Gilbert side 7
「・・・気持ち、悪くないの、オレのこと?」
さっきまでの恐怖は、蕩けて跡形もなくなっていたけど、オレはあらためてダリルに聞いた。
ちゃんと、言葉で聞きたい。
「バカ。気持ち悪かったら、こんなにするわけ、ないだろう」
ダリルは嬉しそうに笑って答えた。
その笑顔を見ていたら、急に、3年間も一人で悩み続けていたのが、バカみたいに思えてきた。
考えが表情に出ていたのか、ダリルは、真面目な顔になって、オレの頭と肩を抱き寄せた。
「悪かった。俺、相当ニブかったな」
ポツリと降ってきた声に、泣き出したくなる。ツンと鼻の奥が痛くなって、オレはダリルの胸にしがみついた。
「ホントだよ。何をどう間違ったら、オレがポーラのこと好きだなんて勘違いに辿り着くわけ?」
「いや、だってお前、ポーラには普段から気を使ってる感じがしたから」
「そりゃ、友達の大事な妹なんだから、気も使うさ。タチの悪いお客さんだって、少なくないんだし」
「なるほど・・・」
ダリルは小さく呟いた。
そんなことで、オレとポーラを誤解してたなんて、根が実直なダリルらしい。
「ギルバート」
あらためて名を呼ばれたせいで、低い声と一緒にゾクリとした感覚が落ちてきた。
「俺もお前が好きだ。弟としてって、だけじゃなくて」
顔をあげると、真摯なヘイゼルの瞳と目があう。
「俺、まだ、お前の傍にいて、いいか?」
「もちろん。離れちゃ嫌だよ」
オレがやっと素直になってそう答えると、まるでご褒美みたいに、ついばむようなキスの雨が降ってきた。
4回、5回と繰り返されるうちに、時々あたるチクチクした感触と、こみ上げてくる幸せな気持ちとで、オレは笑いだしてしまった。
ダリルが、何事かと動きを止める。
「無精髭。痛い」
そう言うと、ダリルは憮然とした表情になった。
「剃ってくる」
「いってらっしゃい」
オレは笑って、階段をあがっていくダリルを見送った。
ほどなく、髭をあたって、ついでに髪もいつもみたいにまとめたダリルが、二階から降りてきた。そして、リゾットの残りを片付けると、ジーンに断りを入れてくると言って出掛けていった。
「いってらっしゃい」
オレは、もう一度ダリルを、今度は表へ見送ってから、自分用に珈琲を淹れた。
無性に喉の渇きを覚えていた。
自分の部屋に戻り、窓辺のテーブルで、珈琲に一口つけて、ぼんやりする。
いきなり、あんなキス、するなんて。
力強く吸われたときの軽い痛みと、舌を合わせた温かい弾力を思いだして、唇を指でなぞる。
「っ・・・」
自分の指から唇に、痺れのような感覚が走った。
唇って、感じやすいんだ・・・。
なんだか急に、物凄く恥ずかしくなってきて、ウロたえる。
たぶん、いま、顔、真っ赤だ。
両手で顔を挟むようにして、テーブルに肘をつき、目をとじる。ダメだ、落ち着こう。
それにしても、ダリルは、いつもとあんま、変わんなかったな・・・。
照れた様子など微塵も見せなかったダリルを思い出して、ちょっと悔しくなる。
経験の差ってヤツ?
そう考えたら、またしても、羞恥心がこみあげてくる。
じっと座っていられなくなって、意味もなく部屋の中を歩き回り、最終的にベッドに倒れこむ。
「・・・ああ、もう!」
頭に枕を被せて、うつ伏せに寝そべった。
「出掛けてくれて、よかった・・・」
しばらくその体勢でいたら、当たり前だけど、息苦しくなってきた。
仰向いて、右手で枕を胸に抱えなおし、左手の甲を眉間にあてて、顔を隠す。誰かが見ている訳じゃないけど、ともかく、顔を晒しているのが、恥ずかしくて仕方がなかった。
「何やってんだ、オレ・・・」
ひとりごちた瞬間、店の入口の扉を叩く音が聞こえた。
文字通り飛び上がって、窓から表通りを見下ろすと、配達の途中らしきアレックスの姿が見えた。




