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氷柱は桎梏を許さない  作者: 阿万音 周
始まりの章
3/3

餓死・衰弱死 ヘルが助けてくれる

あれから2日がたった。

 ヘルは一通り泣き終えた後は必要最低限のことしか話さなかったけれど、私も話したいわけじゃなかったからむしろそれでよかった。

 私がやっと通れるほどのあの扉はすでにどこかへ消えていて、戻る当ても無く、戻りたいわけでもなく、ただ用意された寝床に寝ると言う生活になった。

 どうして自分はここに来たのか、何故ヘルは泣いていたのか(理由は殆どわかったが)、そして何故ここにこれたのか。

 これからどうなるのか、どうすれば良いのか、このままここで一生を過ごすのか。

 それでも良いかもしれない。

 ヘルに会えたと言うことだけでも奇跡みたいなことなのだから、私は奇跡をただの偶然に変えることなく奇跡だと信じていたい。

 その結果私が死ぬことになっても構わないし、どうせ人は必ず死ぬのだからいつ死ぬかなんて関係ない。

 ただ、今の生活を続けていると私は間違いなく餓死するだろう。

 ヘルはもともと食事をとっていないようだけど私は人間なのだ、栄養を摂取しないと死んでしまう。

 死ぬのがそう遠くない未来にあるなんて、私は不幸者なのか幸せ者なのか。

 若くて綺麗なうちにヘルに会えたという幸福を胸に大好きだった両親の元に旅立てるのは嬉しいが私は天国地獄を信じない。

 たとえここが黄泉の国とでも言われれば信じるかもしれないが。

 私は小さな氷と大きな氷で作られたドームのような形をした冷たい部屋で薄い毛布に包まって寝ている。

 このままだと餓死する前に寒さに凍えて衰弱死してしまうかもしれない。

 私が死んでも誰も何も思わないだろうし叔母さんも私という厄介者が消えてせいせいしているだろうけど、死にたくないわけでもないし死にたいわけでもないけれど、苦しみに耐えられないわけではないけれど、このままでも良いと思ってしまっている自分は居るけれど、本当にこのままで良いのだろうかと、前のような同じ疑問をスケールの大きくなったこの状況と私にぶつける。

 前は、両親が死んで一人で、それだけだったけど今は死ぬかもしれないと言う状況でヘルと二人きり。

 ヘルからしたら私はどのように映っているのだろうか。

 もしかして、自分に都合のよい何かだと思われているのだろうか、それとも食べ物や休息を必要としない人形と思っているのだろうか。

 別にどう思われても相手に被害は無いけれど、もしそうであったなら少しだけ悲しいなと思った。

 もともとガリガリで肉がついてなくて貧相な体をしていて身長が小さくて走れなくなった私は、もうすぐ死んでしまうのだろう。

 声をあげるのも辛くて、何も感じないまま死にたかったけど無理なようだ。


 「…氷柱?氷柱!大丈夫!?」


 どうやら通りかかったヘルが私に気がついたようだ。

 私はにこりと微笑みかけたつもりだったけれど、ヘルは必死な形相をして私を揺すったりしていた。


 「……そんなにあわてなくても大丈夫。ヘルには処理に面倒をかけちゃうけどもうすぐ死ぬから安心して」


 「え?何を言ってるの氷柱!私を一人にしないって言ってくれたじゃない!嘘はつかないでほしいわ!」


 私は泣きながら言うヘルを見て、ああ、ヘルは私のことそういう物だと思ってたんだなァって思った。

 今まで忘れていたのかな、それともどうでもよかったのかな。


 「…もう、帰ったのかと思ったの。今まで来た人は皆帰った行っちゃったから今回もきっとそうだろうなって…高望みしないで一度着てくれたことだけを素直に喜ぼうって思った。でも、まだいるなんて…い、医者に見てもらいに行こう!それか…!」


 私は、ヘルがそういう目で私を見ていないことに気がついた。

 嫌な慣れだな、とも思った。

 何度裏切られてしまったのだろうか。


 「………私は、寒いの。お腹が減ったわ」


 「ここは寒すぎた…?なら、下におりて何か食べ物を買って!」


 ヘルはそういうとすぐに私の胸に手を当てて、何かを呟き始めた。

 何を言っていたかは聞き取れなかったけど、私の体は少しだけ軽くなっていった。

 その瞬間私は背中に背負われて、私よりも小さい体なのにそのまま走って外に出て。

 窓に突っ込んだかと思うと、窓を割って空が見えた。

 そのまま空中を蹴って、地面に降りた。

 会って数日の私に、ヘルがどうしてこんなに優しいのか私にはわからなかった。

 外はとても寒かったけど、私の意識はもう薄いものになっていたけど、それでも走るヘルに縋り付いて、冷たいその体の心の温もりは鎖で繋がれた冷たい私の心臓を溶かしていった。


 「ごめんね…足は動くようにしたからこれからはめいいっぱい走れるよ!それに、…美味しいご飯を食べて…お父さんやお母さんの所に帰って…」


 俯きながらぼそっと喋ったその言葉は私の耳に良く響いた。

 やっぱりこの人は良い人なんだ。

 心から、そう思った。

 

 


 

 

 

 

 

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