Gilbert side 6
翌朝、ダリルの部屋を覗くと、ダリルは枕につっぷして、うなされていた。まだ、まともな話はできそうにない。
「定休日の前だからって、破目外しすぎ」
オレは、酒臭い部屋の窓を全開に開け放って、ダリルの頭に冷やしたタオルを投げてやった。
「水差し、テーブルに置いとくよ。ちゃんと水分とってな。何か食べられるようになったら、部屋にいるから声かけて」
ダリルにそれだけ告げて、出ていこうとすると、ダリルが少し嗄れた声でいった。
「ありがとう、ギル。お前いいおムコさんになれるよ」
―――コイツ、寂しいって騒いでたぞ。
ダリルの軽口に、夕べのアレックスのセリフを思い出してしまう。
「バカ言ってないで、寝てろ」
思わず、乱暴にドアを閉めてしまった。ダリルの二日酔いの頭には、響いたかもしれない。
そのまま自分の部屋に戻り、窓辺の椅子に腰かけて、海の沖を眺めた。
空は少し曇っていて、海の色は鈍く光っている。潮風は、ひんやりとしていて、秋の気配を漂わせていた。
しばらくそうしていると、眠気が襲ってきた。夕べはよく眠れなかった。
あの様子なら、ダリルも当分起きださないだろう。
オレはそのままうたた寝をすることにした。
しばらくして、なんだか腕がジリジリと焼かれているような感覚がして、オレは目を覚ました。
時計を見ると昼の少し前で、腕の感覚は、差し込んだ日差しがあたっていたせいだった。
秋の風は冷たくなっっても、日差しはまだ夏の名残を残していた。
オレは、部屋を出て、隣のダリルの部屋をのぞいてみた。まだ、寝ているようだ。
そういえば、朝、庭の水撒きをするのを忘れていた事を思い出して、オレは裏庭に降りた。
ハーブガーデンの片隅では、少しだけ、野菜も育てている。
店で使うほどは無理だけど、自分たちで食べるくらいの量だけを植えてある。ハーブと違って、世話をしていると、実が大きく育っていく過程が楽しかった。
これも、夏の名残の赤い実を、二つほど摘みとる。
確か、二日酔いにいいと聞いた気がする。これを使って、ダリルのために、リゾットを作るつもりだった。
厨房へ戻って、片手鍋で煮込んでいると、タイミング良く、二階からダリルが降りてきた。匂いにつられてきたのかもしれない。
「おはよ」
相変わらず、声が少し擦れている。
「もう、昼だよ。具合どう?」
「やっと、目覚めた。何作ってんの?」
ダリルが、オレの背後から覗き込む。気怠そうな息遣いが近くて、ドキっとした。
「リゾット。食える?」
「ああ」
「じゃあ、そっち座って待ってて」
オレは、ダリルをカウンターの向こうへ追いやって、料理の仕上げをしながら、落ち着こうと努めた。
「はい、どうそ」
「いただきます」
出来上がった皿をカウンター越しに差し出すと、ダリルは行儀よく受け取って、リゾットを啜りはじめる。
オレは、ホールにまわって、ダリルの隣に腰かけた。
いつものダリルなら、旨いと、毎度鉄板の感想を言ってくれるところだと思うのに、今日は黙って食べ続けている。
皿の中身が半分になったところで、オレはダリルに話しかけてみた。
「オレ、兄さんに、聞きたいことがあったんだ」
「・・・なに?」
ダリルは、少し身構えたように見えた。
「昨日の、あの人の話って、何だったの?」
わざと聞いてみる。オレは、ダリルの口から、まだ直接その話を聞いてなかった。
「ああ・・・。軍に戻らないかって、勧誘」
「―――で?何て答えた訳?」
「まだ、回答してないが・・・、それも、悪くないかと、思ってる」
嘘ばっかり。
オレはそこで、キレてしまった。
「・・・へえ?オレの事、置いてっちゃうんだ?」
「だって、お前」
オレは、言い訳をしようとしたダリルの口を、キスで塞ぐ。
唇を離すと、ダリルは驚いて、立ち上がった。ダリルの座っていた椅子が倒れて、二人だけのホールに、大きな音をたてた。
もう、隠すのは、やめる。
「オレは、ダリルが好きだよ」
あらためて自分にも言い聞かせて、オレはダリルを見上げた。
「ずっと、言えなかったんだ。ダリルには付き合ってる人がいたし、何よりオレは男だし、こんなの絶対おかしいって。」
自分の息があがってくるのがわかる。オレは、苦しくなってくる呼吸を整えながら続けた。
「でも、あの人は突然現れるし、ゆうべ、アレックスから、オレが結婚するのかなんて聞かれて・・・何か変な誤解されてるのもわかったし・・・もう、今伝えないと、一生後悔すると思って」
オレも立ち上がって、ダリルの肩に手を添え、目をあわせようとして、失敗する。
「ごめん、驚かせて。・・・やっぱ・・・気持ち悪かった?」
―――怖い。
こみ上げてくる恐怖を押さえて、オレは、ダリルの言葉を待った。
ダリルの言葉は、降ってこない。
我慢が限界に達した。
「ごめん、オレ、顔洗ってくる」
逃げようとした瞬間、ダリルに手首を掴まれる。
「ギルバート」
名を呼ばれて、腰を引き寄せられた。オレはびっくりして、ダリルの顔を見上げた。
「よくわからなかったから、今の、もう一回」
「え?ちょっ・・・!」
いきなり、深く唇を重ねられて、今度はオレが硬直する番だった。
強く吸われて、少しずつ、緊張がとけていく。
オレは、ダリルの舌に応えた。
「ふ・・・、んぅ・・・」
ダリルがオレの舌を絡め取って、深くつながったまま、角度を変えるたび、甘い感覚が疼いて、自然と吐息が漏れる。
耳があつい。
危うく膝が砕けそうになったところで、ダリルはオレを離した。




