またね
焼きたてのクッキーは、さっくりとしてほろほろ甘く、口の中でとろける様になくなります。
小麦の粉から作るお母さまのクッキーと違って、いくら食べても喉が詰まるような感じはありません。
程よくホイップされたクリームと、濃厚でとろりとした蜂蜜は、香ばしく焼けたスコーンにつけると、なんともいえない甘やかなハーモニーを奏でます。
それにジャム!
すぐりに、ブラックベリー、ブルーベリーに、木苺、どれも驚くほど果実の甘みと酸味が残って、取れたばかりのような新鮮な香りと味がしました。
砂糖で煮詰めて作るジャムとは、まったく違った味です。
ルウのティーポットからお揃いのカップに注がれた紅茶は、いつまでたってもさめる事はなく渋くなる事もありません。
もちろん熱すぎる事もありません。
紅茶はほのかな花のような香りがして、いつまでもエルシーを夢見心地にさせました。
エルシーはポットを探して綺麗に磨き上げたので、とってもお腹がすいていました。
でも、クッキーやスコーンを一口食べるだけで、不思議と満たされたような気がして、ゆっくり味わうように食べていきました。
ルウや羽根の生えた妖精たちは、エルシーにお茶やクッキー、スコーンの給仕をしながらいろんなお話を聞かせてくれました。
お祖母さまの鏡台の鏡が、とても古い銀の鏡だということ。
ルウのティーポットは、お祖母さまがお嫁入りしたときに持ってきたものだということ。
ルウと」お祖母さまが、友達だったということ。
それから、ルウの故郷に伝わる羽根のある妖精の国の素敵なお話。
それは、騎士と女王と、巨大な角のある大ヘビのワクワクするような冒険のお話でした。
エルシーも、妖精たちもルウのお話に驚いたり、悲しんだり、喜んだりと大忙しです。その時です。
バタン!
突然、階下で大きな物音がしました。
ルウもエルシーも、そして妖精達も、ピタリと動きを止めました。
銀色の淡い光もすっと消えうせました。
「エルシー、どこにいるの?エルシー!」
「お母さまだわ!」
妖精達はあわててその姿を消しました。
「エルシィ、ごめんね。またね」
「まって、ルウ、待ってよ!」
ルウもすまなさそうな困った笑みを浮かべて、その姿を消しました。
「エルシー、 返事をなさい!また屋根裏部屋にいるんでしょう?」
お母さまの声はだんだん大きくなり、今にもここに上がってきそうです。
「はあい!」
仕方なく返事をして、エルシーは考えました。
さっきまでの事は夢だったのかしら。
でも、エルシーの片手には食べかけのクッキーがあります。
テーブルの上には、淡いピンクの花模様のポットとお揃いのティーセット。
「…これは、お母さまには内緒ね」
エルシーはにっこり笑っていいました。
「エルシー、早く降りてらっしゃい!」
「はあい」
「またね、ルウ、みんなもね」
エルシーは、ポットに向かってそういうと、屋根裏部屋の階段を下りてゆきました。
(あのポットと鏡台は、私の大切な宝物だわ)と考えながら。
エルシーが下に降りていった後、ルウはもう一度姿を現しました。
「この続きは、また今度ね。エルシィ」
十代に書いた作品の改訂版です。
気恥ずかしい自戒の意味もこめて掲載^^:




