Gilbert side 9
ダリルは、船着き場のデッキの先端に座り、片膝に頬杖をついて、海を眺めていた。
ダリルの背後に近づき、頭上から覗きこんで、声をかける。
「なーに、サボってんだよ」
ダリルは、そこで初めてオレが近づいたのに気づいたように顔をあげた。
その隣にしゃがんで、同じように海を眺める。緩やかな気流が、沖の方からながれてきた。
「風、気持ちいいね。ずっとこうしてると、時間忘れそう」
「ああ、そうだな」
ダリルは、向かい風に目を細めて答えた。
「ダリル」
「ん?」
「オレ、昨日、その・・・」
話し始めようとすると、昨日と同じ、恐怖が湧き上がってくる。
ダリルが離れて行ってしまうかもしれないという恐怖だ。
それでも、話さなきゃ。
オレの傍にいることが、ダリルにとって大事なものを捨てさせることになるなら、ここに縛りつけるべきじゃない。
「・・・ダリルに告白したこと、ホントにそれで良かったのか、ちょっと、悩んでる」
「ギル?」
訝しげな声に、目を合わせるのも怖くなって、オレは、抱えた膝に顔を埋めた。
「ダリルこそ、ポーラみたいな可愛い嫁さん貰って、幸せな家庭築くのが似合ってると、思う。じゃなきゃ、軍に戻って、活躍するとかさ」
「ギル・・・」
「勢いに任せて告白したのはいいけど、そんな、ダリルの色んな可能性を、オレの我が儘で潰したんじゃないかって」
想いは、これで全部伝えた。
あとは、ダリルが、オレが望まない選択をしたとしても、前を向けるよう、勇気を奮い立たせるだけだ。
「ギル」
昨日と違って、応えは直ぐに返ってきた。
「そんな風に思いやってくれて、嬉しいよ。でも、結局、何をしてたって、俺は、お前が一番大事なんだ」
ダリルは、オレの髪を優しく弄びながら、そう言った。
その仕草にも、声音にも、オレに対する慈愛が溢れているのを感じる。
オレは、顔をあげて、ダリルを見つめた。
「・・・そう、昔、ジーンにフラれたときの科白。『私はお前の弟以上の存在には、どう足掻いてもなれそうにない』ってさ」
ダリルは、オレを諭すように続ける。
「昨日、お前が、勇気を出して気持ちを伝えてくれるまで、俺は自分の気持ちにきちんと気づいてなかったから、・・・弟としてって、ずっと思ってた訳だけど、それでもジーンに言われた言葉に、取り繕う気にはなれなかったんだ。実際に、その通りだったから」
「ダリル・・・」
「だから、お前の傍に、いさせて欲しいんだ。これは俺の我が儘だ」
諦めなくていいのだと告げられて、渇きかけた心が、ゆっくりと満たされてくるのを感じた。
「うん・・・」
それ以上の言葉が出て来なかったけど、ダリルは嬉しそうに笑う。その笑顔に、また涙腺が緩むのを感じた。
そんなオレの表情に気づいたのか、ダリルはオレの前髪をあげて、額にキスをした。
「な・・・!?」
不意討ちに驚いて、涙も引っ込んだ。オレは、膝を抱えていた体勢で後退ったせいで、バランスを崩し、尻餅をついてしまった。
「ここ、外・・・!・・・何してんだよ!」
「あはは、誰も見てないって。ホラ」
ダリルはオレの慌てぶりを楽し気に笑い、立ち上がって、オレに手を差しのべた。
オレは、仕返しとばかりに、ダリルの手を力いっぱい叩いて掴み、立ち上がった。
「ポーラ独りにしちゃってるから、早く戻ってやらないと」
ぶっきらぼうにそう言って、手を放そうとしたら、ダリルに強い力で引き寄せられた。
今度はなんだ!?
「今夜、お前のこと、抱きたい。いいか?」
「―――!」
普段よりも低い声で、耳元で囁かれ、顔が熱くなる。
きっと、オレの顔はゆでダコみたいになってるに違いないのに、ダリルは涼しい顔でオレの返事をまってる。
・・・こんなズルい仕打ちされたら、オレとしてはもう、精一杯、虚勢を張るしかない。
ダリルから目を反らし、呼吸を整えて、応えた。
「・・・い、いいよ?でも・・・どうせまた、酔い潰されちゃうんじゃないの?」
ダリルが、ちょっとげんなりした顔をした。
お。反撃成功?
「用心するよ。さ、戻ろうか」
ダリルは苦笑してそう言い、オレの背中を軽く叩いて促す。
オレは、ダリルの、のんびりとした足取りに合わせて、はしばみ亭に向かって歩きだした。
fin.




