き。「めんない千鳥」という子供の遊びが趣向として使われている。なお、『メイドの飛脚』の作者は、梅川をもじった梅子の恋人を、 丹波屋八右衛門をもじった丹波八郎にしているが、恐らく何か勘違いしたものと思われ る。

※「メイド飛脚便」:運送業として成立しないんじゃね?と思う。

※妙閑親方は、兄の代わりに太平洋戦争に出向いた、とされているが、当時本当にそんなことが可能だったのかは不明。早熟だったのは間違いないので、うまく騙し通せたのかもしれない。

※神田明神の鉄筋作りの本殿は、東京大空襲にあっても焼け残ったという。

※「つるはみの衣は人皆事なじと言ひし時より着欲しく思はゆ」(万葉集)

※「黒橡くろつるばみ色」は、クヌギの実のカサの煎汁を染料とし、鉄媒染した紺黒色のことをいうので、紫と表現されているのは作者の勘違いと思われる。

※「江戸小紋」は、昭和の頃に、一人の人間国宝(無形重要文化財)の持つ染めの技術を、他の小紋と区別するために命名されたもの、らしい。

迦陵頻伽かりょうびんがは、仏教に伝わる、妙なる声で鳴く鳥のこと。 CLAMP『聖伝』にも登場。

※「わがおもふ人に見せばやもろともに隅田川原の夕暮れの空」(新勅撰和歌集)


(2)

火眼金晴かがんきんせいは、孫悟空(斉天大聖)の眼を表して使われる言葉。

※「つゆ草の花を思へばうなかぶし我には見えし其の人おもほゆ」(『病中雑咏』 長塚 節)

※「雪ふれば木ごとに花ぞさきにけるいづれを梅とわきて折らまし(古今和歌集)

※「そはやるせなの限りなり......そは風渡る小野の草......」(『忘れた小曲』 ヴェルレ ーヌ)

※「色みえでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける」(古今和歌集)

※「雪のうちに春はきにけり鴬のこほれる涙いまやとくらん」(古今和歌集)

※「人民生各各有壽命 死生何須復道前後」(『烏生』)


(3)

※「ラブラブラブのせいなのよ!」というのがどんな歌なのか、私は一度しか聴いたことがないが、どうやら中原麻衣女史とかが歌っているらしい。

※「桜花ちりかひくもれ老いらくの来むといふなる道まがふがに」(古今和歌集)

※そもそもハウスメイドであれば、「いらっしゃいませご主人様」などとは言わないのである。

※『リリカルなのは』というアニメがあるらしい。絵は知っているが、中身は知らない。

※ペギラのソフビが本当に高いのかはよくわからないが、ブルマァクのソフビにマルサン商店の刻印が入っていると高いらしい。

※「山不厭高 海不厭深 周公吐哺 天下歸心」(『短歌行』)

※赤兎馬は、呂布奉先の愛馬の名前。主人以外に背を許さなかったとか。一説に、汗血馬だったと言われている。

※「だからお前はアホなのだ!」は、『機動武闘伝Gガンダム』に登場する、東方不敗マ スター・アジアが、弟子である<キングオブハート>ドモン・カッシュに向かって吐いた名台詞。

※ゼニアというスーツブランドがある、らしい。結構高い、らしい。

※「兵士たちは死の灰色の国の住人だ 時間の明日から何の配当も受けずに。運命の偉大な時刻の中に彼らは立つ めいめい、自分の宿根、嫉妬、悲しみをもって、」(『夢を見 る人々』サスーン)

※付き馬というのは、本来不払いの遊興費を回収する為に、遊客について回る人間のことを指す。

※「契きなかたみに袖をしぼりつつ末の松山なみこさじとは」(百人一首、清原元輔)

※三遊亭円朝作『真景累ヶ淵』は、針医者で高利貸の皆川宗悦が、旗本に斬られるところから始まる。

儀一鐘鳴ぎいちかねなりは偽名。中世ヨーロッパに異端審問の嵐が吹き荒れた頃、 ベルナルドゥス・ギドニス(フランス名ベルナール・ギー)という高名な異端審問官がい た。異端審問とそれに続く魔女狩りの、教会側の動機には様々なものがあるとされているが、魔女狩りに使われた自白道具や自白方法の多くは拷問であり、また詐術でもあった (先が引っ込む針を使って被告を刺し、「針を刺しても血が流れないものは悪魔と契約し たものだけである」などと言って有罪にした)。一方、良心的な異端審問官もいた、と言われているが、だからといって無実の者が殺されなかった、というわけではない。多くの異端審問官にとって、白を黒とすることは朝飯前であったが、一方で彼らの多くが「白を黒にしている」という意識がなかった(つまり、神の命に従っているだけである)というのもまた確かであろう。ベルナール・ギーを取り上げた小説には、エーコ『薔薇の名前』 がある。また、沖方丁/伊藤真美『ピルグリム・イェーガー』にも登場する。「儀一鐘鳴」は、べるなる、ということで、ベルナール・ギ ーをもじったものと思われる。


(4)

※グリム童話「悪いやつら」は、おんどり、めんどり、山の鴨、留め針、縫い針が、宿屋 の宿賃を踏み倒した上に、主人を手ひどい目にあわせていく、という話。

※「宝石函はからになり 主題は空しく 詩情は沈黙した などと君よ言うな 詩人はいないかもしれない  だがいつも  詩は いる」(「宝石函はからになり......」 ベッケ ル)

※沙杏が二人を尾行したのは、秋葉原→お茶の水→水道橋→茗荷谷→池袋、ということに なるようだが、この距離を歩こうと思うと結構なものである。なお、茗荷には、食べると 物忘れする、という言い伝えがあるとされている。

※「君がためおしからざりし命さへながくもがなとおもひぬる哉」(百人一首 藤原義 孝)

※妙閑親方が語るのは、「本所七不思議」。「送り提灯」、「片葉の葦」、「足洗屋 敷」、「送り拍子木」、「置いてけ堀」、「燈無蕎麦」、「狸囃子」の七つ(異説あり)。ここでは、「片葉の葦」と、葦田妙閑親方の効かない片足(片輪の足……差別用 語……)をかけている。

※「在天願作比翼鳥 在地願為連理枝 天長地久有時盡 此恨綿綿無盡期」(「長恨歌」 白居易)。ただし、ここで言う「恨み」は「恋」のことなので、作者が勘違いして引用したものと思われる。


(5)

(5)以下、メイド五人娘が活躍する場面、また自らの素性を語る場面において「<>」 の部分は、井原西鶴『好色五人女』より引用されている。作者によれば、そもそもメイドが五人も出てくる予定はなかったが、出してしまうことになったので、最初は『Yes!プリキュア5』のキャラクタをオーバーラップさせようと考えていたものの、何故か途中で 『ケロロ軍曹』になってしまったという。

・メイド七七しちな(本名:檜枝七七ひのえしちな)は、「恋草からげし八百屋物語」に登場する八百屋お七からとっている。火事の夜、逃げ込んだ駒込の寺で出会った若衆にもう一度会いたいがため、自らの家に火付けをしてしまうお七の物語。両親の幻をマズルブラスト(銃を発射した際、銃口付近の穴から噴出する、装薬の燃焼ガス)の中に見たいがために銃を取る、というキャラクター。火事→火→赤、ということで自動的にキュアルージュになるはずだったのが、『ケロロ軍曹』になったので、とうぜんギロロ伍長 の役回り。後段でぶち切れて銃を乱射する辺りは、ホントにぶち切れると戦闘マシーンになるギロロ伍長とちょっと違う。赤くてボーイッシュじゃどうせ人気が出ないだろうから、ロングヘアにしてみたが、やっぱりあんまり人気は出なさそう。なお、ビジュアル的 には『足洗邸の住人達』(みなぎ得一、ワニブックス/現在十巻まで絶賛発売中)に登場する、「飛縁魔ひのえんま・於七」をモデルにしている。


・メイド夏花なつか(本名:多鳥夏花たとりなつか)は、「姿姫清十郎物語」に 登場する但馬屋お夏からとっている。美男に名高い清十郎が、奉公先の主人の妹・お夏と駆け落ちをするが、乗っていた船が飛脚の忘れ物のためとって返し、追っ手に捕まって、 清十郎は死罪、お夏は正気を失ってしまうが、後には尼になって清十郎の菩提を弔う。命を惜しまないお夏が生き延び、お夏が命を惜しんだ清十郎が死んでしまう、という辺り を、夏花と人工知能「浄」の関係に絡めてある。黄色で、差別化のため背が低くてロング スカートのメイドになったので、当然ながらキュアレモネードだったのだが、どうせ黄色ならと眼鏡をかけさせて、クルル曹長の役回り。喋り方が変なのは、体言止め喋りをさせ ようと思っていて途中で断念したから。ただのコンピュータオタクではなく、メカにも強い辺りがクルル曹長。


・メイド真砂まさご(本名:玉櫛真砂たまくしまさご)は、「恋の山源五兵衛物 語」に登場する琉球屋おまんからとっている。源五兵衛は男色な男だが、恋をした少年らは死んでしまい、僧になろうとする。源五兵衛に惚れているおまんは、美少年の姿で迫り、一夜を共にする。その後、駆け落ちした二人は、金もなく、路上で芸を見せて路銀 を稼いだりしていたが、最終的にはおまんの実家の援助で家を与えられハッピーエンドを向かえる。源五兵衛の両刀使いぶりが、何故か半陰陽のキャラクタに。女性として育てられたのに、千鳥に惚れてしまう。でもピンクのキュアドリームにはならんし、キュアミントという感じでもないので、紺色のリボンをつけてタママ二等兵の役回り。リーダーに惚れている、という辺りもタママ二等兵。路上で芸を見せるけれど大してうまくない、というところから、秋葉原の路上アイドルを思いついた。怪力で、名前が真砂なのは、ひさの瑠珈『CONTINUE?』(新声社/当然絶版)の登場人物へのオマージュ。誰も知らんわな。


・メイド沙杏さあん(本名:若時沙杏わかときさあん)は、「中段に見る暦屋物語」のおさんからとっている。暦を発行する権利を持つ大経師は、女遊びもしつくしてしまったが、「今小町」と呼ばれるおさんに一目惚れする。夫婦になった二人だが、おさんは店に手伝いにきていた茂右衛門と下女のりんを結ばせようと恋文を代筆しているうちに、間違って茂右衛門と情を交わしてしまう。死んだ事にして駆け落ちした二人だった が、結局見つかって処刑されてしまう。りんと入れ替わって茂右衛門と床を共にしてしま う辺りで、変装の名人→忍者となった。あと、死んだふりして逃げる辺りも。関西弁なの は、「中段に見る暦屋物語」が京都の話だから。キュアアクアという感じでは最初からなかったので、もう水色にして、ドロロ兵長。


・メイド千鳥ちどり(本名:求妙本寺千鳥ぐみょうほんじちどり)は、「情けを入れし樽屋物語」に登場する、腰元おせんからとっている。まじめで堅い腰元のおせんに 惚れた樽屋の職人、なんやかやあって結ばれた二人。しかし、同じ町内の麹屋との仲をその妻に疑われたおせんは、意趣返しとばかりに麹屋を誘惑しようと考えるが、それが本気の恋となってしまって、情を交わそうというところを樽屋に見つかり、おせんは喉を突いて自殺してしまう。実のところ、千鳥とおせんはあまり関係がない。千鳥という名前は、『冥途の飛脚』に使われている「めんない千鳥の趣向」から取っている。リーダーなので、キュアドリームを考えていたが、天然で殺し屋のリーダーは務まらないだろう、というわけで覚醒状態ケロロ軍曹。最後の最後でこじつけられなかったキャラクタである。


※「......いかにもたしかにともりつづける 因果交流電燈の ひとつの青い照明で す......」(「序」 『春と修羅 一』 宮沢賢治)。

※計都と羅侯は、インド起源の星の名前である九曜の中にあり、ともに月食日食を起こす星と考えられていた。

※作者に銃の知識は皆無なので、SVDドラグノフ云々は適当に読み流していただきたい。

※「クラウ・ソラス」は「不敗の剣」とも呼ばれ、ケルト神話に語られるダナーン神族の 「銀の腕のヌアザ」の愛剣。何故こんな名前になったのか、それはライフルの名銃「モシン・ナガン」と同じ音節で区切れる名前を探していたらたまたま見つかったからである。 当て字は趣味。

※トータル・ナショナル・ディフェンス、という国防体勢を敷いていた国があった。

※自分の端末に「不浄」と名付けたのは、「『浄』ではない」という意味があるのかと思われる。

※量子コンピュータがどんなものなのか、実際のところよくわからない。0でも1でもない、0と1が同時に成立するという概念は、機械が矛盾を許容するということであり、それは人間の思考に近づいたことではないか、と思った。

※恨みを抱いて死んだ梅子のことを「御霊」と表現している。

※「タスラム」は、ケルト神話の光の神、「長腕のルー」が使ったと言われる、外れない魔弾のこと。当て字は趣味。


(6)

※ミオスタチン関連筋肉肥大に関しては、やけに体がむきむきな赤ん坊がいることをテレビで知り、しかもそれが合成ではないことに驚いたことを覚えている。筋肉の成長を抑制するタンパク質ミオスタシンが働かないことで、筋肉量が増える症状のこと。迫稔雄『嘘食い』に登場する人物も、この症状に当たる。小さい頃に様々な疾患を併発していることが多いが、成長するにつれてそれらは治ってしまうという。また、カロリー消費量が多 く、脂肪が溜まりにくい。真砂はさらに特殊な体質らしく、普段はあまり筋肉が目立たないのは、筋密度が常人よりもさらに濃いためらしい。 <死恋女>の剛力は人為的な調整によるもの。

※<窓より通ふ嵐は、梅が薫りをつれて>......梅子の恨みだと匂わせている。

※メイド服の意匠を残したボディアーマーというのは、映画『スケバン刑事/コードネー ム:麻宮サキ』で松浦亜弥が着ていた、セーラー服型ボディースーツのようなものだろうか。

※メイドになることがどうして身を隠すことになるのか、不明。

※「鞍馬八流万象吼力行」……「鞍馬八流」は、みちのくプロレス所属・義経選手の使う技。「万象吼力行」は、万象(自然)の力を借りる、という意味だろうが、吼力にそうい った意味はないので、何かの勘違いだと思われる。ちなみに、仏教には五大吼力菩薩、という仏がいる。

※黒沈木......水に浮かずに沈んでしまう木のこと。金属のような堅さがある、という意味か?もちろんそんな木はない。

※ステイゴールドは、1996年~2001年にかけて活躍した競走馬の名前である。詳しい戦績等は検索すればすぐにわかることだが、同時代のサイレンススズカ、グラスワンダー、 スペシャルウィークといった強豪馬の後塵を拝することが多く、「シルバーコレクタ ー」、あるいは二着止まりの「ステイシルバー」などと揶揄されていた。しかし、引退レ ースとなる香港ヴァースにおいて、重賞初勝利を海外G1レースで飾る、という快挙を達成、無冠の帝王は最後に<黄金の座>につき、そして去っていった。その姿は多くの競馬ファンの脳裏に、輝かしい名前とともに刻まれていることだろう。あ、 別に競馬にも詳しくないので。

昏主水くらがりもんどは、殺し屋集団のトップなのだから、当然中村主水でしょう、という安直な発想からつけられている。同時に、クラリモンドとの洒落にもなっている。ゴーチエ『死霊の恋』を読めばクラリモンドのことはわかるが、造形のモデルはそちらではなく、完全に『足洗邸の住人達』(みなぎ得一 ワニブックス)に登場する、ラウラ・シルヴァ・グロウリーという生体吸精鬼であり、彼女の 異名を<死美人クラリモンド>というのであった。つまり、激しいパクリである。オリジナリティなんかないない。

※「殺し屋ギルド」の総勢は不明ながら、ランキングは99位まである(それ以下はランキング外)。トップは<黄金の座>だが、彼女を殺したものは今までおらず、彼女が不在の間は空位となる。よって、実質的なトップは<白銀のシルヴァー・マウンテン>の <銀狐ドミノ>と呼ばれる人物(<白銀の座は2人いる)。第三位には、<青銅の座>、<黄銅の座>、<赤銅 の座>と三つのポジションが用意されている。この実質五人が、「殺し屋ギルド」のトップで、それ以下は単に「第◯位」とだけ呼ばれる。


(7)

※接近戦でのチョーパン(頭突き)は、相手の鼻を正確に狙うと致命傷になりかねないので気をつけよう。

※選択的アポトーシス促進などというものが本当に存在するのかどうかはわからないが、 恐らくナノマシンを使っているのではないかと思われる。

※「孔雀の高慢は神の栄光である。山羊の情欲は神の贈り物である。獅子の怒りは神の知 恵である。女性の裸体は神の作品である。悲しみの過剰は笑う。喜びの過剰は泣く。獅子 の唸り声、狼の吼え声、荒れ狂う海の怒号、殺人の剣は、人間の目には偉大すぎる永遠の 部分である。狐は罠をとがめても自分はとがめない。......」(「地獄の格言」)


(8)

※天微星・九紋竜史進は『水滸伝』の登場人物。

※船虫は、『南総里見八犬伝』に登場する悪女。この段は、『里見八犬伝』からイメージ を引っ張ってきている。

※「昆夷道遠不復通 世傅切玉誰能窮」(「日本刀歌」 欧陽脩)

※村雨丸は、『里見八犬伝』に登場する足利家伝来の宝刀で、殺気を含んで鞘走らせれば、水がほとばしるというもの。犬塚信乃は、最初に登場する八犬士で、叔母夫婦の奸計にて父は自害してしまう。また、愛犬の与四郎を切ったところ、「孝」の玉がその亡骸から飛び出してくる。

※千鳥が訊ねている「九乃火ここのび」というのは、実母の姓。

※真眼流合気柔術改:武田惣角の大東流合気柔術と似たものだろうか。

※短時間、低周波にさらされたくらいで平衡感覚を失うとは思えないが、まあよしとしてほしい。忍者だから。天狗だから、

※「ブリューナク」は、「タスラム」と同じものともいわれている、「長腕のルー」の武器。ジャベリンとも、ジャベリンを投げる為の投擲器とも言われてる。当て字は趣味。

※「真眼流合気柔術改・流星」は、『プリキュア5』パロディを考えていた名残り。キュアドリーム(『5GOGO!』)の必殺技「プリキュア・シューティングスター」より。

※<大黒柱斬アトラスキル>の八束水臣やつかみずおみは、出雲国引き神話に登場する「八束水臣津野命」から取っている。元々は、建物崩壊の名人であり、今回の廃工場も、彼のおかげで周囲にほとんど被害を出さずに崩壊させることができた(当の本人はおっ死んでいるのだが)。天を支える巨神アトラスから、「大黒柱」に「アトラス」とい う読みを、その大黒柱を崩して建物を崩壊させることから、「斬る」と「kill」のダブル ミーニングで、<大黒柱斬アトラスキル>という名前をつけた。結構かっこいいわりに役割が微妙だったので、何となくもったいない。

※「暮ると明くと目かれぬものを梅の花いつの人まにうつろひぬらん」(古今和歌集)

※「泣く涙雨とふらなんわたりがは水まさりなばかへりくるがに」(古今和歌集)

※「オン・マイ・オウン」は、エポニーヌのソロの曲。

※「Destiny can wait」、第二次大戦中の、亡命ポーランド空軍のモットー。天城一の長編に、『宿命は待つことができる』というミステリーがある。メイド五人娘の殺し屋チー ムの名前が<DCW>と言うが、劇中では一切触れられず。忘れてたわけではない。


<その9>

※「あまつ風雲のかよひ路吹きとぢよ乙女のすがたしばしとどめん」(百人一首 僧正遍 昭)。この後はもう、乙女は出てこない、という予告でもある。

※天逆手は、音がしないように打つ柏手。人を呪うときに打つと言われている。神式の葬儀というものはあまり見ないのだが、その際にも打たれると言われている。

※サイリューム:薬品の入ったプラスチックの棒。折り曲げると、中で薬品が混合され、光る。

※<欣求穢土厭離浄土ニード・ヘル・ヘイト・ヘヴン:昏主水の<驚異の部屋>での名前。長いのであまり名乗らない。「厭離穢土欣求浄土」の反対。現世への執着。

※<驚異の部屋>:・秘密組織。<混沌として矛盾している>と評される、何をしているのかもよくわからない組織。<王>と呼ばれる人間が君臨している。現在の<王>は昼ヶひるがの王(昼ヶ野が姓、王が名前)。規則は「恥ずかしい名前をつけること」なので、変な名前の人しか基本的にいない。中でも<越卿えっきょう>と呼ばれる人達(呼び名の最後に「卿」がつく)は、何かをしようとすると世の中に甚大な影響を与える確率が高い。変な人間を集めることを目的としているらしいが、それだけが全てではない。<驚異の部屋>に所属していても、利害関係が一致しなければ敵対することもあり得るし、そもそも何かを一緒に成し遂げるための組織ではないので、所属している人間同士が協力するということ自体が稀。<人外魔卿>、<運害卿>、<刀剣卿>、<鶺鴒卿>、<闘仙卿>、<読書卿>、<至愚至悪>(※昏主水の別名で、彼女の刀の名前でもある)、<調律士>といった人物がいる。なお、「殺し屋ギルド」は正式名称ではなく、正しくは「獣変けものへん」と呼ばれている。<驚異の部屋>から分離した<動物園>と敵対している。

※Somewhere, no hereココデハナイドコカ


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