Gilbert side 5
夕方、ポーラの予告通り、ジーンがヒューを連れて、店に訪れた。
何も知らなかったダリルは、ジーンの突然の訪問に、固まっている。
ダリルの硬直っぷりに焦ったヒューが、こちらへ小走りにやってきて、ポーラに耳打ちした。
「・・・おい、ポーラ、お前伝えといてくれなかったのかよ!」
「だって、兄さん」
「オレが言わなくていいって、言ったんだよ。ポーラのこと責めんな」
「ギル!」
オレはヒューを無視して、カウンター越しに、ポーラへメニューを手渡す。
「オーダー、よろしくね」
「はい」
ポーラは、ダリルがジーンを案内した、窓際のテーブルへ向かった。
オレは、厨房の入り口付近で、ハラハラしながら様子を見守っているヒューに近寄って話しかけた。
「別にジーンから、ダリルに先に伝えとけって、言われた訳じゃないんだろ?」
「う・・・そりゃそうだけど、物事には根回しが必要なことだってあるだろう?」
「ヒュー・・・。お前、あんなに天然だったのに、いつからそんな気遣いの人になったんだ?」
「うるさいな、集団生活してると、いろいろ難しいことあるから学んだんだよ」
「へぇ」
オレは、ヒューをからかうのはそのくらいにして、窓辺で話し込む二人を眺めた。オレにつられて、そちらを見たヒューがつぶやく。
「ダリルさん、どうすんのかな・・・」
「お前はダリルが戻った方がいいんだろう?」
「そりゃ・・・ダリルさん人望あるからな。やっぱ、自分の上官はそういう人のが嬉しいよ。でも、ダリルさんいなくなったら、こっちが大変だろ?」
「別に」
「別にってお前―――」
「ヒュー、戻るぞ」
「あ、はい!」
話が終わったらしいジーンの呼び声に、ヒューが慌ててジーンの元へ駆け寄る。
一瞬、ジーンと目があった。
ジーンは昔と変わらない、優しい目で、オレに笑いかける。
オレは、軽く目礼でそれに応えた。
その日の夜、店を閉めてから、ダリルはアレックスの家に出かけていった。
新酒の利き酒をするのだと言っていたけれども、日付が変わる時間になっても、戻ってこない。
待つのをあきらめて、ベッドに入り、ウトウトとしかけた頃、荒く店の入り口を叩く音で起こされた。
「おーい、ギルバート、起きてるかー?」
アレックスの声だった。
オレは急いで店に降りた。扉を開けると、アレックスがダリルを支えて立っていた。
「・・・潰れてるし」
「二階、運ぶな?」
「ありがとう」
アレックスは階段の下で、器用にダリルを肩に担ぎあげて、階段を上って行く。さすが、毎日酒樽かついでるだけあると、妙に感心してしまった。
アレックスをダリルの部屋に通すと、アレックスはダリルをおろして、乱暴にベッドに投げた。それでもダリルは起きる気配がなかった。
「もう遅いから、うちに泊まってけって、いったんだけど、帰るって聞かなくてな。―――お前が心配だと」
「もう、子供じゃないっつの」
「だよなぁ」
アレックスが、何故かニヤリと笑ってオレを見た。
「・・・何?」
「お前、ポーラと結婚考えてんの?」
「―――はぁ!?」
オレは真夜中だということも忘れて、叫んでしまった。
誰が、何だって?
オレの反応を見たアレックスが、おや?と表情を変える。
「何だ、やっぱり、ヒルダのいうとおり、違うのか」
「誰がそんな根も葉もないウワサ流してんだよ!?」
「コイツ」
アレックスは、ベッドで潰れているダリルを指さした。
「・・・・・・え?何で?」
「さあなぁ?誤解なら、ちゃんと話した方がいいぞ。コイツ、寂しいって騒いでたから」
アレックスの言葉をきいて、オレは、ますます混乱した。
「じゃぁな、戸締りしとけよ」
アレックスはそれだけ言って帰って行った。
オレは、ダリルのベッドの脇で立ち尽くしたまま、気を失ったように眠っているダリルを眺めていた。
ダリルは、結局、いつもオレを選ぶ。
それがわかってるからこそ、オレは自分の気持ちに区切りをつけることができなかったし、ダリルから離れることもできずに過ごしてきてしまった。
ジーンがもってきた話で、やっと、離れる決心ができたと思ったのに。
オレが結婚するかもって、それが寂しいって・・・何だよそれ。
これ以上引き摺るのは、もうたくさんだ。
きちんと、向き合おうと、オレは覚悟を決めた。




