いらっしゃいませ。
珈琲の香。
いつからだろう、いい香りだと思い始めたのは。
父が飲んでいた珈琲の香りは、珈琲の苦いというイメージもあってあまり好きではなかった。ただいつからか、自分も珈琲を口にするようになり、気付けばその香りも落ち着く、と感じるようになっていた。
珈琲の落ち着く香りを最大限に活かせるの喫茶店だと考える。その香りに合わせた空間。モダンでありレトロであり時間さえもその扉の向こうに置いてくる。置いてくるのは時間だけではない、ストレス、日常、自分。そして、自分の廻りで鳴り続ける雑音。喫茶店とはその空間に合わせて、音すらも演出されている。また、客側もその演出に相応しい会話をする、それによって生み出されるシンフォニーはもはや日常的とは呼べない、雑音とは違った、まさしく音を楽しむ音楽である。
マスターの「いらっしゃいませ」を合図に指揮棒は振られはじめるのだ。
そこに不協和音は存在しない。すべては美しい。
「いらっしゃいませ」
そう、この言葉と共にうつく
「店長!豆が切れちゃいました!」
美しいおんが
「なんだって?それは困ったな。困ったけど森谷さん?もう少し静かに、、、ね」
「あ!!すみません!!そうですよね!!喫茶店はふいんきを楽しむんですよね!!!」
音楽がかな
「ばーか。雰囲気だ森谷。ほら、窓際の客の珈琲入ったぞ。持ってけ」
「はい!!今日もいい香りですね!長原さん!」
「いや、長原くんも森谷さんもちょっと静かに、だね」
奏でられ
「きゃあ!!!」
も森谷と呼ばれる女の子の悲鳴とコーヒーカップの破壊の断末魔が聞こえた。
「ああ、大丈夫かい森谷さん」
「久々にやっちゃいました!!すみません!!」
「さて、もう1杯淹れるか」
「あのー、すみませーん」
「ああ、すみません。森谷さんお客様だよ」
「はい!!いらっしゃいませ!cafe noiseへ!!」
いや、かえ帰ろうかな。