脳内オーバーヒート
短いです。
目が覚めるよりも前に、脳が覚醒し始めた。そして思った。あぁ、俺は眠っていたのか、と……。
基本的に、俺は深い眠りにつくことが無い。そのためほぼ一年中、脳は活動している状態だったのだが……。
どうやら痛覚の意図的な遮断は、脳に相当な無理をさせてしまったらしい。言うことを聞かず、完全に休眠状態に陥ってしまった。
まぁ、たまにはいいか……。相も変わらず、夢だけは見せてくれないが。
さて、そろそろ起きないとな。仕事についてある程度の方針を固めておかなければ、また怪我をしかねない。
俺は目を閉じたまま腹筋に力を入れ、一息に上体を起こした。
「んっ……ぅ」
漏れる声が妙に色っぽいのは、多分今の服装にアテられたからだろう。
瞼越しに感じる光に眼球を少しずつ慣らしながら、ゆっくりと目を開ける。
「すぅ……すぅ……」
太腿の上に、ヘッドドレスのついた軽そうな頭が転がっていた。
「はぁ……」
馬鹿だ馬鹿だとは言ってきたが、ここまでくると怒る気も出ないな。
俺は身体ほぐしがてら、その小さな頭をむんずと掴むと、全身全霊の握力をもって締めつけた。
ミシィ
「はぎゃ!?いひゃいいたいいやいいやららぁ!!」
意味不明な喚き声を上げて跳ね起きたそいつ―――もとい馬鹿―――もとい香蘭は、俺のアイアンクローを払い除けながらビョンッと立ち
上がった。
「らにすんですかバカ!―――あ、いや、せ、先生!」
「いや、訂正しても遅いから」
喚いてる最中に舌を噛んだようで、滑舌が悪くなっているがまぁどうでもいい。
さて。客人を馬鹿呼ばわりした馬鹿のことは放っておいて。
「傷の具合は?」
血の滲む包帯に包まれた右手を翳しながら訊ねる。
「あっ、はい。傷跡はどうしても残るようですが、完治にはそこまで時間はかからないようです」
すると、すぐに姿勢を正して答える香蘭。この切り替えの速さは美点だよねぇ。
「あぁ、そう。まぁ治るならいい」
傷跡を気にするような繊細な神経は持ち合わせてないし。
「薬は?」
「はい。お医者様は自然回復に頼るしかないそうなので、化膿止めと痛み止めだけを」
差し出された紙袋を受け取り中を確認。確かにそれっぽい内服薬が入っていた。
「確かに。じゃあ部屋に戻るかねぇ」
「そうですね。病気じゃないので無理さえしなければ問題無いそうですし」
まぁ、そりゃそうだ。そもそも掌に穴開けた程度でぶっ倒れたこと自体がイレギュラーなのだ。まぁ、それは直接の原因ではないのだが。
さて。次は何をしようか……。
俺は少しずつ頭を働かせながら、そう独りごちた。